スクール特集(聖園女学院中学校の特色のある教育 #4)
中1から培った力で高校生が大活躍!段階的に力を磨く「総合探究」
聖園女学院中学校では、学年ごとのテーマに取り組む「総合探究」を実施。中学3年間の積み重ねで成長した高校生の活躍も含め、活動内容を取材した。
2015年度から、TPW(Team Project Work)と題した探究活動に取り組んできた聖園女学院中学校。社会で求められるスキルなどの変化に応じて、2020年度からテーマや活動内容を新たにした「総合探究」(総合学習・探究活動)を開始した。昨年度の活動内容を中心に、長谷川善幸先生(教務部長・数学科)と小倉茂敬先生(入試広報部長・英語科)に話を聞いた。
2020年度から新たな「総合探究」が始動
同校が2015年度からTPW(Team Project Work)と題して取り組んできた探究活動は、出席番号でグループを分けて行ってきた。グループでの作業を通して、表現力などを高めることを目指していたが、2020年度からはより個人のスキルも伸ばせる内容に変更したと、長谷川先生は説明する。
「社会に出ると、いろいろな人と共同作業をすることになります。仲のいい人ばかりではないので、出席番号で分けたグループで活動していました。2017年度からは、1人1台iPadを使いながら調べ学習を行い、Keynoteでスライドを作ってプレゼンなどを行っています。これまでのノウハウを活かしながら、社会で求められる力が変化してきたことなどを受け、2020年度から新たな『総合探究』を開始しました。グループでの共同作業も大切ですが、個人の力を伸ばすことも必要です。これまでの活動を見ていると、自分が苦手なことは得意な子に任せきりになってしまうこともありました。そこで、低学年のうちは個人で探究活動を行い、調べたり発表するスキルを伸ばし、学年が上がるにつれてグループ学習に移していこうと考えています」(長谷川先生)
総合的な学習の一環として行われている新たな探究活動は、学年ごとにテーマを決めて行っている。中1は「SDGs 貧困をなくそう」をテーマに、個人探究を行う。中1で個人のスキルを高めて、上の学年でのグループワークへとつなげていきたいと長谷川先生は語る。
「本校はカトリックの学校なので、入学前に『もしも天国のマザーテレサが君のそばにいたら』という本を課題として出しています。これを読んで終わりではなく、世界がどのような状況かを知ることにつなげたいと考えました。中1ではまだ難しいかもしれませんが、人のために何ができるか考えることからスタートします。昨年度は、NPO法人『RASA-Japan』を創設し、フィリピンで貧困地域の教育環境改善に尽力しているシーランド神父様(南山大学名誉教授)に講演を行っていただきました。講演は中1でもわかるやさしい英語と日本語の両方で行われ、神父様から生の声を聞いてから様々な文献やWeb資料を探し、学びを深めていきました。個人探究の成果は学年全員が発表しましたが、今後は全校発表につなげたいと考えています。昨年度はコロナ禍で実現しませんでしたが、先輩の発表を見て下級生が参考にできるように展開していきたいです」(長谷川先生)
▶︎長谷川善幸先生(教務部長・数学科)
キャリア教育の一環としての探究活動
中2と中3に関しては、キャリア教育を意識したテーマとなっている。中2は、以前から行っている企業インターワーク。ローソン、KDDIといった身近な企業から出される「指令」に基づき、グループで課題に取り組む実践型グループワークだと長谷川先生は説明する。
「例えば、過去には大塚製薬さんからは、栄養食品が中高生にどうしたらより受け入れられるか、どのように展開したらいいかを考える指令が出されました。発表の際には企業の方が来校して、講評していただきます。1つのテーマに対して探究していきますが、正解があるわけではありません。生徒たちは自由な発想で進め、中には現実的でないものもありますが、企業の方たちも中高生ならではの視点を大切にしてくれます」(長谷川先生)
中3は、京都・奈良への修学旅行に関する調べ学習と、職業について考える「聖園仕事探歩」の2本立てとなっている。
