スクール特集(桐蔭学園中等教育学校の特色のある教育 #4)
共学化2年目の「新しい桐蔭」が描く「新しい共学進学校」のカタチ
2019年度から共学の進学校としてリスタートし、今年4月には共学2期生が入学。先輩となった2年生にリモート取材を行った。
2019年度から、共学の進学校としてリスタートした桐蔭学園中等教育学校。2年生となった共学1期生は、臨時休校中のオンライン授業でもアクティブラーニング型の学びを止めずにさらに成長した。2年生の担任・山本英門先生(入試対策・広報部主任)には生徒たちの成長ぶりや今後の展開について、共学2期生を迎えて先輩となった2年生には、授業や行事、部活動などについてリモートで取材を行った。
ピンチをチャンスに変えたオンライン授業
新型コロナウイルスの影響で、2年生は1学期の約2か月間、オンラインで授業を行った。
「5月の連休明けから6月いっぱい、約2か月間オンライン授業を行いました。本校の生徒は全員iPadが貸与されており、日頃からロイロノート・スクール(授業支援アプリ)を活用しています。自宅学習期間中は、制作した動画授業を配信し、時間割通りに授業を行いました。通常は50分授業ですが、生徒たちの負担を考えて1つの授業を30分に収めて、午前中に6つの授業が終わるように授業動画を作りました。残りの20分は課題を解く時間として、生徒たちは午後に取り組んで提出。課題の提出が確認できたら、出席とみなしました。授業によっては、ロイロノートの提出箱も活用し、生徒同士で意見を共有する機会なども作っています」(山本先生)
突然の一斉休校というピンチを、生徒たちが自主的に取り組むチャンスに変えたという点では、一定の成果が出たと山本先生はふり返る。
「オンライン授業では、自分から学び、自分から知識を吸収していくという姿勢が通常以上に問われたと思います。わかるまで何回も動画を見て取り組むなど、積極的な学習姿勢が表れた生徒も多く、オンライン授業を重ねることでそのような姿勢がさらに育まれていきました。動画や課題を与えるだけでなく、教員からのフィードバックも行っています。例えば英語では、iPadを使って音読したファイルを提出すると、発音が違っていたところなどを教員がフィードバックしました。生徒同士の意見共有なども交えながら、オンラインでもアクティブラーニング型(以下AL型)の学びを止めることなく、授業を進めることができたと思います。しかし、全員がうまくできたわけではありません。精神的にまだ幼い子や、波に乗れない子もいました。そのような子には、担任が電話をしてフォローすることも必要です。担任が精神的なケアをしていくことで、そのような生徒たちもなんとか乗り切ることができました」(山本先生)
「新しい桐蔭」らしさが生徒たちに浸透
8月20日から2学期が始まり、8月29日には1年・2年合同企画「メンターを見つけよう・メンターになろう」を実施して、部活動や委員会以外で1年生と2年生が出会う場をセッティング。1年生は事前に「先輩に聞いてみたいこと」をグループで出し合い、ロイロノートでクラス内共有して臨んだ。当日は各学年4人ずつで1つのグループを作り、1年生と2年生のペアトークを4回実施。この合同企画には、学年それぞれに目的があったという。
「2年生には、他者を思いやる気持ち、学校生活の軸となるAL、多様性を認めることなど、共学1期生として身に着けてほしいことがかなり浸透してきました。2年生にとってはこの企画が、それらを改めて認識し、より意識を高めるためのよい機会になると考えたのです。自身の経験を自分の言葉で表現して、1年生に伝えたことは、2年生にとって有意義な経験になったと思います。一方、1年生は、入学当初からオンライン授業を経験することになり、不安が大きかったはずです。その不安を解消し、桐蔭に入って歓迎されていることを感じてもらう機会になると考えて実施しました。2年生の担任としては、共学1期生が先輩になって、大きくなったなと感じられて嬉しかったです。本校がキャリア教育として日常的に実践している傾聴と承認も、しっかりと体現してくれていました。今後もより発展した形で、キャリア教育の一環として、このような企画を実践していきたいと思っています」(山本先生)
「新しい桐蔭」らしさは教員と生徒の会話からも感じられ、とてもよい関係が築けていることがうかがえる。教員と生徒の関係づくりに関しては、どのような取り組みをしているのだろうか。
「生徒たちは、帰りのホームルームで『活動計画シート』を提出しています。その日の授業内容をふり返って記録し、それをもとに放課後の学習計画を立てるものです。担任はそれを読んで、1人ずつにコメントを書いて返します。そういった細かな積み重ねが、生徒たちの安心感につながっていると思います。生徒たちがみんな『学校が楽しい!』と言ってくれているのが、何より嬉しいです。教員たちは日々、安心・安全な環境で学校生活を楽しめることが保証されるように場を整えています」(山本先生)
2年生2人にリモートでインタビュー
▶︎写真左より:Kさん、山本英門先生、Yくん
――自宅学習期間中のオンライン授業はどうでしたか?
