スクール特集(白百合学園中学校の特色のある教育 #8)

一生の宝となる友人と出会い、切磋琢磨しながら成長する6年間
白百合学園での全ての出会いと学びを大切にして、姉妹そろって音楽と医学部進学を両立させた卒業生を取材した。
近年は理系を選択する生徒が増え、医学部に進学して医師として活躍している卒業生も多い白百合学園中学校・高等学校。在学中からヴァイオリンの才能を開花させ、現在もヴァイオリニストとしての活動を続けながら、医師としての道を歩む小林香音さん(慶應義塾大学医学部卒)と小林絵美里さん(慶應義塾大学医学部卒)姉妹に、中高時代の思い出や音楽と勉強の両立などについて話を聞いた。
▶︎姉の香音さん(写真右)と妹の絵美里さん(同左)
白百合学園で育まれた「他者に寄り添える心」
白百合学園での生活を先にスタートさせたのは、妹の絵美里さんだったという。両親が白百合学園幼稚園の教育方針に共感し、絵美里さんは同園に3歳から通っていた。同園では、モンテッソーリ教育を取り入れており、園児たちは「お仕事」と呼ばれる活動に日々取り組んでいる。刺繍をしたり、お盆を運んだり、世界地図を作成するなど、様々な「お仕事」に取り組む中で達成感を覚え、挑戦する意欲や諦めない強い心が育まれていく。「お仕事」に取り組む絵美里さんの姿は、とても生き生きしていたと香音さんは振り返る。
「白百合学園では、礼儀をはじめとする人としての基本的なことを幼稚園からしっかりと身につけていけるので、両親はどこへ行っても恥ずかしくない女性に成長していける環境に魅力を感じたのだと思います。私たち姉妹は小さい頃から仲がよかったので、妹と同じ小学校に通えば励まし合いながら楽しく学校生活が送れると思って、私も小学校から白百合学園に通いました」(香音さん)
白百合学園の設立母体は、無学と貧困の中にあった子どもたちの救済と教育のために活動したシャルトル聖パウロ修道女会。幼稚園から高校まで通った絵美里さんは、その理念が自身にもしっかりと根付いていると感じられるという。
「私が何か物事を考えるときの根本には、弱い人を大切にしたいという思いが常にあります。幼稚園の頃から、友達はみんな家族で、自分よりもまず他人を優先させましょうと教えられました。小学校や中高に上がってもその教えは年代に合わせた言葉で伝え続けられ、着実に私の中で価値観のベースとして根付いていったのだと思います」(絵美里さん)
初心者も楽しく活動できる弦楽部
6歳からヴァイオリンを習い始めた香音さんは、小学生の頃から国内外のコンクールでの受賞歴を持つ。そんな香音さんが白百合学園中学校に進学したことがきっかけとなり、今では同校に欠かせない存在となった弦楽部が創部された。
「以前から弦楽部を創部したいと考えていた先生が、私の音楽活動を知って声をかけてくださり、高1と高2の2年間、部長として活動しました。楽器を演奏したことのない人も、たくさん入部してくれたのが嬉しかったです。弦楽器を一から教えるのは簡単なことではありませんが、初心者だからと引け目を感じることがないように意識しました。何か新しいことに取り組むときには、勇気が必要だと思います。私自身がそのような場面で無理だと思ってしまったり、居心地の悪さを感じた経験があったので、そういったことを楽器に対して感じてほしくなかったのです。勇気を出して入部してくれたという気持ちを大切にして、練習を工夫したり、積極的にコミュニケーションを取ってフォローするように心がけました」(香音さん)
香音さんは卒業後も大学生の間はコーチとして指導にあたり、その役割は絵美里さんにも引き継がれていった。
「部員は10人程度からスタートしましたが、あっという間に25人ぐらいまで増えて今もその規模を維持しています。下級生たちは自分が弾きたい曲を学園祭で弾くことを目標にして、自由にのびのびと演奏を楽しんでいました。コーチとしての指導は、少しでも母校への恩返しになればという思いもありました。弦楽部の部員からスタートして、卒業後もオーケストラに参加するなど、音楽を続けている後輩の話を聞くととても嬉しく思います」(香音さん)
指揮者として学年全体をまとめた貴重な経験
香音さんがヴァイオリンを弾く姿を間近で見ていた絵美里さんも、5歳からヴァイオリンを習い始めた。幼い頃から音楽に触れてきた絵美里さんにとって、中高6年間で一番印象に残っている行事は合唱祭だという。合唱祭は中1から高3まで各クラスが自由曲を歌い、高3生は6年間の集大成として、「戴冠ミサ」(モーツァルト作曲)の『Credo』をラテン語で歌う。絵美里さんはオーディションを経て、『Credo』の指揮者として高3生全員をまとめあげるという経験もしている。
「合唱祭では、指揮者とピアノ伴奏者をクラス内で選ぶことになっています。私が音楽をやっていると知っている同級生から推薦されて、中1のときに初めて指揮をすることになりました。それからほぼ毎年、指揮者としてクラスのみんなをまとめ、集大成となったのが高3の『Credo』です。オーディションでは私が一番上手かったとは思っていませんでしたが、『絵美里の指揮で歌いたい』という声が多くあったと後から知り、みんなの声が後押ししてくれたのかなと思っています」(絵美里さん)
