スクール特集(共立女子第二中学校の特色のある教育 #1)
「食育の日」の給食を通して、”食”への意識を高める独自の食育
栄養バランスのとれたおいしい給食を通して、伝統行事や季節に応じて必要な栄養素を学んだり、世界の郷土料理を味わったり、楽しみながら学べる共立女子第二中学校の食育とは?
共立女子第二中学校の食育
創立130年を迎える共立学園。「誠実・勤勉・友愛」を建学の精神に、女性の自立をめざして教育を行っています。
共立女子第二中学校では、生徒たちが自然あふれる広大なキャンパスでのびのびと学び、豊かな心と知性を培っています。
学校では現在、独自の食育を推進しています。そのねらいは、健康な生活を送るために食に関する総合的な知識を養うこと。栄養バランスや食事マナー、伝統食、食物の自給率や地産池消など、学ぶ内容は多岐にわたります。
食習憤の基礎を身につける大切な時期にある中高生に、食事を楽しみながら学んでほしいという思いのもと、学校では「食育の日」として年8回、給食を実施しています。
栄養バランスのとれたおいしい給食を通して伝統行事を学んだり、食べたことのない世界の郷土料理を味わったり、季節に応じて必要な栄養素を学んだり。また、生徒たちが校内の菜園で栽培した野菜も食卓に上ります。
今回、6月に行われた高校3年生の給食を取材するとともに、学校にお話をうかがいました。
「食育の日」給食の様子
食育の4つのテーマ
学校では食育として、次のテーマを設けています。
1.日本の年中行事・旬の料理
2.郷土料理
3.栄養学的な知識を得る料理
4.他教科と連携した料理
給食はこのテーマにもとづいて、さまざまな献立で行います。ローテーションにより日にちをずらしながら全学年で給食を実施し、ランチルームの厨房で作られた出来立ての料理を味わいます。
この日のランチルームには、食欲をそそられるスパイシーな香りが漂っていました。お昼に集まってきた生徒から「おいしそう!」という声が聞こえてきます。
配膳は生徒たちが行います。先生が指示することはありません。高校3年生はもう慣れたようすで、静かに手早く動きます。テーブルごとに協力して運び、すみやかに全員が着席しました。みんなで姿勢を正して「いただきます!」
テーブルごとに協力して配膳を進める生徒たち
アメリカ南部の郷土料理で夏バテ防止
食事が始まったところで、管理栄養士が献立の説明を始めました。
「今日の料理のテーマは、夏バテを防止する食事です。皆さんが今食べているのは、夏野菜を使ったアメリカ南部のケイジャン料理という郷土料理です。洋風炊き込みご飯のジャンバラヤは、肉や野菜などの具が入って栄養十分。香辛料を効かせて食欲を増進させます。食欲がない、寝不足、だるいなどの夏バテの予防に役立ちます。」
献立はジャンバラヤのほか、目玉焼き、ケイジャンチキン、ビーンズサラダ、ガンボ風オクラとトマトのスープ。そしてデザートはベニエという四角形の形をしたドーナツ。
栄養士はケイジャン料理の歴史を紹介し、一つひとつの料理について食材や栄養素を説明します。夏バテ対策も話題に取り上げます。
「みなさんは、夏バテはどうして起きると思いますか?」生徒たちに問いかけながら、水分やミネラル不足、暑さによる食欲低下や栄養不足など、夏バテの原因を挙げます。
その上で夏バテ対策として、良質なタンパク質、ビタミンB1などの摂取、ニンニクやショウガなど香味野菜・香辛料を上手に使って食欲増進、冷たいものを摂りすぎない、クエン酸で疲労回復、リズムある生活など、大切なポイントをアドバイスしました。
各テーブルには、今日の給食の案内ボードが置かれ、献立や使用食材、栄養価、夏バテの原因と対策などが記されてあります。生徒たちは栄養士の話を聞きながら、ボードで確認することができます。
生徒は食事マナーもよく、騒いだりすることもありません。和やかな雰囲気のなかで栄養士の話を聞きながら食事を楽しんでいました。
「食育の日」の給食について生徒に感想を聞いてみると、「ふだん家では食べない料理を知ることができるので、どんなメニューなのか毎回楽しみです。ジャンバラヤも初めて食べました」「今日のジャンバラヤはスパイスがピリッと効いておいしかった。夏の体によさそうです。」
管理栄養士による献立や歴史等の説明
本日の献立「ジャンバラヤ、目玉焼き、ケイジャンチキン、ビーンズサラダ、ガンボ風オクラとトマトのスープ、ベニエというドーナツ」
苦手なものも食べられるようになる
中学生も、「食育の日」の給食を通して学びを進めています。生徒たちはどのように受けとめているでしょうか。
