スクール特集(共立女子中学校の特色のある教育 #2)
世界共通のコミュニケーションツール、英語と美術で未来を拓く
世界共通のコミュニケーションツールとなる、英語と美術の教育に力を入れている共立女子中学校。授業の特色や海外研修、新たな英語入試について、先生と生徒に話を聞いた。
多くの卒業生が海外で活躍している共立女子中学校では、世界共通のコミュニケーションツールとなる英語と美術の教育に力を入れている。授業の特色や海外研修について、2020年に中学教頭に就任した中城芳裕先生(美術科)、2021年4月に高校教頭に就任した前田好子先生(英語科)、国際交流部主任の石田大介先生(英語科)、そして生徒2人に話を聞いた。また、2022年度入試から導入される「2/3午後入試 英語4技能型」についても紹介。
英語は中1から少人数制や習熟度別授業
同校の卒業生でもあり、長く英語教育に携わってきた前田先生は、4技能をバランスよく育成して使える英語を目指し、アウトプット中心の授業を行っていると説明。英語の授業は中1から習熟度別に行い、ネイティブ教員による英会話の授業も少人数制で実施している。
「中学の英語の授業は習熟度別に、2クラス(約80人)を3つ(30人弱)に分けて行っています。小学生から頑張って英語の勉強をしてきた生徒でも、入学時にすでに苦手意識を持っている生徒も見られます。早いうちに苦手意識を払拭するためにも、中1から習熟度別にして手厚く指導することが必要になります。英会話の授業は、2クラスを3つに分けて、さらに帰国生などの希望者は取り出し授業を行い、4分割で実施。マンツーマンのオンライン英会話も活用して、リスニングやスピーキングの経験を重ねていきます」(前田先生)
日常会話には困らないリスニング力のある生徒でも、大学入学共通テストなどで「聞く」力を評価される際には、力を発揮しきれないことが課題であると、前田先生は語る。そのため、CDなどの音源を使った聞き取りや聞き取った質問に瞬時に答えるための訓練を取り入れているという。
「共通テストレベルのリスニングに対応するためには、自然な会話とは別に、問題に答えるための集中力などを養う訓練が必要です。また、英語に限らず、日常の会話で聞き取る力や、話を聞いて問題処理をする能力なども大切だと思います。リーディングの問題は、グラフや表を読み取ったり、短時間でいろいろな角度から想像したりする力が必要になってきました。題材も、宇宙や科学技術、文学、哲学、経済など多岐にわたっています。生徒たちには、英語の総合演習問題は、総合格闘技だと言っています(笑)。文法だけ、単語だけ知っていればいいというものではありません。世の中の動きに興味や関心を持つことが大切なので、今後もよいものを柔軟に取り入れていきたいと考えています」(前田先生)
▶︎教頭 前田好子先生(英語科)
多様な海外研修プログラム
同校の生徒たちは、異文化体験へのモチベーションも高く、海外研修プログラムに参加する生徒も多いという。ロングターム留学(カナダ・約10か月)、ショートターム留学(ニュージーランド・約2か月)は、高1を対象として成績などで選抜。夏季研修(カナダ、ニュージーランド)と春季研修(韓国、シンガポール、オーストラリア、イギリス)は、各プログラム定員20人程度だが、中学生も高校生も希望者が多いため抽選で参加者を決めていると、石田先生は説明する。
「ターム留学は、現地の学校に所属して現地の人として生活します。ロングターム留学は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州の教育員会との提携により、実現できたプログラムです。昨年は新型コロナウイルスの影響がありましたが、ビザも下りて出発することができました。現地から近況報告のメールがありますが、コロナ禍の留学なので今までとは大きく違っていて、オンライン授業になるなど友達を作るのも難しい状況です。しかし、そのような中でも半年が過ぎ、友達も増えて、授業も受けられるようになり、テストやレポートもきちんと仕上げられるようになったと聞いて安心しました」(石田先生)
ショートターム留学や夏季・春季研修は、残念ながらコロナの影響で昨年度は実施できなかったが、同校ではほかにも、異文化交流の足掛かりとなるようなプログラムが多数用意されている。
「少人数でネイティブ講師のレッスンを受ける『イングリッシュシャワー』、バンク・オブ・アメリカが主催するキャリア教育プログラム、Japan Timesが企画した英字新聞を作るプロジェクトなど、様々な取り組みを行っています」(石田先生)
▶︎写真右:石田大介先生(英語科)
海外研修に参加した生徒にインタビュー
Iさん(高3)
中3 春季研修(オーストラリア)
高1 ショートターム留学(ニュージーランド)
写真左:Iさん
――中3のときに参加した春季研修はどうでしたか?
