スクール特集(湘南白百合学園中学校の特色のある教育 #4)
後輩も憧れる体育大会の伝統種目、高3生と教員が踊る「カドリール」
湘南白百合学園中学校では、中高合同で体育大会を開催。高3と教員が踊る伝統種目「カドリール」などを取材した。
湘南白百合学園中学校の体育大会は、桜組・菊組・梅組・百合組という、4クラス縦割りの色別で対抗戦が繰り広げられる。今年度はコロナ禍以前と同様に、中高合同での開催が実現。保健体育科の橋本真優先生と高3、中1の生徒に、伝統種目「カドリール」や体育大会実行委員などについて聞いた。
2022年度に体育大会実行委員会を設立
同校にはホームルーム委員という、各クラスから選出された代表者による組織があったが、2022年度からそれに加えて生徒会が設立された。その傘下として体育大会実行委員会を立ち上げ、今年度の体育大会からより生徒主体の開催になったと橋本先生は語る。
「これまでも生徒の力を借りて実施していましたが、指示を出す役割の多くは教員でした。体育大会は年度の初めにある行事なので、教員が進めた方がスムーズだったのです。前年度から準備を進めていくことで、生徒主体で進めていくことができると判断して、体育大会実行委員会を立ち上げました。今回の体育大会は昨年度から準備してきたので、企画段階から生徒が参加し、生徒に指示を出す役割も生徒が担いました。実行委員会では、種目を決めるときには過去の開催を振り返り、どのくらい時間がかかるか計算したり、どんな種目だろうと思わせるネーミングを考えたりしました」(橋本先生)
種目のネーミングは、「君の縄」(綱引き)、「ものよけ姫」(障害物競走)、「むかどんどん」(ムカデ競走)など、映画やドラマなどからヒントを得て付けられた。
「教員が考えたことがないような用具の使い方を提案されたときは、実現可能かどうか時間をかけて精査しました。例えば、障害物競走でグルグルバットを取り入れたり、玉入れのボールをスーパーのカゴに入れてゴールするなどは、教員では思いつきません。玉入れで、高さの違うカゴを使うなども、生徒たちのアイデアです」(橋本先生)
生徒たちから新しいアイデアを取り入れながらも、伝統とのバランスは大切にしていきたいと橋本先生は語る。
「もともと体育大会は中高合同で行ってきましたが、コロナ禍では合同の開催ができませんでした。中学生が高校生の様子を見られない中で、私たち教員が考えていた以上に、生徒たちは、身近な存在である少し年上の先輩に憧れを持っており、そうなりたいという気持ちが成長につながっているのだと実感しました。ですから、練習からお互いに刺激を与え合ってほしいですし、そのような機会を大事にしたいです。新しいものと伝統的なものは半々で、バランスを大切にしていきたいと考えています」(橋本先生)
▶︎保健体育科 橋本真優先生
所属意識が高まる縦割チーム
同校の体育大会は、桜組・菊組・梅組・百合組という、4クラス縦割りの色別対抗戦。縦割りにすることで、所属意識が高まるという。
「入学したばかりの中1は、自分のクラスや学年、あるいは廊下ですれ違う1つ上の学年ぐらいしか知りません。そのような中で、体育大会では中1から高3まで6学年が揃います。同じ色の仲間を応援し合うことで、この学校、学年・クラスに所属していることを実感できるようになるのです。クラス分けは平等に振り分けていますが、フタを開けてみると化学反応が起きて活発なクラスができたり、それぞれのカラーがあります。作戦はクラスごとに立てていて、例えばムカデ競走では、走る順番を背の順で決めたり、タイムを測って速いグループを最初と最後にするなど工夫していました」(橋本先生)
観覧する保護者の数は非常に多く、コロナ前より増えたという。
「今年は、午前と午後を通してご覧くださる保護者が多かったです。保護者の方々が体育館で昼食をとられるのは、コロナ前はそれほど多くなかった印象ですが、今年は生徒と一緒に楽しそうに歓談しながら過ごされていたようです。いろいろと制限があり、行事をご覧になれない時期があったので、直接、活躍をご覧になりたいという気持ちが強まったのかもしれません。競技が見やすい位置の保護者用観覧席は、競技を行う学年ごとに入れ替わっていただくように生徒が呼びかけていましたが、それも生徒が自分たちで考えたことです。平等に見られるようにと考えたようですが、生徒たちがそこまで気づいたことに驚きました。教員が思っている以上に、生徒たちはよく考えています」(橋本先生)
高3生の伝統種目「カドリール」
