スクール特集(大妻嵐山中学校の特色のある教育 #2)
英語力向上と人間的成長を促すEnglish Festival
英語の学習意欲を高めるとともに、表現力や自主性、協調性をも育むEnglish Festival。生徒たちが全員参加する英語劇がそのメインとなっている。その目的や成果について、お二人の先生に聞いた。
アクティブラーニングの一環として取り組む英語劇
演技も大道具も衣装もメイクも生徒全員で
English Festivalの概要について、英語科の五十嵐由奈先生に聞いた。
「English Festivalは2016年度にスタートした取り組みで、学期末の2月に開催している一大イベントです。2019年度は中1から中3まで学年ごとのテーマに分かれて、全員参加の英語劇に挑戦しました。
1年生は4つのショートストーリーを1つの作品にまとめた『Bedtime Story』を、メインの2年生はディズニーの名作『Beauty and the Beast(美女と野獣)』を1時間の劇として披露しました。また3年生は大妻の学祖である大妻コタカ先生の半生について学び、演技しました」
「台本はすべてネイティブ教員の安宅ファートマ芽衣先生(パキスタン出身。以下、芽衣先生と表記)によるオリジナルで、テーマも手法も毎年変えています。去年の1年生は『THE ANT AND THE GRASSHOPPER(アリとキリギリス)』に、2年生はミュージカル『Annie(アニー)』の英語劇に取り組みました」
▶︎五十嵐由奈先生
▶︎安宅ファートマ芽衣先生
学び合いの効果に着目
そもそも英語劇に取り組むことになったきっかけはどんなことだったのだろう。
「English Festivalで英語劇に取り組むようになった背景には、アクティブラーニングにおける学び合いの効果に着目したことがあります。それ以前は、代表者による英語のスピーチコンテストを開催していたのですが、スピーチはスピーチする生徒個人だけのものになってしまい、それ以外の生徒たちは聞くだけと言う構図になってしまっていたんですね。そこで、みんなでひとつのものをつくり上げる英語劇はどうだろうかと意見が出たことがきっかけとなりました」(五十嵐先生)
英語力の向上という観点では、どのような効果が見られるのかと尋ねると、
「英語の台本を『読む(リーディング)』ところから始まり、相手の台詞を聞きとり、自分の台詞を言わなければりませんので『聞く(リスニング)』力も身につきます。もちろん、台詞を『話す(スピーキング)』、また役を演じる上で身につく表現力にもプラスの効果があります」と五十嵐先生。生徒たちは、意思や感情を伝えるツールとしての英語の重要性に気づいていく。しかし、英語劇のもたらす影響は、英語能力の伸長だけにはとどまらない。
準備から本番、その後に至るまでの舞台裏
生徒それぞれの能力を見極めて
英語劇の準備から本番、生徒たちのその後に至るまでどのような出来事が行われているのか、五十嵐先生と芽衣先生に聞いた。台本をつくる芽衣先生は、
「学年ごとの人数に合わせて台本の構成を考えるところから始めます。原作の英語表現が難しい場合には短い文章に区切ったり、簡単な表現にしたりします」と話す。「メインとなる中2は毎年ミュージカルにしているのですが、その年の学年の英語力や生徒たちがどんなスキルを持っているのかということを見ながら内容を変えています。例えば、今年はバレエができる生徒が多かったので『くるみ割り人形』の踊りを取り入れました」
メインキャストは、オーディションを行って選考するという。五十嵐先生は、
「全体の役割分担を決めるにあたってメインキャストのオーディションをしています。主役級の子は台詞がたくさんあって、長台詞はもちろん、100以上の台詞がある役もありました。他の行事もたくさんある中で、実質3ヶ月くらいで本番を迎えるわけですから大変です」と話す。一方、芽衣先生は、「生徒の中には英語が苦手な子やオーディションに参加しないシャイな生徒もいます。そういった子は裏方にまわって道具を動かしたり、メイクや衣装、髪型のセットをしたりと、自分の役割を見つけて自主的に動くようになるのもこの英語劇の面白いところです」と教えてくれた。全員参加であることの意味がよくわかる。
生徒の自主性を引き出し、学び合いを促す
「メインキャストが決まると練習が始まります。まず台本を渡して全員で通し読みをするのですが、訳し方や演じ方も含めて、私たち教員からは指示を出しません。生徒に自分の考えや意見を出してほしいのです。例えば、難しい台詞があれば自分が知っている英語表現で、『先生、こういう言葉を使っても良いですか?』と言ってきてくれたり、私の方からは、『どう演じたら良いと思う?』などと投げかけたりして、みんなで話し合ってつくり上げるようにしています。その方が生徒たちにとっても学びが多いのではないかと考えているのです」と芽衣先生。生徒たちの主体的な取り組みをうまく引き出しているようだ。
