りっきょうじょがくいん
立教女学院中学校
スクール特集(立教女学院中学校の特色のある教育 #1)
大学や企業との連携で、学ぶ意欲を引き出す理科教育
最先端の研究に触れるながら、科学のすばらしさと難しさを大人と同じ目線で学ぶ、一歩進んだ立教女学院中学校の理科教育とは?
生徒実験を重視した授業
「とにかく、理科を好きになってほしいと願っているんです。」
そう熱っぽく語るのは、理科担当の清水先生。
女子校ではあるけれど、最初から理科が好きという生徒さんが、意外と多いとのことです。そんな生徒さんに、さらに興味を持ってもらうために同校では非常に特徴ある理科教育を展開しています。
まず、多くの時間を実験にあてていることがあげられるます。実験によって、自らの手と目で事象を確認することは、科学の原点。
生徒2人一組あるいは4人一組で自ら実験を行います。特に中学では、ほぼ毎週実験が行われます。
しかし、すべての授業が実験となると、その準備にかかる手間と時間は半端ではないはず。清水先生は「もちろん、手間はかかりますが、生徒たちの興味を少しでもかきたてるためには必要なことだと思っています。反応がまったく違いますから。」と話します。
理科担当の清水先生
10年前から産学連携、高大連携に取り組む
次に、同校の理科教育の大きな特徴となっていることにあげられるのは、産学連携、高大連携に積極的に取り組んでいることでしょう。
産学連携、高大連携という言葉は、昨今よく聞くようになりました。しかし、同校がその取り組みを始めたのは約10年も前のこと。
その積み重ねによって、多くの企業や大学とのつながりも強固なものとなり、その充実ぶりは一歩も二歩も抜きん出ていると言っても過言ではありません。
2011年度だけでも、資生堂、マイクロソフト、小松川警察署、アジレント・テクノロジー、東京工業大学、東京薬科大学などの協力を得て実施。
最先端の研究内容や、社会でどのように科学技術が利用されているのかを生徒さんたちが直接知る貴重な機会を提供しています。
清水先生は、「企業や大学で行われている最先端の研究の中には必ず『なぜ?』という疑問があるんです。
なぜそうなるのか、なぜ思ったようにならないのかという疑問が生じた時に、その現象をよく観察して、仮説を立て、検証するという科学的な思考プロセスを踏むように導いています。」と説明します。
教科書に載っている動かない真理を学ぶことももちろん重要でしょう。
しかし、わからないことの多い最先端の研究の一端に触れることは、科学のダイナミズムを実感する上でとても大切なことなのではないでしょうか。
次に、具体的な高大連携の例を見ていきましょう。
人工的にマツタケの匂いを作りだす-東京薬科大学との連携
2011年7月。
東京薬科大学生命科学部の伊藤久央教授を招いて、「香料を作ろう~有機化合物の構造と性質~」というイベントが行われました。
その内容をご紹介する前に、このイベントが文部科学省所管の独立行政法人科学技術振興機構が選定するサイエンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)の一環であることに触れておく必要があります。
SPPとは、次世代を担う若者への理数教育の充実に関する施策の一環として位置づけられるもので、中学、高校などと大学等との連携による
「観察、実験、実習等の体験的・問題解決的な学習活動を行う企画」を実施する際の経費については、科学技術振興機構から支援されます。
ちなみに、同校では2011年度に引き続き、2012年度においても「ミントアロマの合成~有機化合物の構造変化を理解しよう~」という取り組みがSPPに認定されています。
さて、2011年7月に行われた内容です。
マツタケの匂いを人工的に作る。そう聞いても、「そんなこと、できるのだろうか?」と大人でも思ってしまうのではないでしょうか。
文理選択のきっかけになる土曜集会
参加した現在高校3年生の生徒Yさんは、「化学的に薬剤を調合することによって、マツタケの匂いが本当にしたんです。正確には、マツタケのお吸い物のような匂いでしたけど。」と笑って話してくれました。
