私立中学

女子校

りっきょうじょがくいん

立教女学院中学校

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スクール特集(立教女学院中学校の特色のある教育 #9)

「全日本高校模擬国連大会」に出場!国際問題を“自分事”として考える力を育成

昨年11月、立教女学院の高校2年生が日本最高峰の高校模擬国連会議である「全日本高校模擬国連大会」に出場した。その活動の様子と、同校が力を注ぐ国際理解教育について取材した。

立教女学院には、SMIS(St. Margaret’s International Society)という高校1・2年生の有志団体があり、留学生のサポートなどを行う「国際交流グループ」と模擬国連大会への参加を中心とした「国際教育グループ」に分かれて活動を行っている。昨年11月には「国際教育グループ」の高校2年生のペアが、「全日本高校模擬国連大会」に4年ぶりの出場を果たした。その活動の過程や成果について、当事者の生徒と指導教諭に話を聞いた。

日本人の立場を離れ、広い視野で世界平和を考える

模擬国連とは、学生が各国の大使になりきり、実際の国連会議のように議論や交渉を行う活動だ。各国大使は国際社会の問題解決に貢献する、いわゆる国際益を考慮しながらも、自国の国益を守ることが求められる。SMISの「国際教育グループ」を指導する国際教育主任の藤井香代先生は、模擬国連に参加する意義を「国際問題を“自分事”として考えることにあります」と話す。

「本校は平和教育を重視し、キリスト教教育を通じて『平和を作り出す者へと成長する』ための様々な活動を実施していますが、どうしても日本人の立場から抜け出して考えるのは難しい面もあります。模擬国連では、日本から離れた国の問題でもその国の大使になることで“自分事”として捉え、グローバルな視野で考えていくことができます」

藤井先生は“自分事”として考えることの象徴的なエピソードを次のように語る。「本校は同じキリスト教学校の広島女学院と交流があり、毎年、生徒会を通じて核廃絶署名の依頼があります。そして、本校の生徒会が全校生徒に署名を呼びかけるのですが、ちょうどその直前、SMISの生徒が核廃絶を議題にした模擬国連会議に、パキスタンの大使として参加していたことがありました。パキスタンはインドとの緊張関係があるので、そう簡単に核を手放すことはできません。これまでその生徒は、日本が唯一の被爆国であるということもあり、すぐに署名をしていたそうですが『パキスタンが核を放棄したら、インドとの関係はどうなるのだろう』『世界平和は理想論だけでは実現しない』ということなどを考え、すぐに署名することができなかったと話していました。最終的には署名をしたそうですが、改めて模擬国連は、平和教育を深いところまで落とし込んで考えさせる活動であることを認識しました」

▶︎国際教育主任 藤井香代先生

自国の国益を守り、国際益を達成する政策を考える

SMISの高2のペアが出場した「全日本高校模擬国連大会」は、毎年6月から7月に募集要項(議題)と書類選考課題が発表される。9月の第1週が応募期間、10月1日に結果が発表され、今回は全国215チームの応募の中で60チームが選ばれた。書類選考課題は、1.ブレクジット(英国のEU離脱)、2.気候変動(パリ協定)、3.エネルギー、4.NGOの役割の4つの問いが出題され、4については、英語で解答をするというものだった。

「それぞれの問いの参考文献を読み込み、気候変動やエネルギーの問いはデータや資料も読み解かなければなりません。生徒たちは、自分の考えを書く小論文には比較的慣れていますが、文献や資料をもとに論を組み立てる経験はあまりなく、社会科の教員の指導を受けながら、夏休みは毎日のようにオンラインでやり取りをして課題に取り組みました」と藤井先生は言う。なお、同大会に出場した高2のペアは、予め校内選考を行って選ばれたという。

10月1日に、出場チームが発表され、その後、同校の生徒はオーストラリア大使を任命された。今回の議題は「核軍縮」だ。

「最初に、オーストラリアがどのような協定に参加し、議題に対してどのような政策をとってきたのかなどを、ペーパーにまとめる事前課題があります。次に当日の会議に向けて、どのようなスピーチをするのか、他の国とどのような交渉をするのかなど、対策を練ります。それにはまず、オーストラリアと立場が近い国、主張が真っ向から反対の国など他国をリサーチし、どの国と手を組むのか、主張が反対の国をどう説得するのかなど、作戦を考えます。そして、自分たちが打ち出したい理想のトップラインの政策と、最低限通したいボトムラインの政策を決めて会議に臨みます」

本大会は、11月13、14日の2日間に渡って開催された。会議は対面またはオンラインによる参加を選ぶことができたが、同校は学校の方針でオンラインを選択。生徒は各自宅から参加した。会議の大まかな流れは、各国の大使がそれぞれの国益を背負って様々な国と交渉して合意形成を図り「決議案」を提出し、可決を目指していくというものだ。「オーストラリアは核保有国と非保有国をつなぐ立場であったので、双方のグループから交渉の場に呼ばれることを想定しました。その際、ペア間で意見の相違がないように、何度も事前に擦り合わせをしていましたね」

「全日本高校模擬国連大会」の出場者にインタビュー

今年度の「全日本高校模擬国連大会」に出場した高2生に、これまで活動してきたことや成果について話を聞いた。

▶︎写真左より:Yさん、Mさん

Yさん  高2 SMIS、バドミントン部
Mさん  高2 SMIS、バドミントン部(部長)

―SMISの「国際教育グループ」に入った理由を教えてください。

Yさん 立教女学院には国際的な視野と知識を身に付ける機会が多くあります。私は国際関係に興味はありましたが、中学生までは積極的に参加することができませんでした。高校生になり、消極的な自分を変えようと決意し、特に関心があった環境問題から国際社会を学び、世界規模の未解決の問題に挑戦するため、SMISに参加することにしました。

Mさん 中学生の時からボランティアグループに所属し、高齢者施設のお手伝いなどをしています。国際問題にも興味を持っていたのですが、議論することに苦手意識がありました。しかし、学校の「模擬国連活動」というせっかくの機会を活かしたいと思い、SMISに入りました。

―「全日本高校模擬国連大会」に向けて、どのような準備をしましたか? また、大変だったことは何でしょうか?

