スクール特集(三輪田学園中学校の特色のある教育 #8)
ツールとしての英語力と、グローバルマインドを育てる海外研修
英語及び国際教育に力を注ぐ三輪田学園中学校・高等学校では、国内外のプログラムを豊富に用意。今年は3年ぶりに海外研修を再開した。海外研修の目的、生徒たちの感想などをレポートする。
同校は、2015年にスタートしたカナダ語学研修をはじめ、イギリス語学研修、マルタ海外研修、オーストラリア留学など、多彩な国際プログラムを設けている。ここ2年間は新型コロナウィルスの影響で自粛をしていたが、今年度はすべてのプログラムを再開。海外研修の目的や成果などについて教頭の湯原弘子先生に話を聞くと共に、カナダ、イギリス、マルタの研修に参加した生徒たちの声を紹介する。
中3~高2の体系的な海外研修プログラム
同校が最初に海外研修プログラムとして導入したのは、高1の希望者を対象としたカナダ語学研修だ(現在は中3が対象)。
「目的は、もちろん英語力の向上ですが、2週間程度の滞在で、飛躍的に伸ばすのは難しいものです。それよりも、英語を学ぶ目的や『英語が使えるとこんなに楽しいんだ』ということを現地に行って体感してもらいたいと思いました。実際、生徒たちは帰国した後、英語の学習に対する姿勢が積極的になり、モチベーションも上がっていると感じます。研修に行っていない他の生徒を牽引する効果も出ていますね」と湯原先生は話す。
「また、本校は海外研修に関して、異文化理解を重視しています。日本は、日常的に海外の人と接したり、英語を使ったりする機会がそれほど多くありません。しかし今は、政治も経済も日本だけでは解決のできない時代です。生徒がグローバルな視点やマインドを持つためにも、国外に出ていろいろな体験をしてほしい。実際に見聞きするなかで、その国の文化や歴史、社会背景を理解してほしいと考えています」
同校は、2020年から語学研修をイギリスにも拡げ、2019年は試験的にマルタ研修も行った。
「英語の発祥地であるイギリスは、歴史も文化もカナダとは異なり、その違いを比較するのも面白いと思いました。そこで、高1生を対象に15日間のイギリス研修を設け、その代わりにカナダ研修は1つ学年を下げて10日間のホームステイにしました。また、カナダ研修の授業は三輪田生のみで行い、4人の生徒に対して1人の先生と同世代のバディが付く『4to1』というスタイルをとっています。午後は観光をするなど、現地の人と交流を図ることがメインのプログラムとなっています。
一方、イギリス研修は、寮生活をしながら学校へ通い『インターナショナルクラス』の授
業を受けます。ヨーロッパを中心にさまざまな国から同世代の生徒が集まり、今年はロシアやウクライナからも来ていたそうです。現地の人だけでなく、国際的な生徒たちと接する機会が多い内容になっています」
なお、イギリス研修の2週目はドラマメソッドを使い、“ハリー・ポッター”を題材とした三輪田独自のプログラムを実施。生徒が1週間かけて劇を作り、それを先生や他の国の生徒たちの前で披露するという。その他、オックスフォード大学やワーナーブラザーズなどを訪問する課外プログラムも組まれている。
2週間のマルタ研修は高2生が対象で、寮生活をしながら『インターナショナルクラス』の授業を受ける。「マルタ共和国はヨーロッパ中世から近世にかけての文化遺産が豊富にある国です。また、世界各国から生徒が集まっているので、総合的に国際社会を理解するよい機会だと考えています。そして、この研修は教員の引率がありません。自由行動も多いので自律が求められ、高2生だから任せられる研修とも言えますね。このように、中3の三輪田生のみのクローズドなカナダ研修から、高1のイギリス、高2のマルタと、段階を経たプログラムとなっています」
▶︎教頭 湯原弘子先生
海外研修に参加した生徒へインタビュー
カナダ語学研修
今もホストファミリーと連絡を取り合っています B・Yさん(中学3年生)
