私立中学

女子校

じょしびじゅつだいがくふぞく

女子美術大学付属中学校

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デジタルパンフレット

スクール特集(女子美術大学付属中学校の特色のある教育 #9)

修学旅行が進化! 広島・倉敷・直島で「平和教育とアートの旅」

女子美術大学付属中学校の修学旅行は、2024年度から行き先を変更。5月に実施した「平和教育とアートの旅」について取材した。

平和教育とアートの旅

同校ではこれまで、教育理念に基づいた明確なコンセプトにより中学・高校ともに修学旅行は京都・奈良で日本美術を鑑賞することとなっていた。日本の古都における文化財に触れることで、文化や美術表現の多様性を意識し、それを美術学習に活かすことが目的である。高校では、通常の拝観ではなく、女子美生のために特別な鑑賞方法や解説が用意され、同校の生徒だからこそ体験できるプログラムとなっていることが大きな特徴だ。一方、中学では法隆寺や東大寺、金閣寺、清水寺など、世界遺産的な寺院を中心とした見学先が選定されていた。中学の修学旅行では、平和教育も絡めつつ、アートにも触れられる機会を作れるように、より女子美らしい修学旅行を検討した結果、広島・倉敷・直島を訪れる新しいプログラムが誕生したという。

「中学の修学旅行は、5月に3泊4日で実施します。行き先を変更することは数年前に決まっていたのですが、コロナの影響があり今年度からのスタートとなりました。平和学習については、中2からしっかりと事前学習を行ってから現地へ行きます。今回の中3は、中2の冬休みに広島の平和記念資料館が作っている平和学習用の冊子を配って、章ごとに感想を書いて班のメンバーでシェアすることから始めました。グループワークでは、被爆地広島に本社を置く中国新聞の記事を読んで、戦時中の食事、ゴジラと戦争との関係、2歳のときに被爆して12歳で亡くなった佐々木禎子さんと千羽鶴に関する記事など、それぞれが興味を持ったテーマについて調べて発表することも行っています。『描けなかった2枚の絵 原爆が投下された日の記憶』というドキュメンタリーを見て、感想をシェアすることもしました。外国人観光客らに英語で被爆証言を語っていた女性が、当時の状況を自身で描いた13枚の絵を使っていたのですが、どうしても自分で描けなかった絵があり、それを広島の高校生が悩みながらも完成させたという話です」(吉田先生)

中高と大学の連携により、女子美術大学芸術学部の教授による講演を聞く機会も得たという。グラフィックデザイナーとしても活躍している澁谷克彦先生が、「ヒロシマの心」を訴えるポスターキャンペーン「ヒロシマアピールズ」で2019年のポスターを制作していることから講演を依頼した。資生堂の企業文化誌『花椿』のアートディレクターを長く務めていた話や、澁谷先生自身が被爆二世であることなども含めて、生徒たちは様々な視点で学びを深めたと吉田先生は振り返る。

「中3になってからは、宮島(広島)と倉敷の美観地区(岡山)での自主研修ルートに関する事前学習や、オバマ大統領(当時)が来日した際に折り紙で鶴を折った話なども英語の授業で取り上げています。鶴を折ったことがない生徒が多かったので、授業で1度折ってみたのですが、現地でそれが役立ちました。折り鶴の展示を見た後に売店で折り紙を買った生徒が、近くにいた外国人に『一緒に鶴を折りませんか?』と話しかけたんです。英語が得意な生徒が始めたことでしたが、外国人が何十人も集まってきて、生徒たちもみんなで鶴を折ってワークショップのようになっていました」(吉田先生)

その地を踏んでこそ実感できること

今年度が初めてとなった「平和教育とアートの旅」は、生徒たちの感想からも成果が感じられたと吉田先生は語る。

「平和教育を絡めたコースにしてみて、よかったと思っています。行く前は想像でしかなかったことも、その地を踏むことで実感できたのです。本や動画で見ることができても、それは現地に行って感じることとは違います。帰ってきてから提出された資料集を見ると、どの生徒も感想がびっしりと書かれていました。それぞれの視点で考えたことがたくさんあったのだと、生徒たちとの会話からも伝わってきます。原爆や戦争には怖いというイメージがあったと思いますが、中2からの事前学習で少しずつ知っていくことで怖さと現実を受け入れて、実際に現地に行ってみた体験がプラスされてわかったこともたくさんあったでしょう。現地では、前日の夜に被爆二世の話を聞いた上で平和記念資料館へ行ったので、展示物を見たときの感じ方も違っていたと思います」(吉田先生)

