スクール特集(文化学園大学杉並中学校の特色のある教育 #11)
まだ世の中にない〝価値あるもの″を創り出す!課外活動「STEAMプロジェクト」
モノづくりやSDGsなど、さまざまなテーマのもとで、生徒が主体的に探究し、創造活動をする「STEAMプロジェクト」。その取り組みの内容や成果について取材した。
ダブルディプロマコースの導入など、英語教育に定評のある文化学園大学杉並中学・高等学校。近年はSTEAM教育にも力を注ぎ、2020年度には課外活動団体として「STEAMプロジェクト」を立ち上げた。現在は約130名の生徒が、企業や大学との連携も図りながら、様々なプロジェクトに取り組んでいる。その活動について、次世代教育開発部長の染谷昌亮先生に話を聞くと共にメンバーたちの声も紹介する。
PBLを推進し、STEAM教育を授業で実践
「ここ数年、本校は、“生徒一人ひとりが主役になれる生徒たちのための学校”を作りたいという思いを強くしています。それは授業形態にも反映し、教師が一方的に教える従来型から、最近はPBL(課題解決型学習)のスタイルを取り入れる教員が増えてきました。また、生徒主役の学校を作るうえで重視しているのがSTEAM教育です」と染谷先生は話す。
STEAM教育とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Arts(芸術・教養)、Mathematics(数学)の5つの領域を融合的に学ぶ教育思想のことを指す。学校によってはSTEM、いわゆる理系教育を色濃く打ち出しているところもあるが、同校はAの領域にも強みがあるのが特徴だという。
「STEAM教育では、生徒たちの好奇心を原動力に、さまざまな体験を重ねるなかで、課題発見、課題解決をしていきます。こうした探究型の学習は、総合的な探究の時間だけでなく、教科の授業でも実践しています。今後は、教科書の枠にとらわれない教科横断型の学びをデザインし、生徒自ら取り組んでいく。そういう授業も展開したいですね。また、そうした学びを楽しいと思える生徒を育てたいと考えています」
▶︎次世代教育開発部長 染谷昌亮先生
活動を学校外に広げ、探究×創造活動を行う
2年前には、「STEAMプロジェクト」という課外活動もスタートした。「生徒主役の学校にするためにも生徒を教育課程の枠から解放し、学校のコンテンツに縛られずに自由に学べる場所を作ろうと思いました」と染谷先生はプロジェクトを立ち上げた理由をそう述べる。
同プロジェクトの活動のコンセプトは「まだ世の中にない“価値あるもの”を創り出す」。「生徒たちにはよく『社会で求められる学習者像が変わってきている』ことを話しています。今の時代は知識があるだけではダメで、情報を収集し深く考えること、つまり探究することが大事です。さらに、私たちは探究の先の創造するところまで到達したいと考えています。『こういう仕組みがあったら、世の中が良くなるのではないか』とプレゼンをして終わるのではなく、そういう仕組みを自分たちで作ろう、『こんなロボットがあれば、社会に役立つだろうな』と考えたなら、実際に作るところまでやってみようと声をかけています。探究(知る×考える)し、創造(作る×具体化する)することでデザイン思考力を育てていきます」
「STEAMプロジェクト」は、1.メイカー、2.社会課題探究、3.キャリア探究、4.広報・活動記録の4つの部門に分かれている。
1.メイカー部門は、プログラミングやロボティクスなどを通じて、課題解決のためのモノや仕組みを作る活動を行う。学校内にはレーザーカッターや3Dプリンターなども完備。中学生を対象とした「STEAM Play倶楽部」もある。また、メンバーは外部コンテストにも挑戦し、今年度はWRO(World Robot Olympiad)(※1)に出場した中学生が、全国の決勝大会に進出した。
2.社会課題探究部門は、SDGsをはじめ、世界が抱える課題を自分ごととして捉え、その解決を目指す活動を展開。企業や大学、NPOなど15の団体とも連携を図っている。具体的には、Go Green Group株式会社や東京海洋大学の研究室と協働して、Go Green Cube(※2)の製造に必要な使い捨てカイロを回収したり、水質改善に関するワークショップなどを開催。サステナブルファッション研究チームが、JR阿佐ヶ谷駅のショッピングセンターの協力のもと、古着交換を行ったりしている。また、昨年度はサステナブル・ブランド国際会議(※3)に、Student Ambassadorとして出席し、今年度は生徒が大人に混じりSpeakerとして登壇した。
