スクール特集(山脇学園中学校の特色のある教育 #6)
SSH指定校となり、より深く研究できる環境で科学者への道をサポート
2024年にSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校となり、2025年度からは高校にサイエンスコース、中学入試に「理数探究入試」を新設。山脇学園独自のサイエンスプログラムを取材した。
2024年にSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校となった山脇学園中学校・高等学校は、これまで以上に深い研究活動に打ち込める環境が整った。2025年度からは、中学での科学研究チャレンジプログラムを発展させるサイエンスコース(現サイエンスクラス)を高校に新設。同校独自のサイエンス教育プログラムについて、サイエンス教育部部長の西森美砂先生とサイエンス教育部の大西一成先生に話を聞き、高校生の研究活動を取材した。
都内の女子校では3校目のSSH指定校
同校では、自然科学にとどまらず、社会科学・人文科学にも活かせる幅広い力を培い、グローバル社会に貢献できる人材を育成するプログラムを用意。サイエンスの学びに興味を持つ生徒たちには、思う存分に研究活動に取り組めるプログラムを通して女性科学者への道をサポートしている。
「2013年度から、中学3年次に取り組む科学研究チャレンジプログラムをスタートさせました。将来、研究者になったら行う一連の流れを真似てみるというチャレンジです。そこから本格的にもっと深く活動できるように、2022年度には高校でサイエンスクラスをスタートさせています。理系に進学する生徒を増やすプログラムを開発し、研究活動をより整えたいということでSSHの申請をして、2024年に指定校になることができました。基本的には自分で課題を見つけて、それを試行錯誤しながら、最終的には社会に還元できるような研究を高校生のうちから行うことを目標としています」(西森先生)
SSHの指定を受けた学校は、先進的な理数教育を実施するとともに、大学との共同研究や、国際性を育むための取組みを推進している。同校内には2023年9月に、有尾類(イモリやサンショウウオなどの両生類)研究の第一人者である秋山繁治氏を所長に迎えて「山脇有尾類研究所」を開所した。中高生が大学研究室レベルで科学課題研究に取り組める場として活用され、校内に両生類が生息できるビオトープも造成されるという。
「SSHへの申請をきっかけに秋山先生を本校にお呼びすることができ、環境と課題活動の融合を目指して整えているところです。サイエンスというと理系のイメージがあると思いますが、論理的に考える力やデータサイエンスといわれる情報処理に関しては、文系に進んでも絶対に必要になる能力だと考えています。ですから本校では、理系・文系に分かれていない中学生のうちに、サイエンスと絡めた独自科目を全員が受講するカリキュラムを組んでいます」(西森先生)
▶︎サイエンス教育部部長の西森美砂先生
中1から独自科目によるサイエンス教育
同校では、将来どのような分野で活躍することになっても必要となる力として「総合知」に着目し、「総合知」を身につけるカリキュラムを2022年度に設置。英語の表現力・対話力、データを収集・分析できる科学の活用力などの育成を目指し、中学段階で全員が独自科目を履修する。
「中1と中2は、理科の授業とは別に週1時間『サイエンティスト』の授業を実施しています。実験を通してパソコンを使ってデータを処理する方法を学んだり、実際にポスターを作って発表したりするプログラムです。最初のうちはプレゼンも恥ずかしがってできない生徒もいるので、まずは自分の意見を言う練習を理科の実験と結びつけながら行っていきます。中3の『探究基礎』は、社会的な課題問題などをデータから考え、そのデータを使ってどんなことがわかるのか、人に説明するときに根拠となるデータをどのように使えば納得してもらえるかなど、データサイエンスの基礎や社会調査などを学ぶプログラムです。こちらは実験というより社会科学的なアプローチで調査を行い、数学的な処理でデータを扱っていく授業になっています。これらの授業で基本スキルを身につけながら興味のある分野を探り、あるテーマについて深く研究して行きたいと考えた生徒が進むのが高校のサイエンスコースなのです」(西森先生)
同校はこれまでも、芝浦工業大学、北里大学、東京農業大学などと高大連携のプログラムを行ってきた。SSH指定校となったことで、より大学からのサポートを受けやすい環境になったという。