Yさん 今会議は「核軍縮・核不拡散」がテーマでした。私たちはオセアニアにある国の大使役で参加しました。この議題において担当国は微妙な立ち位置が求められたため、他の参加者の発言や議場の動向を見ながら、自国の利益を損なわないように慎重に対応することが求められました。
立場が明確な他の参加国と比べると臨機応変な対応が求められましたが、議場の流れが事前に想定していなかった方向に進んだため、苦労しました。

Mさん 模擬国連の準備は、膨大な資料を読んで自国の立場や国際関係を理解した上で、核兵器という複雑な問題を考えなくてはなりません。また、オーストラリアについて調べるにあたり、英語文献の方が多く、正確であったため、それを読み、理解し、政策に生かすということが難しかったです。一つの壁をクリアしたら、また壁があり、苦労が絶えませんでした。
私は最初オーストラリアに対して、核廃絶に前向きな国というイメージを持っていましたが、調べていくと中国との緊張関係の問題や、ウランの生産量が世界一位という意外な事実も発覚し、私の認識もだんだん変化してきました。国益と国際益のバランスを考えつつ、2人で政策について議論を重ねました。

―大会当日の様子や感想を教えてください。

Yさん 日本全国から予選を勝ち抜いた参加者による真剣で白熱した議論が繰り広げられました。オンラインでの参加でしたが、各参加者の熱意は画面からも伝わるほどでした。自分の担当国が議場の流れを掴むことが求められていたこともあり、各参加者の方針の違いや個性もよく観察することができたと思います。

Mさん 核保有大国のアメリカやロシアと、核廃絶に賛成の国々の仲介として、中立な立場で意見を出し合いました。その国の立場にもよりますが、リーダーシップを発揮したり、とっさに的確な妥協案を出したり、高い英語力を持っていたりと、優秀な高校生がたくさんいらっしゃって、多くの刺激と学びを得ました。

―模擬国連の活動を通じて、身についたこと、成長したことなどを教えてください。

Yさん 模擬国連の参加を通じて徹底した事前準備と目標を達成するために相手を説得する技術の必要性を感じました。予想外の展開に途中は苦戦しましたが、最終的には自国の利益を損なわない結果となったことは、自信になりました。

Mさん 全国の高校生と「核軍縮・核不拡散」という内容の濃い議論ができたのは、一生、心に残る経験でした。私もYさんと同じで、一つの問題を多面的な視点から、考えることを学びました。日常生活でも、物事を一方向だけではなく、色々な側面から、論理的に考えを深める姿勢を身につけていきたいです。

コロナ禍においてもオンラインで模擬国連演習を実施

藤井先生は模擬国連の活動を通じて、さまざまな力が培われると話す。「事前準備ではリサーチ力や読解力、実際の会議では、交渉力や表現力、また時間の制限があるので、その場の判断力なども求められますね。その中でも一番は共感力。問題を“自分事”として捉え、何かをしていこうという姿勢や態度が身につくことが大きいと感じています。模擬国連の議題は、高校生にとって必ずしも身近なものというわけではありませんが、世界の一員として何かに関わらなければいけない、という意識が芽生えます。実際、SMISの生徒の多くは、将来の進路について考える際に、世の中の仕組みを考えたり、作ったりする仕事に関わりたいと言っています」

SMISでは、年に4〜5回、外部の模擬国連会議に参加しているほか、グループ内でも模擬国連演習に取り組んでいる。2020年度はコロナ禍のため、多くの部が活動休止に追い込まれたが、SMISはZoomを活用し、オンラインで模擬国連演習を継続させたそうだ。

同校は、昨年11月にマルチメディアルームを新設し、SMISでも、5つのプロジェクターや可動式の机を活用して、模擬国連演習を行った。「スピーチをする時に必要な視覚資料とスピーチの順番を書いた『スピーカーズリスト』、模擬国連は各会議行動に時間制限が設けられているのでタイマーを同時に投影しました。通常の教室よりもリアリティのある演習ができましたね」

そして、グループ内の模擬国連演習では、高1と高2がペアを組んで行っているという。全国大会へ出場した先輩たちの経験が、必ずや後輩たちに生かされていくことだろう。

<取材を終えて>
「全日本高校模擬国連大会」の書類選考から本会議まで、YさんとMさんが準備をしてきたファイルを見せてもらったが、それだけで膨大な時間と労力を費やしてきたことがわかった。また、高校生がこんなに難しく深い国際問題に、真剣に取り組んでいることに感銘を受けた。努力をした分、本人たちが自覚している以上に大きな成果を得たのではないだろうか。二人が今後、どのような進路を歩んでいくのか、また、SMISの今後の活躍も楽しみだ。

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