スクール特集(東京都市大学付属中学校の特色のある教育 #4)
帰国生と一般生が助け合い高め合う、日常生活からのグローバル化
全学年、6分の1が帰国生という東京都市大学付属中学校。帰国生と一般生が日常生活の中で刺激し合う、「内なる国際化」とは?
東京都市大学付属中学校では、2014年度から帰国生入試を導入。近年は毎年40~50名の帰国生が入学しており、6人に1人が帰国生という割合を維持している。帰国生を一般生と同じクラスで受け入れている同校では、新型コロナウイルスの影響で海外渡航が制限された状況でも、生徒たちは日常生活の中で国際感覚を身につけることができている。帰国生と一般生が刺激し合う「内なる国際化」について、国際部主幹教諭の松尾浩二先生、中2の帰国生とクラスメイトに話を聞いた。
帰国生と一般生が混在する教室で「多様性」を実感
1学年の生徒数が250人前後という同校で、2022年度の新入生のうち60人が帰国生。中1から高3まで約250人の帰国生が在籍し、すべての学年で6分の1が帰国生という割合が保たれていることに大きな意味があると松尾先生は説明する。
「グローバル化というと、こちらから海外へ行ってホームステイをしたり、海外研修を行うというベクトルが頭に浮かぶと思いますが、それだけでは一時の経験や思い出だけになってしまいがちです。そういった経験にプラスして、日常の学校生活からも、グローバル化する必要があると考え始めたのが10年ほど前のこと。海外経験が1年以上ある帰国生を一定数受け入れて、日常生活の中で多様性を感じ、刺激し合う環境を作るという目的で帰国生入試を導入しました」(松尾先生)
日本の食文化や服装など、日本で生活してきた生徒にとっては当たり前のことでも、帰国生にはピンとこないことも多い。そのようなとき、同校では自然と周りの生徒がフォローしている様子が見られるという。
「帰国生は海外で貴重な経験をしてきていますが、その分、日本で生活をしていない期間があります。生活習慣や算数・理科・社会など、日本で学んでいない部分は弱くなりがちです。本校では、そのような部分を一般生が帰国生に教えてあげるという関係性も非常にうまくいっています。その姿は、今の日本に求められていることと重なります。日本で暮らす外国人が困っているときに、周囲が何をすればよいか、本校の生徒たちは中学生のうちから自然と身につけることができているのです。全体の6分の1が帰国生であるという環境だからこそ実現できる、『内なる国際化』だと思います」(松尾先生)
▶︎国際部主幹教諭の松尾浩二先生
海外生活で培った英語力をさらに伸ばし、大学受験に対応
同校では、帰国生を一般生と同じクラスで受け入れているが、英語の授業に関しては取り出し授業を行っている。週7時間あるうちの4時間はネイティブ教員による取り出し授業を行い、これまでに身につけた英語力の維持と向上を目指す。
「海外で生活して身につけた英語のスキルが、帰国後に落ちてしまうことに不安を抱く保護者や生徒も多いと思います。そこで本校では、中1から高1までは、週4時間はレギュラーの授業でオールイングリッシュの環境を整えました。取り出し授業を高1までとしているのは、残りの2年間は大学受験を見据えて、日本の大学入試に備えた勉強に切り替えるからです。様々な資格試験の準備と同様に、合格するためには、その試験に沿った勉強をする必要があります」(松尾先生)
帰国生入試で入学した生徒は入学後の伸びも大きく、例えば2期生(21名)は、東大(2名)、京大、東京外大、早稲田、慶應、上智などの難関大学に進学した生徒が多いという。
「海外生活を経験して入学してくる生徒は、潜在能力がものすごくあると感じています。日本にいれば日本人はマジョリティ。しかし、海外ではマイノリティです。そんな環境で暮らしてきた帰国生は、非常に広い視野を持った子が多いです。小学校までに日本で学べなかった国語・理科・社会は、中学校に入学してからでも十分追いつけますし、日本の大学入試は、英語が強いことは大きなアドバンテージになります。国語力に関しては、帰国生のための特別補習を週1回、国語科の教員が放課後に実施。4月に日本語能力試験の過去問で実力をはかって、通常の授業では恥ずかしくて聞けないような基本的なことにも対応しています」(松尾先生)
