スクール特集(昭和女子大学附属昭和中学校の特色のある教育 #13)
先生が語る“昭和女子の今”Vol.8(スーパーサイエンスコース編)
先生の声を通じて、学校を知る企画。第8回は、スーパーサイエンスコースの担任を務める理科の先生が登場。理科教育をはじめ、コースの学びの特色について話を聞いた。
今回、紹介するスーパーサイエンスコース(SS)は、今年で4年目を迎える。当初は中3からスタートするコースだったが、2020年度より中1から6年間学べるコースへと変更(入学時に本科・グローバル留学・スーパーサイエンスの3つのコースから選択)。SSの学びの特色や育てたい生徒像について、1年、2年、6年(高3)の担任を務めている3人の先生にインタビューを行った。
▶︎写真左より:佐藤 凱先生、田矢 史織先生、小松 遼先生
<お話を聞いた先生>
田矢 史織先生 理科 スーパーサイエンスコース1年担任
佐藤 凱先生 理科 スーパーサイエンスコース2年担任
小松 遼先生 理科 スーパーサイエンスコース6年(高3)担任
スーパーサイエンスコースの学びの特色
――スーパーサイエンスコースの現在の状況を教えてください。
小松先生 中1からのコース制が始まり、今年初めて6学年が揃いました。また、一期生(当時3年生)が、この春に卒業し、いろいろ模索してきたものが少しずつ形になり、各学年の学び方や身に付けたい力量なども明確になってきました。
田矢先生 SSでは6年間を大きく、1,2年、3~5年、6年の3つのステージに分けて学習を展開しています。3~5年は個人の課題研究活動を行い、その3年間につなげるためのプログラムを1,2年で実施し、研究の技能や考え方を身に付けていきます。
佐藤先生 私の担任する2年生は、初めて中学受験でSSに入学した学年です。現在、3年生から本格的に取り組む課題研究に向けて、基礎を固めているところです。
――各学年で、どのような学びが行われているのでしょうか。
田矢先生 1、2年は理科の授業とは別に、総合学習の時間に、株式会社リバネスと共同開発をしているプログラムに取り組んでいます。プログラムは、大きく研究系とモノづくり系に分かれ、研究系ではライフサイエンスの分野を多く扱い、今回の授業は仮説を立てる、次回は実験方法を考えるというように体系的に学習を行っています。
前期の期末テストにも、適切ではない仮説、たとえば「宇宙空間では植物の成長は鈍る」といった現実には実験のできないものや、はっきりとイエス、ノーの答えが出ないものなどに対して問題点を指摘させました。結構、生徒たちはしっかり答えていましたね。
佐藤先生 2年生も引き続き、実験の組み立て方などを学びますが、1年生よりも内容がレベルアップします。たとえば、6月に取り組んだプログラムでは、ルミカライトを題材にしました。ルミカライトとは、ホタルの光に似た原理で発光するライトで、4種類の溶液を混ぜ合わせることによって発光します。今回は「溶液の割合で、光の明るさがどう変わるか」という課題について実験計画を立てました。まず、実験方法の前提として1つの溶液のみ濃度を変えて残りの3つは変えないことがあげられますが、他にも光度計の種類や扱い方、温度、溶液を入れる順番、入れてから計測する時間など明るさを変えうるパラメータを洗い出していきます。「目に見えてわかりやすいもの以外にも、制御をしなくてはいけないものがある」ことを生徒自らが気づいていけるように指導しています。
小松先生 3年からいよいよ個人研究が始まりますが、最初のテーマ設定が重要になります。たまに、「宇宙の秘密は何か」というような検証のできないテーマを選ぶ生徒がいますが、そこは注意をしていきますね。研究では仮説を立て、実験をする際のパラメータを探し「正しいデータを得るためには、何を変えて何は変えないのか」を考えていきます。夏休み明けに中間発表を行い、教員が「こういう可能性もありそうだよ」と指摘をしたり、生徒同士でディスカッションをしたりします。そうして実験方法を練り直しながら、研究の精度を上げていくのです。
スーパーサイエンスコースで身につく力と育てたい生徒像
――学習を通じて、どのような力を育成しているのでしょうか。
田矢先生 理科好きな人は、自然科学のいろいろなことに対して「不思議だな」「なんでだろう?」と興味を持つタイプが多いと思います。SSでは探究的な学習を行っているので、疑問の答えを見つける手法を身につけることができます。すぐに答えが見つからなくても、探究し続けることで「そうだったんだ」と納得する時がいつか来ます。考えなかったら当たり前のことでも、何かしらの疑問があって考えてみたら納得できる理由があったことを発見できるのが科学の面白さです。「腐るのはどういう現象なのだろう」といった身近な現象にも疑問を見出し、解決する力を育てていきたいと考えています。
