スクール特集(郁文館中学校の特色のある教育 #9)
オーダーメイド型夢教育の充実を目指す!「デジタルキャンパス化構想」進行中
郁文館中学校では、2024年までの実現を目指して「デジタルキャンパス化構想」を進めている。その目的や、取り組みの1つである次世代型学習施設の活用などについて取材した。
郁文館中学校は、2021年1月に「郁文館デジタルキャンパス化構想」を宣言。1人1台のデバイス環境によるオンライン授業をはじめ、デジタル教材・機器を用いた授業効果の向上、学習履歴や面談結果のデータ化によるカウンセリング効果の向上など、2024年までにすべての実現を目指してデジタルキャンパス化を進めている。これまでの取り組みや、取り組みの1つである次世代型学習施設「FUTURE LAB」の活用などについて、人材開発室室長の藤井崇史先生(社会科)に話を聞いた。
次世代型学習施設「FUTURE LAB」
同校が進める「デジタルキャンパス化構想」において、重要な役割を果たしているのが2018年に完成した次世代型学習施設「FUTURE LAB」である。6台のプロジェクターと壁面を利用した巨大スクリーンのほか、最新型のパソコンや3DプリンターなどのICT機器を備えたラボは、アクティブラーニングを実践する場として活用されていると、藤井先生は説明する。
「例えば、ラボの壁は電子黒板にもなっているので、プレゼンをするときなどに生徒たちの端末と連動することができます。6台のプロジェクターを使えば、同時に6画面を映すことができるので便利です。スクリーンが大きいので、エクセルの表などの細かい情報も、はっきり見ることができ、瞬時に共有できます。マグネット付きの机や椅子も用途に合わせて配置できるので、生徒同士の対話など、普通教室では難しい部分もラボでは可能になります」(藤井先生)
アクティブラーニングの要素は、振り返りやグループワークといった様々な形で授業に組み込まれている。例えば、数学などのディスカッションがしにくい教科は、グループワークで問題を解いて生徒たちが解釈し合うなど、割合に差はあるがどの教科でも行っているという。
「全学年が様々な教科でラボを使っていますが、教科では英語や数学、NIE(News in Education:新聞を通して社会探究の基礎を養うアクティブラーニング)などで使うことが多いです。私は社会科の教員ですが、英語科の教員と一緒に教科横断でNIEを行うこともあります。CNNのニュースを英語で映し出して解説し、温暖化の問題についてグループでプレゼンするなど、ラボが空いていれば使っています。グローバル教育として、海外との交流を行う際にもラボは便利です。バングラデシュの姉妹校をはじめ、フィリピンやニュージーランド、カナダ、オーストラリアの学校と同時につながることもできます」(藤井先生)
▶︎人材開発室室長 藤井崇史先生(社会科)
アクティブラーニングを通した生徒たちの成長
「FUTURE LAB」を活用したアクティブラーニングにより、生徒たちは大きく成長していると、藤井先生は語る。
「生徒たちは、自分の意見を明確に言えるようになったと感じています。私は中間や期末テストに必ず記述問題を出していますが、仮説を立てたり、根拠立てて説明できるようになりました。例えば『GDPに変わる幸せの指数を考えなさい』というような問題でも、複数の知識をつなぎ合わせながら、制限時間内にしっかりと根拠が言えるようになっています。人の話の引用ではなく、自分の頭で考えることができているのです。意見を出し合い、意見をぶつけ合って深めていくことで、問いに対してスピーディーに答える力を培い、根拠を明確にして話せるようになったのだと思います」(藤井先生)
「デジタルキャンパス化構想」はICTを活用していくが、集団教育や“人間らしさ”を大切にしているという。
「大学入試のために効率のよさを求めれば、授業は習熟度別に行う方がよいでしょう。しかし、本校ではあえて分けずに授業を行っています。例えば、体育で跳び箱の授業を行う場合、跳べる子と跳べない子に分けた方が効率よく授業を進めることができるでしょう。しかし、ICTを活用しながら、跳べる子と跳べない子を混ぜて授業を進めるのです。すると、跳べる子の動画を撮影して分析するという行動につながります。非効率かもしれませんが、協調性やチームビルディングなどの学びがあります。本校の夢教育が目指しているのは、学力・人間力・グローバル力の向上です。デジタルキャンパス化は、人間力やグローバル力も大切にしながら進めていきます」(藤井先生)
