スクール特集(獨協中学校の特色のある教育 #8)
環境について学び、人と人の信頼関係を深める「ドイツスタディーツアー」
獨協中学校・高等学校では、環境教育やドイツの人々と交流活動を行う独自のスタディーツアーを実施している。4年ぶりに再開した同ツアーの様子を担当教諭と生徒たちに聞いた。
環境教育に携わる人々とのつながりで実現したスタディーツアー
同校は2013年より、夏季休暇の約10日間を使い、環境教育をメインとした「ドイツスタディーツアー」を実施している。コロナ禍を経て再開した今年、中3~高2の希望者25名が参加した。
この研修は、同校の塩瀬治教諭が20年以上も前から、ドイツの生物環境教育に関わる人々と交流して作られ、オリジナリティのある内容となっている。最初に生徒たちが訪れたのは、ハノーファにある生物教育園。ここでは、元、園の所長で、塩瀬先生の長年の友人でもあるヨルク・レダーボーゲン先生から2日間にわたり、実施指導を受けた。
「ハーブの香りを嗅いで、体にどんな効用があるか教わったり、様々な種類のトマトをその場でカットし、種類別に分けてその特徴を学んだり、五感を使った体験学習が行われました。また、ゴミを土の中に入れて何年も放置し、それが分解されていく様子が時系列で展示してあり、ゴミを捨てるとどのような影響があるのかを学びました。プラスチックゴミは分解されにくいということは、知識ではわかっていますが、実際に見ることでより理解が深まります。生物教育園には2日間通いましたが、もっと長く感じるくらい内容が濃かったですね」とツアー担当の間嶋剛先生は話す。
ハノーファでは、国際的な環境教育実践校でもあるケーテコルビッツ中等教育学校の生徒の家にステイをして、授業も体験した。「ケーテコルビッツの先生が生徒同士の相性を考え、細やかにファミリー分けをしてくれました。生徒は最初こそ緊張していましたが、温かく迎え入れてくれてもらい、すぐに溶け込んでいきました」
▶︎ツアー担当の間嶋剛先生
▶︎ヨルク・レダーボーゲン先生と
▶︎様々な種類のトマトの特徴を体感
学年を越えて学び合い、絆を強めた25名の使節団
また同校は、2019年よりシュベリーンにあるエコレアインターナショナル校(以下、エコレアと表記)と交流を持ち、コロナ期は中断をしていたが、今年6月にエコレアの生徒が同校を訪問。今度はこちらから訪れる形となった。間嶋先生によると「ハノーファからシュベリーンまでバスで4時間かかり、滞在時間は3時間程度でしたが、思い出深い1日となりました。というのも、エコレアの先生や生徒が手作りのケーキを準備して歓迎してくれ、サプライズでトラムのような観光バスで街案内もしてくれたのです。シュベリーンには大きな湖や、美しい城、教会などが残り、テーマパークのような世界観が広がっていました。6月にエコレアの生徒が来た時は、私たちも一生懸命に受け入れをしましたが、それに応えてくれたのか手厚くもてなしてもらい、良い相互交流ができたと思います」
ハノーファの次は、ハイデルベルクへ移動し、環境教育施設「Klima Arena(クリマアレーナ)」やハイデルベルク城などを見学した。Klima Arenaは、全方向シアターやアトラクションのような仕掛けがあり、どういう街を設計すると環境にどんな影響があるのかシミュレーションしたり、気候変動やエネルギー問題などを学んだりしたそうだ。
最終日はハイデルベルクで夕食会とともに、ツアーの振り返りを行った。間嶋先生は当初、学年の異なる25人の生徒がまとまるか、心配をしていたと言う。「しかし、最後は絆の強い1つの集団になっていました。夕食会では、1人ひとりが自分の想いや考え、『もっとこうすればよかった』などの反省を語り、その話をみな真剣に聞いていました。生徒たちは研修を通して互いに学び合い、高め合っていきました。私はこの集団だったらどんなところへ行っても大丈夫だと確信し、まさに令和の使節団でした」
ドイツスタディーツアー 日程表
ドイツスタディーツアーに参加した生徒へインタビュー
Aさん 高校2年生
Nさん 高校2年生(団長)
Iさん 高校2年生
―ドイツスタディーツアーに参加した理由は?