「分子の構造を少し変えるだけで、シトラスの香りがミントの香りに変化したりすることも体験できました。」とも。
Yさんは、小学生の時から理科が好きで、文系理系のコース選択の際も迷わず理系を選んだと言います。
このようなイベントに積極的に参加してきたYさん。
「私は迷わず理系コースに進みましたが、これから文理の選択に迷う人もいるかもしれません。そんな人にはぜひ、こういうイベントへの参加を勧めたいと思います。
『土曜集会』で行われるイベントも含めると、科学だけでなく本当にいろいろな分野の体験ができるんです。
そんな中から、自分が進みたい方向が見えてくるかもしれません。」
さらに、自身の将来については「私が興味を持っているのは、有機化学の分野です。
実は、肌が少し弱いんですが、分子レベルで肌にやさしい化粧品を開発するような仕事をしてみたいと思っています。」と目を輝かせて話してくれました。
理学療法士を目指すきっかけとなった土曜集会
Yさんの話に出てきた土曜集会。 これは年に10回、同校が日頃の授業では行うことのできない特別授業として行っているもので、30年ほど前から行われてきています。
さまざまな分野の第一線で活躍している方々の講演、映画、コンサート、見学などを通し、世界で起きている問題を考え、人間性を豊かに養います。
そこには将来の生き方へのヒントも。
また、同校ではボランティア活動も盛んに行われています。
やはり、現在高校3年生のMさんは、あるボランティアに出席したことで、将来、目指す道が決まったと言います。
「春休みにボランティアで老人ホームを訪問しました。そこには、介護士さんのほかに理学療法士の方がいらっしゃったんです。
お年寄りの歩行機能を回復することや、半身麻痺の方のサポートを科学に行う姿を見て、私も理学療法士になりたいと思うようになりました。」とMさん。
社会のいろいろな場面で科学技術が役立っていることを実際に感じる。 中学生、高校生にとってそのような経験がいかに大切なものなのかということをYさん、Mさんの話から強く感じることができました。
さらに高レベルの連携を
清水先生は、今後の課題について「高大連携、産学連携を単発のイベントで終わらせるのではなく、有機的に結びつけていくことがこれからの課題です。
学びの大きな流れの中で、それぞれのテーマが捉えられるようになれば、もっと有効な活動になると考えています」と話します。
今までの活動によって、理科系のコースに進む生徒さんが徐々に増えてきている同校。
しかし、現状に甘んじることなく、さらなる高みを目指しているのです。
一歩先に進んでいると言われる同校の理科教育。
また、同校の創立者であるアメリカ人宣教師C.M.ウイリアムズの生涯を表す「道を伝えて己を伝えず」というものがあります。
「他者に奉仕できる人間になる」ことを教育目標の一つに掲げる同校の精神的な支えとなっていたこの言葉に2012年、創立135年を迎え、新たなスローガンを加えました。
それは、「学びの先に、未来を描ける人に。」というもの。
学ぶ目的を生徒に正しく伝えること
理科に限らず、どの教科でも
「なぜ、学ぶのか」ということを、学ぶ生徒自身に感じてもらうことは、その学びを意味あるものにするためにぜひとも必要なこと。
しかし、それは容易なことではありません。
教える側が言葉で伝えたとしても、教わる側が受け取る重みはどれほどのものでしょう。
立教女学院中学校がその理科教育で取り組んでいるのは、まさにその学びの原点とでもいうべきものをしっかりとおさえることなのです。
大学や企業との連携により、科学のすばらしさ、また難しさを子ども目線ではなく、大人と同じレベルで感じてもらうことが、彼女たち自身の内から発するやる気、学ぶ意欲を引き出している。
取材を通じて感じたのは、そういうことでした。
そんな教育の結果、卒業後の進路や将来目指す職業など、具体的な道が拓けてくるとするならば、こんなにすばらしいことはありません。
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