りっきょうじょがくいん
立教女学院中学校
スクール特集(立教女学院中学校の特色のある教育 #10)
キリスト教教育ベースの「修養キャンプ」を通して、人間関係を築く力を育成
立教女学院中学校・高等学校では、キリスト教教育の一環として、人間関係の構築や自己理解などを目的とした「修養キャンプ」を実施している。その取り組みを取材した。
同校は、毎年6~7月にかけて、中1、中2、高1、高3の学年単位で、2泊3日の「修養キャンプ」を行っている(宿泊・校外学習として、中3、高2は修学旅行を実施)。キリスト教の教えをベースに、発達段階に応じたカリキュラムを組み、人格形成や人間関係を築く力を育てているという。
学年ごとにテーマを設定。他者とつながり、自分の生き方を考える
同校の「修養キャンプ」は、キリスト教の理念に基づく人格教育を目的とし、宗教科の先生が中心となって、カリキュラムを構成している。「まず中1は、附属小学校から進学した生徒、中学受験で入学した生徒の友達関係も含め、学校に慣れることを重視し『友達の輪を広げよう』をテーマに設定しています。毎日、礼拝のある生活に慣れることや、スタンツやハイキングなど様々なプログラムを通して、友達との交流を深めていきます」と宗教科のO先生は話す。
中2のテーマは「成長する私たち~人とのつながりを大切にしよう」である。「中2というのは多感な年頃で、心身共に大きく成長する時期です。プログラムでは、聖書の話をグループごとにアート作品にして発表します。自分の考えを表現してみんなで共有したり、共同生活の中で人とつながる大切さを感じたり、新しい気づきを得たりして生き方を模索していきます」
高1のテーマは「自立」。毎年、清里でキャンプを行い、コミュニケーションゲームなど人間関係のトレーニングに取り組んだり、キープ協会(1956年ポール・ラッシュ博士が設立)の協力のもとで自然体験を実施したりしている。仲間との交流を通して、自分の生き方を深く見つめ、その中で“進路選択は自立的な生き方につながる”ことを自覚していく。「高1は、人間としての自立を考え始める時期なので、プログラムも自分たちで考え、判断して決める内容となっています。生徒が進路を考える時、テストの成績はもちろん判断材料になりますが、学校外での体験や仲間とのコミュニケーションを通して自分の長所や特性を知ってほしいと考えています」
高3のテーマは「生きる―自己と他者の関りを見つめて―」。「生きる」をもとに対話し、他者と自己の出会いや今後の歩みに思いを寄せ、聖書の授業やロングホームルームの発題を通して、これまでの考えや想いを深め、仲間と分かち合うことを目的としている。同校では、高3のキャンプをキリスト教教育の総仕上げと位置づけ、発題からファシリテーション、まとめまで、生徒自らが主旨を踏まえて企画、準備を行う。キャンプ当日は、8人程度のグループごとにリーダーシップトレーニングを受けた生徒が司会者として入り、ディスカッションを展開。「ファシリテーターを務める生徒は、学校のカウンセラーと一緒に3~4か月間、研修を受けます」とO先生は言う。
「高校3年生は時期的にも進路のストレスを抱えたり、視野が狭くなったりしがちです。キャンプで同級生と話し合うことで『自分が感じている不安は、他の人も抱えているんだ』『自分が思っているよりも、世界は広いんだ』ということに気づき『私の考えは他の人とは違うけれど、聞いてもらえる』という体験もすることができます。
また、ディスカッションのテーマは、出生前診断など社会的な問題を扱うことが多く、チャプレン(学校付牧師)も参加をしていて『聖書では、こういう理解になる』と1つの考えを提示してくれます。正解のない問題に対して、みんなで考えを共有できたという経験は、卒業した後も生徒の大きな支えになると思います」
今回は、中2のキャンプをメインに取り上げ、担当の宗教科教員と生徒に話を聞いた。
▶︎宗教科 O先生
中2は聖書の話をモチーフにステンドグラスの制作・発表を実施
2022年度、中2の「修養キャンプ」は山中湖畔で行われ、生徒たちは聖書プロジェクトや、オリエンテーリング、キャンプファイヤーなどのプログラムに取り組んだ。聖書プロジェクトとは、聖書にある話をモチーフにしたステンドグラスを各クラスで制作し発表するというもので、4月から宗教の授業で準備を始めた。
