和洋九段女子中学校
スペシャルレポート <第5回>
企業の取材&プレゼン、英語のスピーチなど
生徒主体の学習活動を文化祭で発表
毎年秋に開催される文化祭。今年も、持続可能な社会に取り組む企業・団体をテーマにしたパネルディスカッションや英語スピーチなどの学習の発表会が行われた。英語力やプレゼンテーション力を育む21世紀型教育に注力している同校だが、その一方で礼法をはじめとした日本の伝統文化を重視。双方のバランスを大切にした教育を実践している。
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SDGs(持続可能な開発目標)に関する取材&プレゼンテーション
文化祭の企画として、各学年の生徒たちが日頃、取り組んでいる学習の発表会がフューチャールームで行われた。内容は、英語のスピーチやディスカッション、農業体験をもとに考えた商品開発のプレゼンテーション、理科の自由研究や探求など多岐に渡る。今回は、「持続可能な社会に向けての企業・団体の取り組み」をテーマにした中学2年生のパネルディスカッションをクローズアップする。
新しいプロジェクト「グローバル遠足」
中学2年生が行ったパネルディスカッションの趣旨は「SDGsに取り組む企業・団体を取材し、その紹介と自分の考えを述べる」というもの。最初に「SDGs」に関する学習活動から説明しよう。
SDGsとは、2015年度の国連サミットで採択された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で「貧困をなくそう」「すべての人に健康と福祉を」など17の目標について2016年~2030年の15年間で達成することを掲げている。同校は新しい試みとして、SDGsを中学2年生の研究課題に設定。SDGsに取り組んでいる企業や団体を取材し、その内容を論理的にまとめて発表する「Global Experience Project(通称:グローバル遠足)」を行っている。
一連の学習として、まず、生徒1人ひとりが、貧困、教育など1つの目標を定め、学年全体で6~8人のグループを作り下調べを行う。次に、SDGsの活動をしている企業や団体を探し、自分たちで取材を交渉。承諾を得たら、事前に質問事項などを整理して、詳細に取材を敢行。最後にその内容をまとめ、人に伝わるようにプレゼンテーションをする。
「グローバル遠足は、生徒が1年生の時から準備を始め、その間、教員はファシリテーターに徹します。初めてのプロジェクトであり、生徒は取材先の選定から交渉まで、自分たちでやらなければならないので大変だったと思います。しかし、SDGsの目標に企業や団体がどのように関わっているか、今はどんな状況なのかを学びたい、そして、自分たちも一緒にできることはないか考えていこうと、熱心に取り組んでいました。社会に関心を持つ、良い経験になったと思います。また今は、すべての教科で生徒が主体となって問題を解決するPBL(Problem Based Learning)型の授業を行っています。自分から調べたり、考えを発表したりすることに、だいぶ慣れてきたように感じます」と、文化祭の学習発表会の責任者、本多ゆき先生は言う。
本多ゆき先生
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文化祭の学習発表会の模様
パネルディスカッションに参加したのは、以前、行われたプレゼンテーション大会で評価の高かった上位4グループの代表者たち。司会者も中学2年生だ。フューチャールームのスクリーンを活用しながら、自分のグループの活動を説明したり、司会者の問いかけに答えたりと、初めてとは思えないほど堂々と話をしていた。
各グループが訪問した企業・団体の紹介
パネルディスカッションは、司会者がそれぞれのパネラーに、SDGsに取り組む企業、団体の紹介を促すところから始まった。
<Aさん> 「私たちのグループはダイキン工業株式会社を訪問しました。ダイキン工業は、省エネルギー技術を使って、気候変動の原因となるCO2の排出を抑制する製品やサービスを開発、提供しています。SDGsの目標では、『気候変動に具体的な対策を』に取り組み、地球、都市、人の健康に対する価値創造を行っています」
