スクール特集(目黒日本大学中学校の特色のある教育 #6)
中学英語と探究学習の集大成!1ヶ月の短期留学で中3生が大きく成長
目黒日本大学中学校では、中3の3学期に全員参加で短期留学を実施。目的や成果、現地での生活について話を聞いた。
目黒日本大学中学校では、中3の3学期に全員参加で短期留学を実施。今年2月に実施したオーストラリア短期留学について、校長の小野力先生と教頭の本間裕之先生、留学を経験した高1の生徒に話を聞いた。
中高一貫校だからこそできる体験
同校では中3の2月に、ブリスベン及びゴールドコースト(オーストラリア)で1ヶ月の短期留学を実施。ホームステイをしながら文化や生活習慣を知り、現地の生徒とバディを組んで学校に通う。短期留学を中3の2月に実施する理由は2つあると、本間先生は説明する。
「英語学習の面からは、中学3年間で学ぶ英語の単元をすべて終えた段階で実施したいという思いがありました。3年生の2学期で中学英語は終えているので、そこからブラッシュアップして高校へとつなげていきます。もう1つは、中高一貫教育だからこそできる経験をさせてあげたいと考えたからです。一般的な中3生が受験勉強の追い込みをかけている時期に、海外でまったく別の体験ができるのは、中高一貫教育の大きなメリットです。大人になってからではできない、多感なこの時期に行くことにも大きな意味があります。ブリスベンやゴールドコーストは治安もよく、自然も豊かで、日本が真冬のとき真夏なので活動しやすい気候です。また、オーストラリアは日本人に対して非常に好意的なので、初めての海外体験でも過ごしやすいと考えました」(本間先生)
同校の短期留学は、希望制ではなく全員参加となっている。1期生が中3のときは、コロナの影響で3年次には実施できなかった。しかし、希望者も多かったので、時期や内容を再検討して高1の夏に希望制で実施。2期生は今年2月に、ほぼ全員参加で実施することができたという。
「学年全体でこの時期に行けたのは、2期生が初めてです。行った子と行かない子に差がでないように、希望制ではなく、全員で行くことにも大きな意味があると考えています。コロナ禍ではいろいろと難しいこともありましたが、参加した生徒はいい表情で帰ってきたので実施してよかったと思っています。楽しいことばかりではなく、辛いと感じることもたくさんあったと思いますが、それも大切な経験です。本校では、大学に入ることがゴールとは考えていません。中3で世界を知り、他国の文化を自分の目で見て、自分の英語で何かを成し遂げたという経験は、後々にきっと生きてくるでしょう。近い将来、今の仕事に就いたのは、中3の短期留学がきっかけだったという卒業生が出てくるかもしれません。私は英語科の教員なので、この経験をきっかけに英語の教員になる子が出てきて、本校に戻ってきてくれたら嬉しいですね」(本間先生)
1ヶ月の海外体験は、保護者にとっても大きな意味があると本間先生は語る。
「大半の保護者からは、家では何もしなかった子が皿洗いをするようになった、洗濯物をたたむようになったなど、子どもたちが大きく成長して帰ってきたと聞いています。1ヶ月間親元を離れたからこそ、親のありがたみもわかったのでしょう。日本では3食作ってもらうのが当たり前でも、朝はシリアルが置いてあるだけというステイ先も多いです。自分の親なら何も言わなくても察してくれることでも、ステイ先ではコミュニケーションを取らなければ伝わりません。もちろん、英語を身につけてほしいという思いもありますが、それ以上に、日本ではいかに自分が恵まれた環境にいるということを知ってほしいと思っています。そのためには、別の文化や暮らしを体験から知ることが大切なのです」(本間先生)
▶︎教頭 本間裕之先生
英語と探究学習の集大成
同校では探究の授業を週1回行っており、学年ごとに与えられたテーマに沿って、グループに分かれてフィールドワークを実施。1年間行った探究学習の集大成として、フィールドワークの成果を全校生徒の前で発表するのが「発表コンクール」だ。オーストラリア短期留学は、英語学習だけでなく、3年間行ってきた探究学習の集大成でもある。今回はコロナ禍ということもあり、受け入れ先でできる範囲での発表となったが、それぞれが準備していったプレゼンを英語で行ったという。
「今回、生徒たちは3つの現地校に分かれて通ったので、学校ごとに対応が異なる部分もあり、授業の中ではなく、自己紹介のときやホームステイ先での発表となった子もいました。今回が全員参加での初回ということもあり、今後どのような形で発表を行っていくかが課題です。今回は、コロナの影響で様々な制限がある中で、この時期に海外体験ができたことが大きな1歩だと考えました。いずれは、本校で行っている発表コンクールと同じ形態で、現地の子どもたちの前で発表することを目指していきます」(本間先生)