Kさん 家で勉強することになったので、最初はちゃんとできるか不安でしたが、思ったより集中できて勉強がはかどりました。物理は実験動画がたくさんあり、具体的に知ることができたので覚えやすかったです。ロイロノートには、クラスの提出箱があります。授業によっては、そこでみんなの意見が共有されていたので、友達の意見も知ることができ、自分の考えを深めることができました。
Yくん 体育の授業が新鮮で面白かったです。腕立て伏せなどの筋トレから始まって、ボールを使ったトレーニングなどもありました。ボールを股の間に通すなど、音や振動を出さないように配慮されていましたが、体を動かした後は筋肉痛になったりしたので、鍛えられたという実感がありました。教科によっては、友達の意見を見ることができ、自分の意見と比べてみたり、他の人のいいところも吸収できたりしてよかったです。
――通常の授業と比べてオンライン授業のよかったところは?
Kさん 通常の授業だと途中で集中力が途切れることもありますが、オンライン授業は通常より短かったので、ずっと集中して取り組めました。
Yくん 例えば数学だと、通常授業の場合、先生が公式の説明などをしてすぐに練習問題を解きますが、1回の説明でわからないこともあります。動画だと、わかるまで何回も見られるのがよかったです。
――学校が再開してからの授業はどうですか?
Kさん 1年生のときは理科が化学と生物でしたが、2年生になったら物理と地学になりました。地学に興味が出てきたので、楽しいです。
Yくん 物理が始まって、先生が実験をしてくれたり、自分たちも体験できるのが面白いです。実験が好きなので、今後も実験が楽しみです。休校中はみんなに会えなかったので、グループワークもあまりできませんでした。実際に会って話すのは大切だと思うし、コミュニケーションも取りやすいので、やっぱり対面の授業はいいなと思いました。
――探究(未来への扉)では、どんなことに取り組んでいますか?
Kさん 20個ぐらいのテーマから選んで調べ学習をしています。私は「スマホ決済」を選びました。コロナの影響でキャッシュレス決済が話題になっていて、感染対策になると聞いたので、もっと調べてみたいと思いました。今は3割ぐらいできていて、スライドを作っている最中です。今まで調べた中で、スマホ決済のメリットとデメリットがいくつかありましたが、もっとあると思うのでさらに調べていきます。
Yくん 僕は、「食品ロス」について調べています。ニュースで、世界で飢餓人口が増加していて、9人に1人は食料が足りていないと知りました。一方で、食品ロスが問題になっています。なぜ食品ロスが出るのか、今からできることは何か、などについて調べました。今のところ5割ぐらいできていて、わかりやすく伝えられるスライドを作っている途中です。写真を選んだり、重要なところは文字を大きくしたり、色をつけたりしています。一番伝えたいところを強調するようにと、先生からアドバイスをもらったので、いろいろ工夫しています。
※10月29日に、1年生・2年生合同で探究の発表会を開催。全員にとって成果発表の場、そして先輩後輩の発表を聴く機会となる。
――1年・2年合同企画「メンターを見つけよう・メンターになろう」では、どんな質問をされましたか?
Kさん ほとんどの人から「勉強と部活の両立はどうしていますか?」と質問されました。私は混声合唱部に入っていて、週3回部活があります。勉強時間はけっこう少ないですが、少ない時間を有効に使って、1時間でもきちんと勉強するようにしていると答えました。勉強する気が起きない日もありますが、宿題だけでもやるようにしています。宿題がないときは、授業のプリントを見返したりします。1年生からは「すごいですね」と言われましたが、自分ではそんなにすごいとは思っていませんでした(笑)。最初は緊張しましたが、1年生が積極的に話しかけてくれたので話しやすかったです。今振り返ると、こう言っておけばよかったなと思うことがあったので、次に機会があれば、事前に質問を想定して答えを考えておこうと思っています。
Yくん テスト前の勉強の仕方、1日にどれくらい勉強するか、部活についてなど質問されました。1年生は4月から臨時休校になってしまったので、知りたいことがたくさんあったようです。テスト対策については、毎日コツコツ勉強しておき、テスト前日には暗記をする、などと答えました。僕はハンドボール部なので、練習時間や試合のことなども話しました。1年生はメモを取りながら聴いていて、驚いたりもしていました。自分としては、バッチリ答えられたと思います(笑)。僕も1年生もどちらも緊張せず、自然な感じで話せました。小学校と中学校の違いがあるので、もし僕が1年生で、いきなりオンライン授業になってしまったら、わからないことも多くて不安だったと思います。2年生から話が聞けて、1年生にとってもよかったと思いました。
――これまでの学校生活で一番印象に残っていることは?
