私立中学

女子校

りっきょうじょがくいん

立教女学院中学校

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スクール特集(立教女学院中学校の特色のある教育 #12)

自ら課題を見つけて探究! 主体的に学ぶ姿勢を養う「ARE学習・卒業論文」

立教女学院中学校・高等学校では、生徒自ら課題を発見し探究する独自の学び、「ARE学習」を中1から実践。高3では最終段階として、卒業論文を作成している。その取り組みを取材した。

同校は「ARE学習」という、生徒自らがテーマを求め(Ask)、調べ(Research)、言語化して発表する(Express)、独自の探究型学習を実施している。そして高校3年では、各生徒が自分の研究テーマを決め、約1年間かけて卒業論文を作成する。なお、卒業論文は選択科目(授業)であるが、立教大学推薦希望者は必修となっている。その取り組みをARE学習主任の荏原昂拓先生に伺うとともに、昨年度の卒業生(立教大学1年生)に論文作成の体験談などを聞いた。

卒業論文は先生と面談を重ね、ドラフトと合わせて2本執筆

同校は中学課程で基礎を徹底し、高校ではそれを基盤として生徒自ら課題を発見し、学びを深めていくことを6年間一貫教育の基本としている。「ARE学習」もその一環の重要な学びとして2003年度にスタートし、以降、検証と改善を重ねながら続けている。

現在、中学1年は地域の課題を見つけて調査、発表する活動を実施、2年は長崎・平戸へ行く修学旅行の事前学習、3年は平和と人権について多角的に考える学習を展開している。高校では、中学で培った課題設定や調査研究、表現の仕方などの基礎をもとに、1、2年で論文作成や論文プレゼンテーションの準備学習を行っている。

そして、ARE学習の集大成と位置づける卒業論文は、各生徒が興味、関心のある課題をテーマに設定して探究し、それを論文にまとめ、最後にプレゼンテーションを行う。

▶︎卒業論文プレゼンテーションの様子

・論文作成のプロセス

卒業論文の履修者は、高2の12月と春休みに、研究テーマを考える宿題が課せられる。「テーマ選びは自身を振り返り、『自分にとって意味のあるテーマは何だろう?』と考えるきっかけになります。社会的課題を取り上げる生徒が多く、土曜集会プログラム*や礼拝、修学旅行、ボランティアなど、これまでの活動や経験からテーマを考えるケースもよく見られます」と、荏原先生は言う。

同校の卒業論文は、自分で問いを設定し、仮説を立て、それを論証するというもので、いわゆる調べ学習とは一線を画している。週2時間の授業は、1クラス約15人の生徒に担当の教員がついて指導する。「授業では質問の対応やアドバイスはしますが、あくまでも論文の書き手を育てることが目的なので、生徒の主体性を重んじています。こちらが手を出し過ぎると、先生の論文になってしまいますからね。また、論文の執筆が始まると、授業内で1回、授業以外で週1回、面談をしています。生徒は前もって質問を考え、1人数分の時間内で担当教諭とやり取りをします。これがAREの肝であるとも言えます。

本論文の提出は11月上旬ですが、8月中旬にドラフト論文を一度提出します。これは、フィードバックをもとに書き直しをするほうが、良い論文になるという理念から行っています。実際に書いてみると論理構成が弱かったり、言いたいことが伝わらないことも多く、そういうことをコメントして返却しています」

また荏原先生は、「卒業論文の授業で特徴的なのは、一人ひとりの課題は違うのに、互いの論文を読んで指摘をし合ったり、助け合いながら作業をしていることです。相手を思いやり、協働する力が育っていると感じます」と話す。

*土曜集会プログラム…年間10回程度行う、現代社会の課題と向き合うプログラム。主に、外部の方を招き、講演を伺う。大きなテーマとして、中学は「隣人を大切にして、平和な社会をつくろう」、高校は「広く世界に向け、人間性を豊かにしよう」を設定。

▶︎ARE学習主任 荏原昂拓先生

卒業論文作成を体験した卒業生へインタビュー

<お話を聞いた人>
牧遼奈さん 立教大学 異文化コミュニケーション学部 異文化コミュニケーション学科 1年生
卒業論文テーマ「日本の大学院博士課程の入学者が減少している要因」

長尾瑠莉香さん 立教大学 現代心理学部 心理学科 1年生
卒業論文テーマ「日本において脳死下、心肺停止の臓器移植が進まない要因」

▶︎牧遼奈さん(写真左)と長尾瑠莉香さん(同右)

—どのように論文のテーマを選びましたか?

牧さん:卒業論文を書くにあたり、大学進学や将来のことを考えたいと思いました。職業や就活について調べていたら、学歴が採用の1つのポイントになっているにもかかわらず、高い学歴のはずの博士課程に入学する人が減っていることに矛盾を感じました。なぜ、そこを目指す人が少ないのだろう?という疑問から、テーマを決めました。

長尾さん:もともと日本人の死生観に興味がありました。高2の12月の課題で、これをテーマにしたいと先生に伝えたら、「抽象的すぎるのでは?」と言われ、確かに文献も集めるのが難しいので、それに関するものを調べることにしました。私は映画が好きで、前に見た「人魚の眠る家」という映画の中で、「脳死判定をするには、臓器を提供しなくてはならない」という医師の言葉を思い出し、また日本人は遺体を大切にする慣習があって、そこから臓器移植に対する忌避感が生まれるのではないかと考え、臓器移植をテーマにすることにしました。

―どのように論文に取り組んでいったのですか?