Aさん 獨協中学を志望した一番の理由が、他校にはないドイツ研修旅行に参加したいということでした。人と交流することが好きだし、高1からドイツ語を習っているので、ドイツ語でコミュニケーションをとってみたい、見たことのない景色を見たいと思いました。
Nさん ドイツの文化に興味がありました。また、環境学や、自然と人間の共存にも関心があり、そうした学びを柱としたツアーなので参加しました。
Iさん 小学生のときにフランスに住んでいたのですが、日本人学校に通っていたので、現地の人とあまり交流ができませんでした。ドイツではたくさん交流したかったことと、生物が好きなのでいろいろなことを学びたいと思いました。
▶︎Aさん
―楽しかったことや印象に残ったことを教えてください。
Aさん 日本人は初めての人と話すときに恥ずかしがってしまうけれど、ドイツではホストファミリーもケーテコルビッツの生徒も、気軽に話しかけてくれます。なので、こちらも話しやすく、会話をするのが楽しかったです。印象的だったのは、体育の授業。バレーボールをしたのですが、日本ではフォームを学ぶことから始めるけれど、ドイツでは、「ぼくらはプロじゃないから」とすぐに試合に入ります。カタチよりもチームワークを優先しているように感じました。あと、シュベリーンの城がとても美しく、ドイツは古い建物や街並みを大事に保存していることが良いなと思いました。
Nさん ドイツの生徒は授業に対する意識や意欲が高いと感じました。体育では、運動が苦手な生徒も一生懸命にやっていましたし、できる人が教えてあげるなど、そういうシンプルなことも自然に行われていました。ぼくは音楽や洋服が好きで、ホストブラザーも共通の趣味を持っていたので、すぐに打ち解けて仲良くなりました。印象に残ったのは、ドイツは難民の受け入れ国でもあり、多様なバックグラウンドを持つ人が共に生活していたことです。
Iさん ケーテコルビッツ校にはウクライナから避難してきた学生もいました。話を聞く場も設けられましたが、ドイツに来るまでの話がしづらそうで、こちらも踏み込んだ質問をしないように気を遣いました。向こうでは英語の授業を受けたのですが、自分の名前の中のアルファベットから形容詞を使って自己紹介をしました。そうすることで語彙が増え、自分のことも詳しく話せました。生物教育園ではトマトの学びが興味深く、種類分けのゲームを通じて人間が品種改良をしてきたことを教わり、そうした実用的な話も面白かったです。
▶︎ケーテコルヴィッツ校にてウクライナの学生と交流
▶︎Iさん
―ドイツで新たに気づいたことや、学んだことを日本で活かしたいと思ったことはありますか?
Aさん ドイツにはさまざまな国の人がいるので、ドイツ人、外国人といった区別がないことに気づきました。また、自分の考えを堂々と話し、授業でも発言をしない人はいません。学校で政治家の話を聞く機会があり、ぼくのホストブラザーは脱原発について、突っ込んだ質問をしたり、「原子力のリスクを知った上で研究を進め、それを超えるものを作り出すほうが現実的ではないか」と意見を述べたりしていました。
ドイツで学んだことは、人の意見を聞くことの大切さです。ぼくは文化祭実行委員をしていて、ドイツに行くまでは高2中心で準備をしていたのですが、帰国後は後輩にも積極的に意見を求めるようにしました。そのことが、成功につながったと感じています。
Nさん 日本には遠慮の文化があり、その概念を無意識に持っていると思っていました。でもドイツに行って、自分が意識して壁を作っていることに気づきました。向こうでは最初から人と人の壁がなく、フレンドリーな接し方が自分には心地がよかったです。一方で、ちょっと引く文化も良いところがあり、ドイツから客観視することで、日本の良さも再認識できました。また、いろいろな人が自分に興味を持って話しかけてくれたので、自分の存在意義を感じることができました。
そして旅を通して、仲間との絆が生まれ、帰りの飛行機では隣の中学3年生と深い話をしました。前よりも他者との壁を作らないようになったかなと思います。
Iさん 自分は思い込みが激しく、人も第一印象で判断しがちでしたが、コミュニケーションをとって初めてわかることがあることを、ドイツで経験しました。また、ドイツは人と人との距離が近く、ホストマザーも自分のことを、一人の大人として接してくれました。話を聞くときも、「どんな考えで、どういうことをしたの?」といった尋ね方をします。質問に答えることで新たに気づくことや、自分の考えも整理できることがわかりました。このような対話をこれからの生活でも活かしていきたいです。
▶︎Nさん
―今後、やりたいことや進路について教えてください。
Aさん 獨協大学に進学して、ドイツに留学したいです。英語、ドイツ語のトリリンガルを活かせる仕事に就きたいと思っています。
Nさん ヨーロッパのアートに興味があるので、ドイツかイギリスに留学をしてみたいです。将来は、アーティストなど表現をすることをしたいです。
Iさん 自分は理系なのですが、実は一番好きなのは歴史だと気づきました。ドイツの人たちを見て好きなことを極めたいと思うようになり、大学では史学(世界史)を学ぼうと考えています。
<取材の補足と感想>
ドイツスタディーツアーの最初の地、ハノーファでは、生物教育園のヨルク先生が一行を出迎え、1人ひとりに花を配って歓迎の意を示してくれたそうだ。「こうした関係性は塩瀬先生が長年にわたって築いてくれたものです。ヨルク先生やケーテコルビッツ校とのつながりを、この先も継続していくことが大事です」と間嶋先生は言う。獨協独自のドイツスタディーツアーは、環境教育や現地の人との交流にとどまらない、信頼関係のもとに作られたものであると強く感じた。
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