明星中学校
スペシャルレポート 5
「なりたい自分」の発見と実現へ!
「活躍力」を伸ばす中高一貫クラスが始動
公開日:2021.8.3
2021年度から、個性を伸ばして可能性を探る2つの中高一貫クラスが始動。最先端の体験教育で「見えない学力」を育成しながら、21世紀社会での「活躍力」を伸ばすカリキュラムが組まれている。「特別選抜クラス」「総合クラス」、それぞれの特色について取材した。
Index
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最先端の体験教育で「見えない学力」を育成
2021年度からスタートした中高一貫クラスでは、AIなどを活用した最先端の体験教育で創造的・批判的・協働的思考といった「見えない学力」を育成する。メインとなる3つのプログラムについて、「特別選抜クラス」担任の旦野成章先生(数学科)と「総合クラス」担任の津村麻里子先生(英語科)に話を聞いた。
GCPでグローバルマインドを養成
GCP(グローバルコンピテンスプログラム)は、英語の授業を1コマ使って週1回実施。コミュニケーションスキル、マルチリンガルスキル(多言語での学習能力)、エモーショナルインテリジェンス(適応力や共感などのEQ能力)、シンキングストラテジー(批判的思考力を使った議論)、インターカルチャースキル(異文化の人々への理解)、グローバルアクション(地域社会やグローバル社会との関わり)という6つの領域にわたる能力の育成を目指す。これらの力は、世界を理解する目を持ち、グローバルな世界で活躍するためのベースになると、津村先生は説明する。
津村麻里子先生
「GCPは、外部のネイティブ講師と本校の日本人教員による授業です。英語を使いながら、iPadを活用して文化や言語を理解する授業を展開していきます。これまでもネイティブ教員とのチームティーチングの授業はありましたが、GCPは英会話ができるようになることが目的ではなく、英語をツールとして使って何かをすることが目的のプログラムです。例えば、自分を人に知ってもらうためのシートを英語で作ります。動画や写真なども入れ、自分の目標、座右の銘なども盛り込んだ、自分を知ってもらうためのプレゼン資料です。生徒たちは英語で説明を受けながら、iPadを使って資料を作る技術を学んでいます」(津村先生)
外部講師が進捗を管理し、テキストは生徒や学年に応じてカスタマイズ。宿題のやりとりはiPadで行い、GCPのプラットフォームには様々な機能が備わっているという。
「資料を作るための素材も、動画やアニメーション機能などが豊富で、PowerPointにはない機能がたくさんあります。英語が苦手な子でも、作品を作るのは楽しいようです。『提出しなさい』という指示なども、英語で『submit』だと自然に覚えていきます。クイズ型アプリ『Kahoot!』を使って、GCPマインドを学ぶ4択のクイズを行ったときは、かなり盛り上がりました。マルチリンガルスキルとして、世界各国のあいさつの言葉も学んでいます。楽しみながらGCPマインドを学び、最終的には、留学などで現地の人たちと交流したり、プレゼンを行うときに活かせるような力を育むことを目指す、新しいタイプのプログラムです」(津村先生)
AIを活用した課題解決を体験
「総合的学習の時間」を使って7月から実施するAIロボットプログラミングでは、イギリスで開発された教育用マイコンボード「micro:bit」を使用する。事前学習を経て、2日間にわたりロボット作りとプログラミングを3時間ずつ実施。出来上がったものを使った事後学習に大きな意味があると、旦野先生は語る。
「企業の協力で外部講師に来てもらい、ロボットやプログラムを作りますが、『ロボットができてよかったね』で終わらせる授業ではありません。作ることを目的にしているのではなく、それを使ってどうするかに重きを置いています。どんなものを作るかは生徒次第ですが、例えば、植木鉢の水が乾いたら水やりをしてくれるロボットや、近づいたらドアを開けてくれるロボットなどを作る子がでてくるかもしれません。問題解決のツールとして、ロボットを活用することを目指しています。ロボットをどう活かすかを考えたり、自分で設定したテーマについて研究し、発信する場なども設けます」(旦野先生)
SDGs推進校としての探究授業