「昨年は行けませんでしたが、修学旅行の事前・事後学習として、京都・奈良を様々な切り口で調べてまとめます。テーマ設定の工夫や、教科を越えた学問の繋がりを知ることなどが目標です。テーマはお寺や歴史に限らず、建築、着物、アニメなど、京都・奈良に関することなら自由。テーマに沿って調べ学習を行い、発表用の資料を作って、全体発表を行います。『聖園仕事探歩』の方は、最前線で活躍する女性の講演を聞いて、進路選択に役立ててほしいと思い、昨年度から始めたプログラムです。昨年度は、新聞記者と弁護士という2つの職業の方に来ていただきました。高校生になったら進学について考えますが、その前の段階で、様々な職業について知っておき、大学や学部・学科選びの参考にしてほしいと考えています」(長谷川先生)
高校生はSDGsをテーマにした探究活動
高校生はSDGsをテーマにした探究活動を行い、高1では「質問力を高める・質問するには準備が要ることを知る」「他者の目を意識したプレゼンテーションを行う」ことを目指す。そして、中1から行ってきた探究活動の総仕上げとして取り組む高2の生徒たちからは、大きな成長を感じることができたと小倉先生は振り返る。
「昨年度は高2を担当していたのですが、様々な場面で生徒たちの成長が感じられました。高2はSDGs17の目標すべてから、グループで取り組むテーマを選びます。目標9の『産業と技術革新の基礎をつくろう』という難しいテーマに、あえて挑んだグループがいたことも嬉しかったです。また、グループを作る際には、自由にメンバーを決めていいことになっていましたが、生徒たちが自分にないスキルを持つ生徒に声をかけていたことも、なかなかできることではないと思いました。居心地のいい友達と組むこともできたのですが、そうしなかったグループがあったのです。例えば、理想を目指して突き進むタイプの子が、超現実的な子に声をかけたり、資料を作ることを考えてKeynoteの操作が得意な生徒に声をかけるなど、生徒たちなりにバランスをとっていました。後で生徒たちからチームを組んだ意図を聞いてわかったことですが、6ヶ年一貫教育の環境だからこそお互いの得意なスキルを把握しており、その良さを最大限いかし合えていることを強く実感しました」(小倉先生)
▶︎小倉茂敬先生(入試広報部長・英語科)
外部のコンテストへも積極的に参加
昨年度は新型コロナウイルスの影響で様々な制限もあったが、「総合探究」で調べたことを活かして、Zoomで開催されたSDGsをテーマにした英語の大会に参加した生徒もいたという。
「どちらかというと英語が苦手な子だったのですが、目標7の『エネルギーをみんなに そしてクリーンに』をテーマに選び、英語でのプレゼンに自ら挑戦しました。太陽光に注目し、電車の上にソーラーパネルをつけることによって、長時間、効率よく太陽光を吸収し、電力へと変換できると考えたのです。鉄道会社とソーラーパネルを制作している企業がタッグを組み、効率よくエネルギーを供給するという案をプレゼンしました。すると、ネイティブを含めた多くの参加者から関心を持ってもらい、たくさんの質疑を英語でしながら、解決案を提示し、結果は優勝。英語が得意な子は参加者の中にたくさんいましたが、17歳が実現可能なことを提案し、そのアイデアや発想力を評価してもらえたことが、本当に嬉しかったです。参加者にアイデアや思いをしっかりと伝えることができたのは、人前で発表することや、Keynoteの色使いなど、中1から積み重ねてきたことを出し切ることができたからではないかと思います」(小倉先生)
一方、グループで外部の大会に参加した生徒たちもいたという。持続可能な社会をどう実現するか、新しくそして楽しい発想に基づいたアイデアを発表する「SDGs Quest みらい甲子園神奈川県大会」に参加したグループは、94チームが参加した中でファイナリスト(10チーム)に選ばれた。彼女たちのテーマは、SDGsの目標9『産業と技術革新の基礎をつくろう』。『食プロジェクト~現地の人と有識者を繋ぐ架け橋~』と題したアイデアは、募金などの援助以外に途上国の飢餓と貧困を解消する方法はないかを考えることから始まったと小倉先生は説明する。
