私立中学

共学校

とういんがくえん

桐蔭学園中等教育学校

この学校をブックマークする

この学校の資料請求をする

デジタルパンフレット

スクール特集(桐蔭学園中等教育学校の特色のある教育 #8)

受験勉強もPBL型! 共学化5年目に見えてきた「新しい進学校」のカタチ

「新しい進学校」を目指し、2019年にリスタートした桐蔭学園中等教育学校。同校が取り組むPBL型の受験勉強とは。

2019年度から共学の進学校としてリスタートし、今年4月には共学1期生が5年生となった桐蔭学園中等教育学校。「新しい進学校」として同校が描く6年間のロードマップやこれまでの学びについて、学び支援主任の一蝶亮先生と5年生の生徒2人に話を聞いた。

「自ら考え、判断し、行動できる」人間の育成

同校は、「自ら考え、判断し、行動できる」人間の育成を目指し、社会に出たときに主体的に生きていける資質能力を高める教育を行っていると一蝶先生は語る。

「本校では、大学受験をクリアすることがゴールとは考えていません。社会に出た後に、主体的に世の中に関わっていける人になってほしいと考えています。そのために、2年ごとにテーマを決めて教育を行っています。1・2年生は、対人基礎力を高めることがテーマです。学年が低いうちは視野が狭いので、そこから見える世界は限られています。そんな小さな世界のままでは、参画意識を持つこともできません。子どもたちの見える世界を少しずつ広げていくためには、人との出会いが必要です。1年生はクラスづくりから始めて、2年生は学校の外に目を向けて、地域の人と触れあって新たな価値観を獲得していきます」(一蝶先生)

3・4年生になると世界を視野に入れて、課題に向き合う力や人と協力して取り組む力を身につける。

「3年生は『15歳のグローバルチャレンジ』と題した探究授業で、模擬国連に取り組みます。本校が長年行ってきた模擬国連部での活動をベースに、生徒一人ひとりが一国の大使になりきり、世界の様々な国で起きている問題に取り組むプログラムで、今までと異なる視点で世界を見る経験となります。4年生は企業と連携して、企業ではどんなことが行われているか、社会に出たらどんなことに取り組むのかをより具体的に体験するプログラムに取り組みます」(一蝶先生)

5・6年生は自己実現に向けて、将来を具体的に考えていく。同校では、大学受験もPBL(課題解決型学習)として取り組むのだという。

「4年生までに多様な価値観に触れ、5年生からは自分と対話をしながら、自分自身がどうありたいか、どう生きていきたいかを考えます。自己実現するためにはどのような進路がいいのか、どのような受験方法がいいのかなど、受験勉強もPBL(課題解決型学習)として取り組むのです。一般入試なのか、推薦や総合型選抜なのか、そこも含めて将来について生徒自身が考えます。それまでの学習で地盤を整えて自分の人生を考えられるようになっているので、目の前にある問題を自分ごととして捉えて、協働しながら解決して生きて行くことができます。それが結果として、『自ら考え、判断し、行動できる』ことにつながっていくのです」(一蝶先生)

▶︎学び支援主任 一蝶亮先生

自己実現のフェーズに入った5年生

自己実現に向けて、5年生は自分でテーマを決めて探究活動を進めている。探究の授業では、1・2年生でスキルを身につけ、3年生で模擬国連を経験。4年生で企業から講師を招いてデータサイエンスのスキルを身につけて、4年生の3学期に個人探究のテーマを決めた。

「共学1期生の子たちは、将来を考える機会を用意すると希望制でも積極的に参加してくれます。例えば4年生では、いくつかの大学に協力していただき、研究室に行って1日~3日間体験する『アカデミックキャンプ』を実施しました。また、実際の裁判を傍聴してから、本校のキャンパス内に移築して復元・保存されている横浜地方裁判所特号法廷で模擬裁判を体験するプログラムも行いました。そのほか、桐蔭横浜大学の学長の講演を聞いたり、東京都立大学へ団体で見学に行き、大学がどんな高校生を求めているかという講演も聴きました。これらのプログラムに興味があって参加してみたけれど、思っていたのとは違うと気づいた子もいました。体験してみなければわからないことも多いのです。こちらが提供する仕掛けに乗りながら、将来へのイメージを高めていってくれたらいいなと思っています」(一蝶先生)