<Bさん> 「味の素(株)について紹介します。味の素グループは、ベトナム学校給食プロジェクトとして、栄養士の育成などに取り組んでいます。発展途上国では、栄養の知識がないことが多く、ガーナでは、トウモロコシを使った離乳食の過剰摂取で、子どもがリジン不足になり、低身長になって命に係わることも起こっています。そこで、味の素は栄養改善となるサプリメントを開発しました。その他、カツオの生態調査なども行っています」
<Cさん> 「私たちはセブン&アイ・ホールディングスを訪問しました。この会社を選んだのは、以前から社会貢献に熱心でSDGsの目標を達成するための活動をたくさん行っているからです。現在、取り組んでいない目標は、17の項目のうちたった4つだけです。SDGsは達成するのが難しい目標もありますが、私たちができることを少しでも行い、社会に貢献したいといます」
<Dさん> 「私たちが訪問したのは、CIESF(シーセフ)という団体です。シーセフは、カンボジアをはじめ、発展途上国の教育面の支援を行っています。具体的には、1.教師を育てる 2.教育行政を改善する 3.起業家を育てる 4.産業人材を育てる 5.国のリーダーを育てる という5つの目標をもとに活動しています。私たちにできるのは、シーセフが行っている寄付型自動販売機を設置し、売上の一部を活動資金に役立てること。現在、学校の1階と3階に、計3台の自動販売機を設置しました」
生徒たちの発案で設置された寄付型自動販売機
企業・団体、そして自分が考えるSDGsの目標
一通りの紹介が終わると、司会者は、「企業・団体のSDGsへの意気込みについて」、「一番力を入れている目標は何ですか?」などと、パネラーに次々と質問を投げかけていく。
<Dさん> 「シーセフが一番力を入れているSDGsは、『質の高い教育をみんなに』という目標です。日本の教師をカンボジアに派遣し、教師を目指す人に教えるという活動を行っています」
<Bさん> 「味の素グループは、カツオの生態調査をしていることから、『海の豊かさを守ろう』という目標に力を入れています。また、給食や栄養改善プロジェクトは『飢餓をなくそう』に貢献しています」
<Aさん> 「ダイキン工業は、『気候変動に具体的な対策を』に取り組み、自社のことを『空気で答えを出す会社』と宣言しています。地球温暖化を抑制したり、私たちに優しい環境作りを整えている会社だと実感しました」
<Cさん> 「セブン・アイ・ホールディングスは、『飢餓をゼロに』をはじめ、いろいろな目標に積極的に取り組んでいます。賞味期限が切れた食料を肥料にして、その肥料で野菜を作るという循環型農業も行っています」
最後に、自分が考えるSDGsの取り組みについて、パネラー全員が自由に語った。
<Aさん> 「今よりもエアコンの室外機を小さくしたり、室内機と合併ができるような開発ができたら、地球の温暖化も少しは抑制できるのではないかと考えました」
<Bさん> 「私は子どもたちの健康のために、栄養サプリメントの開発に力を入れたらよいと思います。また、多くの企業・団体が、特に教育に力を入れて、時間をかけてでもSDGsに貢献してほしいと願っています」
<Cさん> 「工場からコンビニに商品をトラックで運ぶ時に、たくさんのCO2が輩出されるので、それを抑制するために、水素自動車を使用するしくみが作られたらといい思います」
<Dさん> 「すべてのSDGsの取り組みには、人間が関わってくるので、シーセフのように人材育成を主に行えばよいと思います。また、自分たちは教育を受けられていることに感謝しつつ、一人でも多くの人に、SDGsに関心をもってもらいたいと感じました」
このような流れでパネルディスカッションは終了。生徒たちに、これまでの活動で大変だったこと、また、当日のパネルディスカッションについて聞くと、「企業を選んで、取材を申し込む時が大変だった」「取材した内容が盛りだくさんで、どう絞り込むかが難しかったです」「同じ企業を取材したグループがもう一つあったので、差別化する苦労がありました」「パネルディスカッションでは、下を向かないように気を付けた」「なるべくアイコンタクトをとるように心がけました」などの言葉が返ってきた。
