目白研心中学校
スペシャルレポート<第1回>
知識を知恵に発展させる力を育み
経験値を上げる体験重視型教育
目白研心中学校では、社会の変化を見据えながら、生徒一人ひとりの夢が実現できるように教育改革を進めている。体験重視型教育や学習支援センターの成果により、大学進学実績も向上。他者との協働の学びを通じて「共に生きる」姿勢を育むグローバル教育により、卒業生たちは海外へと活躍の場を広げている。
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21世紀の今とこれからを考えての教育改革
目白研心中学校では、「コミュニケーション力」「問題発見解決力」「自己肯定力」という3つの力の育成を実現するために教育改革を進めている。2012年に就任して以来、英語教育の重視や学習支援センターの開設など様々な試みに着手してきた松下秀房校長先生に、教育改革のベースとなっている「校長として追及していること」について聞いた。
社会人としてのベースを作る体験重視型教育
松下校長先生は、中等教育期の子どもとの関係を「目を離さない時期」だと考えている。生まれてから幼少期までは「体を離さない時期」、初等教育期は「手を離さない時期」、そして大学に入る頃は「心を離さない時期」。中等教育期は、ある程度の距離は保ちつつ、決して目を離さないことが大切だと松下校長先生は語る。
松下秀房校長先生
「目を離さない時期に体(五感)を通して身につけておきたいのは、知識やマナー、モラルなど団体での行動様式です。本校では、中1から高2まで宿泊を伴う行事を多く実施しています。核家族化によって地域社会との結びつきも弱くなり、母親が中心として育児をする単相化が進みました。そのような環境で育った子どもは、幼少時からの体験の絶対値が少ないのです。それを補う意味でも、学校生活での体験が重要な役割を果たします。様々な行事を体験することによって、社会性や協調性が身につき、人を見る力も養われて、人を受け入れることもできるようになります。体験によって知識を使う機会を得て、知識を知恵に変えることができるのです」
体験が少ないと好き嫌いがはっきりしてしまうことから、松下校長先生は「向き不向きより、前向きに!」というモットーを掲げている。
「多くのことを経験していれば、好き嫌いを簡単には決められません。向いていないと思うからやらないのではなく、まずは前向きにやってみることが大切です。友人関係でも、1つのグループしか知らないより、たくさんのグループと接する機会があった方が人間性は豊かに育ちます。私のもう1つのモットーが『やらない後悔より、やった経験を重んずる』です。失敗を通してこそ、考える力がつくと考えています。体験型の教育は、「タフな心」を養うためにも重要です。人にはそれぞれの考えがあり、自分にとって好意的な意見もあれば対立的な意見もあります。今のような情報化時代に、批判的な情報や攻撃的な情報を目にして心が折れていては、豊かに暮らすことはできません。行事の企画・運営などを経験することで、いろいろな意見がありぶつかり合うこともあると知ることが大切です。そのような経験をする中で、自分の意見を他者に理解してもらうにはどうしたらよいか考える中で、他者の意見を尊重できるようになっていきます」
学習意欲を高めるきっかけ作りをサポート
同校では、生徒が自分で課題を見つけて積極的に取り組めるように、きっかけ作りをサポートしている。
「アクティブラーニングは、特別な授業をすることではないと思っています。生徒たちの意欲を高めることが、アクティブラーニングへとつながるのです。例えば、中1で数検準2級を取得した生徒がいます。中1の授業では、まだ平方根を教えていませんでしたが、教えてほしいと言ってきました。そこで、ルートボタンのある電卓を活用して簡単に教えてあげたら、そこからどんどんいろんなことを自分から勉強し始めたのです。これもアクティブラーニングだと思います。数検が近づく頃には、放課後に「数検バイキング」を実施するようになりました。数学のどの部分を勉強してもよい、ホテルの朝食のような感覚で参加できる講座です。生徒自身が「伸びた!」と感じたり「やればできる!」という達成感を得られたりするように、様々なサポートを行っています」
自主性と内発力を養う「学習支援センター」