帰国生に刺激されて広がる一般生の「世界」
一般生にとっても、帰国生は大きな刺激となっている。例えば、海外研修に対するモチベーション。中3の3学期に実施するニュージーランドへターム留学(任意)への参加を希望する生徒は、ほとんどが一般生だという。
「参加を希望する生徒には、夏に三者面談を行い、保護者の希望ではなく、本当に自分が行きたいと思っているのかを確認しています。生徒に話を聞くと、周りにたくさん帰国生がいるので、日頃から海外の話をよく耳にしており、憧れや自分も体験してみたいという気持ちが自然と芽生えてくるようです。研修を終えて帰国した生徒たちは、語学も伸びますが、それ以上に様々な面で自信がついたことが感じとれます。保護者からは、『行く前は家庭で一言二言しか話さなかったのに、積極的に話すようになり、身のまわりのことを自分でやるようにもなりました』などという話をよく聞きます。英語を学ぶこと以外にも、大きな成長があるのです」(松尾先生)
通常の授業でも、帰国生が過ごしてきた国の情報などを得る機会は多い。例えば、地理の授業では、地図帳から気になったことや興味を持ったことを取り上げ、5分程度のスピーチに取り組む時間を設けている。そこで帰国生が発表する内容は、新聞や教科書には載っていないことも多いという。中1の家庭科では、新聞への投書に取り組んでいる。生活の中からテーマを決め、経験や学習内容を踏まえた原稿を新聞社に送り、実際に何人か掲載された。オーストラリアでのフルーツタイム、インドネシアのハラール料理など、帰国生ならではの視点は、一般生にもよい刺激になっている。
「帰国生入試を開始したときに、帰国生が一定数いるという環境を維持することが重要だと考えました。英語が堪能な帰国生でも、周りが一般生ばかりだと使いたがらないという話もよく聞きます。6分の1もいると、休み時間に帰国生同士が自然と英語で話しており、それが帰国生たちのストレス発散にもなっているのです。そのような環境だからこそ、帰国生はためらうことなく自分たちの経験を語り、一般生も学校内で多様性を感じることができるのだと思います」(松尾先生)
中2の帰国生とクラスメイトにインタビュー
▶︎写真左より:松尾先生、Aさん、Kさん、Iさん
Kさん (中2 帰国生)
Iさん (中2 一般生)
Aさん (中2 一般生)
――海外での生活について教えてください。
Kさん 2歳から6歳までは上海、6歳から10歳までは台湾で暮らしていました。台湾ではインターナショナルスクールに通い、学校で使う言語は英語です。家では日本語を使うようにして、通信教育で漢字などを勉強して、帰国してからは、公立の小学校に通いました。
――この学校を志望した理由を教えてください。
Kさん 帰国生だけで独立したクラスを作るという学校もありましたが、この学校は、普段は一般生と混ざっていて、英語のみ取り出し授業があるというのがいいなと思いました。これから日本人として日本で生活するために、日本で生活してきた人たちと接しながら、日本に馴染んでいきたいという気持ちが強かったです。
――Kさんの印象について教えてください。
Iさん 僕もKさんも吹奏楽部に入っているので、中1のときから一緒に活動しています。Kさんは積極的に声をかけてくれて、とてもフレンドリーだと感じました。まじめで、いろいろなことに協力してくれます。
Kさん そのような印象を持ってもらえたことは、台湾での経験が影響していると思います。台湾ではみんな、積極的に自己表現していましたが、日本では全然違うと感じました。
Aさん 僕はテニス部に入っていて、部活の友達がKさんと同じ小学校だったことがきっかけで僕も仲良くなりました。遊びの計画や予約などをしてくれて、とてもしっかりしていると感じています。筋の通った自分の意見を、しっかりと口に出せるのがすごいなと思います。
Iさん 僕たちが思いこんだり決めつけたりしているようなことがあると、いつも「それ固定観念だから」とツッコミを入れてくれます(笑)。広い視野で見られることも、すごいと思います。
Kさん 日常的な会話の中での、お決まりのやりとりのような感じです(笑)。一面だけを見て決めつけるのではなく、他の面もあるのだから、そこも見た方がいいと思っています。
――英語以外の勉強で、たいへんだと感じることはありますか?
