スクール特集(東京立正中学校の特色のある教育 #5)
何かを頑張ってきた子は伸びる!2つの独自入試が求める力
東京立正中学校では、「自己プレゼンテーション入試」と「SDGs入試」という2つの独自入試を実施している。導入の背景やそれぞれが求める力とは?
東京立正中学校では、生徒自ら地域貢献や社会貢献活動につながる将来設計を描き、将来の目標にSDGs(持続可能な開発目標)を取り込めるように、SDGsの学びや体験をカリキュラムに取り入れている。2021年度には独自入試として、「SDGs入試」を導入。2015年度から行っている「自己プレゼンテーション入試」と同様に、勉強以外に頑張ってきたことがある小学生がチャレンジできる入試となっている。2つの独自入試について、校長の梅沢辰也先生とSDGs委員会代表の原子桂輔先生(国語科)に話を聞いた。
頑張ってきた小学生に挑戦してほしい独自入試
同校では、2015年度から「AO(スポーツ・芸術・習い事)入試」を導入。スポーツ・芸術・習い事など、自分が頑張ってきたことを「どのようにプレゼンするか」に重きを置いていることが明確になるように、2021年度から「自己プレゼンテーション入試」と改称された。一方、2021年度に導入された「SDGs入試」は、興味や関心を深く掘り下げる素養を評価する入試。どちらも、何かに向けて頑張ってきた小学生にぜひチャレンジしてほしいと、梅沢校長先生は語る。
「小学生が取り組んできたことは、必ずしも勉強だけではないでしょう。何かに向けて頑張ってきた小学生なら、入学してからのサポートで学力も伸びるはずです。私立中学校に行きたいと思ったら、4年生から塾に通って準備していないと難しいという状況から、5年生、6年生になってから行きたくなっても間に合うようにチャンスを広げたいと考えました。そして、『頑張ってきたこと』の中からSDGsを取り出したのが、SDGs入試です。本校のカリキュラムにはSDGsの学びや体験を取り入れているので、SDGsに関する探究などをやってきた子がいるなら、ぜひ入学してほしいと考えています。入学前からSDGsへの興味・関心が強く、具体的な体験がある生徒がクラスに1人でも2人でもいれば、他の子たちへの影響は計り知れないでしょう」(梅沢校長先生)
同校では、2015年度に1期生が入学した「イノベーションコース」(中学からの入学者は全員「イノベーションコース」)の高校3年間で、SDGsと絡めた学びを行ってきた。今年度からは中学生もSDGsに関するワークショップを実施し、宿泊行事とSDGsを絡めていく計画もあるという。
「イノベーションコースで取り組んできたことを、学校全体に広げていこうとしているところです。教員に関しても、これまでSDGsプログラムに関わっていなかった教員も含めて、全教員がSDGsの視点を様々な場面で入れていけるようにしていきたいと考えています。SDGsに関する取り組みは、スポーツや芸術など、一生懸命やったことが直接自分への評価として返ってくるものとは少し異なります。誰かのために行ったことが、形を変えて自分に返ってくるようなものです。それは、本校の教育理念である『生命の尊重・慈悲・平和』とも合致しています。入試でもSDGsをテーマにすることは、学校全体で取り組んでいくという決意表明の意味もあるのです」(梅沢校長先生)
▶︎校長 梅沢辰也先生
2つの入試で見たい力
「自己プレゼンテーション入試」は、スポーツや芸術、習い事など、頑張ってきたことのプレゼンテーション、当日出されるテーマに沿った作文、そして個人面接で評価する。
「作文のテーマは身近なものなので、自分がどう思うかを表現することが大事です。例えば2021年度は、東日本大震災から10年経ち、防災について自分たちが小学校でどんなことをやってきて、それに対して自分がどう感じているかを書いてもらいました。プレゼンテーションは、ポスターセッションや紙芝居型、ノートパソコンやタブレットを使用した発表、その場で実演するなど、どのようなスタイルでもかまいません。しかし、キャッチボールのように相手が必要となると、試験官の教員がうまくできるとは限らないので、実力が発揮できないかもしれません。自分が見せたいことに適したスタイルを考えることから、試験は始まっているのです」(梅沢校長先生)
一方「SDGs入試」は、SDGsの視点で調べた内容や創作したもののプレゼンテーション、試験当日にSDGsと関連がある授業を受けた後、題材から課題や問題点を発見し、それについての考えなどをまとめる筆記試験、そして対話型の面接で評価される。
「SDGsに関して取り組んできたことのほかに、そういった視点を持って何かに取り組んできた児童が、試験当日にSDGsに関する授業を受けたときに、どのようなところに目を向けるのかを評価したいと考えています。SDGsに関心を持っている児童なら、この部分に目を向けることができるだろうという期待もあるので、当日に授業を行うスタイルを取り入れました」(梅沢校長先生)
SDGsへの取り組みから見えた生徒の成長
SDGsの学びや体験をカリキュラムに取り入れている「イノベーションコース」では、2021年3月に1期生が卒業した。高1で「身近な地域」、高2で「世界」に目を向け、高3で取り組みについて発表するというSDGsのプログラムを通して、生徒たちは大きく成長したと、原子先生は振り返る。
「イノベーションコースの授業では、高1で高円寺という地域に関する課題に取り組みます。例えば、本校の母体である堀ノ内妙法寺にて行われている寺子屋プロジェクトへの参加です。食と学習支援の場を提供し、支えあいの地域づくりを目的としたボランティア活動の中で、小学生の宿題を見たり、お昼ご飯の調理を手伝います。子どもとの触れあいのほか、地域の中で社会貢献している大人を知る機会を作り、高2に向けて地域から世界へと視点を広げていきます」(原子先生)