3期生以降、経験を積み重ねていくことで、現地で行う活動なども変わってくるだろうと、本間先生は語る。
「帰国後には、3年生の留学体験を2年生に伝える報告会を行っています。1期生の中で自分たちの経験を後輩に伝えたいという想いがあったので、報告する機会を作りました。1期生や2期生は行ってみないとわからないことも多く、不安も大きかったと思います。3期生以降は、先輩たちの経験が蓄積されてきているので、不安もかなり軽減できるでしょう。保護者や生徒のニーズも変わってくると思いますし、本校だけでなく現地の受け入れ先でも経験則によりできることが広がってくるはずです。現地の学校と姉妹校を提携する話し合いも現在進めております。毎年いい意味でプログラムを進化させて、子どもたちとともに本校も組織として成長していきたいと考えています」(本間先生)
高校では、ニュージーランドへの中長期留学プログラム(希望制)が用意されているが、先述の姉妹校との交換留学など、中3での留学経験を活かしたプログラムの導入も検討しているという。
「バディ(現地校で一緒に学んだり世話をしてくれる生徒)との出会いは、この先の人生に大きな影響を与えるかもしれません。短期留学をきっかけに、オーストラリアの大学に留学したいと考える生徒が出てくる可能性もあります。中3のときに一緒に過ごしたバディがいる学校に、高校生になって中長期で行くことができたり、バディを交換留学生として迎え入れることができたら、中3での経験からさらなる可能性が広がっていくでしょう。現地の学校と連携して様々な交流ができるように、現在動いているところです」(本間先生)
中3で短期留学を経験した生徒にインタビュー
Hさん(高1)
――短期留学で一番印象に残っていることを教えてください。
Hさん 現地の学校で、最終日にバディの子たちとお別れ会を開いたときに、みんな号泣して別れを惜しんだことです。私たちは20人ぐらいで、1人に対してバディが2人付いてくれたので現地校の生徒は40人ぐらいの会でした。私たちは日本の歌を合唱して、お互いに感謝の気持ちを込めてプレゼントを贈り合ったりしました。
――出発前は留学に対してどのような気持ちでしたか?
Hさん 英語が得意ではなかったので、実はあまり行きたくなかったんです。現地に着いてしばらくは、バディが話しかけてくれても聞き取れないし、自分が伝えたいこともうまく出てこないので、あまりコミュニケーションが取れませんでした。
――1ヶ月の間、気持ちはどのように変化しましたか?
Hさん ホームステイ先で一緒に滞在した子は英語が得意だったので、最初から「一生こっちで暮らしたい!」と言っていましたが、私は本当に帰りたかったです(苦笑)。時間が経つにつれてどんどん耳が慣れてきて、聞き取れるようになってきたらやっと楽しくなってきました。話す方はそれほど成長した実感はありませんが、2週間ぐらいして聞き取れるようになってからは、もう少しいてもいいかなと思えるぐらいにはなりました。
――バディについて教えてください。
Hさん バディは2人いましたが、1人は日本語が少し話せました。2人とも学年は1つ下です。日本語の授業をとっていたバディから日本語を教えてと言われて教えたり、逆に英語を教えてもらったりして少しずつ仲良くなりました。机がホワイトボードになっているので、そこで授業中に絵を描いたり、○×ゲームをしたりしたのもよいきっかけになったと思います。私は数学が好きなので、数学の授業で一緒に解いて、教えてあげられたときは嬉しかったです。
――ホストファミリーについて教えてください。
Hさん ホストファミリーは日本が好きな優しい人たちで、7歳の女の子とはけっこう会話ができて仲良くなれました。ジブリ作品が好きなご家族だったので、ジブリのグッズがあったり、日本に行ったときにジブリ美術館を訪れた話などもしてくれました。
――週末はどのように過ごしましたか?
Hさん ホストファミリーが遊園地に連れて行ってくれましたが、すべてが日本と違っていました。絶叫系のアトラクションが日本より激しくて、スケールが大きい感じで怖かったです。食べ物のサイズも大きかったですが、とても楽しく過ごせました。
――日本とは違うなと感じたことはありますか?
Hさん ランチボックスが毎日ハムチーズサンドとリンゴでした。他の子もみんな同じようなランチだったので、最後の方はみんな飽きてしまいました(笑)。
――成長したなと感じることはありますか?
Hさん 帰ってきてから、自分の意見を言うようになったねと親に言われました。ステイ先では、週末に買い物に行きたいか家にいたいか、ショッピングモールでは日本人の子と2人でまわりたいかホストファミリーと一緒がいいか、休日のご飯は何を食べたいかなど、あらゆる場面で選択を求められたんです。だんだんと即答できるようになっていったので、そういった経験の積み重ねが成長につながったのだと思います。
――帰国後の報告会で後輩にどのような話をしましたか?