「生徒たちは、個人やグループでそれぞれ研究をしていますが、ちょっと行き詰まったときなどにアドバイスが必要になることもあります。専門的な研究については本校の教員では難しい部分もありますし、取りたいデータがあるけれど大学の設備でないと難しい場合もあります。そのようなときに、大学の先生方にサポートしていただけることがたいへんありがたいです。自分たちで論文を探して、この先生にアプローチをしたいと言ってくるような生徒もいます。そのようなときはCCに私たち教員のアドレスを入れて自分たちでメールを送らせたり、先にこちらから先方にアポを取って生徒たちが訪問するなど、プログラム以外でも様々な形で高大連携が進んでいます」(西森先生)
生徒たちが取り組む様々なテーマ
研究テーマについては、中1の頃から教員が声がけをしたり、いろいろな授業で研究との結びつきを持たせるなどして、生徒たちの中に芽生えた種を見逃さないようにアンテナを張っているという。
「現在は、こちらで何かテーマを与えて研究をスタートさせることはほとんどありません。生徒たちから、『こんな研究をしたい』と言ってくるところから始まります。日頃から教員と生徒との対話も大切にして、生徒が興味を示したことから話を展開させて、しっかりとしたテーマに持って行けるようにサポートするようなイメージです。再現性がある実験ができるのかということが重要なので、教員は科学的かどうかの判断をし、そのための方法論はチェックしています」(西森先生)
研究を進める中で、予想外の展開になることもあると大西先生は語る。例えば、コーヒー豆のかすの除草効果について研究している生徒たちは、教員との会話の中で「コーヒー豆のかすがもったいない」という話になり、何かに活用できないか考えていくうちにこの研究テーマにつながった。
「除草効果については先行研究があったのですが、そこからどの雑草に効くのか、どれくらいの濃度だったら効果があるのか、育てたい植物を枯らさないためにはどの濃度がよいかなど、自分たちで仮説を立てて研究を進めています。植物に音を聞かせると成長にどのような違いがでるかを研究している生徒たちは、観察用の装置も自分たちで作りました。猫が好きな生徒は、マンチカンなどの短脚ネコは骨軟異形症になりやすく、短命で運動能力が低い傾向にあることが分かっているので、自分でロボットを作って脚部への負担がどれくらいかなどを研究しています。地域貢献したいという生徒は、商店街の案内をするアプリを開発しました。理系の女子というと生物科学系が多いですが、SSHの目標として工学系の女子を育てたいという思いもあるので、本校も工学系のテーマでも貢献していきたいと考えています」(大西先生)
▶︎サイエンス教育部の大西一成先生
英語で論文を書き、英語で発表
研究結果は、高校2年次に日本語で論文にまとめ、3年次には英語でまとめるところまで行っている。
「サイエンスコースは、英語で論文を作成する力を養う『科学英語』という授業があります。最先端の論文は英語で書かれたものが多いので、英語の論文の読み方を学び、自分たちの研究を英語でまとめる経験を重ねて、英語でポスター発表をする場も用意しています。高2の5月に行った沖縄研修ではOIST(沖縄科学技術大学院大学)を訪問し、研究活動のポスター発表を英語で行ってOISTの学生からフィードバックを受けました。研究者になると英語で発表する必要も出てくるので、8割ぐらいの学生が外国人という場で発表し、自信を持ってもらいたいという思いがあります」(西森先生)
OISTで英語によるポスターセッションを経験したことで、生徒たちは大きく成長したと大西先生は振り返る。
「英語で発表するとなると、まず日本語でしっかり理解しておかないと英語にできません。英語にする過程は、自分たちがやってきたことを振り返る機会にもなります。OISTでの発表が終わった後に感想を聞いたら、『英語で発表できたから、どこへ行っても怖くない』という声が多かったです。実際に、OISTでの発表を経験してから、外部発表に出ようとする生徒が倍ぐらい増えました。ポスターセッションは90分間に何回も行うのですが、1回目はカンペを見ながら発表していた生徒も、2回目には何も見ずに発表し、3回目はさらに堂々と発表していて、短期間での成長も感じられました。高校生のつたない英語でも学生たちは理解しようとしてくれたので、生徒たちは学生からの質問にも頑張って英語で答えていました。セッションが1回終わると、あの場合はなんて表現したらよかったのかと自分たちで調べて、次はこう答えようという振り返りも行っていました」(大西先生)
大学の年内入試にも活かされる力
研究や成果を発表する経験を重ねることは、総合型選抜などの年内入試にも活かされていく。
「総合型選抜や学校推薦型選抜などの年内入試では、志望理由書や面接が大事になってくるので、研究活動がそこにつながることにも期待しています。面接で研究内容を話した上で合格をいただけたら、その研究を大学で続けてもっと深めることにもつながるでしょう。受験大学を選ぶときも、『この研究をしている先生がいる大学を受験したい』というように、学部・学科より細かく研究室まで見て選ぶ生徒もいます。また、地方の課題について考えている生徒は、地方の大学を視野に入れる場合もあります」(西森先生)
