スクール特集(東京都市大学付属中学校の特色のある教育 #5)
1年生チームが「クエストカップ」全国大会に出場し、探究の面白さを体感!
2023年2月に開催された「クエストカップ2023」全国大会に、東京都市大学付属中学校の1年生チームが出場。チームのメンバー4人と学年主任の先生に話を聞いた。
東京都市大学付属中学校では、実践を通じて情報表現力や問題解決力を身につける「探究型」の授業として、10年以上前から「クエストエデュケーションプログラム」に取り組んできた。2022年度は中1でこの取り組みを行い、その中で1チームが「クエストカップ2023」全国大会へ進出。2023年2月に開催された「クエストカップ2023」でのプレゼンを終えた中1チームのメンバー4人と、彼らの練習や準備を見守ってきた大鐘宏和先生(学年主任)に話を聞いた。
中1が取り組んだ「クエストエデュケーションプログラム」
同校では10年以上前から、情報の授業(高1)で「クエストエデュケーションプログラム」(探究学習プログラム)に取り組んできた。企業から出される課題についてグループで意見を出し合い、1つの企画を提案してプレゼンテーションを行うという、アクティブラーニングを取り入れた探究型の授業だ。しかし、2025年1月に実施される大学入学共通テストから新科目として「情報」が加わることなどを受けて、カリキュラムが変更となった。そのため、情報の授業では「クエストエデュケーションプログラム」に取り組まないことになったが、2022年度は中1の生徒たちがこのプログラムに取り組んだと、大鐘先生は説明する。
「コロナの影響もあり、ここ数年は全国大会がZoomでの開催となっていますが、以前は大きな会場で、大勢の人を前にしてプレゼンを行っていました。私は法政大学で開催された全国大会を取材したことがあったのですが、100校以上の学校が集まる大会はなかなか経験できるものではないので、その臨場感をぜひ生徒たちにも体感させたいとずっと思っていたのです。中学生には難しいとも思いましたが、頑張って発表できたらきっとよい経験になるでしょう。そのような思いもあり、今年度は中1の家庭科で取り組んでみることにしました」(大鐘先生)
中1は学年全体でこのプログラムに取り組み、文化祭で中間発表を行った。各班でスライドを作り、校内のホールで大きなスクリーンを使って発表したという。
「保護者の方たちにも見ていただけるように、文化祭で中間発表を行いました。どの企業のミッションも難しかったですが、中1だからこそのアイデアや、大人だと思いつかないような企画が出てきます。難しい課題に対しても、彼らの目線でいろいろな気づきがあることがわかりました。中間発表では、班ごとにPowerPointでスライドを作ってスクリーンで発表することになったのですが、どの班にも必ずPowerPointを使える生徒がいました。内容は中1でできる範囲のことですが、発表の内容に添ったスライドができていて、それに合わせて班員がステージ上で説明できたのです。思っていた以上の発表ができていて、この年頃からPowerPointなども扱えることが普通になっていて驚きました」(大鐘先生)
中1の全クラスで取り組み、全部で42チームが「クエストカップ2023」に応募した。その中で、1チームが全国大会へ進出。ほとんどが高校生という中で、中学1年生も堂々と発表できていたと、大鐘先生は振り返る。
「準備の様子から見ていましたが、練習するごとにうまくなっていって、本番が一番よかったです。4人それぞれ、本番でとてもよい発表をしていました。授業だけでは、そういった姿は見られないので、よい経験になったと思います。今後、クエストエデュケーションをどのような形で取り入れるかはまだ決まっていませんが、中1で取り組んだ子たちが、高2や高3になって再度取り組んでみるのも面白いかもしれません」(大鐘先生)
▶︎大鐘宏和先生(学年主任)
全国大会進出チームのメンバー4人にインタビュー
「クエストカップ」は、探究学習プログラム「クエストエデュケーション」に取り組んできた全国の中高生が、成果を社会に発信する祭典である。同校の生徒たちが応募した企業探究部門の「コーポレートアクセス」は、参画企業のミッション(課題)から生み出した企画を提案。今回全国大会に進出したチームは、家具・産業用機器等の製造を主な業務とする大手メーカー「オカムラ」のミッションに関する提案を行った。
ミッション:多様な人の「人間の本気」を引き出す空間革命を提案せよ!