一人ひとりのストーリーにマッチしたオーダーメイド型教育
「デジタルキャンパス化構想」は2024年までに、教科書だけでなく、教員が提供するものはプリントや板書もすべてデジタル化を目指している。提出物のやりとりも、iPadとタッチペンで行う。出欠状況や成績、提出物もクラウドで管理して、保護者も見られるようにしていく。そして、成績や進路状況、夢カウンセリングの内容なども、データベース化していくという。
「デジタル化して効率よく進めることで、教員は生徒一人ひとりにかける時間が増えます。過去の卒業生に関するデータも蓄積させれば、同じような夢を持っている生徒がどのような進路に進んだかを簡単に比較することもでき、面談の質が上がります。本校が行っている夢カウンセリングなど、オーダーメイド型のキャリア教育もさらに精度が上がるでしょう」(藤井先生)
同校のグローバル高校では、学力や性格に合わせて留学先の学校を選ぶ1人1校のオーダーメイド留学を実施しており、生徒たちの満足度も高い。エージェントに任せずに、教員が現地へ行って各学校の情報を得ているからこそ実現できていると、藤井先生は語る。
「例えば、座学が苦手でも、友達を作るのが上手な生徒の場合は、寮がある学校を選びます。寮なら食事のときにも会話ができて、英語力の向上につながるからです。農場経営を目指す子にはファームステイができる学校を選ぶなど、一人ひとりの留学ストーリーに合わせて決めています。ツールが整ってくれば、留学に限らず、勉強のストーリーや進路のストーリーなども、これまで以上にマッチさせることができるでしょう。夢教育を次のステップに上げることが、デジタルキャンパス化の大きな目標なのです」(藤井先生)
業務のデジタル化により教員の伴走力を強化
「デジタルキャンパス化構想」は「子どもたちの学力をテクノロジーで支える」「教育データの一元管理と活用で、学びの最適化を実現」「業務のデジタル化により教員の伴走力を強化」という3つの柱で進められている。
「テクノロジーを活用することで、一人ひとりの反応を踏まえた、きめ細やかな指導や双方向型の授業を実践できます。学習履歴や面談内容のデータベース化により、夢カウンセリングの質も向上。来年度には、教卓にある出欠簿がiPadになる予定です。教員も様々な研修を行い、スキルやデジタルリテラシーも着実に高まっています。アナログな仕事は圧縮し、12ヶ月かけていた仕事を11ヶ月で終わらせるイメージで、労働時間の削減も進めています。事務的な作業を軽減できれば、生徒に向き合う時間を増やすことができ、結果的に教員の働きやすさにもつながるのです」(藤井先生)
同校では、生徒手帳の代わりに「夢手帳」が配布される。自分の夢、達成するための道のりや目標などを記入できるようになっており、夢カウンセリングの際には、「夢手帳」をもとに夢への道のりと進捗状況を確認していく。同校の生徒にとって重要なアイテムとなるこの手帳は、紙のままでデジタル化はしないという。
「生徒たちに何度かヒアリングしていますが、紙のままがいいという声が多いです。日記など、プライベートな部分も書いているので、教員に見られるとなると、本音を書かなくなってしまうでしょう。日記には、時には弱音を書いたり、先生の悪口を書いたりしてもいいと思っています。ですから最終目標は、紙の夢手帳とiPadがあれば、学校生活に関わるすべてが行えるというイメージです。2024年までにすべての実現を目指して、様々な課題に取り組んでいきます」(藤井先生)
<取材を終えて>
「デジタルキャンパス化」という響きからは、人との関わりが希薄になるイメージを持ったが、同校の計画はむしろ逆であった。ICTの活用により学びを最適化・効率化できれば、個々に対するサポートの精度が上がり、教員が一人ひとりに向き合う時間を増やすこともできる。教材のデジタル化やAI教材の活用をしていくことで、教員がAIには出来ない対面でのサポートに注力できるようになるのだ。さらに、授業でグループワークやディスカッションの機会が増えれば、生徒同士の関わりも増えていく。2024年に向けて、計画の進捗に注目していきたい。
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