サイエンスマインドを持って探究活動を行うことは、社会に出てからも活かされる経験になると大西先生は語る。
「今行っている研究がそのまま大学の研究に直結する場合もあれば、そうではない場合もあります。たとえ直結しなかったとしても、仮説を立ててそれを検証し、論理的に実験を行う中で育まれるサイエンスマインドは、社会に出てから活躍するために必要な力です。外部発表用のポスターを見てもちゃんと仮説が立てられているので、サイエンスマインドが育まれていることが実感できます。本校では身近な材料を意識した研究が多く、教員たちにも積極的に協力を求めるなど、高校生らしい研究活動をしており、それが彼女たちの強みだと思います」(大西先生)
同校でサイエンスプログラムに取り組みたい児童向けに、2025年度から2月3日の午後に「理数探究入試」が新設される。
<リンク:2025年度入試サンプル問題>
「理科や算数が好きで、いろいろなことにチャレンジしてみたいという児童に向いている入試です。算数は「算数的思考力」をはかる問題、理科は「生活の中での科学」をテーマにした問題で、サンプル問題も幅広い分野から作って公開しています。算数も理科もなぜそうなるのだろうと考えること、思考することを大切に作問しています。2024年にSSHの指定校となり、これまで以上に探究や研究活動に打ち込める環境が整いました。理科や算数が好き、将来は研究者になりたいという児童に、ぜひ本校のサイエンス教育で研究者を目指してほしいです」(西森先生)
高校生の研究活動を取材
サイエンスアイランドや屋外の実験場を活動の場として、研究活動を行っている高校生を取材した。
研究テーマ:コーヒー豆のかすの除草効果
「近々大学での発表会に参加するので、発表用のポスターを準備しています。コーヒー豆のかすに含まれるカフェインが植物の成長の妨げとなって、雑草を除草することができるのではないかという仮説を立てて研究してきました。5kg/㎡でも十分な成長抑制効果があることがわかり、特にイネ科とマメ科に対する除草効果が大きいです。雑草はイネ科が多いので、庭の雑草対策などにも利用できると思います。キク科にはあまり効果がなかったので、畑で春菊などを育てるときにも使えそうです」
▶︎コーヒー豆のかすの除草効果についてポスターを作成
研究テーマ:外国人向けの防災アプリ
「外国人に防災情報を伝えるアプリを開発しています。地震と津波にフォーカスして、政府や自治体が発信する情報を翻訳したアプリです。地震を経験したことのない外国人観光客が日本で地震にあったらわからないことが多いので、アプリを作ろうと思いました」
研究テーマ:コルクによる土壌改善
「コルクを配合すると土壌が改善されて、植物の成長が促進されるという仮説を立てて検証しています。コルクを配合すると酸性に偏っている土壌を中性に近づけることができ、pHの安定化に活用できることも分かっています。コルクの研究を始めたのは、両親がワイン好きなので、廃棄しているコルクを有効に使えたら面白いなと思って調べてみたことがきっかけでした」
▶︎細かく砕いたコルクを混ぜたものと土だけのもので成長の差を観察
研究テーマ:木から糸へさらに布へ
「廃材木を何年も使えるようなものに効率よくリサイクルしたいと考えて、木から布を作る研究をしています。先生との会話の中で、社会人野球ではバットが折れることも多いけれど、再利用しないとゴミになってしまうという話を聞いたのがきっかけでした。まずはMDF(木質ボードの一種)の端材を溶かして紙のように平面にして、そこから糸を作って布にできないかと試行錯誤しています。MDFで成功したら、木の端材を使って同じように糸から布へとリサイクルしていきたいです」
研究テーマ:タコの吸盤
「タコの吸盤で物を固定したいと考えて、まずはタコの吸盤と合う素材を確かめる研究をしています。テレビでタコの特集を見て、タコの祖先は貝類だと知りました。軟体動物であるタコには骨がないので化石が残っていません。貝からどのように進化したかわかっていないのが面白いと思いました。その話をしたらみんなも興味を持ってくれたので、吸盤について調べています。タコの吸盤がくっつかないものはないという仮説を立てて実験をしましたが、実験の条件が揃っていないなどの不備があったので、もう一度きちんと条件を揃えて実験する予定です」
<取材を終えて>
サイエンスアイランドには、化学・生命科学などの各種実験室や顕微鏡室などがあり、3Dプリンターなども利用できる。高校生の研究活動を取材したが、研究テーマは多岐にわたり、研究を始めるきっかけなどを説明する生徒たちはとても生き生きとしているのが印象的だった。屋外の実験場でも様々な研究が行われており、生徒たちのニーズに応えられる環境が整っているからこそ、生徒たちも楽しく研究活動が行えるのだろう。