Kさん 理科と社会は、今まで学んできたことと全く違います。例えば、歴史はアメリカの教材でアメリカ史を学んでいたので、日本史はまったくわからない状態で入学しました。苦労することもたくさんありますが、友達がいろいろと教えてくれます。
Iさん 逆に、僕は英語が初心者なので、英語をKさんに教えてもらって、歴史は教えてあげたりして、教え合えるのでお互いに高めていくことができます。
――英語の取り出し授業はどのように行っていますか?
Kさん 取り出し授業では、常に英語で話して、テキストもすべて英語で書かれたものを使っているので、英語力の維持だけでなく向上も実感しています。取り出し授業のクラスは10人ぐらい*なので、ネイティブの先生とも英語で思いっきり話すことができます。日常生活では日本語しか話さないので、そのような場があると気分も変わります。
*取り出し授業の希望者は各学年30人ほどいるが、3つに分けて10人ぐらいで行われる。
――オールイングリッシュの授業では、興味なども変わりますか?
Kさん 日本語で読むのと英語で読むのでは、興味や関心が変わります。授業では、ニュースの記事や説明文を読んだり、小説を読んだりしますが、元が英語の文章は、翻訳したものより英語で読んだ方がわかりやすいです。
――この学校のいいなと思うところを教えてください。
Aさん 僕は小学生の頃から朝の挨拶が好きでしたが、この学校に初めて見学に来たときに、みんなが挨拶をしてくれたことが印象に残っています。
Kさん 実験や技術、体育など、自分から参加するような授業が多いのもいいなと思います。
Iさん 紙の上の勉強だけでなく、社会に出たときのことまで考えてくれているので、役に立つことが多いです。例えば、弁論大会は、いろいろな人の意見を聞く機会にもなり、自分で調べて発表することは、会社でプレゼンするときの練習にもなると思います。
――弁論大会では、どのような発表をしましたか?
Iさん 僕は、隙間時間の有効な使い方について発表しました。電車を待っている時間などを使って、勉強しようとする人もいると思いますが、現代人は忙しいので隙間時間は短いです。騒音もあって集中できる環境でもないので、隙間時間ぐらいはボーっとしてリラックスした方が、その後の集中力が高まると思います。
Kさん 僕が印象に残っているのは、人種のサラダボウル論をテーマにした帰国生の発表です。英検を例に挙げ、帰国生が受かっても「当たり前」と思われてしまうというのが、帰国生ならではの経験だと感じました。
Aさん 憲法9条について、アメリカに守ってもらうだけでなく、自分たちでも守るために軍を用意した方がいいのではないかという発表をした帰国生もいました。
――休み時間には、どんなことをしていますか?
Kさん ずっとおしゃべりをしています(笑)。宿題のこととか遊びのこと、ゲームのことなど、たわいもない話が楽しいです。
Iさん テレビやドラマの話をよくします。YouTubeを見る人も多いですが、僕たちはテレビが好きです。
Aさん 僕も、ゲームの攻略法やお勧めのアニメなどについて話すのが楽しいです。
――将来の夢や目標を教えてください。
Kさん AIに仕事を奪われるかもしれないと言われているので、逆にAIを作る側など、これから必要になる仕事をしたいと思っています。
Aさん 人と話すのが好きなので、人と接する仕事に就きたいです。
Iさん 勉強が好きなので、教員になりたいです。今はまだ英語は全然できませんが、実用的な英語を学んで、英語の先生になりたいと思っています。帰国生が話している英語と教科書の英語は、違うことも多いです。帰国生に聞いてみると、「この表現はあんまり使わない」などと教えてくれます。帰国生は発音も全然違うので、もっと英語を話す機会も増やしたいです。
<取材を終えて>
「内なる国際化」は、帰国生が1学年に数人という割合ではなく、6分の1いるからこそ実現できることである。一般生は帰国生の英語力や海外経験などに憧れを抱き、一方で、日本の生活に慣れていない部分はフォローするという気持ちが自然に芽生えている。インタビューをした3人からも、お互いを認め合い、高め合うよい関係が築けていることが伝わってきた。