同校の合唱祭は教員が指導するのではなく、生徒たちが考えて音楽をつくりあげる行事だ。高3生全員(約180人)が舞台に上がって歌う『Credo』を鑑賞した下級生たちは、「私たちもあんなふうになりたい」と憧れの気持ちを抱き、伝統のバトンが引き継がれていく。『Credo』の指揮者は、歌が好きな生徒ばかりではない中で、高3生全員をまとめなければならない。本番までの限られた時間の中で、いろいろと工夫して練習を行ったと絵美里さんは振り返る。
▶︎卒業式の日に再度学年全員で、校庭でCredoを歌った時の写真。中央指揮台にいるのが絵美里さん
「指揮者にはリーダーとしての力が必要ですが、前から引っ張るだけではなく、下から支えることが大切と考えています。歌が苦手な人も、スポーツの方が好きな人もいる中で、朝や放課後まで練習したくないという気持ちもわかります。ですから、事前に私が歌詞の意味や解釈、表現などを書き込んだ楽譜を配り、皆の時間を取らずに解釈を共有しました。学校では、パートごとの練習とは別に、苦手意識がある人たちには個別に音取りをし、逆に得意な人たちには先に解釈を共有してパートを先導してもらうなど、一人ひとりが必要なことに合わせて、受験勉強や部活で限られた練習時間を最大限活かせるように工夫しました。皆も、私の熱意に応えてくれて、最後は沢山の同級生が「絵美里で良かった」と言ってくれたのが本当に嬉しかったです。この色紙は学年全員がコメントを寄せてくれた色紙で、卒業後もずっと大切にしています。Credoを学年全員で歌いきったという思い出と、同級生、先生に支えられながら指揮者を務めた時間は宝物で、きっと色濃く心に残り続けると思います」(絵美里さん)
▶︎学年全生徒が指揮者の絵美里さんにコメントを寄せた色紙
▶︎色紙の表紙は、お裁縫が得意な友人が手作りで制服を刺繍してくれた
医学部の受験勉強と音楽活動の両立
高校時代から積極的に音楽活動を行ってきた2人だが、目指した進路は2人とも医学部。香音さんは、祖父母が大病を患ったときに医師へ信頼と感謝を寄せた経験など、様々な経験を経て医師を目指す気持ちが固まっていったという。
「白百合学園では、『人のために役に立つ』ことが美徳であることをキリスト教の教えを通して学びました。医師という職業は、誕生から旅立ちのときまで、患者さんが置かれた多様な状況に寄り添い、その方やご家族にとって最善の道を探して導いていくことが使命だと感じています。白百合学園で培った、他者への共感と貢献という価値観が、私を自然とこのような職業を志した原点なのだと、今あらためて感じています。高2の選択授業で、生物の素晴らしい先生と出会えたことも影響しています。手作りの模型を使って説明して下さったり、実際に植物や動物を授業に持ってきて下さったり、沢山実験を組んで教科書上だけでない学びに繋げて下さったり、先生の生物への愛が伝わってくる授業でした。私が質問すると、資料をたくさん集めて10倍ぐらいの答えを返してくださいました。今振り返ってみると、白百合学園の先生方が、私の好奇心の芽を育てるように、工夫を凝らした授業をしてくださっていたおかげで、私は学ぶことが好きになったのだと思います。医師としての仕事では、勉強し続けていくことが、患者さんの治療や改善に直結するので、学ぶことが好きだということや、継続して努力できる強みを活かすことができます。中高時代からコツコツと勉強してきたことが、今に活かされていると日々感じています」(香音さん)
ヴァイオリンも続けながら、医学部進学を実現した香音さん。勉強との両立は、どのようにしていたのだろうか。
「無理をしてヴァイオリンを続けていたわけではなく、続けたいという思いの方が強かったんです。勉強は、電車での移動時間や授業と授業の間に宿題を終わらせたり、友達と問題を出し合うなど、とにかく隙間時間を活用しました。真面目で志の高い友達が多かったことも原動力になったと思います。勉強に対する姿勢やノートの取り方などからも刺激を受け、切磋琢磨しながら頑張りました。先生方もプリントや教材をたくさん用意して、刺激やきっかけをくださいました。恵まれた環境ではあるけれど、それをいかに意欲的に自分のものとして取り込んでいくかは自分次第だと思います。いただいたものは全部自分のものとして吸収する覚悟で、受験勉強は貪欲に取り組みました」(香音さん)
医師としての仕事と音楽との両立については、最近、考え方が少し変わったと香音さんは語る。
