スクール特集(東京成徳大学中学校の特色のある教育 #3)
ゼミ活動、実地踏査型研修旅行…、独自の探究学習で“自分を拓く”力を育成
東京成徳大学中学・高等学校は、自ら考え、行動し、創る力を備えた人材を育成するために、様々な先進的な教育を実践。その1つ、学校が独自に展開している探究学習を取材した。
同校は、めまぐるしく変化する現代社会を生き抜くために、「創造性」「主体性」「チャレンジ精神」を備えた“Distinguished Learner(自律した学習者)”の育成を目指し、「未来を見据え、世界を知る、自分を拓く」をモットーとした教育に取り組んでいる。今回は「自分を拓く」教育に焦点を当て、同校が実践するオリジナルの探究型学習プログラムについて、教務部課長である福島祥雅先生(社会科)に話を聞いた。
自学の力や進路を拓く力を養う探究型学習プログラム
2022年度、文部科学省の学習指導要領改訂により、高等学校に「総合的な探究の時間」が導入された。同校はそれ以前から、週2時間の「総合探究」を4、5年生のカリキュラムに組み、独自のプログラムに取り組んでいる。
最初に福島先生は、「自分を拓く」教育の流れをこう話す。
「中学3年間は、能動的な授業や課外学習の体験などを通じて、主体的に考えたり行動する力を養います。また、本校は2年生でセブ島短期語学留学、3年生ではニュージーランド・ターム留学(選択制)などを用意しており、生徒は“世界を知る”ことで視野を広げていきます。高校にあがり4、5年生は、世界の広さや多様な価値観を理解したうえで、将来、自分はどんなことで社会貢献ができるのかを考え、6年生はその進路の実現を目指します。中高6年間で主体的に学ぶ力を身につけ、自分の未来を自分の力で切り拓く。その手段の1つが、探究型学習プログラムなのです」
同プログラムは、4年次に「Diversity Seminar(ダイバーシティ・ゼミナール)」を開講し、生徒は自分の意思でゼミを選択、1年かけてグループで課題や創作に取り組む。5年生になると自分でテーマを決めて個人研究を行う。仮説の調査やデータの裏付けをとるために、「実地踏査型研修旅行」を実施し、自分なりに結論を考察して、最後は論文にまとめる。
▶︎教務部課長 福島祥雅先生(社会科)
生徒が選択し、主体的に活動する「Diversity Seminar」
福島先生は、「Diversity Seminar」を設置した経緯として、「中学過程で広げた視野を、高校では1つのテーマで深く掘り下げてほしいと考えました」と語る。ゼミは、「人と自然の関わり」「もったいないをサイエンスしよう」「美味しい珈琲を淹れよう」「芸術文化の可能性を探ってみよう」「SDGsと社会貢献」「医療従事者への道」「アプリを開発」などと、多岐にわたる専門分野で構成されている。
<ゼミの活動例>
・人と自然の関わり…自然環境の現状と保護活動の実態について、尾瀬や谷津干潟、奥多摩白丸ダムなどの現地調査も行いながら、人間の営みと自然環境保護との両立の可能性を探り、発信する。
・もったいないをサイエンスしよう…学生食堂の残飯を回収して堆肥を製造し、その堆肥を使って作物を育てるプロジェクト。リサイクルシステムや食品ロス削減の可能性を探る。
・美味しい珈琲を淹れよう…コーヒーの焙煎時間などを計測してデータを作成し、美味しい珈琲の淹れ方を研究。並行してコーヒー豆の産地の状況や流通の事情など、グローバルな課題も考察する。
・芸術文化の可能性を探ってみよう…世界にあふれている多種多様な芸術の中から、それぞれの興味関心に従って、芸術×数学、芸術×SDGsなど、芸術×○○を探して研究。実際に創作したり、実演してみることで芸術の可能性を広げる。
・SDGsと社会貢献…SDGsをテーマに社会課題を理解し、自分たちができる社会貢献を考え、プロジェクトとして実践。外部コンテスト「SAGE JAPAN」に参加して、発表も行う。
・医療従事者への道…医療現場の実習やケーススタディを通じて、医療系のキャリアガイダンスを実施するとともに、人が支え合うことによって社会が成り立っている世の中のシステムについて考察する。
ゼミは最初に、各担当の先生が活動内容についてプレゼンを行う。生徒はそれを聞いて、一通り予備履修をした後、興味のあるゼミを選択。ゼミは基本的に第一希望で決定される。
