スクール特集(獨協中学校の特色のある教育 #10)

新校長が語る「知性を磨き、善い行いのできる“社会の優等生”を育てたい」
獨協中学・高等学校では今年度、坂東広明副校長が新たに校長に就任。同校は人間教育の伝統を継承するとともに、獨協医科大学との連携やドイツ語教育など独自の学びを展開している。新校長に抱負を伺った。
「学びを通じて人格形成を目指す」人間教育を実践
1883年に開校した同校は、日本近代哲学の父とよばれる西周氏が初代校長となり、開校以来、「知育・徳育・体育」の三育を教育の基本に据えてきた。第13代校長天野貞祐氏の就任以降は、「学問を通じての人間形成」を教育理念に掲げ、第24代の坂東校長も、これらを継承していくと話す。
「本校は日本でも有数の歴史と伝統を持つ学校です。よって、校長が変わったからと言って、教育の理念や方針が変わることはなく、と言うよりも変えてはいけないと思っています。
私は、天野先生が掲げた教育方針、『心構えは正しく、身体は健康、知性に照らされた善意志と豊かな情操とを持つ、上品な人間の育成を目指す』ことの徹底を図っていきたいと考えています。善意志とは、 “善いこと”を行おうとする意志のことです。では、『何をもって“善いこと”とするのか?』。それを判断するには、物事を深く洞察できる知性が必要になります。知性を身につけたうえで、善いと判断したことを他者に行い、それが結果として人や社会のためになっていく。天野先生は『獨協生は社会の優等生になれる』と朝礼でよく話されていたそうですが、そういう善い行いのできる生徒を育てていきたいと思っています」
また、初代校長の西周氏は、開校式の演説において「そもそも、学をなす道はまず志を立つるにあり」「志を立てて学問に従事すれば、これに次ぐものは勉強にあり」と述べたという。坂東校長によると「大まかに言えば、『学問を修めるには、まずは志を立てることが大事で、志を立てて学問に取り組むならば、次は勉強に励むことが大事である』ということです」と説明する。「私はそれに加え『正しい志をもって学ぶことの大切さ』もおっしゃっているのかな、と解釈しています。正しい志に基づいて学ぶことをしなければ、その学びを利己のため、誤ったものに使ってしまうことがあるからです。生徒たちには、『何が人のため、社会のためになるのか』を考えながら学問に励んでほしいと願っています」
▶︎校長 坂東広明先生
生徒に自信を持たせ、なりたい姿をイメージできる機会をつくる
“善いこと”を行うためには、学ぶことが必要で、生徒が進んで学ぶためには「自信と誇りを持たせることが大事です」と、坂東校長は言う。
「これも教育方針のなかに記されていることで、教員には、生徒が自己肯定感を持てるよう意識して指導にあたってほしいと伝えています。自己肯定感が向上し、自信を持つことができれば、新しいことやできないことにも進んでチャレンジしようという、前向きな気持ちが生まれるからです。
例えば、授業やテストなどで振り返りをすることは多いと思うのですが、だいたいは上手くいかなかったことに対して、どうすれば良いかを考えます。でも、それはちょっとネガティブに感じる時もあります。そこで、この1学期の終わりに教員に対して『まず生徒たちに、4月から自分が成長したことを振り返らせてみましょう。そして夏休み以降、どういうふうにもっと成長していきたいか、次はどんなことをできるようになりたいか、そういう働きかけをしてみませんか』と声掛けをしました。特に低学年の生徒には、なるべくポジティブに振り返る意識づくりをしていきたいと思っています。
と言うのも、低学年のなかには、小学校の早い時期から中学受験の準備をしてきて『自分の実力はこれくらいだ』と、自ら可能性を狭めてしまっている生徒がいるからです。私は、その殻を取り払ってほしいのです。その1つの方法として、年齢の近い先輩などに『自分はこうやって突破してきた』という話をしてもらうことも有効だと考えています。人間は、自分がなりたい姿や目指したいものを具体的にイメージしたことしか、実現することができません。イメージが明確になればなるほど、自分がやるべきことも明確になり、目標までの道筋も描けるようになります」
既に同校には、自分の目指したいことを見つけ、活躍している生徒もいる。ある高3生は、この夏カナダで行われたアーチェリーの世界ユース選手権大会に、U18の日本代表として出場した。また、同じく高3生にトヨタのレーシングドライバーがおり、6月は育成プログラムの一環として、ル・マン24時間レースに帯同したという。「2人とも世界のトップレベルに接することで、新たな目標が見つかり、取り組み方も変わってきたことでしょう。彼らにも朝礼などで話をしてもらおうと思っていますし、そうしたリアルな生き方を見せる機会も増やしていきたいと考えています」(坂東校長)