Kさん 今年は中止になってしまいましたが、みんなで協力して準備した鸞鳳祭(学園祭)が楽しかったです。私のクラスは、新聞で作る鉛筆、ブーメランや栞作りを来校者に体験してもらいました。私はロッカーの装飾を担当するグループだったので、デザインをみんなで考えて作ったのが楽しかったです。今年はリモート祭で、動画を制作して発表します。みんなで編集などについて細かく話し合っているので、どんな動画になるか楽しみです。
※学園祭の代替行事として、リモート祭を10月に開催。
Yくん 授業で実験があったり、数学でわからないことがわかるようになったりして、毎日の学校生活が楽しいです。休み時間に友達としゃべったり、遊んだりするのも楽しいですが、一番楽しいのは部活です。ハンドボール部は男女合同で活動していて、2年生だけでも30人ぐらいいます。特に印象に残っているのは、新人戦です。緊張しましたが、みんなで声を出して協力し合って、部活動でしかできない体験でした。全勝で地区予選を勝ち抜いたので、次は横浜市の大会で1位を目指します! 大会で勝てるように練習して、毎日充実していて、とにかく学校が大好きです。
――この学校のいいなと思うところを教えてください。
Kさん たくさんの施設がありますが、私は本が好きなので、図書室の蔵書が多いことが魅力です。初めて見たときは、本の多さにビックリしました。小説から参考書までいろいろな本があり、勉強や調べものもはかどります。
※F棟図書室(蔵書数 約5万冊)をはじめ、キャンパス内には複数の図書室がある。オンライン蔵書検索をすれば、全館の蔵書から取り寄せることができる。
Yくん キャンパスの広さです! 校内で森の探検(探究の授業)ができる学校はあまりないと思いますし、ラグビー場、野球場、サッカー場もそろっています。新しい趣味やスポーツを始めたい人にとっては、やりたいことを見つけられる場所です。僕はもともとスポーツが好きでしたが、中学生になったら何か新しいスポーツをやってみたいと思っていました。この学校でハンドボールに出会い、楽しそうでかっこいいなと思ったので入部したら、本当に楽しくて、部活が大好きです。
3年次の探究テーマは「グローバル」
「新しい桐蔭」で、生徒たちは様々な「探究」を進めている。来年度に向けて、どのように展開していくのだろうか。
「AL型授業が生徒たちの中でスタンダードになってきたので、次のステップへ進んでいきます。1年次・2年次でALの手法をしっかりと学び、3年次には知識や広い視野を加えて具体的な行動に移していきます。3年次の探究テーマは、『15歳のグローバルチャレンジ』。本校を代表する部活動に模擬国連部がありますが、それを探究の授業として3年生全員で取り組みます。模擬国連会議は、参加者が国連に派遣された一国の政府代表・全権大使になりきって議論を行うものです。週1回、4人グループを作って、世界の国々の大使に扮して、自分の国について研究を深めていきます。そして、他国との交渉ややり取りを通じて、よりよい世界の実現を目指します。3年次の春休みには、全員参加でクラークでの海外語学研修も実施する予定です」(山本先生)
2019年度から共学校となり、「新しい教育」がよい形で動き出した。「新しい教育」の形に理解を示し、同校の取り組みを好意的にとらえてくれる人が多いこともありがたいと、山本先生は語る。
「本校では、『学力の氷山モデル』*に基づき、学びに向かう力や人間性などの『見えない学力』の層を大きくしていくというコンセプトで取り組んでいます。生徒たちも、人間的に成長したいという思いを持って入学してきているようです。温かみがあり、学校生活を楽しみ、他者に意識を向けようとする素直な生徒が多いと思います。リモート祭に向けた動画制作を見ても、お互いのよさを出しながら1つのものを作ろうとする気持ちが、生徒たちの中に浸透していることが伝わってきます。自主的に動く力を持った生徒が入ってきてくれているので、今後もそのような力や好奇心を持った生徒にぜひ来てほしいです。本校では、個→協働(ペアやグループワーク)→個(ふり返り)で学びを深めるALの型がしっかりとできています。共学校としてスタートした『新しい進学校』のカタチが、生徒たちの中にどんどん浸透してきているので、今後も期待してください」(山本先生)
*氷山の水面上に出ている部分がペーパーテストでも測れる「知識・技能」、その下には、思考力・判断力・表現力という「見えにくい学力」、さらにその下に学びに向かう力や人間性などの「見えない学力」が隠れているという考えをイメージ化したのが「学力の氷山モデル」。「見えない学力」の層が大きくなれば氷山の浮力は大きくなり、結果的に水面上の氷山(=知識・技能)の体積は増すという考えのもと、「学びに向かう力」から「知識・技能」まで包括的にとらえて伸ばしていく。
<取材を終えて>
今回はリモートで取材を行ったので、難しい部分もあったと思うが、生徒たちは自分の言葉でしっかりと答えてくれた。画面を通してではあったが、彼らの言葉や表情から、学校が好きで、学校生活を楽しんでいる様子が伝わってきた。学園祭は中止となってしまったが、代替行事に向けて動画制作という新たなチャレンジも楽しんでいる。1年・2年合同企画「メンターを見つけよう・メンターになろう」でも、後輩のために自分なりに考えて答えることができていた。このような企画や行事からも、「新しい桐蔭」が感じ取れる。説明会や体験会などで、ぜひ「新しい桐蔭」を感じていただきたい。