衣装の準備などはどうしているのだろう。芽衣先生は、
「衣装については『一番安い方法を考えてね』とだけ伝えました。するとメインキャストになれなかった生徒のひとりが『私が、やっても良いですか?』と。するとタブレット端末にあるClassi(クラッシー)というアプリを使ってみんなに情報を共有して、私が知らないうちにすべて用意してくれたんです」と感激した様子で語ってくれた。「デザインとかものづくりに興味はあるけれど、普段の生活や授業ではそういう面を出さない、あるいは出せない子も多くて、そういった生徒の興味なり積極性を引き出すことで今年も成功することができたと感じています」
みんなで劇をつくり上げることで成長
全員参加の英語劇。メインキャストになりたくてもなれない生徒もいる。そんな中、モチベーションを保つのは大変なのではないだろうか。芽衣先生は、
「もちろん、すごく難しいことです。本番一週間前くらいになると、上手くいかなくて泣く子もいますし、『自分はこんなに頑張っているのに、頑張ってくれない人がいる』と不満を漏らす子も。
まあ、大変な状況になるのですが、そうすると生徒たちの中からリーダーのような存在の子が自然と出てきて、みんなを引っ張ってくれるんです。リーダーシップや協調性といった力が自然に身につきますし、人間的にも成長できる。この英語劇の良いところですね」と話す。
アクシデントを乗り越えることで自信をつける
本番当日は、保護者だけでなく、地元嵐山町の方々も毎年観に来るという。
「本番当日にはいろんなことが起こります。以前、衣装チェンジの時にドレスに合わせる白い手袋が無くなって大騒ぎしたことがありました。台詞を噛んじゃったと泣く生徒もいました」と芽衣先生。しかし、全体を通して見れば、例年、大きな失敗はないとのこと。
「アクシデントはありますが、それを乗り越えて演じ続けることが大切だと思います。その意味では、生徒たちはしっかりやり遂げてくれますね。そこは、いつも褒めています。普段の授業では得られないこうした経験を通して自信をもってもらいたいです」と五十嵐先生。
生徒と教員に多くの変化や発見をもたらす英語劇
生徒の知られざる能力に魅せられた出来事
英語の学習意欲を高めるためアクティブラーニングの一環として取り組みはじめた英語劇は、生徒たちはもちろん、教員にとっても多くの変化や発見をもたらしている。芽衣先生には、忘れられないシーンがあるという。
「去年のオーディションでの出来事ですが、あの瞬間はおそらく一生忘れられません。その生徒はスポーツが好きで英語にはそれほど関心がない様子でした。なのに、彼女が『オーディションを受ける』と言い出したんです。そして、彼女がオーディションで歌った瞬間に『あっ!すごい。こんなに歌える子だったんだ』と。
普段はクールで英語劇に関心を示さないような子が、みんなの前でバレエを披露してクラスメイトを驚かせたこともありました。それで、バレエを英語劇に取り入れたのです。観劇後、『こういう機会を作ってくれてありがとうございました』とその子のお母さんが嬉しそうに声をかけてくださいました」
「私たち教員は、ともすれば『この子はこういう生徒』だと型にはめてしまっているんですね。生徒もいつの間にか学校での自分はこうあるべきという型を作ってしまう。英語劇は、『自分を自分らしく表現しても良いんだ』と気づくきっかけにもなっています」
英語劇を通じてグローバルな視点を身につける
芽衣先生は、すでに2020年度のEnglish Festivalへと向けてアイデアを練っているという。毎年オリジナルの台本を作って取り組むその情熱の裏にはどんな思いがあるのだろうか。
「私が生まれたのはパキスタンです。日本に来て感じたのは日本の生徒はものすごく恵まれているということです。まずあげられるのは、治安の良さです。世界には、紛争や環境問題、貧困など多くの問題があります。そういうところまで視野を広げられるようになってほしいと思っています」と芽衣先生。
去年の3年生にはSDGs(エス・ディー・ジーズ)をテーマにした台本を作り、パキスタンに実在した少年イクバル・マシーの人生を通して「みんなが住みやすい世界」にするためには何が必要かを考える英語劇をつくり上げたそうだ。
「授業で私が一方的に話すよりも、劇を通して演技をすれば当時どんな状況だったかもより分かると思いましたし、中3になれば、グローバルな視点で社会的な問題についても興味を持って取り組んでほしいですね」
<取材を終えて>
2016年度から毎年テーマや手法を変えて取り組んでいるEnglish Festival。生徒たちの能力を見極めながら、英語力だけではなく人間的な成長にも繋げて行こうとする先生方の情熱に魅了された。わずか3ヶ月で本格的な劇に仕上げる生徒たちの能力も底知れず、世界につながる、“科学する心、表現する力”を育てる大妻嵐山中学校ならではの取り組みだと強く感じさせてくれる取材だった。