同校は、2020年度にSDGs推進校を宣言。SDGs推進校として「カーボンニュートラル」の実現を目指し、一般社団法人Social Innovation Japanと連携したSDGs推進事業に取り組んでいる。2021年4月に校内へのペットボトルの持ち込みを禁止にし、自販機も撤去した。3階の廊下に、卒業生が寄贈したウォーターサーバーを設置。現在は高2の生徒を対象に、無料給水アプリ「mymizu」を使用し、楽しみながらペットボトルの消費本数を削減する「mymizuチャレンジ」も実施しているという。
「『mymizuチャレンジ』に先立ってSocial Innovation Japanとコラボして、明星学苑オリジナルマイボトルを制作しました。ボトルのデザインは、コンペを行って優勝した生徒の作品です。明星オリジナルボトルや自分が持っているボトルを持参して、教員も生徒もウォーターサーバーのお水を入れて飲んでいます。学内だけでなく、様々な企業や自治体とつながり、協働プロジェクトとしてSDGsの目標達成に貢献していきます」(津村先生)
明星学苑オリジナルマイボトル
理科の授業でもSDGsをテーマにしたプレゼンなどを取り入れているほか、「総合的学習の時間」を使ったフィールドワークでも、SDGsに取り組んでいくと、旦野先生は説明する。
「学校がある地域を知り、課題を発見するために、ディスカバリーウォークと題して学校や駅の周辺を歩きます。文化祭での発表に向けて探索を行っていますが、府中、国分寺、多摩地域と範囲を広げていき、さらに東京、日本、世界を知って、課題を発見する目を鍛えていきたいです」(旦野先生)
ディスカバリーウォーク
6年間で「なりたい自分」を見つけて、その実現を目指す
GCP、AIロボットプログラミング、SDGsプログラムを通して育まれた「見えない学力」を評価するツールとして、「Ai GROW」を導入。生徒が自分自身では認識できない能力や特性、教育プログラムの効果を、AIが分析して評価する。分析したデータを、進路選択や進路指導の参考にして、生徒一人ひとりの個性を最大限に活かして活躍できる未来へと導く。
同校の中高一貫教育では、「なりたい自分を見つける4年間」と「なりたい自分を実現する2年間」を通して、21世紀社会での「活躍力」を伸ばしていく。「なりたい自分を見つける4年間」では、企業や行政との連携、各界で活躍している人物に話を聞く講演などを実施。様々な分野で活躍している卒業生も多いので、身近に感じられるロールモデルからも刺激を受けて、進路目標を設定する。「なりたい自分を実現する2年間」では、希望の進路を実現するために入試対策を行いながら、入試突破学力を高めていく。
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自ら学ぶ力の向上に重きを置く「特別選抜クラス(Tクラス)」
難関大学入試突破に向けて、長期的な展望で生徒を育てる「特別選抜クラス(Tクラス)」の特色について、旦野先生に話を聞いた。
活発な意見交換でお互いを尊重
Tクラスの授業は、英数RS方式(習熟度別)、予習中心型で進められる。対話型・課題発表型、グループワークなども取り入れ、自ら学ぶ力を育成。数学のみSクラスとは異なる教科書を使い、中1から代数(週3コマ)と幾何(週2コマ)に分けて授業が進められる。
「Tクラスでは、授業内での活発な意見交換を求めています。例えば数学なら、教員や友達に『答えを教えて!』と言うのではなく、『答えを言わないで!』と言うような生徒を育てたいと考えています。先日行った代数の授業でも、とても盛り上がった問題がありました。
旦野成章先生
x=2 , y=-4のとき - xy の値を求めよ
予習でx+2yなどはできていたのですが、これは分母にマイナスがつくので少し違っています。これまでできていた問題と、似ているようで違うことがポイントです。「余裕ですよ」と言っていた子も考えこんだり、「これ面白いですね!」「答えを言わないで!」とみんなで盛り上がりました。幾何の方でも、ルーローの三角形など、深い問題に取り組んでいます。ルーローの三角形は掃除機ロボットにも使われていますが、回転したときの径が変わらないので、正方形に内接して回転できるという、考えつくされた形です。そのような図形なども扱いながら、Tクラスでは知識を得ることが目的ではなく、知識を方法として学んでいく授業を展開しています」(旦野先生)
Tクラスでは授業以外でも、活発な意見交換ができるクラスを目指しているという。