牧さん:問いを作った後、3つの仮説を立てました。1つ目は、博士課程は研究の領域が狭く、そのことで就職口が少なくなりキャリアに影響が出るということ、2つ目は大学院まで行くと経済的な負担がかかり、それに対する支援が不十分であること、3つ目は大学自体に研究するための資金が足りていないことを挙げ、検証しました。調べていくと、仮説に不都合な事実も出てきて困りましたが、「そういう情報を得られるのはラッキーなこと。問いをさらに深めることも、また違う仮説を立てることもできるよ」と荏原先生に言われ、前向きに捉えて情報収集をしていきました。

長尾さん:高2の春休みまでいろいろ調べて、仮説を立ててからリサーチクエスチョンを作りました。仮説の1つに、テーマにしたかった日本人の死生観を取りあげました。「こういう仮説を考えています」と面談で伝える時は、証拠を集めて持っていき、先生から反論がくることも予想して、「こういう根拠もあります」と説得する準備もしました。スケジュールは余裕をもって管理し、ドラフト論文の締め切りが8月中旬だったのですが、7月末には書き終え、それから肉付けをしていきました。

―卒業論文の作成を通じて、得たものはありますか?

牧さん:1つのテーマで問いを立て、調べて、論文を書く力は確実についたと思います。大学ではレポートを書く機会が多く、この時の経験が役に立っています。また、卒業論文の佳境は高3の10月ですが、長いスパンをかけて準備をします。その間に定期テストや資格をとる勉強などやることがたくさんあり、タイムマネージメント力もつきました。

長尾さん:相手に伝える力が培われました。自分で理解していても、第三者に伝えるのは難しく、また、文章と話すことは違うので、どことどこをどう繋ぎ合わせれば伝わりやすいかを意識しながら書くようになりました。あとは1つのことに取り組む力でしょうか。論文の作成は自分がやるしかない作業なので、最後までやり切るという意志が強くなりました。

―お二人は卒業論文の進め方について、後輩の在校生に話をするそうですが、何を伝えたいですか?

牧さん:自分の反省点、例えば私は仮説1の検証を完璧にしてから仮説2に移る進め方をしていて、最後は忙しくなってしまいました。だから、長尾さんのように、「一通り全部進めてから肉付けをしていくほうがいいよ」と伝えたいですね。ほかには、すべて完璧を追い求めると心が疲弊するので、リフレッシュの時間を作ることを勧めたいです。私は好きな音楽を聴くなど、お気に入りのものをそばに置いて、心の平穏とやる気を保っていました。

長尾さん:論文を書き始めた頃、OGの方が論文のガイダンスをし、質問の時間もとってくれたのですが、その時は何を訊いたらよいのかわかりませんでした。でも、書き進めているうちに訊きたいことがたくさん出てきたので、後輩たちにも、今はピンとこなくても後から出てきそうな疑問を想定し、教えてあげたいです。また、論文を書いている途中、「これでいいのかな」と不安になることが度々ありました。なので、「当時、こんな不安を抱えていたけれど、大丈夫だよ」と伝えたり、必要であればライン交換をして相談にのってあげたいと思っています。

―今後やりたいことや、将来の夢を教えてください。

牧さん:大学では国際協力について学びたかったので、今の学部を選びました。在学中に留学をして、将来は日本と海外の橋渡しになるような仕事をしてみたいです。

長尾さん:心理学部に進学したのは、やっぱり人の心に興味があるからです。また、私は日本が好きなので、国家公務員になって、日本のために働きたいと思っています。

AI時代だからこそ身につけたい「自ら考える力」と「書く力」

荏原先生によると、生徒の学ぶ姿勢は立教大学でも評価が高いという。「本校の卒業生は、大学でも良いレポートを書いているとほめられます。また、リーダーシップがあるとも言われ、実際、何かしらのリーダーになっている子が多いですね。その要因の1つに、卒業論文があると思っています。生徒たちは自らテーマを選び、それを1年間かけて探究します。人任せにすることはできず、自分で道を切り拓いていく力が身につくのではないでしょうか。

卒業論文は、問う力や考える力、書く力、またパワーポイントを使ってプレゼンテーションをする力など、さまざまな力が養われます。中でもとりわけ大きいのは、人としての軸や学ぶ姿勢が備わることだと考えています。何万字の文章を書くのは並大抵ではありません。それでも書き上げたという経験は自信になり、その後の人生にも良い影響を与えます。

仮説を立てて調べていくうちに、自分の考えていたことと違うことはよくあります。世の中はそんなに単純ではないということが、生徒も実感しながらわかっていく。そこから本当の探究が始まり、大切なことを見極める力も育っていくのです」

今後のARE学習・卒業論文の展望について、荏原先生は次のように語る。
「現代はICT化が進み、AIも急速に発展しています。こうした世の中だからこそ、自分の頭で考えることや、自分の力で文章を書くことが、より重要になると思っています。考える主体は、あくまでも自分自身であるべきです。また、今は生徒も一人一台のタブレット端末を持ち、何でもインターネットで調べることができます。ICTを上手に活用しつつも、引き続き図書館の利用を推進していきたいと考えています」

<取材を終えて>
ARE学習・卒業論文の取り組みを通じて、考える力や表現力が身につくことは想像していたが、心が折れても前へ進むたくましさやリーダーシップなども培い、それが生徒の成長に繋がっていると感じた。また、荏原先生の「AI時代だからこそ、自分の頭で考えることが重要である」という言葉が強く印象に残った。

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