3.キャリア探究部門は、社会人へのインタビューや企業訪問、職場体験、起業家を招いたワークショップを開くなどの活動を実施。
4.広報・活動記録部門は「STEAMプロジェクト」の取り組みをより多くの人に知ってもらうために動画を作成してYouTubeにアップするなど、ソーシャルメディアの活用を行っている。
※1 WRO(World Robot Olympiad)…小中高生を対象とした自律型ロボットによる国際的なロボットコンテスト
※2 Go Green Cube…使用済みの使い捨てカイロで作るリサイクル品。汚れた水質を改善する作用があり、資源の有効活用、環境保全につながるとして注目を集めている。
※3 サステナブル・ブランド国際会議…世界各地で開催される、グローバルで活躍するサステナビリティのリーダーが集うコミュニティ・イベント。
「STEAMプロジェクト」メンバーにインタビュー
「STEAMプロジェクト」で活動している生徒たちに話を聞いた。
メイカー部門(STEAM Play 倶楽部) Sさん(中2)
小さい時からレゴを組み立てたり、モノづくりをするのが好きでした。今は主にパソコンでプログラミングをして、車などのロボットを動かす活動をしています。複雑な動きを作り出したり「より良いものができないか」と、先輩や友だちと協力し合ったり、自分の考えたことを表現するのが楽しいです。今後の目標は、ロボットのコンテストに出場することです。
メイカー部門(STEAM Play 倶楽部) Tさん(中3)
動くロボットを使って、社会的なソリューションを作ることに取り組んでいます。今年は、看護師の働き方を改善する目的で、リネンを回収するロボットを製作し、WROに出場しました。昨年に続き、2回目のチャレンジでしたが、初めて全国大会まで進むことができました。私たちの活動の面白さは、一見したらただの車型のロボットでも、いろいろな機能を付けたり活用する場所を変えることで社会貢献ができるということです。今回は「看護師の仕事を軽減し、その分、患者さんと向き合う時間を増やすためにロボットがどこを手伝えばよいか」などをチームメイトと一緒に考え、ゴールに向かって突き進んでいきました。自分一人ではできないことも、みんなで支え合うことで新しいアイデアや、最後までやろうという責任感が生まれます。次は全国大会での優勝を目指したいです。
社会課題探究部門 Yさん(中2)
私は身近なことから社会問題に関心を持つようになりました。例えば、焼き魚が好きなのですが、最近はサンマが少なくなって、なかなか食べることができません。年々、暑くなっているのも嫌な感じで、人間が生態系を壊しているのに、被害者になっているのもおかしなことで、何か自分たちができることはないのかと思い「STEAMプロジェクト」に入りました。最初は、古着が好きなのでサステナブルファッションのプロジェクトに入って、服の再利用の手伝いをしたり、Go Green Cubeの活動でカイロの回収や海洋問題について学んだりしました。
今年は、小さな子どもにも海洋問題を知ってもらうために、絵本を作るといというプロジェクトを立ち上げました。私が主に内容と絵を担当し、もう一人のメンバーは英語が得意なので文章を英訳して世界にも読者を広げたいと考えています。絵本には、小さい子たちが描いた魚の絵なども入れていく予定です。
私は、海の現状や問題を「STEAMプロジェクト」や東京海洋大学とのワークショップで知りました。それを自分だけで終わらせず、発信してみんなにも知ってもらい、解決策も一緒に考えていけたらいいですね。その第一歩として、私よりも若い世代に絵本を通じてわかりやすく情報を伝えたいと思っています。
社会課題探究部門 Yさん(高2)