作品名:オカムランでMAKE A DIFFERENCE
AI「オカムラン」は、心拍数や体温などからストレスを察知して、ICカードサイズの液晶画面にストレスレベルを1~5で表示。ストレスレベルが一定以上になると、本人に代わって管理職や家族など、自分が設定した人に通知できるようにする。専用アプリでは、ストレスレベルの週間レポート作成、ミュートのオン・オフ機能、ストレスレベルの設定、警戒音の鳴るレベルの設定、通知する相手の設定などを行う。
▶︎写真左より:Hさん、Nさん、Aさん、Sさん、大鐘先生
チーム名:僕らの岡村
Hさん(中1)
Nさん(中1)
Aさん(中1)
Sさん(中1)
――今回のミッションをどのように解釈しましたか?
Hさん まず「多様な人」を社員全般と限定して、社員の本気を引き出すためにはどうすればいいか考えました。
Sさん 社員と限定した後に、本気を引き出すためにはいい体調といい環境が必要と考えて、社員がよい環境で万全の状態で働くために役立つものを考えました。
――具体的には、どのように提案を考えていきましたか?
Aさん まずは、オカムランをどのような形状にするかと、役割について考えました。オカムラはオフィス用の家具などを作っている会社なので、最初に考えたのは机に埋め込むタイプです。そこからより便利になるように考えて、持ち運びしやすいICカードホルダー型になりました。
Hさん ストレスの「見える化」についても考えました。全部見えてしまうと、プライバシーの問題があります。ですから、病院に行く必要があるストレスレベル5は全員表示させることにして、1から4は表示させるかどうかを各自が設定できるようにしました。
Aさん 最初はアプリまでは作らない方向で考えていましたが、より便利にするためにアプリの開発も提案することにしました。
Hさん 個人によってストレスレベルが違うので、アプリのアンケートを通してその人がどの程度でストレスを感じるかをAIが学習して、それをもとにストレスレベルを出します。
Sさん 本体では、脈や体温などを体から読み取って、それとアプリの情報を合わせてストレスレベルのデータを出していくという仕組みです。
Aさん ストレスについては必ず個人差が生じるので、それを加味しないとこの企画は成立しないと思いました。
――発表はどのように準備しましたか?
Aさん 僕がスライドを作って、原稿は他のメンバーに任せました。その後で、スライドと原稿を合わせる作業をしました。
Sさん 大変だったのは、それぞれ部活がちがうので、活動時間が合わなかったかったことです。最初は家庭科の授業で取り組んでいましたが、全国大会に出場することになったので、放課後にも集まり、家でも作業を進めていきました。直前にかなり頑張って、なんとか間に合わせることができました。
――当日は、どのような気持ちで発表しましたか?
Aさん 自分たちの前に高校生の発表を見て、高校生たちはレベルが高いと感じました。自分たちの発表が終わってからは、大丈夫だったかなとか、失敗しなかったかなとか、怖さと緊張感が混ざったような感じでした。そのような気持ちは、今まで感じたことがなかったです。
Hさん 僕は、思っていたより高校生のクオリティが高くないなと感じました。自分たちは中1なので、高校生はどれだけすごいのかと想像していたのですが、自分が思っていたほど差は感じなかったんです。だからあまり緊張せずに、堂々とできました。
Nさん すごい経験ができたと感じましたし、いろいろなことを学べたなと思っています。
Sさん 高校生の発表を見て、自分たちももう少し頑張っておけば、もっと近づけたかなと思って少し後悔しました。
――「クエストカップ」に挑戦したことで、どんなことが身についたと思いますか?