系列医大との連携強化やグローバル教育を推進
同校は、教育方針の実現を目指す一方で、系列の獨協医科大学と連携した体験的な学びやドイツ語教育をはじめグローバル教育など、独自の教育活動にも力を入れている。
獨協医科大学との連携では、中3を対象に「見学会」、高2では「サマーセミナー」を実施している。見学会では、同大学が栃木県のドクターヘリを運行している関係から、救命医療の先生の話を聞いたり、今年度は医学部の先生から大腸癌に関する病理学的な説明を受けたりするとともに、模擬学習(組織学実習)も体験した。サマーセミナーでは、附属病院で医師の仕事に触れるプログラムを実施。今年度は、救命入門としてシミュレーション機器を使用して「気管挿管」を体験し、心臓・血管内科、下部消化管外科など8つの診療科のうち希望した診療科を担当の先生と回り、機器を使った体験も行った。また、中3〜高3を対象に、医療現場に携わる先生との「オンライン講義」も実施している。
「今年の見学会から、医学部の学びの一部を体験するなど、より充実した内容になっています。サマーセミナーは現在、日帰りで行っていますが、今後は宿泊をして2日間のプログラムにできないか、大学へオファーをしているところです。また、本校は2022年度より獨協医科大学へ10名の系列校推薦枠を設けています。こうした本物の体験は、医学部を目指す生徒のモチベーションを高めると思っています」と坂東校長は言う。
また同校は、ドイツの文化や学問の移入を目的に設立された獨逸学協会を母体とし、開校以来、グローバル教育や外国語教育を進めてきた歴史がある。現在も中3~高2の希望者を対象に、ドイツ研修旅行を実施しているほか、イギリス・ロンドン郊外を中心としたホームステイ、ニュージーランド留学プログラム、ハワイ修学旅行など、さまざまな海外研修の場を設けている
そして、同校の外国語教育の大きな特色は、英語以外にも中3からドイツ語を学べることだ。同校はドイツ外務省が主導する「*PASCH(パッシュ)」の提携校でもあり、教材の支援やドイツ語教師の研修も行われ、生徒たちは世界標準のドイツ語教育を受けることができる。さらに、PASCHの検定試験で優秀な成績を収めれば、ドイツ短期留学のチャンスもある。今年は3名の生徒が合格し、そのうち1人はインターンシップも体験できるワンランク上のプログラムに、同校で初めて受かったという。そのほか、ドイツの企業や大使館を訪問するなど、ゲーテ・インスティトゥート(ドイツ政府が設立した公的な国際文化交流機関)が実施するプログラムやイベントにも参加できる。
▶︎獨協医科大学サマーセミナー 気管挿管訓練
▶︎エコレア・インターナショナルスクール・シュヴェリーン校来校時の交流
最後に坂東校長は、今後の抱負を次のように述べる。「本校で30年以上、教師をしてきましたが、生徒は今も昔も変わらず、心根が優しく素直で伸びやかです。何代もの卒業生たちがつなげてくれた文化や校風が根付いているのでしょう。今後も人間教育の伝統を守りながら、系列医大との連携やドイツ語教育といった本校ならではの教育も推進していきます。獨協を獨協として次の世代へつなげていくことが、校長の務めだと思っています」
*PASCH(パッシュ)…ドイツ連邦外務省がドイツ語の学習を支援する世界2000校以上の学校がつながるネットワーク。日本では獨協を含め、6校が提携校になっている。
<取材を終えて>
「学問を通じての人間形成」という教育理念を継承し、教育方針も一貫しているところが獨協の強さだと感じる。ドイツ語教育や海外研修、系列医大との連携、今回は触れていないが環境教育など、独自性のある教育を展開しているのも同校の特長だ。特に獨協医科大学へ10名の推薦枠があるというのは、医学部を目指す生徒にとって大きな魅力だろう。
この学校のスクール特集
ドイツ語を学ぶ環境や留学制度を整備。新たなグローバル教育を展開!
公開日:2024/6/4
環境について学び、人と人の信頼関係を深める「ドイツスタディーツアー」
公開日:2023/12/1
“地球市民”としての資質を育む「ドイツ研修旅行」
公開日:2022/12/23
「医学部に強い」伝統を高大連携でさらに強化
公開日:2021/6/2
独自プログラムで様々な体験!「ドイツ研修旅行」
公開日:2018/12/17
ドイツ文化との深いつながりを背景に国際的な学びの機会を多彩に提供
公開日:2017/10/25
生徒が環境ファシリテーターに!地域とつながる環境教育を実践
公開日:2016/12/22
国際交流プログラムで“本物”を通して、主体的に語学、サイエンスを学ぶ
公開日:2016/1/29
生徒一人ひとりを丁寧に導き、可能性を伸ばす学習指導
公開日:2016/1/15