自分と向き合うフェーズに入ると、生徒たちの迷いや悩みが増えてきたと感じると、一蝶先生は語る。

「私は学び支援の担当として、進路相談の窓口にもなっています。5年生になってから、自分と向き合う中で悩んでいるという相談を受けるようになりました。将来についてどこまで具体的にすればよいのかについては、方向性が決まっていればまだ就きたい職業などは明確でなくてもいいと思っています。例えば、漠然と教育学部に行きたいという思いがある子には、教員になる道だけでなく、教育哲学の分野に進んで企業の人材育成に携わる道などもあるでしょう。ですから、今の段階で明確にしなくても、こんな大人でありたいと言えればいいと思うのです。5年次の探究授業では、自分が取り組みたいテーマを1年かけて研究していきます。興味のあることに取り組みながら、それが向いているか向いていないのか、大学受験の仕方はどんな方法が適しているのかなど、1年かけて考えていけるように環境やサポート体制を整えていきます」(一蝶先生)

5年生の生徒にインタビュー

Sさん 5年生(共学1期生)
Aさん 5年生(共学1期生)

――これまでの学びや学校生活の中で印象に残っていることを教えてください。

Sさん ソフトテニス部での活動です。先輩や後輩と団結して勝利を目指しながら、みんなで楽しむという経験の中で様々な学びがあります。一番思い出に残っているのは、4年生のときに参加した合宿です。3泊4日で千葉に行って、テニスに打ち込むことができました。自分のことだけでなく、周りのことも考えないといけないという学びもあり、とても楽しかったです。先輩方に教えてもらったことで自分も成長できたので、後輩たちにも同じようにしてあげたいと思っています。

Aさん 私はグループワークです。まず自分だけで考えて、次にグループワークをすると、他の人の新しい考えが出てきて、そんな意見もあるのだと知ることができます。例えば数学だと、解き方の過程がいろいろあって、自分が解いたやり方よりわかりやすくて簡単なやり方があるとすごいなと思います。

※同校では、全教科でアクティブラーニング型の授業を取り入れており、「個→協働(ペアまたはグループ)→個」を基本とした授業を展開している。

▶︎Sさん 5年生(共学1期生)

――卒業後のイメージはどのように描いていますか?

Sさん 僕は高速道路が好きなので、将来は高速道路の設計や建設をする会社か、高速道路を管理する会社に入りたいと思っています。小さい頃から家族でドライブに行くことが多かったせいか、気がつけば高速道路が好きになっていました。道路の構造やジャンクションなどに興味があるので、東工大や横浜国大の工学系を視野に入れて、一般入試で受験しようと思っています。

Aさん まだ明確に決めていませんが、教育系の仕事に就きたいと思っているので教育学部に進もうかと考えています。この学校に尊敬している先生がいるので、その先生に憧れて教育に関心を持つようになりました。私は一般入試より面接で自分を表現する方が得意かなと思っているので、総合型選抜で受験しようと思っています。 

▶︎Aさん 5年生(共学1期生)

――大学の見学などで印象に残っていることを教えてください。

Sさん 「アカデミックキャンプ」に参加して、東工大で建築学を3日間体験したことです。オリジナルの小屋を作るというテーマで、どんな小屋を作るかを考えるところから始めました。かなり苦戦しましたが、教授や大学院生にアドバイスをもらって、吉野ヶ里遺跡で見た物見櫓をモチーフにしようと決めました。高台に小屋を作ったら、気持ちよさそうだと思ったからです。作りたい小屋が決まったら、図面に落とし込んで、1/50サイズの模型を発砲スチロールで作りました。僕はピアノを弾くのですが、都会に住んでいるとご近所からの苦情なども心配です。山の小屋で自由に弾けたらいいなと思ってグランドピアノを置こうとしたのですが、重すぎて耐えられないと指摘されて一般的なアップライトピアノに変えるなど、かなり細かい部分まで考えて作りました。

Aさん 都立大で図書館を見学したことです。とても開放的で、入った瞬間に広さと本の多さに圧倒されました。地下にも本がたくさんあったことが印象に残っています。「アカデミックキャンプ」では興味があった心理学の研究室に行って体験しましたが、理系的なことも入っていたので、自分がイメージしていた研究とは違っていることがわかりました。

――5年生から取り組んでいる探究のテーマを教えてください。

Sさん 僕は、高速道路の渋滞をなくすためにはどうすればいいかをテーマにしました。渋滞損失を貨幣価値に換算すると、約12兆円にも上っているそうです。壮大なテーマですが、半分でも解決できればすごいと思います。渋滞の中でも、自然渋滞に着目しました。上り坂の渋滞をどうすれば解消できるのか、最も画期的な方法を見つけるために高速道路の管理会社の方にインタビューしようと考えています。文献なども調べていますが、とても楽しいです。

