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スクール特集(郁文館中学校の特色のある教育 #7)

夢を見つけ、夢を追う2人の卒業生が振り返る「夢への通過点」

独自の夢教育を行っている郁文館中学校・高等学校。どのようにして夢に近づいていくのか、ハンガリー国立大学に合格した卒業生と東大の3年生となった卒業生に話を聞いた。

夢を叶えるためには、「学力の向上」「グローバル力の向上」「人間力の向上」が必要と考え、多彩な夢教育プログラムを実施している郁文館中学校・高等学校。夢への第一歩として希望の進路を実現した卒業生たちは、どのような学校生活を送っていたのだろうか。この春にハンガリー国立大学の医学部に特待生として合格した加地登輝さん(郁文館グローバル高等学校卒業・GST1期生)と、東京大学薬学部3年生の石田啓さん(郁文館中学校・高等学校卒業)に話を聞いた。

入学の決め手は「理系で留学」

郁文館グローバル高等学校の理数系クラス「Global Science Track(GST)」では、高2の生徒全員を対象とした理数強化型の留学プログラムを実施している。1年間の留学中は、自らの問題意識に基づいたフィールドワーク、リサーチ、実験を行い、研究レポートを作成。学会やコンテストに参加する機会もあり、帰国後は全員が研究成果を発表する。GST1期生の加地登輝さんが同校を受験する決め手となったのが、この留学プログラムだったという。

「幼稚園から英語教室に通っていたこともあって英語が好きで、できれば留学したいと思っていました。中2から医師になると決めていたので、高校受験の志望校選びで『理系で留学』というキーワードで検索し、ぴったりなプログラムだったので即決です。入学式で当時の副教頭先生が『今の日本では、自分の専門分野を極めることはできるが、それだけではその先には進めない。コミュニケーション能力や実現させる力が必要であり、それを克服するのがGSTだ』と語ったことが印象に残っています。私の母が『これからは学力だけじゃない』とずっと言っていたこととも重なり『この先生についていこう』という気持ちになりました」(加地さん)

加地さんが医師を目指すきっかけとなったのは、中2の秋に体育の授業で頸椎を痛めたことだったという。完治するには1年かかると言われたが、野球部に所属していた加地さんは、中学生として最後となる夏の大会を諦め切れなかった。そのような中で療術(代替医療)と出会い、夏の大会にも出場することができたのだ。

「自分の体験から、西洋医学には限界があると感じました。私のように、東洋医学や療術の力を借りた方がよいケースもあるのです。しかし、日本では医療としては認められていないので、医師になってそれを変えたいと思っています。西洋医学の足りない部分は、代替医療で補って治療ができる医師になりたいです」(加地さん)

高1の夏にシンガポールの国際大会に出場

GSTクラスの1期生は、1年次の7月にシンガポールで行われた「Global Link Singapore」というアイディアコンテストに出場した。科学・技術の研究成果、提案をポスターセッションかオーラルセッションで発表し、議論する国際大会だ。

「5月中旬にいきなり『君たちは研究を行って、シンガポールで発表する』と言われたのです。『研究とは何か』というレベルから始めて、みんな遅くまで残って必死でポスターセッションの準備をしました。ところが、いざシンガポールへ行ってみたら、日本人の大学教授によるプレゼンや日本から参加した中学生たちのオーラルセッションなどを聞いても、何を言っているのかわかりません。みんな、ぽかんとしていました」(加地さん)

GSTクラスは、シンガポールでの国際大会を境に大きく変化したと、加地さんは振り返る。

「自分たちの発表を聞いてもらうために、自分たちで観客を連れてこなければならないのも大変でした。さらに、質問に対する答えは準備していましたが、相手が何を言っているかがわかりません。それでも、何か答えなければならないのです。そういった状況に危機感を覚え、他国の生徒たちに刺激を受けるなど、とても貴重な体験でした。大会に出場したのが入学してすぐだったことが、逆によかったと思います。早い時期だったから、これからの3年間で自分たちもあのレベルを目指そうと思うことができました」(加地さん)