「聖書を5つの区分に分け、さらにクラス内で6つのグループを決めて『どのシーンを取り上げて、どんなデザインにするか』を話し合い、セロハンでステンドグラスを作っていきます。その時に私のほうで『聖書のこういう個所は触れてほしい』という言葉をピックアップし、グループに伝えています。生徒たちは、その言葉を見て『何を言い表しているのだろう?』『どうしてこの場面で、こんな言葉を使うのだろうか?』などと意見を交わしながらイメージを膨らませていきます」とO先生は説明する。
ステンドグラスの制作と並行し、その話を発表するための台本作りを発表リーダーが行う。発表リーダーは各クラスに4~6人いて、いずれも自ら立候補をした生徒たちだ。O先生がピックアップした言葉を現代的な言葉に変換してみたり、話のすべてをセリフにして劇にしたり、台本作りと共に演出も考えていく。また、発表の進行やタイムキーパーなども担当する。
O先生によると「準備期間中は毎週、昼に、発表リーダーとミーティングを開いて、それぞれのクラスの進行状況を聞き、その都度、アドバイスなどを送っていました。発表リーダーはそれをクラスに持ち帰り、ロングホームルームでみんなに伝え、次の活動を取りまとめていきます。裏方の仕事から表立って人を率いることまでたくさんの役割があり、大変だったと思います」と発表リーダーを労う。
キャンプは、初日に聖書プロジェクトの発表、2日目は富士山麓でオリエンテーリングを実施した。その時のグループは、全クラス混合で簡単なゲームを行い、アトランダムに作られた。
「初対面同士のグループであっても、同じゴールを目指して互いに協力をしなければなりません。でも、どのグループもチームワークを発揮していましたね。今の中2は中1の時にキャンプがなく、初めてだったこともあり『みんなで一緒に楽しもう』というモチベーションがとても高かったように思います。宿泊施設でも一人でいる子はおらず、仲間との良い交流ができたのではないでしょうか」
発表リーダーの生徒にインタビュー
実際、修養キャンプに対して、中2生はどんな感想を持ったのだろうか。発表リーダーを務めた2人の生徒に話を聞いた。
写真左より:Yさん、Hさん
Yさん 中学2年生
Hさん 中学2年生
Qまず、発表リーダーをしようと思った理由を教えてください。
Yさん 単純に面白そうだと思ったことと、台本を考えるのが好きだったからです。最初、リーダーをやりたいと手を挙げたのが1人しかいなくて「本当にできるのかな?」と迷ったけれど、最終的に4人になり今はやってよかったと思っています。
Hさん 私は舞台劇部に入っていて、台本を考える時の練習にもなるかなと考え、立候補しました。また、中1の時はキャンプがなく、これまで委員会も参加したことがなかったのでチャレンジをしてみることにしました。他の発表リーダーの協力を得ながら、みんなを引っ張っていくという自分にとって初めての経験をすることができました。
Qステンドグラスの制作や発表リーダーの活動で、大変だったことはありますか?
Yさん 私たちのクラスは「ぶどうの木」の話がテーマでした。発表は劇のスタイルにしようと考えたのですが、この話はイエスがほとんど語っているので、役を分けるのが難しかったです。反対に、ステンドグラスのデザインは、ぶどうの木がモチーフなのでやりやすかったです。
発表は、当日のリハーサルの時も、グループの連携がうまくいかなくて持ち時間をオーバーしてしまって焦りました。でも、本番は成功することができて良かったです。発表リーダーの仕事は、大変なことも多かったけれど、最後は達成感を味わうことができました。
Hさん 私たちのクラスは「ノアの方舟」がテーマでした。人間が好き勝手して、神様が怒って洪水で沈めてしまうという話ですが、そこは残酷だからイラストに描くのは難しく、動物が方舟に乗り込むところなど希望が感じられる部分を描くことにしました。作品作りの準備をグループのメンバー同士の面識があまりない4月から始めるので、最初は戸惑うこともありました。でも、協力し合って作品を作っていくうちに、距離も近づいていきました。台本を書いたり、発表の準備をしたりするのは大変でしたが、楽しい時間でした。
Q 聖書プロジェクト以外で、思い出に残っていることはありますか?
