立正大学付属立正中学校
スペシャルレポート <第4回>
弁論大会で活躍した生徒に見る
「R-プログラム」の有効性
Research(調べる)、Read(読み取る)、Report(表現する)。この3つのスキルを向上させる「R-プログラム」は、立正大学付属立正中学校の教育を最も特徴づけるものだ。実際に生徒たちは、この「R-プログラム」によってどのように成長しているのだろうか。今回は、校内外で行われた弁論大会に出場した4人の生徒を取材し、紹介する。
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「読む」ことで論理的思考力を高める
「R-プログラム」の一環として、生徒たちが毎朝取り組んでいることがある。その一つは、新聞の社説などを5分で読み、5分で自分の意見を200字以内にまとめる「コラムリーディング」だ。文章の趣旨を理解し、同意、不同意を含め、自分なりの考えをまとめるのは、中学1年生にとって易しいことではない。
しかし、毎朝取り組むことによって、短時間で文章を読み、素早く要点を押さえる力が確実に身についていく。そして、自分の意見をまとめることは、自分の言葉で表現する力の向上にもつながる。
「コラムリーディング」でまとめた意見は、その場で何人かの生徒が発表する。「1分間スピーチ」だ。クラス全員の前で発表する機会は、生徒一人あたり年間5回以上あり、プレゼンテーション力を着実に伸ばしている。
コラムリーディングの後、1分間スピーチが行われる
「R-プログラム」には、他に毎日の読書の記録をとる「読書ノート」、1年間を4期に分け、個人とクラス対抗で読書量を競う「リーディングマラソン」、中1を対象に同校の卒業生が講演を行う「職業講話」、外部の講師を招いて、挨拶やお辞儀の仕方、言葉遣いなど社会人としての立ち居振る舞いを学ぶ「マナー講座」、3名程度の班に分かれて3日間のインターンシップに参加するなど継続的に行われる「職場体験」などがあり、まさに同校の教育の柱となっている。
職場体験
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生徒インタビューその1「心は優しく、思いは強く」
ここからは、弁論大会で活躍した生徒たちを紹介する。
まずは、第29回立正中学校弁論大会で最優秀賞に輝いた中学2年生、Hさん。論題は、「大丈夫」。その内容を本人に尋ねると「大丈夫という言葉はよく耳にしますが、その場で発せられた『大丈夫』は、本当に大丈夫の意味なのかわからない時があります。例えば、いじめられている人が『大丈夫』と言った時、心の中では『死んでしまいたい』と思っている場合もあるのではないでしょうか」と説明してくれた。
Hさんの弁論
言葉を鵜呑みにするのではなく、その真意をしっかり汲み取るようにしたい。そんなHさんの思いが弁論を通じて会場の聴衆に大きく広がっていった。Hさんは、「その時に最も適切な言葉が使われるといいなと思います」とも語ってくれた。聞く方にだけ注意を促すのではなく、話す方にも言葉の選び方に気をつけてほしい。そんな強い思いが感じられる。
次に、令和元年度「中学生の主張 東京大会」に出場し、努力賞を受賞した中学1年生のKくんだ。論題は、「心の目で見よう」。その内容はどんなものだろうか。「実体験に基づいて原稿を書きました。ある時、新橋駅の近くで盲導犬を連れている女性を見かけたんです。困っているようでしたので、声をかけました。すると、『山手線のホームが工事をしていて、いつもと状況が変わっていてわからなくなってしまった』とのことでした」とKくん。その後、肘に手をかけてもらい、案内したとのこと。中学1年生にして、その優しさと行動力を持ち合わせていることに驚かずにはいられなかった。
Kくんの弁論
弁論で主張したかったのは、どんなことだったのだろうか。「社会にはいろいろな人がいて、みんな同じでは決してないということを伝えたいと思いました」(Kくん)。