「カドリール」とは、18世紀にヨーロッパで生まれた4人1組となって踊る社交ダンス。同校では、高3生が体育大会で、これまでの感謝の思いを込めて教員と一緒に踊ることが伝統となっている。高2の3学期から練習を始め、教員も体育の授業に一緒に参加しながら踊りを確認し、当日に向けて練習を重ねるという。
「私は本校の卒業生で、私の母も卒業生なのですが、母の時代にもカドリールはあり、もっと上の世代も踊っていました。昔は学園祭である「聖ポーロ祭」で踊っていましたが、体育大会で行うようになってからも何十年も続いている種目です。練習の時期になると、体育の時間に高3生が『練習しましょう』と教員を呼びに来ます。練習を何回も繰り返すうちに、授業などでの関わり以上に、一緒に踊る生徒との絆が深まります。カドリールは5曲踊るのですが、1曲1曲終わるたびに、『ああ、終わっちゃう。終わってほしくない』という声が聞こえ、最後の曲がかかる前には『ずっとこのまま踊っていたい』と言っている生徒がおり、こちらも涙が出そうになりました」(橋本先生)
生徒としても踊った経験がある橋本先生は、今でも同級生と当時を振り返ることがあり、大切な思い出の1つだという。
「同級生と会うと『〇〇先生と踊ったね』と思い出話をすることがありますし、当時の写真もみんな大切にしています。生徒たちにも、同じような気持ちで踊ってほしいと思いながら練習してきました。高3生はみんな、カドリールの時間を心から楽しみ、学校生活全体を振り返りながら5曲を踊っています。それを後輩が見て、何年か後に自分も踊るんだ、あんな風になりたいなと思ってくれていることも素敵だと思います。本校らしさが引き継がれている、体育大会になくてはならない種目です」(橋本先生)
全面人工芝にリニューアルされたグラウンド
同校のグラウンドは、2022年に全面人工芝にリニューアルされた。
「人工芝になってから、すり傷が減りました。リレー種目では転んでしまう生徒が多いですが、今年は、それほど大きな怪我にはつながらなかったです。以前はゴムチップだったので、転ぶと大きなすり傷につながっていました。人工芝にした一番の目的は怪我の予防なので、ボールが弾みにくいというデメリットもありますが、ロングパイルの人工芝を採用して良かったと思っています」(橋本先生)
次年度以降も生徒の意向やアイデアを、たくさん取り入れていきたいと橋本先生は語る。
「今年度開催してみて、事前に準備しておけばよかったこと、実行委員ではなく各係に任せた方がよかったことなど改善すべき点が見えてきました。それを踏まえて、教員と生徒が上手に連携をとり、学校全体で作り上げる体育大会を目指していきたいです」(橋本先生)
高3の生徒にインタビュー
▶︎写真 左:Fさん 右:Tさん
Fさん 高3 体育大会実行委員
Tさん 高3 体育大会実行委員
――体育大会実行委員として、どのような準備をしてきましたか?
Fさん どんな競技を行うかは実行委員が考えて、基本的に先生方は生徒たちの意見を尊重してくださいました。綱引きは毎年高2がやってきた競技なので、先輩からアドバイスをもらうなど、縦のつながりがあります。新しくできた競技もありますが、綱引きのような競技は引き継がれています。
Tさん 去年の夏頃から準備を始めました。綱引きを「君の縄」と名付けるなど、競技名は生徒が考えたものです。新しい競技について先生方は、生徒たちの意見を聞き、気になったことがあれば提案などをしてくださいました。
――「カドリール」の練習や本番を終えた感想を教えてください。
Fさん まずは生徒が3人ずつのグループに分かれて、そこに先生が1人ずつ入ります。どのグループで踊るかは、担任の先生以外はくじ引きです。高2の3学期から練習を始めて、先生も朝練に参加してくださいました。何回も練習してきましたが、先生と踊るのは今日が最後です。踊っている途中で感極まって泣いてしまう子もいましたが、みんな楽しそうに踊っていました。
Tさん 先輩たちが踊る姿をずっと見てきて、やっと自分たちの番になったので感慨深いです。私は部活でお世話になった先生と一緒に踊ることができたので、感謝の気持ちを込めて踊り、いい思い出ができました。高3生が積極的に関われる行事は、体育大会と6月の音楽コンクールなので、高校生活の終わりが近づいてきている寂しさもあります。中高の6年間を頑張ってきたなと感じたり、思い出がたくさん詰まった種目です。
――この学校のいいなと思うところを教えてください。
Fさん 最近は、生徒の主体化が進んでいるように感じられます。今までも、ホームルーム委員会がありましたが、生徒会ができてから、以前より生徒の意見が反映されるようになったと思います。
