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桐蔭学園中等教育学校

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デジタルパンフレット

スクール特集(桐蔭学園中等教育学校の特色のある教育 #7)

講師は現役データサイエンティスト! 企業とのコラボで実現した探究授業

共学化4年目の桐蔭学園中等教育学校では、「16歳のサイエンスチャレンジ」と題した探究授業を実施。9回にわたって行われたデータサイエンスプログラムについて取材した。

桐蔭学園中等教育学校では、自ら設定した課題に対し、情報を整理・分析し、問題を解決する力を身につけるための探究授業「未来への扉(通称:みらとび)」が行われている。共学1期生が3年生となった昨年度は、模擬国連の活動を通した探究授業「15歳のグローバルチャレンジ」を実施。4年生(高1相当)となった今年度は、「16歳のサイエンスチャレンジ」と題してデータサイエンスプログラムを9回にわたって行った。同プログラムについて、担当の杵村江(きねむら こう)先生(技術科)に話を聞いた。

探究授業「16歳のサイエンスチャレンジ」

同校の探究授業「みらとび」は週1回行われており、1学期の9回にわたり「16歳のサイエンスチャレンジ」を行った。

「5年生(高2相当)の探究活動では、ゼミに所属しながら論文を書きます。論文を書くためにはデータが必要になりますが、データの集め方や集めた後のデータをどうするか、その力は意識しないと身につきません。せっかくよいテーマを見つけて頑張っていても、データを集めて処理する段階で成果がうまく出せないのはもったいないことです。今の4年生は、1年次と2年次で探究の基礎を学び、3年次で模擬国連を経験しているので、5年生に向けて必要なのはデータサイエンスについて学ぶ場だと考えて、4年次にこのプログラムを実施することにしました。『16歳のサイエンスチャレンジ』の初回は大学の先生を招いて、データサイエンスがどのような場で使われているか、最新の情報を知る授業です。生徒たちはデータサイエンスの世界に触れて『すごい!』『そうなんだ!』などと目を輝かせていました。その後、企業と協力して進めるプログラムにより、データサイエンスの具体的な活用事例に触れていきます」(杵村先生)

同プログラムは、データ分析・利活用コンサルティング、データサイエンス教育などを行う企業(株式会社Rejoui)が同校用に構成し、9回のうち6回は同社からデータサイエンティストを講師として招いて行われた。

「同社は、データサイエンティストとしての業務とデータサイエンティスト育成の2本柱でビジネスを展開されています。これまでも大学や高校、専門学校などにデータサイエンスの講義を提供した実績があり、今回は高校生ならではのテーマを重視し、本校オリジナルのプログラムを作っていただきました。大学と比べると1回の授業時間も短いですし、対象が4年生なのでわかりやすさにも配慮していただき、1学期間でできることを考えたプログラムになっています。講師に来ていただく授業を6回行い、途中に本校教員による授業を入れて、1学期の終わりには発表まで行いました」(杵村先生)

高校生がデータサイエンスを身近に感じられるように、グループワークの前にはホットケーキとパンケーキの検索頻度のグラフを使って、データを読み取る演習をしたという。

「パンケーキの検索件数は2012年にものすごく上がり、その後少しずつ下降していきます。一方、ホットケーキの方は毎年2月に検索件数が上昇。グラフだけを見てどう解釈するかを投げかけて、意見交換の場を設けました。2012年は、ハワイの人気パンケーキ店『Eggs’n Things(エッグスンシングス)』が日本に上陸した年です。これを機に、外で食べるおしゃれなのはパンケーキ、家で食べるのはホットケーキというイメージが定着したと言われています。ホットケーキの検索件数が2月に上がるのは、バレンタインデーに贈る手作りスイーツの材料としてホットケーキミックスが検索されているのではないか、という意見が生徒から出ました。どれが正しいということではなく、どれも1つの解釈であり、それをもとに次にどうするか考えるのがデータサイエンスだということも学びます」(杵村先生)

▶︎杵村江先生(技術科)

データサイエンティストによる高校生向けのプログラム

データサイエンティストによる授業は、データサイエンスの概論から始まり、データの読み方やデータを集める作法などについて学ぶ。実際にデータサイエンティストとして様々な課題に取り組んでいるプロから見て、どのようなことが大切か説明された。それらを踏まえて、実際に生徒たちがデータを集め、読むことにチャレンジする。

「学年全体で『文化祭にもっとお客さんを呼ぶためにはどうしたらいいか』というテーマを設定し、4~6人のグループで取り組みました。例えば班によって『OBやOGにもっと来てほしい』『受験生にもっと来てほしい』などと焦点を絞って、そのためにはどうしたらよいかを考えます。OBやOGに来てもらいたい班は、まず大学生はどんなスケジュールで動いているかを調べたり、受験生に来てもらいたい班は自分たちが受験生だったときにどれくらい来ていたかアンケートを取り、グラフや表にしてデータを読み取ることにチャレンジしました」(杵村先生)

文化祭に「他校の生徒を呼ぶこと」に焦点を当てた班は「桐蔭学園に他校の生徒が来ないのは声をかけていないからではないか」という仮説を立てた。他校の友達にどれくらい声をかけたかアンケートを取ってみると、女子はほとんどの子が友達に声をかけていた一方で、男子はほとんど声をかけていなかったということがわかった。