松下校長先生が2013年に開設した学習支援センターも、生徒たちの学習意欲を高めるサポートの1つである。教員や親の指示を待つのではなく、自主的に取り組んで、高校を卒業するまでに自分で選択・決定ができるようになってほしいと考え、学習支援センターでは自主性を大切にしているという。
「朝のHR時に、基礎学力と学習習慣を身に付けるために、約5分間の朝テストを週3日実施しています。不合格の場合は、放課後に朝テストと同じ範囲の学習プリントへ取り組むことになっていて、再テストに合格しないと部活には行けません。朝テストに合格していても、レベルアップを目指したい生徒や、部活動が終わってから学校で勉強したい生徒に対して自習できる環境を提供。受験対策としては、センターのスタッフによる個別指導を行っています。予備校へ行かずに難関大学へ合格するなどの成果も出ているので、年々利用者が増えています」
学習支援センター
学習支援センターは、自主性と内発力を養う場所。生徒同士で教え合うこともできるように、個別ブースにはなっていない。
「友達同士で影響しあうことも大切だと思います。成長の加速度の大きいこの時期は、夢や目標を作ることも必要です。夢がなければ、大きく成長できません。海外に目を向ける進路指導もしており、海外大学へ進学した生徒が5名に増えました。帰国生ではなかったのですが、ロンドンで美容師の専門学校に通って、そのままロンドンで美容師になった卒業生もいます。英語も学んで、フリーランスの美容師として働いているのです。日本人が数人しかいないアメリカの大学に進学した生徒もおり、卒業生が次々と海外へと進出していく姿を見て、とても嬉しく思っています。英語はツールです。英語を日本語と同じ感覚で使えるように、ドラマのメソッドを用いた授業なども取り入れています」
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ネイティブ教員によるドラマ教育
英語での対話力を持った生徒を育てるプログラムとして、中3から選択できる「SEC(Super English Course)」が2014年からスタート。中3 SECでは週1回、ネイティブ教員による「Speech and Drama」の授業を実施している。今年度から「Speech and Drama」の授業を担当しているステファニー・ヘザー(Stephanie Heather)先生に、授業のねらいや成果について聞いた。
ドラマを通して豊かな感情表現を育む
ヘザー先生によると、海外ではドラマを用いた授業は特別なものではなく、表現力や共感力などを高める方法として、多くの学校で取り入れられているという。
「私が通っていたオーストラリアの学校でも、中高生時代にドラマの授業がありました。ドラマの中で役を経験していくことで、自信を得たり、表情が豊かになっていきます。本校の『Speech and Drama』の授業では、日常生活で使う感情表現を教えていきたいです。通常の授業とは違う特別な授業であるという雰囲気作りも大切にして、自然に楽しく話すチャンスを作りたいと考えています」
ステファニー・ヘザー(Stephanie Heather)先生
日本人は感情表現が苦手と言われているが、ドラマの授業を通してどのような変化があるのだろうか。
「演技そのものが初めてという生徒がほとんどなので、日本語の演技でさえ慣れていません。最初はとても戸惑ったり、不安がっていました。しかし、クリエイティブな活動を通して、自信もつけて、顔の表情が豊かになり、今は楽しそうに演技をしています。ドラマを通して、生徒たちは確実に変わりました」
授業に使うドラマは毎年変えており、今年度はヘザー先生が考えたドラマを使っている。
「夏休みにタイムマシーンを作って、様々な時代や場所でいろいろな経験をするという、映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』のようなストーリーです。言語だけでなく、歴史も学べる内容となっていて、英語のユーモアもたくさん入れました。ドラマを通して、教科書には出てこない生きた表現も学んでいきます。演技をするためには、セリフを覚えなければなりません。役になりきることで、セリフが自分の言葉となり、1つのドラマを演じきることで、演じていないときでもその言葉が自然に口から出てくるようになるのです。英語を学ぶ方法としても効果的だと思います」