「医師という職業は、常に大きな責任を伴います。目の前の患者さんと真摯に向き合い、この先もずっと学び続けなければならないという使命感があります。その一方で、自分の心にも誠実に向き合いたいと思うようになりました。他者のことだけを考えていたら、自分の心が壊れてしまう瞬間があるかもしれません。ですから、自分の心を救ってくれる音楽を、聴いて下さる方とシェアでき、聴いて喜んでくださる方がいるということは、私にとってありがたいことです。また、生で演奏することは、聴いて下さる方の心と私自身の心を繋ぎとめるようにして、会場の空気を繊細に感じ取りながら、音を通して心を交わすことだと感じ始めました。それは一種のコミュニケーションであり、そのあり方は演奏のたびに異なると思っています。医師という職業では、日々多様な背景を持つ方々と出会い、時にはその方の人生において重要な場面に立ち会います。そうした中で、相手の心情をくみ取り、その方にふさわしいかたちでコミュニケーションを図る姿勢が求められます。音楽を通じて培ってきた感受性や共感は、医師としての仕事においても生かされているのではないかと感じます。医師としての側面を大事にしながら、私という一人の人間としての人生を音楽とともに歩んで行けたらいいなと思っています」(香音さん)
身近なロールモデルの影響で医学部へ
両親のどちらも音楽や医学に関わる職業に就いていない家庭で育った絵美里さんは、姉である香音さんからの影響が大きかったという。
「勉強も音楽も、いつも1歩先を歩く姉の姿を見て育ちました。例えば車での移動中も、私は窓の外を眺めている間に、姉は隣で勉強していたんです。姉の努力を近くでずっと見てきたので、尊敬している人は誰かと聞かれたら迷わず姉だと答えます。ですから、進路を決めるときも医師への特別な憧れがあったわけではなく、姉の背中を追い続けたいという思いがあったのだと思います。医学部を目指そうと思うようになってからは、人を助けられる職業であることがモチベーションになっていました。自分の演奏で喜んでいただくと嬉しいですが、音楽は人の心を癒やすことができても、怪我や病気を治すことはできません。そこに限界を感じていたので、医師になって健康や命の面でも人を助けられるようになりたいと思って勉強を頑張りました」(絵美里さん)
努力家の姉が近くにいることをプレッシャーに感じたこともあるが、両親が姉妹を比べることなく育ててくれたことで、姉の背中を追い続けることができ、今があるのだと絵美里さんは振り返る。
「両親から勉強しなさいと言われたことはありませんが、自分で夢を見つけて、自分で変わり、自分のために勉強する姿勢にならなければ伸びないと自分を振り返ってみて思います。アルバイトで塾講師をしていた経験からも、先生や親に言われていやいや勉強しているうちは伸びないと感じます。姉のように、結果からどんなに優秀に見える人も、もともと持った才能や環境のおかげだけではなく、自らを律して淡々と努力していると気づいてから、勉強のスイッチが入りました。そのことに気づけたあの頃の自分に、ありがとうと言いたいです(笑)」(絵美里さん)
4月から研修医としての生活をスタートさせる絵美里さんは、白百合学園で育まれた「他者に寄り添える心」を大切にして、患者さんを第一に考えられる医師を目指していきたいと語る。
「私はこれまでも、医療施設にボランティアとして出向いて演奏してきたので、これからも患者さんに喜んでもらえることに音楽を活かしていけたらいいなと思っています。今日知ったのですが、4月から白百合の弦楽部が病棟演奏のボランティアを始めるそうなので、後輩たちが同じ気持ちを持ってくれたことがとても嬉しいです」(絵美里さん)
白百合学園で得たもの
最後に、白百合学園だからこそできたと感じる経験について2人に語ってもらった。
「白百合で出会えた友人は、かけがえのない存在です。社会に出てからもいろいろな分野でつながって再会したり、異なる分野で活躍する姿を見て刺激をもらっています。今でも心を許せて、利害関係もなく、『あの頃と変わらないね』と言ってくれる友人がたくさんいることがありがたいです。白百合の生徒は、やさしくて気遣いができる人が多く、お互いを尊重し合えます。素敵な友人と出会えたことは、私にとって一生の宝です」(香音さん)
「大学生になってから振り返ってみると、白百合は守られた環境だったと感じます。個性的な人も多かったですが、従順・勤勉・愛德という校訓のもとでそれぞれが大切にされてのびのびと過ごせました。先生方に守られた安心・安全な環境だったからこそ、精神的にもリラックスして勉強にも集中でき、行事も全力で楽しめたのだと思います。中学ではフランス語が必修ですが、私は高校でもフランス語を選択しました。卒業後も学んでいて良かったと思う場面が多々あります。フランス語を身近に感じながら、楽しく学ぶことができたことに感謝しています」(絵美里さん)
<取材を終えて>
白百合学園で培われた「人のために役立つ」という価値観の影響を受けて医師になった香音さん、白百合学園の安心できる環境の中で勉強に集中し、やはり医師になった絵美里さん。取材を通して、白百合学園で学んだ時間がお二人にとって、かけがいのないものだったことが強く感じられた。今後も、先輩たちの高い志が次の代へと受け継がれ、良き伝統が守られてゆくことだろう。立派に成長した卒業生の撮影風景を見学に来られた校長先生が、2人にとてもやさしい眼差しを向けていたことが印象的だった。
▶︎現校長先生、絵美里さんの中学時代の担任であり弦楽部顧問の先生と
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