海外の文化に触れてみたいと思い、研修に参加しました。午前中に授業、午後は観光などのアクティビティがあり、私は歴史博物館とキャピラノ吊り橋が印象に残っています。ホストファミリーは両親と同級生、9歳の女の子、20歳のお兄さんがいました。滞在中の一番の思い出は、家族と一緒に映画を見たことと、違う場所に住んでいるおばあちゃんのところに連れていってもらったことです。カナダでの生活は、文化の違いなどもあったけれど、みんなが明るく話しかけてくれてすぐに馴染めました。今でもホストファミリーとは連絡を取り合い、親しくしています。言葉も最初の頃は、日本語がとっさに出てしまう時があったけれど、徐々に慣れて、帰国した後も英語がすっと出てくるようになりました。
RとLの発音の違いも聞き取れるようになりました N・Sさん(中学3年生)
私のホームステイ先は、両親と同級生の女の子、高校生の男の子、大学生の男の子、犬が2匹いました。私も犬を飼っていて大好きなので、犬繋がりで会話が弾んだのもよかったです。同い年の女の子とは話がしやすく、お菓子作りが好きという共通の趣味もあって一緒にシナモンロールやピザパンを作ったのが思い出に残っています。カナダ研修で身についたのは、英語の聞き取りです。RとLの発音の違いも明確にわかるようになりました。また、これまでは英語を話す時に「あっているかな?」とためらうことが多かったけれど、自分の言いたいことを単語を繋げるだけでもいいので話してみようという意識に変わりました。
イギリス語学研修
フランス人の友達ができたのが一番の思い出です A・Hさん(高校1年生)
海外の友達がほしかったのと好きな英語をもっと伸ばしたいと思い、研修に参加しました。授業では、文法やイングランドの王族の家系について学んだり、テーマについて話し合いをしたりしました。最初は私を含め手を挙げる日本人はあまりいなかったけれど、先生や海外の人と一緒にいるうちに自分から話をするほうが楽しいことに気付き、だんだん積極的になっていきました。研修で一番良かったことは、フランス人の友達ができたことです。今もSNSで交流をしています。メッセージを送る時は英語なので、どういう言葉を使えば相手に伝わるかを考えるようになり、ライティングの力が付いてきたように思います。また、英語のプレゼンテーションなど、人前で話すこともだいぶ抵抗がなくなりました。
自分たちの劇が海外の人に伝わったことが嬉しかったです R・Yさん(高校1年生)
私が研修に参加したのは、英語力を上げたいことと、ハリー・ポッターが好きで、ドラマ作りや、ワーナーブラザーズ訪問を組み込んだプログラムが魅力だったからです。寮では夜にアクティビティがあり、日本にはないベンチボールというゲームに参加し、英語が通じなくてもスポーツを通じて盛り上がれることを実感しました。ドラマ作りも楽しかったです。私はパペットやホウキ、杖の製作とナレーションを担当しました。海外の人も楽しそうに観てくれて、自分たちの作ったものが伝わっていることが嬉しかったです。研修を通じて、私はリスニング力がアップしました。スピーキングは、気持ちで通じ合おう! というところがありますが(笑)、相手の言うことを集中して聞いていればだんだんわかるようになり、英検のリスニングも聞き取れるようになりました。
マルタ海外研修
自分の英語が伝わり、もっと勉強を頑張ろうと思いました A・Mさん(高校2年生)
マルタの授業は日本と違い、先生が生徒に意見を求めてくるのが新鮮でした。最初の授業では、「空を飛べる能力と動物と話せる能力のどちらが欲しいか?」といった誰もが答えられる質問を投げかけてくれたので、発言することができました。インターナショナルクラスには本当にいろいろな人がいて、たとえば、授業中に突然出て行く人がいて驚きました。でも、先生も何も反応をしないので日本とは感覚が違うことを実感しました。また、私は自分から人に話しかけるのが苦手なのですが、それでもいろいろな人に話しかけたら、結構、三輪田の授業で覚えたことが伝わって、自信がつきました。日本で勉強してきたことが役立っていることがわかり、これからも英語の勉強を頑張ろうと思いました。
文法を間違えていても、堂々と話す大切さがわかりました A・Kさん(高校2年生)