「担当の教員も『こんなテーマで一緒に学ばないか』というスタンスなので、自身も楽しみながら活動しています。また教員は、調査の仕方や仮説の立て方などの指導やアドバイスはするものの、原則、生徒が主体となって活動します。メンバーで協働して課題を解決したり、創作するなかで、自分で学ぶための学び方を習得し、5年生の個人研究に向けて下地作りをしていきます」と福島先生は説明する。
研究テーマに沿って調査を行う「実地踏査型研修旅行」
5年生になると、いよいよ個人で自由研究に取り組む。約2か月かけて研究のテーマを設定し、テーマが決まると調査を開始。インタビューのアポイントなども生徒自身で行う。
福島先生によると、「8~9人の生徒に1人の教員がつきます。メンバー同士でテーマや進度を共有し、教員は研究方法をレクチャーしたり、『こういう人に話を聞いてみたらどうだろうか』などと個人的なアドバイスもします。そして2月の『実地踏査型研修旅行』では、各自が設定した課題や仮説を調査します」と話す。
「旅行の拠点は、その学年の研究テーマで変わります。昨年度は京都と沖縄でした。過去に、北海道や福岡が拠点になった年もあります。京都では、寺社の建築、関西と関東の味噌の違い、日本神話、日本茶などの研究や、ガラス玉に興味のある生徒が工房を訪ねたり、動物の殺処分について保護団体の人から話を聞いたりしました。沖縄は、海の生物や水質、マイクロプラスチック問題、戦争と平和などのテーマが対象となりました」
実地踏査も生徒だけで行い、福島先生が同行した京都では、3人でグループを作り、伊勢市や神戸市まで足を延ばしたグループもあったという。「他の生徒の研究や調査の手法を知ることも大切なので、グループ行動をとりました。調査方法は行程を含め、生徒の裁量に任せています。旅行後は、調査データをもとに結論を考察し、約8,000字(原稿用紙20枚)以上のレポートを作成します。生徒の多くが20,000字くらいの論文を書いていますね」と福島先生。
実地踏査型研修旅行で沖縄へ
個人研究の経験が進路を選ぶ力や社会で活躍する力に
このように同校では、「Diversity Seminar」や「実地踏査型研修旅行」を導入した探究学習を実践している。特に5年生の1年間に及ぶ個人研究は、主体的な学びの総仕上げであり、「自分の力でやり切ったという経験は自信につながります。研究テーマが直接、進路に結びつくことはなくても、自分の学び方を知ったうえで興味を深め、探究し続けることは、進路を選ぶ力として活かされます」と福島先生は言う。
「また、自分で決めたことに覚悟と責任を持ち、トライアンドエラーをしながら課題を解決することは、社会に出た時も必要とされます。私たちは大学進学をゴールにするのではなく、社会人として羽ばたくことを見据えており、2年間の探究学習は将来像を含めたプログラムになっています」
実際には、個人研究の論文を総合型選抜に応用し、進路を切り拓いた生徒もいる。ある生徒は、3年生でニュージーランド・ターム留学を経験し、4年生はSDGsと社会貢献のゼミに所属、5年生の個人研究ではLGBTの問題に取り組み、卒業後は東京外国語大学に進学。外交官になって社会貢献をするのが目標だそうだ。また、大学側から、「東京成徳の卒業生は高い意識をもってゼミに参加している」といった声も多く寄せられているという。
探究学習について、福島先生は「今は課題について調べ、結論を出すところで終わっていますが、ゆくゆくは団体や自治体などと一緒に社会問題を解決したり、共同開発したりするところまでもっていけたら良いですね」と抱負を語る。
独自のプログラムは、この先もブラッシュアップをしながら発展をしていくことだろう。
【取材を終えて】
「Diversity Seminar」は、生徒の第1希望でゼミを選択できることや「実地踏査型研修旅行」も生徒の研究テーマに合わせて場所を決め、調査も生徒に任せるなど、学校が「主体的な学び」の環境作りに本気で取り組んでいる印象を受けた。また、先生がやりたいことをプログラム化し、大人が楽しく活動していることが子どもにも伝わり、自ら学びたくなるという良いサイクルができている。今年度、同校の受験者数は80%近く増加したそうだが、こうした教育環境が魅力となっているのだろう。