高2の1年間はオーストラリアへ留学

オーストラリアでの留学中は、レポートを書く機会がたくさんあり、1年間でかなり鍛えられたという。

「とにかくレポート祭りで(笑)、毎週、英語で1000字~2000字のレポートを書いていました。帰国してからレポートの質がいいと先生から評価していただき、大変でしたがよい経験だったと思っています。夏に行われたグリフィス大学での研修では、日本では大学でやるような実験をさせてもらえて、見たことのない機材がでてきたり、いろいろな化学反応を試したり、夢のような日々でした。研修中にプレゼン大会があり、みんなのプレゼン力も上がったなと感じたことを覚えています。みんなからも刺激を受けて、そこから一層、研究にのめり込みました。研究に没頭しすぎていたので、勉強以外の活動や他国の生徒との交流をあまりしなかったことが、今振り返るともったいなかったなと思います」(加地さん)

自分を信じて諦めないことが大切

帰国後は、高2時の必要カリキュラムもこなし、受験勉強もしなければならないという苦労があったが「医師になるという夢を諦めたことはない」と加地さんは語る。

「中学生のころは文系でしたが、医師を目指すとなったら理系にならなければなりません。『数学が大好きだ』『理科が得意だ』と自分に信じこませて、確実に満点が取れる簡単な問題を解いていきました。『自分は満点が取れる!』と言いながら勉強していくうちに、理系に転向できたのです。自分を信じこませることが、一番いい勉強方法だと思っています。大学受験に関しても、『医学部に行く』『医師になる』と親や周りの人たちにも言って、逃げ道をなくして臨みました」(加地さん)

その結果、ハンガリー国立大学の医学部に見事合格した。

「ハンガリーの大学に決まって本当によかったと思っています。まず、日本で私立の医学部に通うより学費が安いことが大きな魅力です。それに、ハンガリーの医師資格を取るとEUでも医師ができ、日本の医学部と提携しているので日本の医師国家試験を受けやすいことなども、大きな魅力です」(加地さん)

夢は、医師になって理想の介護施設を開くこと

GSTでの研究を通して、今まで知らなかった分野を自分でどんどん深掘りして、専門家と話せるレベルにまでなれたことが大きな自信になったと、加地さんは語る。

「小学生の頃に祖父が心臓病で他界したことから、心臓に興味を持ちました。当時は子ども向けの人体図鑑などを見る程度でしたが、この学校で研究テーマについて考えたとき、人工の心臓弁について知りたいと思っていたことを思い出したのです。とても難しいテーマですが、心臓の研究をしたいと言っても、郁文館では誰も『やめておいたほうがいい』とは言わず『難しいけど、やってみれば』と言ってくれます。高1の段階では、私が医学部へ行けると思っていた先生はいなかったと思いますが、誰も高望みだとは言いませんでした。すでに明確な目標があれば、この学校で追うことができますし、入学時に夢や目標がなくても、3年間の研究などを通して見つけることができます。夢を見つけて、追いかけて、実現できるのがGSTの強みだと思います」(加地さん)

ハンガリーで学ぶことになった加地さんの目標は「首席で卒業すること」だという。

「これまで、日本人で首席の卒業を達成した人はいません。入るなら、トップを目指したいです。ハンガリーで医師免許を取った後は、日本の国家試験も受けて、まずは心臓血管外科医として働きたいと思っています。そして、医師として働いたお金で介護施設を開きたいです。介護士も人の体に触れるのだから、もっと人体のことを学ぶべきだと思っています。その上で、介護士の労働条件や社会的地位を向上させ、利用者のQOLの向上を実現させたいです。自分が理想とする介護施設をつくって、日本に広めたいと思っています」(加地さん)