Iさん 10日間オーストラリアで過ごしてみて、どんなことにも積極的に行動することが大切だと感じました。日本人はシャイだと言われていますが、現地の人たちは本当にオープンなので、日本人がどれだけためらいがちなのかよくわかります。この研修で、自分の殻を一枚破ることができた感じです。オーストラリアに行ってとても楽しかったので、もっと長く英語を学んでみたいと思い、高1でニュージーランドへ行きました。
――ニュージーランドでのターム留学では、どのような経験をしましたか?
Iさん ニュージーランドには去年の2月~3月に滞在しましたが、コロナの影響で予定より早く帰国することになってしまいました。ロックダウンもあり、普段の留学にはない緊張感を感じました。手に入る情報は英語なので不安もありましたし、空港にも関係者以外は入れないので、乗り継ぎも生徒だけでしなければなりません。大変でしたが、それらを乗り切れたからこそ、大人がいなくても頑張ればできるという自信を手に入れることができ、この経験は自分の財産になりました。
――英語力についてはどうですか?
Iさん 現地に着いたときから、自分の中で「絶対、日本語に触れない」というルールを決めました。日本人の留学生とも英語で話すようにして、友達からのLINEも一切見ず、家族とも連絡をとらなかったんです。その甲斐もあって、日常会話ができるぐらいになりました。伝わっているか不安もありましたが、授業で日本のことを紹介するスピーチをしたとき、「すごくよかったよ。英語を頑張って話そうとしている姿勢がカワイイ」と言われて、「これでいいんだ」と思いました。つたない英語でも、頑張って英語を話す姿勢が大切なんです。頑張れば、心が通じあえると実感しました。
――将来の夢について教えてください。
Iさん 起業したいと思っています。現地の生徒に日本文化を伝えるイベントを企画し、皆に喜んでもらったとき、新しいことを実現する楽しさに気づきました。より興味をもってもらうために、浴衣を着て登校しました。
将来は、世の中にある問題を会社を経営することで解決し、社会に貢献したいと思っています。そのため、大学はビジネスについて学べる早・慶の商学部を目指しています。起業は目的ではなく手段です。社会の問題をじっくり考えて起業できるように、これから成長していきたいです。
古典技法も基本から丁寧に指導
美術は、世界共通のコミュニケーションツールであり、世界の人と話す話題としても重要な役割を果たす。同校の美術教育は、古典技法とコンピュータによる演習という両極端な方法を扱っている点が大きな特徴である。同校で美術を教えて39年目になる中城先生は、コンピュータを導入したのは30年以上も前だと説明する。
「かなり早い時期からコンピュータグラフィックの演習を取り入れ、授業では本の表紙やCDジャケットのデザインなどに取り組んで来ました。古典技法も基本から教師が実演して教えれば、無彩色の絵の具で陰影をつけるグリザイユ技法なども理解できるようになります。化粧の仕方と比較して教えると、生徒たちの食いつきがよいです。観察の仕方などは小学校ではあまり教えないようですが、例えば顏ならどこを見るか、輪郭の中側ばかり見るのでなく、背景との関係なども教えています。鉛筆デッサンも、鉛筆の使い方から教えるので、小学生の頃は人と比べて下手だと思っていた子も、手順を踏めば写実的な絵はある程度描けるようになります」(中城先生)
中1は頭蓋骨(模型)の静物画、粘土の自刻像(実物大)、中2は自画像の鉛筆デッサン、想定自画像という流れで、顏に関する作品を制作。想定自画像は、多感な時期の内面にあるものを発散させる題材として適しているのではないかと、中城先生は語る。
「想定自画像には背景に好きなものを描くので、歴史やスポーツなど、美術以外の分野への興味も見えてきます。中学生が抱える不安・不平・不満など、ネガティブな感情を言葉として発するにはエネルギーが必要です。そのエネルギーを、様々な形の『表現』に変えたいと考えています。表現したものからは、生き方のイメージが見えてくるのです。下手でもいい絵がありますし、表現されたものは美術以外の才能を見出すきっかけにもなっていると思います」(中城先生)
▶︎教頭 中城芳裕先生(美術科)
美大進学を目指す生徒にインタビュー
Tさん(高2)
▶︎Tさん
――美術が好きになったのはいつ頃ですか?