佐藤先生 SSというと理科的な能力に目が行きがちですが、私たちは言語運用能力も大事だと考えています。自分が見たこと、考えたことを言語化して人に伝えるという力です。生徒には、実験後に必ずレポートを書かせていますが、回数を重ねるごとに文章能力が上がっていますね。文章だけでは伝わりにくい時は、図を添付するなど、相手のことを考えて表現する力も伸びています。
小松先生 研究活動を通して、考えることを恐れない姿勢が養われます。生徒の課題研究について、必ずしも教員が答えを持っているわけではありません。未知なるものに立ち向かうには勇気がいりますし、最初の頃は「先生、この先はどうなるんですか?」と尋ねてくる生徒もいます。私たちは伴走者としてサポートはしますが、最終的には自分で向かっていくしかありません。それには、たくさん考えなくてはいけないことを生徒自身がわかるようになり、徐々に思考することに慣れていきます。
――生徒の成長を感じたこと。また、どのような生徒に育ってほしいですか。
田矢先生 今年の1年生は、入学した時から好奇心が旺盛な生徒が多いですね。探究心をテーマにした道徳の授業で「最近、興味をもって調べたことはなんですか?」と聞くと挙手が止まりませんでした。小さなことでもみんなと共有したいという気持ちが強いようです。
今、私のクラスでは、毎月、自分が発見した疑問を書かせてそれを全体にシェアし、回答を募集するという取り組みを行っています。始めた時は、寄せられた回答も主観的なものが多かったけれど「客観的に納得できるものにしよう」と声がけをしたらだいぶ論理的な答え方になってきました。生徒たちには「センス・オブ・ワンダー(自然界の神秘や不思議に目を見張る感性)」をもち、疑問に対して論理的な回答ができる力を身につけてほしいと思っています。
佐藤先生 SSに限らず、本校の生徒には自分の意見をしっかり持ち、人に説明する力を付けてほしいです。最終的に自分の考えに対して「本当にこれでいいのか?」「なぜ自分はそう思ってきたのか?」と考えられるようになると、さらに思考力が育ちます。とは言っても最初からそうするのは難しいので、まずは友だちに「私はこう思っているんだけど、どう思う?」と自分の考えを伝え、友だちの意見も受けて建設的に議論を進められるとよいですね。対話をしながら、互いに学び合える環境を作っていきたいと思っています。
小松先生 実験の組み立て方一つとっても、中3と高2では大きく異なり、確実に成長しています。また、中高で行ってきた研究活動は、大学や大学院での学びにつながります。さらに、進路に対するアプローチの仕方も身につきます。進路の考え方と研究の考え方は似ているところがあります。未知なる大学受験に対して、自分の強みは何か、反対に足りないところは何か、それをどうやって補えばよいのか自分を客観視して考え実践する力が、生徒たちに備わっていると感じています。
受験生へのメッセージ
――最後に受験生と保護者にメッセージをお願いします。
小松先生 例えば銅粉を加熱する実験をして「色が変わってすごい」と楽しめるだけではなく「なぜ色か変わったのか考えるのが楽しい」と思える人は、ぜひSSに来てほしいですね。SSは理系のクラスですが、自分の考えや研究の成果を他者に伝えるなど、言葉の力もとても大切なので、国語の勉強にも力を入れてください。
田矢先生 小学生の時から、日常生活のちょっとしたことにも「不思議だな」と疑問を持ってほしいと思っています。SSでは6年間の学びを通して「自分は何に興味があるのか」「何を研究したいのか」を知ることができます。その上で進路選択し、卒業する時には「将来、私はこの分野で活躍するんだ!」と確信を持てる生徒を育てていきたいと思っています。
佐藤先生 わからないことを恐れず、考え続けていける人は、SSの学びでさらに力を伸ばしていくことができます。新しい知識との出会い、自分とは違う考えをもつ人との議論をぜひ楽しんでください。また、実験の様子などはできるだけ昭和中学校のHPやFacebookにアップするようにしています。SSに興味をもった受験生は、是非チェックしてみてください。
<取材を終えて>
中高の理科実験というと、教科書に書いてあることを実際にやってみるというものが多いが、SSでは理科演習の時間を設け、仮説を立てる→自分たちで実験方法を考える→実験して検証するという学びを中1から実践している。研究活動を通じて、物事を客観的に捉える力や論理的に考える力がつき、それが進路選択にも生かされていることが印象的だった。
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