Tさん もともと積極的な生徒が多かったと思いますが、生徒会が出来てから、今まで以上に意見を取り入れて、生徒が学校をよくしていこうとしていると感じます。湘南白百合のよさが、さらに引き出されていくと思います。
――受験生へのメッセージをお願いします。
Fさん 併設小学校があるので不安があるかもしれませんが、併設小から進学してくる生徒は、みんな新しい友達が入ってくるのを楽しみにしています。新しい出会いを期待して、仲良くなりたいという気持ちが強いので、心配しないでください。
Tさん 湘南白百合は部活も活発ですし、縦のつながりを大切にした楽しい行事がたくさんあります。受験勉強は辛いと感じることも多いと思いますが、入学したらこんなことができると想像しながら、頑張ってほしいです。
中1の生徒にインタビュー
▶︎写真 左:Wさん 右:Mさん
Wさん 中1
Mさん 中1
――この学校を受験した理由を教えてください。
Wさん 私は環境問題と英語に興味があったので、学校説明会で先生に質問したら、わかりやすく答えてくれたのがいいなと思った理由の1つです。環境問題の活動についてはパンフレットを見せて説明してくださり、英語の授業は取り出しクラスがあることを知りました。もう1つ、放課後に自習ができることもよかったです。
Mさん 私はチアダンスをやっていたので、ダンス系の部活に興味がありました。説明会の部活体験で新体操部に行ったら、先輩が優しく丁寧に教えてくれたのが嬉しかったです。他の子は数分で終わったのですが、「もうちょっとやる?」と聞かれて私は「やりたいです」と答えたら、先輩も付き合ってくれました。リリースペース*や人工芝のグラウンドなど、設備がきれいになったこともよかったです。
*リノベーション委員が中心となり、「サービスエリア」と呼ばれていたスペースを「リリースペース」として2022年にリニューアル。リニューアル後はカフェのような人気スペースとなり、勉強やディスカッション、放課後のおしゃべりなどに利用している。
――実際に入学してみてどうでしたか?
Wさん 先輩がみんな優しくて、部活見学のときや、校内で迷ったときも優しく教えてくれました。先生も教科によって個性があって、面白い授業なのでよかったです。部活は中間テストが終わってから入部しますが、私は新体操部に入りたいと思っています。
Mさん 入学する前は併設小学校からの生徒がかたまっていて友達ができないかなと心配しましたが、席が近い子だけでなく、席が遠い子も話しかけてくれたので、休み時間も楽しく過ごせています。
――初めての体育大会はどうですか?
Wさん 先輩たちも本気になってやっているので、格好いいと思います。玉入れは3位だったのですが、「お疲れさま!」「頑張ったね!」と先輩が声をかけてくれて嬉しかったです。先輩たちはどんなことにも、いつでも熱心に本気で取り組んでいます。
Mさん チーム一丸となって応援している感じで、自分が競技に出ているときに応援してもらえると、とてもやる気がでます。先輩たちは、「体育大会はいやだから頑張らなくてもいいいや」という人がいなくて、みんな本気で取り組んでいるので憧れる存在です。
――玉入れは高さの違うカゴがありましたが、うまく入れられましたか?
Wさん 高いカゴに入れたら2ポイント、低いカゴに入れたら1ポイント加算されますが、コーンの内側に入って投げたら減点されます。私たちのチームは作戦を考えて、ボールを投げる人と集める人に分けました。私はカゴには投げないで、ボールを集めて外に出す係でした。
Mさん 私は、高いカゴにもたくさん入れられました。高2の先輩の玉入れを見ていて、手にボールをたくさん持って一気に投げる方法をまねしてやってみたら、うまく入りました。
――高3の「カドリール」を見た感想を教えてください。
Mさん 生徒と先生が踊るのは、とても新鮮でした。高3は今日で体育大会は最後なので、いろいろなことを感じながら踊っていたのかなと思います。
Wさん いろいろな教科の先生が全員参加して、高3の先輩はみんな嬉しそうに、楽しそうに踊っていたので、私も踊りたいなと思いました。高3になるのが楽しみです。
<取材を終えて>
綱引きなどの競技も元気に盛り上がり、「カドリール」では生徒も教員も本当に幸せそうな表情で踊りを楽しんでいた。教員と生徒が手を取り合って踊る機会は、他校ではなかなかないだろう。生徒が主体となって開催された体育大会は、慣れていない部分も見られたが、実行委員の細かい気配りが随所に感じられた。今回の経験が次の学年に引き継がれ、より素晴らしい行事となっていくのだろう。