私のクラスの授業では、1つのテーマに対して「あなたはどう考えますか?」と隣の人と話す機会が多かったです。私は英語が得意なほうではないので、最初は緊張してびくびくしていました。そうすると、相手の言っていることも聞き取れず、自分の話も伝わらないことがわかりました。ヨーロッパの人は、英語が母国語でなくても堂々と話していて、よく聞いてみると文法なども間違っていたりする。それでも相手に伝わっていて、私もようやく「正しい英語を求め続けなくてもいいんだ」と気付き、英語でコミュニケーションをとることの価値観が変わりました。それは、英語しか使えない環境に身を置かないと気付けないことなので、いい経験ができたと思っています。
完璧な英語より、笑顔で接することが重要だと気付きました H・Kさん(高校2年生)
私も最初は流暢な英語を話さなければならない! という使命感がありました。けれど、そもそも即興で完璧な英語を話すのは難しく、相手のノリにもついていかなくてはなりません。授業はペアワークが多く、最初に組んだのはイタリアの男の子で、私が話している時も、関心がなさそうに頬杖をついて聞くようなタイプでした。なので完璧な英語を話すよりも、まずは「あなたと仲良くしたいんだよ」という気持ちを示す必要がある。笑顔でアイコンタクトをとる大切さが分かりました。
滞在して2日目に、イタリアの女の子と現地のショッピングモールに行ったのですが、イタリアなまりの英語で、半分くらいしか聞き取れませんでした。それでも、アクセサリーや化粧品を見ていると楽しさが通じ合い、彼女も常にニコニコしていて、笑顔で接することは気持ちがいいなと思いました。また、マルタは気候もよく、開放的な気分になれるところです。相手がつれない態度をとってきても「そういう時もあるよね」と寛容に受け止め、少しのことには動じなくなりました。
今後は事前学習をして、より充実した海外研修へ
同校は2020年度より、中3カナダ、高1イギリス、高2マルタという流れで研修を行う予定だったが、コロナ禍で断念。今年は3年ぶりの海外研修になった。しかし、これまで高2生は、一度も研修に参加できなかったため、カナダは中3~高2、イギリスも高1・高2を対象にし、高2生は3つの研修から選べることとした。
湯原先生によると、今年の海外研修の再開は、難しい判断だったという。「正直、教員の中でも意見が分かれました。ただ、2015年からカナダ研修が始まり、高2の中には、その研修に参加したくて三輪田を選んでくれた生徒も少なからずいました。ですので、学校としても高2生に行かせてあげたいという気持ちが強く、安全面に最大の配慮をして決行することにしました。結果的には全員が何事もなく帰国し、貴重な経験ができたと思っています」
今後の海外研修について湯原先生は「事前学習を充実させたい」と展望を語る。「今年は、直前にキャンセルになる場合も想定されたので、あまり事前学習ができませんでした。渡航する国の歴史や文化などをもっと調べておくと、研修もより実りの多いものになります。また、インターナショナルクラスで授業を受ける際に、どういう発言の仕方をすればよいか、どのようにグループワークを進めたらよいか、そういう準備もしておきたいですね」
海外留学も再開し、現在、オーストラリアでのターム留学(3か月)が高1、高2合わせて6人、1年のカナダ留学が1人、来年1月の出発を控えているという。「海外経験は、大学の総合型選抜などにも活用できますし、カナダ研修に参加して海外に目が向き、今年、イギリスの大学に進学した生徒もいます。これからは海外大学も視野に入れ、英語力と国際性を養う海外研修をさらに推進していきたいと考えています」
【取材を終えて】
難しい判断の中で海外研修を行った同校だが、大きな成果があったことが生徒のインタビューからも伝わってきた。特に高2生は最初で最後の海外研修だったので、強い意志で臨んだのだろう。「自分から話す大切さを知った」「相手とコミュニケーションをとるのは、完璧な英語ではなく、気持ちを伝えることだ」など、体験を通じていろいろな気付きを得たようだ。これこそ海外研修の一番の狙いであり、醍醐味でははないだろうか。
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