HさんとKくんに、「R-プログラム」について聞いてみると、「読んで、書いて、発表してということを繰り返しできるのがいいと思います。将来、社会に出てから必ず役に立つと思います」とHさん。Kくんは「実は、最初は書くのが苦手でしたが、今は慣れてきました」とまだ半年余りににもかかわらず、その成果を実感していた。
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生徒インタビューその2「命に心を寄せる」
3人目は、第36回弁論大会(仏教主義学校連盟主催)で、第3位となった中学2年生、Nさん。論題は、「『幸せ』に生きる」。
「幸せというのは、人によって、状況によって違うものだと思います。例えば、余命宣告をされた人でも幸せに生きることができるはず。ネガティブな感情になって諦めてほしくないという思いで弁論しました」とNさんは語ってくれた。
Nさんの弁論
この内容に至ったきっかけは、話題の小説『君の膵臓をたべたい』を読んだことと、手足に障がいがある友だちの存在だったという。このまったく違うことを「幸せ」というキーワードで結び、弁論につなげたことことがすばらしい。そう感じた。
他校の生徒も、しかも高校生も参加するこの大会で第3位。「驚きましたけど、とてもうれしいです」とNさん。部活で怪我をしたことから、「将来は理学療法士やスポーツトレーナーを目指したいと思っています」と明かしてくれた。
最後は、同大会で見事第2位となった高校1年生のIさんだ。論題は、「奇跡」。
「この論題になったのは、日本史の教科書で、戦争や病気などで多くの命が失われた困難な時代があり、自分の先祖たちがその道を歩んできたんだなと感じたことからです。今の時代、自ら命を断つ人も少なくありません。でも、今ある命は奇跡で、自分だけのものではありません。バトンのようにつないでいくものではないでしょうか」とIさんは語る。
Iさんの弁論
Iさんの弁論は、声の抑揚やジェスチャーなどを含め、非常に完成度の高いものだった。「多くの人に語りかけたい時には、両手を広げて話したり、より注意力を持って聞いてもらいたい時には、一人ひとりに片手を差し伸べるようにしたり、工夫しました」
NさんとIさんにも「R-プログラム」について尋ねてみると、「『第2学年の立正中の先生を見て、思うことを書きなさい』というお題が出たことがあり、とてもおもしろかったです。みんなが知っていることなのに、少しずつ感じ方が違っていたり。でも、立正の先生方は楽しそうにしているように私は感じています」とNさん。Iさんは、「最近、グラフや表から読み取って自分の意見につなげていくということに取り組みました。私は、少し苦手ですが、将来必ず役に立つ力がつけられると思っています」と話してくれた。
ある事象から何かに気づき、自分の意見を育み、文章にし、多くの聴衆の前で弁論する。弁論大会で求められる能力は、とても複雑なものだ。(もちろん、中1と高1とではレベルは異なるが)4人の生徒たちが、順調にそんな能力を獲得しつつあることが取材を通じて感じられた。その要因として真っ先にあげられるのは、やはり「R-プログラム」だ。「R-プログラム」において、同校が最も大切にしているのは、継続性だという。細切れの体験ではなく、定期的に続けて取り組むことでResearch(調べる)、Read(読み取る)、Report(表現する)という3つのスキルを伸ばそうとしているのだ。
そんな「R-プログラム」の有効性を確認しながらも、今回、最も強く感じたのは、生徒たちの優しさだった。4人の弁論すべてに通じていたのは、優しさであり、さらにその優しさに基づく意志の強さまで感じとることができた。同校に入学しようと思ったきっかけについて、「小学生の時に学校見学に来て、先輩たちが『こんにちは』と挨拶してくれた」というエピソードを異口同音に語ってくれたHさん、Kくん、Iさん。「学校見学の時に先生方が明るく楽しそうだった」と話してくれたNさん。そんな同校の良い雰囲気が、心優しい生徒たちを育んでいるのだろうと強く感じることができた取材だった。
所在地・交通アクセス
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