Yさん 私は友達と一緒に過ごすのが、ただ単に楽しいと思う性格なので、3日間のキャンプ生活がとにかく楽しかったです。オリエンテーリングも初対面の人たちとのグループでしたが、すぐに打ち解けて、ゴールを目指し協力し合うことができました。
Hさん 宿泊の部屋も、先生がアトランダムに割り当てたので、初対面の人ばかりで、最初は緊張しました。けれど、自己紹介をして話をしたら、だんだん親近感がわいてきました。ちょっと怖い人かなと思っていた人が、実はとても優しかったり……。そういう発見や新しい交流ができたことが思い出に残っています。
Qキャンプを通じて気づいたこと。また、その後の学校生活で変化したことはありますか?
Yさん 私は改めて、人と関わることが好きなんだなということに気づきました。他の班の人たちの部屋に遊びに行って、顔は知っているけれど話したことがない人とも気軽にコミュニケーションをとることができ、その後、仲良くなりました。キャンプを経て、学校内に友達が増えたことが一番の大きな変化です。また、発表リーダーをしたことで自信がつき、自分から何かに挑戦しようという気持ちが強くなりました。
Hさん 私はどちらかと言うと人と関わるのが苦手なタイプでした。キャンプでは、1人のリーダータイプの子が引っ張ってくれると、みんなもついていきやすく、そこで仲良くなれることがわかりました。私も、以前よりは自分から人に話しかけられるようになりました。また、発表リーダーを最後までやり通したことで、少しはリーダーシップをとる力も付いたのではないかと思っています。
キャンプを通して自分の賜物を知り、新しい人間関係を築く力を身につける
O先生は、こうした生徒たちの振り返りも参考にしながら、次年度の修養キャンプにつなげていきたいと言う。「たとえば、Hさんの聖書プロジェクトの発表の準備を舞台劇部の人に手伝ってもらうという提案も良いと思っています。私としては、もっとクラスで話し合いをする時間をとることや、発表リーダーだけが責任を負わないように、リーダーをサポートする生徒を増やすことが課題だと考えています。また、クラスの担任の先生とももっと情報を共有し、発表の準備などを支えてもらうとより学年キャンプらしくなるのではないでしょうか」
そして、O先生は、どの学年にも共通する修養キャンプの狙いとして「それぞれの生徒が自分の賜物に気づく機会を増やすこと」だと話す。「賜物は目で見えるもの、見えないものさまざまで、たとえば勉強では目立てないけれども作業をする時にはリーダーシップを発揮する、といったことは多いにあります。それが自信となって、その子を大きく成長させます。
また、キャンプの中にはいろいろな係があり、できるだけ多くの生徒に役割を担ってほしいと思っています。そうした経験を経て、行事や、何かクラスで企画する時などに自分から『やってみます』『○○さんのお手伝いをします』と声をあげる。そうすることで、友達関係もなだらかに広がっていきます。6年間の学校生活の中でキャンプの体験がどこかに残り、卒業後も彼女たちが多様な人と出会い、関係を構築してゆくことに活かされるように願っています」
<取材を終えて>
同級生であっても、クラスや部活動などが違えば話をする機会というのはあまりないものだ。「修養キャンプ」は、交流のきっかけをつくり、学校から離れた環境に身を置くことで、自分のことも、また、他者の違う一面も発見することができる。そして、人間関係を構築することは、人が生きていくうえで当たり前に大切なもので、キャンプを通じて、そういう力が実際に養われていることを先生や生徒の言葉から感じ取ることができた。
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