宮島と倉敷の自主研修では、決められた範囲の中から訪れる場所を選んでまわることができるので、家族へのお土産を買ったり、班でおそろいの物を買ったりして楽しんでいたという。

「直島にはベネッセハウスミュージアムをはじめ、たくさんの美術館がありますが、美術館以外の場所でも自然と一体となった作品があちこちで見られます。現代アートの聖地ともいわれる直島へは行ったことがない生徒がほとんどだったので、修学旅行で体験できてよかったという声も多いです。来年度以降もベースはこのままで、改善点などがあれば少しずつ変えながら、より充実した修学旅行にしていきたいと思っています」(吉田先生)

中3の生徒にインタビュー

Nさん 中3
Mさん 中3
Tさん 中3

――修学旅行で印象に残っていることを教えてください。

Nさん 直島は自然がすばらしくて、島のいろいろなところに作品や美術館があって新鮮でした。特に印象に残っている作品は、「家プロジェクト」の1つとして展示されている「はいしゃ」です。歯科医院兼住居だった建物をリメイクして作品化したものですが、斬新な塗装の仕方などが自分の好みでした。白や黒、青を使って独特な塗り方をしていて、建物の中にある自由の女神もインパクトがあります。直島はとても気に入ったので、いつか住んでみたいです。

Nさん

Mさん 私は平和学習のとき、平和記念資料館で友達が外国人に折り鶴の折り方を教えて仲良くなっているシーンを見て、フレンドリーなのが女子美らしいと思いました。とても楽しそうだったので、私も最初からその場にいて参加したかったです。英語が得意な人が説明したり、英語が苦手な人は身振り手振りで教えていて、外国人は「出来た!」と喜んでいたので、そのようなシーンを見られただけでもいい経験になりました。言語の壁があっても折り鶴で仲を深めていたので、世の中全体もあんな風に平和になれたらいいなと思います。

Mさん

Tさん 直島の李禹煥(リ・ウーファン)美術館が面白かったです。李禹煥は余白の芸術で知られている作家で、広いキャンバスにチョンと描いただけだったりして、これでいいのかと思う作品がたくさんあって、現代美術は難しいと思いました。美術館の作りも面白くて、このような作品も極めれば芸術として美術館に飾られるのだということも学びました。芸術は、わかりやすく価値があるものではなくて、見る人や作る人の思いなどが重なって価値になるから難しいと思います。

Tさん

――修学旅行に行った後で変化したことはありますか?

Nさん 原爆資料館は、ちょっと不謹慎かもしれませんが行く前は楽しみでした。受験生の頃から原爆のことは勉強していましたし、たくさんの人が亡くなったことは知っていましたが、実際に行くのは初めてだったからです。教科書に載っているところに行くワクワク感のようなものがあったのですが、訪れてみると苦しい絵などもたくさん展示してあってとても悲しくて落ち込みました。こんなことがあったんだ、今の平和があるのはすごいことで大切でありがたいことなのだと、いろいろと考えさせられました。

Tさん 被爆した方もいつかはいなくなってしまいます。本当にリアルにそのことを伝えられる人がいなくなってしまって、誰もこのようなことがあったと知らない時代がくるのは悲しいです。私たちやもっと先の人たちが、伝え続けるようにしなければならないと思いました。

――自主研修で印象に残っていることを教えてください。

Nさん 私たちの班は鹿とたくさん会いたかったので、宮島では海辺を多く歩くことにしました。友達がお土産を入れていた紙袋を鹿に食べられそうになるというプチ事件もありましたが、外国人が助けてくれてお土産は無事だったので、それも含めて楽しかったです。

Mさん 倉敷の美観地区が印象に残っています。街並みも綺麗ですが、かわいい雑貨屋さんもたくさんあって楽しかったです。マスキングテープが有名なのでたくさん売っていて、素材が違うものや高級な感じのマスキングテープもあったのでたくさん買いました。

Tさん 倉敷の「桃太郎のからくり博物館」が面白かったです。名前が面白そうだったので行ってみたのですが、目の錯覚を利用したトリックアートがあったり、鬼ヶ島を再現したミニお化け屋敷もあって楽しかったです。

<取材を終えて>
高校の修学旅行では、京都・奈良の寺院を特別拝観したり、通常はできないような体験ができるプログラムになっている。それは、寺院と同校や卒業生との縁によって実現できているという。今年度から中学生は平和教育や現代アートに触れるプログラムとなったことで、中高それぞれの修学旅行で文化や美術表現の多様性をより意識することができるようになった。特に直島は生徒たちにとって様々な刺激があったようなので、今後の作品にも活かされることだろう。

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