Hさん 私は現地で熱中症になってしまったので、どんな症状が辛いか、言いたくても言えないもどかしさを経験しました。ですから、自分の体調を伝えられる英語は覚えておいた方がいいと思います。夏だったから虫が多かったこと、暑いから洋服は薄手がいいよとか、バディから大きめのお菓子などをもらうからスーツケースは空けておいたほうがいいよと伝えました(笑)。
――この学校のいいなと思うところを教えてください。
Hさん 先生と生徒の仲がいいです。生徒は元気な子が多いので、自分も元気になれます。私はもともと、そんなに「学校好き!」というタイプではなかったのですが、クラスが明るくて、小さな気遣いが出来る子が多いので、楽しく学校に通えています。受験生の皆さんも、きっと楽しく通えるので安心してください。
短期留学が子離れ、親離れのきっかけに
中高一貫教育6年間のうちの3年間は、将来どのような方向へ進むか考えるために、いろいろな体験をさせてあげたいと、小野校長先生は語る。
「中3で実施する短期留学は、人間力という面でも大きく成長できる機会です。違う文化に触れることで、日本文化の素晴らしさを知るでしょう。一般的な中3が受験勉強をしているときに留学し、受験勉強とは違う力を身につけます。半数ぐらいの生徒が出発前は行きたくないと思っていたようですが、日本より時間の制限がなく、先生方もラフな服装で、気軽にディスカッションできるような環境の中で心が解き放たれた生徒も多かったようです。多くの保護者が『一皮むけて変わった』と言っていました。日本にいるときの何倍も力を出さないと思いを伝えることができないので、潜在能力が引き出されたのではないかと思います。また、LINEなどで簡単に連絡がとれるので、保護者も安心だったようです。時差も1時間ぐらいですし、すぐに連絡がつくので逆に連絡しなくなり、親離れ、子離れができる機会にもなります。便利なツールのおかげで、安心して送り出すことができるようになりました」(小野校長先生)
中3での留学は、探究学習の集大成としても重要な役割を果たしているという。
「週1回行っている探究学習は、中1で日本文化に触れる京都・奈良フィールドワークを行い、体験したことをポートフォリオに残します。中2は多摩川の調査や林間学校を行ってSDGsにつなげて、中3がオーストラリアでのプレゼンです。短期留学は、世界を知って、日本を大切に思い、子どもたちが成長していくというストーリーの中での集大成となっています。本校では探究学習などを通して自分から話す機会を多く用意していますが、夏と冬の3者面談でも生徒が保護者へプレゼンを行っています。通常、3者面談では教員が生徒の様子を伝えますが、本校では、こんなことをやってきて、こんなことを考えていると、自分で説明するのです。冬は年度の締めくくりとして、勉強や部活で頑張ってきたこと、今後の目標などを発表する場となっています」(小野校長先生)
▶︎校長 小野力先生
自分から心を開くことが大切
高1の段階では、高校受験をした生徒の方が学力は高いかもしれない。しかし長いスパンで考えれば、短期留学や探究学習などで育んだ力が発揮され、結果は後からついてくるのだと、小野校長先生は語る。
「時代は変わっていますし、変化はもっと激しくなり、今の中学生が大学を卒業するころにはまったく違う世界になっているかもしれません。それを見据えて、今、何を身につけておくべきか、日々教員たちで考えています。その第一歩が挨拶です。待っているのではなく、自分から攻める人間力がなければ、これから先は生き残れないでしょう。挨拶は自分から心を開くことであり、それによって相手の心を開かせて、コミュニケーションが始まります。ですから、言われてから返すのではなく、自分から言うことが大切です。本校の生徒たちは、何回通っても必ず目を見て挨拶してくれます。挨拶運動などはしていませんが、自然にできるようになっています。学校見学で生徒たちの挨拶を見て、本校に入学させたいと思った保護者も多いです」(小野校長先生)
日大への進学は担保されているが、同校が目指す教育は大学進学がゴールではない。
「本校に入学したら日大に行くことになると考えている保護者も多いと思いますが、本人が行きたいところに行けばいいと思っています。日大だけにとらわれずに、自由に考えてください。大切なのは、自分のためだけでなく、社会のために自分の力をどう役立てるかを考えることです。先日、この早い時期にもかかわらず大型の台風が来たように、気象変動が加速していることに対して、どうにかしなければと生徒たちも感じています。そのような生徒たちが、これから先、どう成長していくか期待していただきたいです」(小野校長先生)
<取材を終えて>
出発前は行きたくないと思っていたHさんが、大きく成長して帰ってきたことが印象的だった。2週間のプログラムだったら、楽しくないまま帰国したかもしれない。そう考えると、1ヶ月という期間も重要である。3期生以降、経験を重ねてより充実したプログラムになっていくだろう。