Tさん 小学校の頃から絵の具などを使って、色を作ることが好きでした。小2のときに「こども県展」で賞をいただき、そこから色作りに熱中するようになりました。この学校を受験したのも、美術が目的です。
――ほかにも美術に力を入れている学校がありますが、決め手は?
Tさん 小4のときに、オープンキャンパスで美術の授業を体験しました。パソコンも使ったことがなかったのですが、合成写真でカレンダーを作るという授業がとてつもなく楽しかったです。授業で古典技法もやると聞いて驚き、授業のクオリティも高いので、この学校で学びたいと思いました。
――色作りとは、どんなことをするのですか?
Tさん 例えば油絵は色を重ねていきますが、下の色も残って消えません。この青をきれいに見せるために下地にはこの色を使おうとか、温かみを持たせるためにこの色を使ってみようとか、計画を練って考えるのが大好きです。
――古典技法の授業はどうですか?
Tさん 高校生になってからは、油絵の基本を学んでいます。例えば、ローアンバーという褐色系の色で全体的に明暗をつけて、その後に色をつけていく技法です。先生がデモンストレーションしてくれるので、よくわかります。顏の凹凸や稜線のしくみ、遠近感なども学んできたので、すべてが今の土台になっています。
――これまで受けた中で、印象に残っている授業は?
Tさん 全部楽しいですが、中3のときに、自分の好きな画家の絵を模写したことが印象に残っています。私はウイリアム・ターナーが好きなので、アクリル絵の具で模写しました。
――美術の先生はどんな先生ですか?
Tさん 中学のときは中城先生で、高校からは上田先生に教わっています。中城先生は、ためにならないことも話してくれるんですが(笑)、ちゃんとくみ取ればその裏に大切な言葉が隠されていてハッとさせられます。上田先生は、質問すると的確にアドバイスをくれるタイプです。
――将来の夢について教えてください。
Tさん 目指しているのは、東京藝術大学の油画専攻です。浪人してでも絶対に行きます。モネやターナーのような描き方が好きなので、油絵にしました。光は粒子であり波動であると考えられているので、目の前の世界を粒子の動きとして見るのが楽しいです。それを伝える手段として適しているのが油絵なんです。とにかく色作りがしたくて、たくさんの絵にある色を再現してみたいので、大学で学んだ後は、修復士になりたいと思っています。そのためにも、共立で学ぶ古典技法はとてもためになります。
2022年度入試から新たな英語入試を導入
同校では2018年度入試から、英語を使ったゲームやネイティブ教員との対話などを通して観察評価する「インタラクティブ入試」を実施してきた。2022年度入試からはこれをバージョンアップして、リーディングとライティングも含めて評価する「2/3午後入試 英語4技能型」を導入する(なお、「2/3午後入試 合科型」もある)。
「大学入試改革や小学校での英語教育必修化など、世の中が求めている英語力が変わりました。リスニングとスピーキングだけでは、測れないものがあります。自分の考えを発信するためのライティング、知識や情報をインプットするためのリーディングも含めて、英語を総合的に評価したいと考えて新たな入試を導入しました。英検の勉強をしてきた小学生や、海外経験があっても帰国生入試の基準に当てはまらない小学生なども、英語を使って受験することができるようになります」(石田先生)
目安となる英語力は、「海外帰国生入試」が英検準2~2級程度であるのに対して、新設される「英語4技能型入試」は英検3級~準2級程度。英検を目指して勉強してきた小学生などは、今までやってきたことを相対的に評価できる内容にしたいと、石田先生は語る。
「インタラクティブ入試の要素も含めながら、英検のようなスタイルでない部分も取り入れたいと考えています。大学入試を見ると、自分の意見を持ち、情報を読み取って表現する力や理論立てて話す力などを重視するようになってきました。それに合わせて、中学入試も変化していかなければなりません。大学入試も見据えて、クリティカルでロジカルな入試問題を作成したいと考えています。具体的な内容については、決まり次第ホームページなどでお知らせしていきますが、インタラクティブ入試の動画や海外帰国制入試の過去問なども参考にしてください」(石田先生)
<取材を終えて>
IさんもTさんも、それぞれ好きなこと、やりたいことがあり、それをとても楽しそうに話してくれた。2人はこの日が初対面であったにも関わらず、すぐに打ち解けていたことからも同校の雰囲気が伝わる。1学年約300人という多種多様な生徒がいる環境だからこそ、「自然に人を受け入れる姿勢」が培われていくのだろう。