中学2年生の渡辺郁花さんは「自分の苦手なものも出てくるけれど、食育なのだから残さないようにしようと思っています。あるときピーマンのジャコ炒めが出されました。私はピーマンは苦手だったのだけれど、我慢して食べてみたら、意外とおいしかったです。」
中学3年生の牛田羅奈さんは「学校の畑で採れたタマネギが出されたときは、いつもよりおいしく感じました。」
校内の菜園で、生徒たちは交代で野菜を育てています。ダイコン、ジャガイモ、ナス、キュウリ、トマト……地域の農家より指導してもらいながら栽培し、たい肥もつくります。収穫した野菜は給食や家庭科の調理実習で使用し、みんなで味わいます。
「食育の日」の給食は、クラスのいろいろな友だちとのコミュニケーションの場にもなっています。中学3年生の大谷優花さんは次のように話しました。
「ふだんは教室で決まった友だちとグループでお弁当を食べるけれど、食育の日はランチルームで出席番号順に座り、いつもはいっしょに食べない友だちともおしゃべりしながら食べます。小学校のときの給食みたいに、たまにはみんなで一斉に食べるのもいいなと思います。」
家庭科 湊理 香 先生のお話
食生活の変化をふまえて献立を工夫
食育を開始して、2015年で5年目となりました。食事を楽しみながら食について考えるきっかけづくりをコンセプトに、給食を行っています。
近年では家庭での食生活が大きく変化しており、おせち料理など伝統の行事食を手作りする家庭も少なくなりました。魚は切り身のものしか食べたことがないという生徒もいます。
そこで「食育の日」の給食では、おせち料理やひなまつり御膳など行事食を出したり、一匹なりのサンマの塩焼きを出したり、生徒の食生活の状況をふまえて献立を工夫します。サンマの塩焼きのときはだれが一番きれいに食べられたか、みんなで見せ合ったり、ホネになったサンマを写真に撮って、家でお母さんに見せたりしていましたよ。本校は技術・家庭の調理実習で、必ずイワシの手開きも教えます。
郷土料理は、東北、関西、九州など全国の料理を取り上げます。世界の郷土料理も、ロシア料理のボルシチや中華料理、イタリア料理などさまざまに登場します。ボルシチのときは、生徒たちは赤い色にびっくりしながら、それがビーツの色素であることを学びました。
旬の食材も学びます。また、春先には花粉症予防の献立、骨とカルシウムをテーマとした献立など、さまざまな角度から給食を行います。
家庭科 湊理 香 先生
教科との連携を大切にした食育
食育と教科との連携も大切です。菜園での野菜栽培は中学の理科と家庭科の学習として行います。苗を植え、育て、収穫する。給食や調理実習でこの野菜を使い、おいしくいただくとともに、地産地消についても学びます。
使用するのは収穫野菜だけではありません。本校の魅力は何といっても校地の広さと緑豊かな環境です。高校2年生は校内に自生するよもぎを摘み、草もちをつくるのが伝統の調理実習です。これも食育の一つですね。
食育と家庭科との連携は特に大切にしています。
前回の給食は「適性エネルギー量を知ろう」というテーマでした。事前学習として「自分の好きなものを好きなだけ作る」というユニークなテーマで調理実習を行いました。生徒たちは家で実習の準備をし、揚げ物やパスタ、ケーキなど脂質の高いものを本当に好きなだけ作りましたよ(笑)。
実習では、さらにそれらの料理のカロリー計算をしました。PCルームのパソコンで栄養計算ソフトを利用して各自がカロリーを計算し、栄養バランスグラフを作成します。すると1800kCal、なんと1日分の摂取カロリーに相当する値が出ました。栄養バランスもいびつです。生徒たちは食べ過ぎと栄養の偏りを実感しました。
この実習をふまえて給食を食べたので、生徒は自分の食生活について、より意識を高めることができたと思います。
菜園での野菜栽培
生徒の「食」への意識が向上
食育について生徒にアンケートを取ったところ、確実に変化が見られました。「栄養バランスを考えるようになった。」「食べ物の旬を気にするようになった。」「基本的な生活をきちんとやるようになった。」などの回答が得られたのです。学校の食育のねらいが生徒に伝わっていると思います。
保護者に向けて情報発信もしています。保護者向けのニュース「MEAL NEWS」で学校の食育を報告し、あわせて献立のレシピも載せたりして、家庭と共有しながら進めています。
本校では今後も工夫を重ねながら、創意ある食育を行っていきます。
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公開日:2018/8/7