放課後の早慶講座で東大にも合格

中学受験で入学して6年間同校で過ごした石田啓さんは、現在、東京大学薬学部の3年生。東大対策として特別な勉強をしたという感覚はなかったと、当時を振り返る。

「大学によって入試の形式は違いますが、学校別に特別な対策をしたことはなかったです。過去問を、何年分もさかのぼって解いたという記憶もありません。高2から学校の早慶講座を受講して、上位校の問題に取り組みました。その中でやったことが、受験に活かされたのだと思います。放課後に開かれている講座の中で、上位校を目指す生徒が受講するのが早慶講座です。私は、国語、数学、英語、化学、生物を受講していました。過去問から抜粋した問題を説いて解説をしてもらうというのを繰り返すのですが、そこで早慶の問題はかなり解いたと思います」(石田さん)

石田さんが予備校に通ったのは、センター試験後の2次対策として短期集中講座を受講した程度。それまでは塾にも通わず、同校の授業と夏期講習や早慶講座で東大や慶応大に合格した。学んだことを定着させるために役立ったことは「人に教える」ことだったという。

「私は一人で勉強するのが苦手なので、家で机に向かって黙々と勉強しているとすぐに飽きてしまいます。ファミレスで勉強することもありましたが、人に教えることが自分にとってはよい勉強方法でした。クラスの中では上位にいたので、講座の前後などにクラスメイトが問題の解き方を聞きに来てくれることが多かったのです。人に教えるとなると、間違ったことは伝えられません。曖昧な部分を確認するようになり、知識をアウトプットすることが理解度のチェックになっていました」(石田さん)

中3の卒論がきっかけで薬学部へ

同校では、中学での夢教育の集大成として、中学3年次に全員が卒業論文を書く。「自分の夢」をテーマに、各生徒が将来の夢に関することや、興味・関心があるものについて原稿用紙50枚以上にまとめるのだ。石田さんが薬学部を目指すきっかけとなったのが、この卒論だったという。

「選んだテーマは、薬学です。卒論を書くまでは、将来の夢は決まっていませんでした。父が薬学に関係する仕事をしていることもあり、化学なども好きだったので、薬学って面白そうだなと思って調べ始め、そのままそのテーマで書き上げたのです。そこから興味が深まって、志望大学を選ぶときに薬学部のある大学に絞っていきました。第1志望が東大でしたが、先に第2志望の慶応に合格したので、東大の入試にはリラックスして臨むことができたと思います」(石田さん)

東大へ「絶対に行きたい」と思った時期はあまりなかったと、石田さんは語る。

「在学中は学年上位を保っていたので、その流れで手が届くならチャレンジしてみようかなと、東大を受験しました。合格できたのは、先生方との相性がよかったことも大きかったと思います。個性的で面白い先生が多く、自分と相性が合う先生の授業を受けることができ、授業の合間にも興味深い余談やためになる話を聞くことができました。わからない問題があれば気軽に先生に質問できたり、放課後にクラスメイトに教える機会を得られたりしたことなど、周りの人たちがいたから、うまくいったと感じています。特に高校の3年間はクラスメイトといろいろな経験ができ、あのクラスにいられたことが一生の財産です」(石田さん)

東大の薬学部は、薬科学科(4年制)と薬学科(6年制)を設置している。現在3年生の石田さんは、2021年の12月に学科が決まるという。

「薬科学科と薬学科のどちらにするか、まだ迷っています。臨床に興味が寄っていますが、実習などを受けるにつれて研究も面白いと感じてきました。一人で黙々と何かをやるのは向いていないので、研究だとしても一人ではなくチームでできる仕事に就きたいです」(石田さん)

<取材を終えて>
「医師になりたい」という夢を持って入学した加地さんと、中学の卒業論文などをきっかけに薬学への興味を深めた石田さん。どちらも在学中に夢の実現に向けて進む道を見つけて、着実に近づいている。加地さんのようにはっきりとした夢を持って入学する生徒は、多くはないかもしれない。だからこそ同校の独自教育は、夢について考えるきっかけとなるプログラムを多数用意している。入学時に夢や目標がなくても、プログラムを通して石田さんのように夢を見つけて、進むべき道が見えてくるだろう。

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