今はグローバル化や多様化というキーワードが飛び交う世の中なのに、先生が一方的に授業を行う画一的な教育に、ずっと疑問を抱いていました。STEAMプロジェクトに入ったのは、何か自分からアクションを起こしたいなと考えたからです。高1では、いくつかのプロジェクトに参加して活動の仕方などを経験し、高2になってサステナブルファッションチームと協働して、服の生産から廃棄に至るまでの問題やその解決策などを中学生と考えるワークショップを開きました。中学生が自発的に参加し、知らない者同士でも自分の意見を言ったり、それを共有したりする場を作れたのが良かったです。
私は将来、教育関係の仕事に就きたいと思っています。授業は生徒のためにあるもので、テストや大学受験が目標になってしまうと勉強をやらされている感じになり、面白くありません。私と同意見の生徒もいると思うので、そういう人を巻き込みながら学校内で自分たちにできることをやってみたいし、「STEAMプロジェクト」の活動を通して教育を変えるヒントを掴めたらいいなと思っています。
広報・活動記録部門 Mさん(高2)
高1の時、学業は優先しつつも、社会的な勉強にも力を入れたら有意義な高校生活ができるのではないかと考え「STEAMプロジェクト」に入りました。でも同時に生徒会活動もしていてそれが思っていた以上に忙しく、プロジェクトの活動はあまりできませんでした。2年生になって、生徒会でも担当していた広報と「STEAMプロジェクト」をコラボし「文杉魅力発信部」という生徒主体で学校の広報活動をする組織を立ち上げました。組織には主に3つの部門があり、1つは広報紙の作成、2つめはVlog(ビデオブログ)を作ってYouTubeなどにアップ、Vチューバ―による動画配信も進めています。3つめは生徒主催のオンライン学校説明会です。8月に一度実施し、秋にも開催する予定です。
広報の活動は、取材に協力をしてもらうことで成り立っています。その方たちに改めて感謝の気持ちが芽生え、また、学校という社会の中で、いい勉強をさせてもらっています。若い時なら失敗しても取り返しがつくので、たくさんチャレンジして失敗からも学んでいきたいです。そういう経験が、将来、大きな社会に出た時にも役立つかなと思っています。
生徒主役の学びの場を作り、学校教育を変えていきたい
2020年度に発足した「STEAMプロジェクト」は3年目を迎え、以前よりも生徒主体の学びを回せるようになってきたと染谷先生は言う。
「時々、生徒のアクションプランが、思いの強さからするとスケールが小さいと感じることがあります。つい『こうしたほうがいいよ』と口をはさみたくなりますが、そうすると単に指示を正しく聞ける生徒になってしまい、本来磨くべきデザイン思考力も育っていきません。ですので、どこかで企業や大学と接点を作ってあげて、その人たちからヒントを得るほうが良いですし、それが今の教員の仕事なのかなと思っています。
また、生徒それぞれが自分のやりたいことや興味あること、あるいは何らかの課題意識に、自覚的になることが大切だと考えています。自覚的になれば、社会を巻き込んで活動することもできます。今の教育は、Yさんが言っていたように、学校がやるべきこととして課題を押しつけがちですが、なるべく生徒が自覚的になれる時間をとってあげたいと思っています」
そして、染谷先生は今後のSTEAM教育の展望を次のように話す。
「生徒主役のSTEAM教育をさらに推進するのはもちろんのこと、そのことによって学校教育会全体を盛り上げていけたら良いと考えています。『文杉のような教育のやり方があるんだ』と広く学校業界に発信しうるぐらいの立場を目指していきたい。それは教員が何かをするのではなく、生徒が学びたいことを学べる場所を作ってあげる。そうすれば、今までの学校教育が成し遂げられなかったことを成し遂げられるのではないでしょうか」
【取材を終えて】
生徒が主役の学びの場を作ることは、この時代に即した教育だと思うが、先生の意識改革や授業づくりのスキルも必要になる。しかし、同校では「STEAMプロジェクト」の学びのデザインが、教科の授業にも確実に波及してきているという。学校全体で次世代教育へと舵を切っていることもあるが「STEAMプロジェクト」メンバーの活動の成果も大きいのではないかと感じた。
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