「課題を見つけ、それに対して仮説を立て、検証するためのデータを取って分析するという流れで取り組んでいます。この班の場合は、声をかけたら来てくれる子も多いことがわかったので、男子も声をかけたらもっときてくれるのではないかと考えました。次のアクションとしては『もっと友達に声をかけるように意識しよう』ということで、お知らせするツールはどうするか、次のステップを提案するところまで発表して、プログラムは終了です」(杵村先生)

「PPDACサイクル」に基づいて仮説を検証

プログラムの中で、データサイエンスにおける仮説検証のステップ「PPDACサイクル」についても説明された。

「生徒たちは、問題を見つけ出して、それをどうやって解決するか計画するためのステップについても学びました。仮説を検証するためには、P(problem、問題)、P(plan、計画)、D(data、データ収集)、A(analysis、分析)、C(conclusion、結論)というステップが大切です。例えば、データ収集や分析をせずに『文化祭に人が来ないから、インスタで宣伝すればいい』と言ってしまうのは、P(問題)からC(結論)まで一気に飛んでしまうことになります。このようなサイクルも1つ1つデータサイエンティストから学び、本校の教員だけで進める時間も入れながら、じっくりとプログラムを進めることができました」(杵村先生)

「PPDACサイクル」に基づき、自分たちがやりたい企画と同じようなことをしているお店について営業時間や立地などをGoogleマップで調べたり、同校がある青葉区に住んでいる人の年齢の割合などを公開されているデータを活用して調べるなど、生徒たちは試行錯誤をしながら取り組んだ。生徒同士でアンケートを取る際には、生徒が普段から使うアプリ「ロイロノート・スクール」のアンケート機能を活用したという。

「アンケートの回答から、性別や部活など、2つ以上の項目をかけ合わせるクロス集計も行いました。仮説を立ててデータを集めて、分析からわかったことから次のアクションを考えますが、結論は1回出して終わるわけではありません。そこからさらにもう1歩進むためにはどのようなデータが必要か考え、分析を重ねていくことになります。文化祭の集客という単純な問いでしたが、各グループでうまく焦点を絞って課題に取り組み、データサイエンスの手法に基づいて発表まで行うことができました。今年はコロナの影響で自由に集客できない状況なので実行に移すことまではできませんが、来年はアクションへとつなげたいと思っています」(杵村先生)

キャリア教育にもつながるプログラム

今回、データ分析・利活用コンサルティングなどを行う企業から講師を招いたことにより、データサイエンティストという職業について知る機会にもなったと、杵村先生は語る。

「生徒たちは、課題を取り組む上で知りたいことを聞くだけでなく、将来データサイエンスに関連した仕事をやってみたいという視点で質問することもありました。同社でインターンをしている大学院生もプログラムに参加していたので、大学でどのような勉強をしたかなどの質問をしている生徒もいます。理系の分野に限らず、文章を読んで分析するのもデータ収集であることや、スポーツの分野でもデータサイエンスが使われていることを知り、いろいろな学問分野との重なりも体験できました」(杵村先生)

同校の探究授業は、教科横断型の学びである。5年生で論文を書く準備段階として導入した「16歳のサイエンスチャレンジ」を通して、生徒たちは理系にとどまらない教科横断的な広がりを感じることができた。今回のプログラムでは、身近なテーマでデータ収集や分析について理解し、5年生では自分が調べるテーマについて必要なデータを自分で扱うことになる。

「自分の研究を進める際に、アンケートを適当に作ってはいけないことも学びました。このプログラムの成果は、すぐに出るものではありません。今後も様々な場面で、誰かが作ったデータを見て分析する機会があると思うので、学んだことを活かしていってほしいです。このプログラムでは、『データサイエンティストの立場から見る』という、新しい考え方を手に入れられたことが一番大きな収穫だと思います。今後、グラフや表を見るときに、これまでとは違う見方ができるようになったときに、少しずつ成果が感じられるでしょう。『15歳のグローバルチャレンジ』では、模擬国連を通して自分の立場ではない人になりきって、様々な社会問題について考え、新しい視座の獲得を目指しました。今回は、1つの現象についていろいろな見方をすることで、新しい問題の解決方法や新しい問題の発見ができるようになることに期待しています」(杵村先生)

情報があふれている社会では、情報を正しく選べる力が必須であり、今の時代に求められる能力の1つである。6年一貫教育だからこそ、3年生で模擬国連、4年生でデータサイエンス、5年生で論文というように、教科横断型のプログラムに多くの時間を注ぐことができる。 

「このプログラムを通して、生徒たちがのびのびと探究活動に取り組んでいる様子が見られました。9回の授業だったので時間的には短かったですが、非常に濃い内容だったと思います。講師の先生方は、グループワークや発表に対して積極的な生徒が多く、活発に話し合いが行われていることに驚いていました。また、調べ物が的確で素早い生徒が多いとの評価もいただいています。そのような生徒たちの様子を見て、来年以降の展開がより楽しみになったと言っていただきました。1年生からアクティブラーニング型の授業を積み重ねてきたことが、このような評価につながってきたのだと思います」(杵村先生)

<取材を終えて>
データサイエンティストの需要が高まり、全学部でデータサイエンスプログラムを導入する大学も増えている。中学や高校でもデータサイエンスに触れる機会を作ろうとする動きはあるが、企業からデータサイエンティストを招き、実践的なことを学ぶプログラムを導入している学校はまだ少ない。4年生でデータサイエンスに触れた共学1期生が、5年生になってどのような論文に挑戦するか注目したい。

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