「寄付で集めたお金を送るという支援ではなく、現地の人たちが主体的に継続できるような支援を目指すという考えに至るには、聖書から学んだことも活かされていたと聞き、カトリックの理念が入っていることも聖園生らしさを感じ、大変嬉しく思いました。彼女たちのアイデアは、まず支援団体を立ち上げて、企業から資金を調達。そのお金で農業の専門家を現地に派遣して、現地の人に安定した収穫が得られる農業を学んでもらいます。気候に合わせた特産品の開発も進め、特産品を活かしたものづくりや観光業の発展を目指し、一定の収入を得られるようになったら、数年間一定の金額を企業に還元。企業→彼女たちの団体→専門家→現地の人→企業というお金の流れが生まれ、出資者にとってもメリットがあります。このアイデアなら、現地の人にとっても、企業にとっても持続可能です。大学生になったら実際に現地へ行ってみたいと熱い思いを心に抱きながらSDGsに本気で取り組み、これからの時代を担う生徒たちが、世界へはばたくことがとても楽しみです」(小倉先生)
「自分ごと」として考えることが原動力
インターネットで調べて終わるのではなく、現地に行って現状を知りたいと、自分たちの足でデータを集めにいったグループの行動力や調査力も評価したいと小倉先生は語る。
「海洋のゴミ問題に関しては、国が発表しているデータもありますが、本校は江の島に近いので、自分たちで現状を調べたいと言い、実際にゴミを拾って、その動画を撮影しました。海岸に捨てられているゴミがどれくらいあるかだけでなく、新しい種類のゴミも増えていることなどの問題点も現地で見つけています。ほかにも、ボルネオに行って調べる予定だった生徒もいたのですが、コロナ禍で行けなくなってしまったので、Zoomを通して現地の状況や取り組みについて学ぶ生徒もいました」(小倉先生)
こういった活動の原動力になっているのは、問題を「自分ごと」として捉えることができているからだと、小倉先生は考えている。
「どの生徒も問題を他人ごととして考えるのではなく、自分ごととして考えられるようになってきたからこそ、ここまでできたのだと思います。次世代を担う地球人として、SDGsに本気で取り組み、切実な問題としてとらえているのです。今後は、現地に行く機会もできる限り増やして、探究しているものが現場でどうなっているのか、本物の理解につなげていきたいと考えています。また、他校や専門家との交流によって、情報や考えを共有していく機会も一層作っていき、生徒たちの活動の幅と交流の輪を広げていきたいと計画しています」(小倉先生)
座学だけでは身につかない力
「総合探究」を通した体験は、進路選択にも影響を与えているという。
「SDGsの英語大会に参加した生徒は、SDGsと人との関わりの部分に関心を持ち、人間心理や社会心理が学べる学部への進学を考えるようになりました。心理学は海外の文献を読む「英語力」や統計などの「数学力」も必要になるので、英語や数学をもっとがんばりたいとも言っています」(小倉先生)
「総合探究」で培った力は、大学入試の総合型選抜などにも活かされると、長谷川先生は語る。
「調べ学習やプレゼンの力は、中学生のうちはすぐに使う機会はあまりありませんが、中1から始めて5年間積み重ねていくことで、大学入試では総合型選抜のプレゼンなどで大きな力として発揮できます。自分の考えを人に伝える力は、座学だけでは身につきません。昨年度から取り組んでいる探究活動の新しいテーマに関しては、教員も一緒に学びながら、外部のコンテストなどにも積極的に参加していきたいと考えています」(長谷川先生)
<取材を終えて>
高校生が、自分にないものを持つ生徒に声をかけてグループを作ったという話が印象的だった。居心地のよさで選ぶのではなく、課題を解決するために必要な力やスキル、視点などを考えて、自分にないものを持っている人を選んだのである。そのように考えられる力も、中1から積み重ねてきた活動の中で磨かれてきたものの1つなのだ。同校の「総合探究」を通して磨かれるものは、研究やプレゼンの技術だけではないことに注目していただきたい。