スクール特集(湘南白百合学園中学校の特色のある教育 #2)
生徒が協働して問題を解決!数学の探究型授業を実践
湘南白百合学園では、各教科で探究的な授業づくりに取り組んでいる。問題を生徒が話し合って解決するという中学3年生の数学の研究授業を取材した。
AIにはできない創造力や思考力を養う
同校は以前から、生徒が協働して問題を解決する探究型の授業を重視し、総合的な学習の時間や、理科、社会科などで積極的に取り組んできた。教頭の水尾純子先生によると、「本校では、2年前から算数1教科入試を始め、試験の内容は、4教科入試の算数と同様に基礎を重視しながらも、柔軟な考え方を求める問題も出題しています。同じタイミングで、柔軟な思考力を養う学習を実践するために、授業の研究を始めました」
数学科の有山誠先生も、「時代と共に社会で求められる力が変わり、教育も変わっていかなくてはなりません。もちろん今でも、問題を速く正確に解き進める力は必要ですが、プラスαで、AIにはできない創造力や思考力を養っていくことが大切です。それを可能にするのが、教科書で扱われている題材を深めた問題を出発点とし、そこから生まれてくる一種の“問い”とその“考察”で構成された授業なのです」と話す。
その一例として、中1の連立方程式が絡む単元で実生活に落とし込んだ授業があげられる。同校への通学には、「片瀬江ノ島駅」から徒歩という手段があるが、「ある日、電車が遅延して駅の到着時間が、いつもより○○分遅れました。遅刻をしないで登校するにはどうしたらよいですか」という問題が出された。走ったり、タクシーを使ったりするなどの条件が加わると速度が変わり、生徒たちはそのことを計算しながら答えを導いていく。「信号待ちの時間をうまく利用したら、速さが変わるかも…」と先生たちが想定していなかったアイデアを出す生徒もいたそうだ。
有山先生が探究型の授業を行う上で大切にしているのが、「生徒たちが何を考えているのかを引き出す発問をする」ことだと言う。「以前、生徒への声がけがバスガイドのようになっていると、学芸大の教授に指摘されたことがありました。自分では『どっちへ行く?』と問いかけているつもりでしたが、答えのある方へ誘導していると言うのです。ファシリテーションの力をつけることなど、私も日々学びの質を優先した授業作りを探究しています」
▶︎教頭 水尾純子先生
▶︎数学科 有山誠先生
生徒自ら発展的な問題に取り組み、学びを深める
学校を訪れた6月28日、有山先生が行う数学の研究授業を見学した。この日の単元は、「高校数学A 和集合の要素の個数」。前回の授業では、2つ及び3つの和集合の要素を求める公式を学び、今回の授業の目的は、集合を4つに拡張することだ。有山先生は、生徒たちから「挑戦してみたい」という声を引き出し、授業を進行する。
最初に個人で考える時間を設け、ある程度、考えがまとまったところで、いくつかのグループに分かれアイデアを出し合った。授業が終了すると生徒からは「もっと続きがしたい」「早く正解を知りたい」という声も上がった。
この授業を通じて有山先生は、「集合を2つから3つ、4つへ拡張していくことで、一般化に向かう思考を育てていきたい」と話す。また、「グループワークをする中で、様々な考え方に触れ、公式を導く過程も複数あること、多様な見方によって考えが深まっていくことを、生徒に実感してもらいたいと考えています」
高大連携で授業を改革し、新しい学力観を作り上げる
新しいスタイルの授業に対する生徒の反応について、「講義形式のほうがわかりやすいという生徒もいれば、協働的な学びで輝く生徒もいます。特に数学に苦手意識を持っている生徒は、仲間と学び合いをすることで、数学の面白さを感じているようです」と有山先生は言う。
「そういう意味でも、考える面白さを実感できる機会を少しでも多く作っていきたいですね。とは言え、基礎が身に付いていなければ、探究をすることはできません。反復練習も大切にしながら、ハイブリッドな授業を目指していきます」
また同校は、高校においても、東京学芸大学と教育の連携を図っている。水尾先生は、「高校の授業を作る研究プロジェクトへ参画し、2校間でも協定を結んでいます」と話す。中学の数学と同様、生徒が主体となって考える授業を全教科に取り入れる予定で、各教科と連携した授業研究が進められているそうだ。
「大学入試が新しくなり、次年度から高校の学習指導要領が改訂されるなど、高校の教育も変わってきています。そのような中で、生徒の「問い」を原動力に大学の先生と一緒に授業研究を行っていきます。湘南白百合では、生徒自らの考える力を育む取り組みを様々に行っていますが、高大連携で各教科の授業でそれがより一層加速していくと考えています。
<取材の補足と感想>
同校は毎年、高い大学進学実績を打ち出し、理数系に強い学校としても定評がある。そういう中で授業改革を推進していくのは、抵抗もあるのではないかと想像したが、どの教科の先生も積極的に取り組んでいるという。有山先生によると、「自分の見習うべきベテランの先生が、生徒から『数学でも自分たちの意見を拾ってほしい』と言われ、生徒自身が協働的な学びを望んでいるのだから、自分も授業を変えていく必要がある」と話していたそうだ。その柔軟性と新しい教育観が結びつき、どのような成果を出していくのか、今後も注目をしていきたい。