日頃の授業でプレゼンテーションを実施
学習発表会では、中学2年のグローバルクラスから2名の生徒が英語のスピーチを披露した。テーマは「The Amazing Animals」。変温動物、温血動物について、自分たちが調べたことを発表するという内容だ。まずは1人が、ヘビや魚、カエルなどの変温動物の生態について英語でスピーチし、片方が日本語で通訳。温血動物のついては、英語と日本語の役割を交替して、スピーチを行った。
2人とも英語が流暢なことに加え、話し方もごく自然体。「以前、授業で取り組んだ課題で、原稿も自分たちで作成しました。発表もクラスメートの前で行った経験があったから、今日も特に緊張せず、いつも通りにスピーチができました」と生徒たち。
「グローバルクラスの授業はオールイングリッシュの環境に加え、ディスカッションやスピーチもよく行っているので、生徒は人前で話すことに慣れていますね。また、今回発表した2人は帰国生で英語力が高く、そういう生徒がクラスにいると周りにも良い刺激を与えてくれます」と本多先生。「フューチャールームで文化祭の学習発表会を行うのは、今年で2回目ですが、どの生徒もお客様を見て話ができるようになり、去年よりレベルが上がっていると感じました」
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日本の伝統文化を学ぶ大切さ
文化祭の学習発表会で日々の授業の様子がわかるように、同校では、PBL型のアクティブ・ラーニングやプレゼンテーション、英語教育など、21世紀型教育に力を注いでいる。しかし一方で、礼法や茶道をはじめとした日本の伝統文化の学びも重視し、カリキュラムに導入。その理由とは?また、同校が目指す教育活動について、広報室長の川上武彦先生に話を聞いた。
文化祭では箏曲部の演奏も披露された
21世紀型教育と日本文化の学びを同時に導入
「校名にもあるように、120年の歴史をもつ本校では、和魂洋才という概念が培われてきました。時代は変わりましたが、視野を広く持ちながら、足元をしっかり見て歩む、そうした考え方は変わらずに大切であると思っています。ICTや英語力などをツールとして取り入れることは、今の時代には必要なことですが、同時に何を伝えるのか、その核となるものや、人間性を育てていくことの方が重要です」と川上先生は言う。
同校では、小笠原流礼法、茶道、華道、書道を必修化している。「礼法は立ち振る舞いなど、形を覚えるところから入りますが、その奥には自分を律し、相手を思いやるという心があります。茶道も季節ごとの花、掛け軸などを選ぶところから、相手を思う時間がはじまっています」
文化祭における華道部の展示
「礼法の授業は以前から行っていましたが、茶道などを必修にしたのは、PBL型の授業やグローバルクラスの導入など、教育改革を行った2年前からです。つまり、21世紀型教育と同時に、伝統文化の学びも強化しました。同じような流れで、高1の長野の農業体験も新たに導入しています。ICTを活用すればするほど、土を触ってほしい、生命に触れてほしいという思いが強くなったからです。
情報化、国際化の世の中になり、ICTや英語は使えるが自分のことを語れない、伝えたい内容をもっていないというのでは、意味がありません。伝統文化や自然体験の学びは、心や生きる力を育みます。先進的な教育と、良き伝統をバランスよく取り入れていくことが、未来のグローバル社会で生きるための力になると確信しています」
21世紀型教育に力を入れながらも、日本の伝統文化をしっかり学ぶことも重視する。そんな同校の方針が、文化祭を一日取材する中で強く感じることができた。グローバルでありながらドメスティックでもあることが同時に求められるこれからの時代。そんな時代を力強く生き抜いていく女性を育んでいくことだろう。
書道部の展示。一つひとつの作品に個性が感じられる
茶道部の活動
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