高校時代、目白研心に留学していたという縁
ヘザー先生は高校時代に、留学生として同校で学んでいた経験がある。留学生として通っていた学校に、教員として戻ってくるという非常に珍しいケースだ。
「この学校で教員として働くことになったのは偶然です。仕事を探していたときに、たまたま目白研心の名前を見つけて、チャンスをいただきました。今の生徒たちと同じ年頃に日本へ留学し、教員として日本に戻ってきたという経験から、彼らの目を海外へ向けさせる後押しをする存在になれると思っています」
ヘザー先生が留学生として日本に来たのは、15歳のとき。外国での生活は初めてだった。
「初めて来た外国が日本。私の人生で、とても大きな経験です。素敵なホストファミリーに恵まれて、よい時間が過ごせて日本が好きになりました。当時の経験がきっかけで、また日本に来たいと思えたのです。かなり前のことなので、学校の建物は新しくなり、ずいぶん変わりましたね。制服は当時のままなので、懐かしさを感じています」
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「Speech and Drama」の授業風景
役を通して日常の感情表現を学ぶ「Speech and Drama」
この日の授業では、2つのグループに分かれて、シナリオの読み合わせを行っていた。グループごとに自主的に進めて、わからない言葉やシチュエーションがあれば、わかる生徒が教えたり、先生が来たときに質問。英語で読み合わせをしながら場面を想像して、自分が担当する役の気持ちを考える。
“It's not working!”というセリフについて質問が出ると、ヘザー先生はどのようなシチュエーションか英語で解説。どんな感情を込めて読めばいいのかを教えるのではなく、「こんな場面では、どんな気持ちになるか?」ということを考えさせていた。
授業で練習しているドラマは、毎年「桐陽祭」(文化祭)で発表することになっている。
中学3年生にインタビュー:<Super English Course 中3>Hさん・Yくん
「Speech and Drama」の授業に参加している中3の生徒2人に話を聞いた。
―― 英語で演技をすることに、抵抗はありましたか?
<Hさん> 私は演劇部に所属しているので、演技することは好きです。抵抗はありませんが、英語での演技は部活でもやっていないので、まだ慣れていません。6歳までアメリカで生活していましたが、英語での演技は新たな体験です。ドラマの授業は、表現力が身につくのでいいなと思います。
Hさん
<Yくん> 英語はまあまあ好きですが、演技は好きではないので、正直ちょっと困ったなと思っています(笑)。恥ずかしいような演技でも、自分が担当するキャラクターの気持ちを考えて、なんとか演じているという感じです。でも、やっていくうちにドラマの授業も楽しいという気持ちが出てきました。
Yくん
―― ドラマの授業を通してどのような変化があり、どんなことを感じていますか?
<Hさん> 演劇部では注目されるのが好きなので、ドラマの授業でもどう見せたらいいのかなと考えるのが楽しいです。英語の力はまだまだなので、もっと語彙力をつけたいと思っています。
<Yくん> 英語以外の部分でも、ジェスチャーなどの表現力がついてきたかなと思います。ネイティブの先生と話すときなども、前よりは表現が豊かになってきました。
―― 英語と関連した将来の夢があれば教えてください。
<Hさん> シンガーソングライターになりたいので、日本語の歌詞を作ったあとに英語にも訳して歌ってみたいです。
<Yくん> 国際弁護士やIT系企業など、英語を使えたら仕事をするにも有利なので、仕事で英語を使えるように勉強していきたいです。
取材を終えて
演技はあまり好きではないというYくんだが、授業で演技をやっていくうちに、少しずつ楽しめるようになり、表現力がついたと感じるようになっている。Yくんの体験からも、松下校長先生のモットーである「向き不向きより、前向きに!」を実践することの大切さが感じられた。ドラマの授業によって、生徒たちの感情表現に変化はあるかという質問に、ヘザー先生が「Yes!」と即答したことも、とても印象的だった。
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