Nさん 原稿の書き方なども先生から指導してもらえて、話し方については声のトーンなど、どのようにすればより伝わるか学べました。
Aさん 探究力です。最初の頃は、あまり深く潜り込まない性格だったんですが、「クエストカップ」の課題に取り組むようになり、こんなに奥まで調べないといけないのかという気づきがありました。
Hさん 原稿を作るときに、説明の順番などをいろいろと試行錯誤しました。相手にわかりやすく伝えるためにはどうすればいいか、話し合いを繰り返してできあがったので、その中でいろいろな学びがあったと思います。
Sさん 緊張すると人は早口になるので、ゆっくり話そうと意識しましたが、どうしても早くなってしまいがちです。本番ではできるだけペースダウンして、いつも通りにできるように頑張りました。
Aさん 発表の制限時間は10分でしたが、6分半から7分半に収めると加点があります。本番では7分2秒で収めることができ、加点ももらえました。
――チームでの活動で、気づいたことはありますか?
Hさん A君が、あんなにプレゼンがうまいとは知りませんでした。僕よりずっとうまかったです。
Nさん 分担が大事だと思いました。僕たちのチームは、3人が発表して、1人がPowerPointの操作をしました。それぞれが原稿を読む練習やPowerPointの操作練習というように、 分担することで得意なことが活かせたと思います。
Aさん 大胆な人もいれば、心配性な人もいたりして、それぞれの個性が見られました。
Sさん N君は、普段は静かな人という印象でしたが、発表では大きな声で自分を出せていました。チームで活動することで、今まで知らなかった面も知ることができたと思います。
――帰国生が多い学校ですが、海外経験はありますか?
Nさん アメリカのワシントンD.C.に、小2~小5の始めぐらいまでいました。
Aさん アメリカのサンディエゴに、2歳~小4ぐらいまでいました。今も、英語の方が言葉は出てきやすいです。アメリカの中でも地域によってアクセントが違ったりするので、帰国生同士でそのような違いを感じることもあります。
Sさん 小2の夏から小3ぐらいまではオマーン、その後中1の4月までイギリスのロンドンにいました。周りに帰国生が多いので話や趣味が合いやすいこともあり、クラスには馴染みやすかったです。一般生から英語の読み方などを聞かれることもあるので、教えることもあります。
Hさん 僕は海外経験が全くないので、帰国生の発音は何を言っているかわからないことも多いです。聞いていてすごいなと思いますし、英語でわからないことがあると教えてもらうこともあります。
――この学校のいいなと思うところを教えてください。
Nさん マルチメディア研究部など、他の学校にない部活もあり、部活の種類が多いのがいいところだと思います。僕は将棋部に所属していますが、技術面では少しずつ伸びてきました。生徒たちのよさは、元気があふれているところです。
Hさん 校舎がきれいです。僕はサッカー部に所属しています。厳しいところもありますが、サッカー部はきちんと挨拶できていると他の部の先生から言ってもらえたので、厳しさの中でちゃんと身についていたのだと思いました。
Aさん 僕は柔道部ですが、部活ではいろいろな学年の人と触れあえて、よりよい関係性を作っていけるところがいいなと思います。先輩たちからアドバイスなどをもらって、成長できているなと感じています。
Sさん 僕はバスケ部に入っています。厳しい面もありますが、同じ学年みんなで頑張っています。この学校は勉強が好きな子が多いと感じるので、僕も負けたくないと思って頑張っています。
――将来については、どのように考えていますか?
Nさん 今回のことでプレゼン技術が磨けたので、プレゼンの準備などで学んだことを発揮できる職業につきたいと思っています。
Aさん 今回新しいアイデア考えるという経験から、新しいものをさらに深く考えていく エンジニアなどになりたいと思うようになりました。
Sさん 新しくものを作ることが楽しかったので、大人になったら新しいものを作って世の中の人に送り届けて、人々の生活がよりよくなるようにできたらいいなと思っています。
Hさん 僕も、エンジニアなどになって、「AIオカムラン」みたいな画期的な発明をしてみたいです。
<取材を終えて>
「クエストカップ2023」の公式サイトで、各チームが行ったプレゼンの様子を見ることができる。高校生が多い中で、彼らは中1とは思えないほど堂々とプレゼンを行っていた。全国大会に向けて準備を進める中で、チームワークや探究の面白さを感じられたことは、今後のさらなる成長につながるだろう。今回の経験が、将来へのよい刺激となっていることが印象的だった。