「意見交換は、お互いを認めるきっかけになります。お互いを尊重できる集団を目指しているので、日記を書かせて学級通信に載せています。日記を通して、個々の生徒がどんな考えをして、どんな角度でものを見ているか知ることができるのです。ある出来事についてそれぞれが思うことを書くと、同じ出来事でも『私はこう考えていたけれど、〇〇さんはこんな風に考えているんだ』などとわかり、考えが広がります。出来事を他人事にせず、自分事として考えられるように、人の意見を大切にしていく指導を行っています」(旦野先生)
Tクラスには、テストの点数は「がんばった証(あかし)」だと考えられる子が向いていると、旦野先生は語る。
「Tクラスの生徒たちは、『〇〇さんは頭がいい』という評価の仕方はしていません。お互いを認め合うときは、『〇〇さんは、すごい頑張っているね!』と言います。テストで100点を取れたことは『がんばりの証』であって、頭の良し悪しではないのです。テストでより高い点数を取ることだけを目標にしてしまうと、取れないときに辛くなります。今ある環境の中で、『頑張りたい』と思う気持ちを大切にしたいです」(旦野先生)
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多様な学びで可能性を広げる「総合クラス(Sクラス)」
多岐にわたる進路に応じたプログラムを通して、新しい自分を見つける「総合クラス(Sクラス)」の特色について、津村先生に話しを聞いた。
体験教育を中心とした段階的な学び
Sクラスの授業は、英語RS式(習熟度別)、復習中心型で進められる。1年次から2年次にかけては、漢字や英単語、計算力の定着に向けた指導に力を入れている。
「英語に関しては、TクラスもSクラスも教科書は同じです。Tクラスには『チャンクで英単語』という単語帳を持たせるという違いはありますが、教科書の進度などに大きな違い はありません。英語は単語が重要なので、3年間で習う教科書の単語をリストにして、200個~300個の範囲でテストを行っていきます。3年分の単語を1年生のうちに一通り学び、たとえ忘れてしまったとしても、毎日音読して目で見たことがある単語を増やすことが目的です。1年生のときには3年生の単語はなかなか覚えられないとは思いますが、何度も繰り返すことで、3年生になる頃には定着していることが期待されます」(津村先生)
グローバルな活躍を目指す指標として、英検の取得も推奨している。Sクラスの目標は、卒業までに2級の取得。また、Sクラスは体験型英語学習施設「TOKYO GLOBAL GATEWAY(TGG)」での体験学習を6月、12月、2月に実施し、毎回異なるプログラムを体験する。
「飛行機の機内やホテル、病院など、海外にいるかのような空間で、日常生活をイメージしたコミュニケーションをしたり、探究的な学習をグループワークで行うプログラムです。Tクラスは留学生を招いて、グループに分かれて鎌倉などを案内するフィールドワークを行うので、自分たちで考えることに重きを置いています。一方Sクラスは、TGGのプログラムの中で様々な場面に合わせた体験をしながら、力を伸ばしていくという違いがあります」(津村先生)
Sクラスでは、可能性が広がる多様な学びを用意。体験教育を中心に、基礎力、考動力、人間力などを育んでいく。
「自分で気づいていない可能性に気づくためにも、勉強だけでなく、部活動や委員会、学校行事など、学校生活全般に積極的に取り組み、思いっきり楽しんでほしいです。Sクラスの1年生は全員なんらかの部活に入って、自分に合った活動を楽しんでいます。部活の中でしか学べないこともありますし、部活動と勉強の両立が自分で自分をマネジメントできる力にもつながります。学校行事や体験教育を通して、新しい自分を発見するチャンスもたくさんあるでしょう。学校生活の中で様々なことを経験し、そこで得た力をもとに、自分の人生を切り拓いていけるように育てていきたいです」(津村先生)
取材を終えて
グローバルコンピテンスとは、地域社会やグローバル社会、異文化に関わる問題を考えるときに、他者の視点や世界観を理解し、異文化の人々とコミュニケーションをとる際に必要になる力である。2018年の「生徒の学習到達度調査」(PISA)で初めて実施された「グローバルコンピテンス」調査への参加を日本は見送ったが、今後の参加が検討されている。GCPを授業で行っている中学校は、まだ多くはない。中学生からその力を育んでいった生徒たちが、どのように成長していくか注目したい。