Aさん 私は、人と会う約束があると、前日に憂鬱になってしまう人の特徴について研究しています。私自身が、約束が近づいてくると行きたくなくなることがあったので調べてみようと思いました。例えば、夏休み中に友達と遊ぶ約束をしていて、その日が近づいてくるとなぜか憂鬱になることがあります。HSP(Highly Sensitive Person)と関連があるかもしれないと思って、いろいろと調べているところです。当日のことを想像しすぎて不安になったり、人と会うのが苦手だとわかっているから本能的に拒絶するのかもしれません。

――この学校のいいなと思うところを教えてください。

Aさん 私は生徒会のレボリューション課で活動していますが、生徒主体で動けているのがいいなと思います。4年生までは教室がF棟にありましたが、5年生になってからE棟を使うようになりました。これから入ってくる後輩のことも考えて、E棟での生活をよりよくしようと活動するのがレボリューション課です。生徒たちで考えた案は、一方的に先生から否定されることはありません。実現できるようにアドバイスをもらいながら、生徒主体で決めていけるところがいいなと思っています。

Sさん 僕もレボリューション課で活動しています。例えば、パンの自販機があるのですが、飽きてきた味もあるので、パンのラインナップを変えようと動いています。生徒たちにアンケートをとって、それをまとめて生徒の意見として提出する予定です。僕がいいなと思っていることは、ペアワークによって作られる生徒たちの雰囲気です。一人ひとりが優しくて話しかけやすく、わからないことを聞いたり、世間話をしたり、あまり話したことのない人とも気軽に話せます。今の学年だけでなく、下の学年にも受け継がれていて、ペアワークがあるからそのような雰囲気が作られているのだと思います。

希望の進路実現に向けて

同校は進学校ではあるが、テストの結果に順位をつけて貼り出したり、大学受験を偏差値で語ることはしていないという。

「本校としては、競争心や危機感を煽るような受験勉強はさせたくないと考えています。それが行動の動機付けになると、教育のコンセプトである『自ら考え、判断する』ことができなくなってしまうからです。以前の本校を知る方からは『今の桐蔭はこんなに緩くて大丈夫なのか』という声を聞くこともあります。しかし、あえてゆっくり進めているのは、受験勉強に向かう前に、向かうためのエンジンを準備してほしいと考えているからです。様々なプロジェクトを通して1年生からじっくりと、非認知能力の部分を育んできました。キャリア意識や将来なりたいイメージは、ガソリンの役割を果たしています。ですから5年生から自己実現に向けて動き始めても、すでにエンジンは温まっているのでスムーズに勉強に向かうことができるのです」(一蝶先生)

様々なプログラムに取り組んでいるが、それらは多様な進路による自己実現につながっている。

「5年生の12月を受験生0学期のスタートと考えています。そこまでに体も慣らして、5年生の12月から受験勉強に切り替えて、トライアンドエラーを繰り返しながら受験勉強に向かうというストーリーです。昔は、推薦や総合型選抜は勉強が嫌いな子の逃げ道と思われがちでしたが、今は選択肢の1つと思っています。一般入試へのサポートは当然ですが、総合型選抜などを考えている子にもサポートの講座を作るなどの体制を整えました。また、まだ構想段階ではありますが、年内入試で進路が決まった子たちに対しても、入学前の事前教育などを行いたいと考えています。せっかく資質能力ベースで育てて、受験が終わったら、そこから数ヶ月何もしないのはもったいないことです。来年度以降に向けて、大学と連携できることを考えていきます」(一蝶先生)

<取材を終えて>
インタビューしたSさんが「一人ひとりが優しくて、話しやすい雰囲気がいいなと思う」と言っていたのが印象的だった。ペアワークは学習面だけでなく、生徒たちの人間関係にもよい影響を与えていると生徒自身も感じているのだ。共学校となり「新しい進学校」を目指してリスタートした同校は、大学受験に対する考え方も以前とは大きく異なる。共学化前の同校を知る保護者にこそ、ぜひ同校に足を運んで「新しい進学校」を目指す「新しい桐蔭」を感じていただきたい。

  • この学校をもっと詳しく知る
  • スクール特集トップに戻る

この学校の