高2で実施するカンボジア研修の前には、世界でSDGsの課題に取り組んでいる大人がいることを知るワークショップなども開催。カンボジアの高校生とオンラインミーティングを行い、SDGsに関してお互いの国で見えてきた課題を英語で紹介するなど、現地で一緒に解決策を話し合えるように事前学習も行っておく。
「カンボジア研修では、日本人が経営している孤児院を訪問したり、現地の高校生と異文化交流を行います。進路の面談で大学や学部など何も決まっていなかった生徒も、カンボジア研修をきっかけに大きく意識が変わりました。『この子たちのために何かしたい』と思うようになり、海外の子どもたちに日本語を教えて、就職に活かせるようにしてあげたいという目標ができ、日本語学科に進学した生徒もいます。海外で困っている人たちの支援活動をしたいと、海外大学へ進学した生徒もいました。SDGsに関連したプログラムは、キャリア教育にもつながっています。困っている人に目を向けることで、自分の目標に『誰かのための支援』という視点をプラスできるようになるのです」(原子先生)
▶︎SDGs委員会代表 原子桂輔先生(国語科)
SDGsを通して高校生と小学生が交流
同校の生徒は、子ども食堂でのボランティアにも参加している。先日は、高円寺地区の「みんなのお家 エルガーハウス」という団体の子ども食堂に高校生が参加し、地域の小学5年生がSDGsの授業で考えたお弁当を調理して、子どもたちに配ったという。
「食品ロスを意識したメニューは、ニンジンなどの皮も使われていました。ロスをなくすだけでなく、味も美味しくて、子どもたちでも満足するお弁当になっています。お弁当を受け取りに来る子どもたちは、自分たちが家庭科で作ったマイバッグを持ってきていて、高校生たちも様々な刺激を受けていました。今はイノベーションコースの高校生が中心となっていますが、今後は、このような活動を全校生徒に広げていきたいと考えています。小学校からも声をかけていただき、小学生と高校生が年代を超えて地域の課題を話し合うサミットを開催する予定です。授業を通して積極的にSDGsに取り組んでいる小学校もあり、小学生でもSDGsに関する意識が高い子がいます。そういった子に、ぜひ本校のSDGs入試にチャレンジしてほしいです。もともと関心を持っている子が入ってくれることは、他の生徒たちにとっても大きな刺激になるでしょう」(原子先生)
今年度からは、中学生の授業でもSDGsに関する取り組みをスタートさせた。
「大学教授とオンラインでSDGsのワークショップを行い、中学生でも取り組めることがあるということを学びました。少しずつ興味を持ってきているようで、廊下ですれ違うときに『ゴミ問題について取り組んでみたい』などと話してくれる子もいます。NGO団体に寄付をするとSDGsバッジがもらえるのですが、中学生も寄付をしたいという子が増えました。来年度以降、年1回行っている宿泊行事と結びつけて、もう少し自分ごととして捉えられるようにしていきたいと考えています」(原子先生)
同校の中学生は、全学年が一緒にSDGsのプログラムに取り組めることが大きな特徴だと、梅沢校長先生は語る。
「本校の中学校では、横のつながりだけでなく、学年の壁も越えて一緒に取り組むことができます。部活動のような人間関係の中で、課題解決に向けて様々な経験ができるのが小規模校のよいところです。SDGsとして17の目標が掲げられたことで、世界で困っていることをバラバラに考えなくてもよくなりました。『何かしたい』という思いがあっても、何をしたらいいかわからなかった子も、17の目標から『何か』をするきっかけが得られるようになったのです」(梅沢校長先生)
2つの独自入試に向けた準備
2つの独自入試はどちらも、「何かを頑張ってきた子」が挑戦できるものだ。しかし、それぞれの入試に向けた準備は異なると、梅沢校長先生は説明する。
「自己プレゼンテーション入試は、必ず家族で振り返る必要があります。スポーツでも習い事でも、何歳から始めたか、きっかけは何だったのか、父親か母親がやっていたからなのかなど、幼いころからやっていることは、本人の記憶は曖昧でしょう。親とコミュニケーションをしないと、プレゼンの資料を作ることができません。ですから、自己プレゼンテーション入試は、保護者にとっても非常に意味がある入試です」(梅沢校長先生)
一方「SDGs入試」は、家庭の外で何が起きているか目を向ける必要がある。家族とは離れたところで、困っている人や解決すべき問題に目を向けなければならないのだ。そして、そういった活動をしていきながら、その活動にどのような意味があるのかを考えることが大切だという。
「SDGs入試では、当日受ける授業の中で与えられたものから、どんなことを考え、どんな課題が見つけられるか、内容が深まっているかなども評価します。それは、入学後に課題に対して自分で考えていける自主性があるか、などの評価にもつながるのです。試験を採点する側も、『小学生でこんな考えを持っているのか』という刺激になります。多様な考えが出ることに期待していますし、どのような考えが見られるのか楽しみです」(原子先生)
<取材を終えて>
高校生がボランティアで参加した子ども食堂で配られたお弁当には、小学生が書いたメッセージが熨斗としてつけられていた。そこには、日本でどのくらい食品ロスが出ているかなどの説明が書かれ、「食品ロスをなくすために、このお弁当を残さず食べてください」というメッセージで締めくくられている。「残さず食べる」という小さなことでも、それを意識することからSDGsの取り組みが始まるのだ。同校の「SDGs入試」に関心を持ったら、ぜひSDGsの「17の目標」を確認していただきたい。
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