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スクール特集(中村中学校の特色のある教育 #3)

自己探究型のキャリア教育で「なりたい自分」と社会をつなぐ進路指導

探究活動を通して、好きなことを学問や職業につなげるキャリア教育を行っている中村中学校・高等学校。学力と智力の両輪で行う進路指導について取材した。

中村中学校・高等学校では、認知型学力(学びの成果を点数や偏差値などで数値化できる力)と非認知型智力(状況の変化に対応できる力など、数値化しにくい力)の両輪で、希望の進路を叶える指導を行っている。今回は、探究活動などを通した非認知型智力の面でのサポートについて、進路指導副部長の長野裕樹先生と高校2年生の生徒2人に話を聞いた。

やりたいことの実現をサポートする進路指導

同校では、夏期・冬期の講習をはじめ、校内で外部模試を実施するなど、学習面での進路指導も充実している。高校3年生を対象にキャリアサポーター制度も用意。生徒一人ひとりに担任とは別の教員がついて、個別にエントリーシートの作成、小論文指導、面接練習などの対応をする。大学等からいただいている指定校推薦枠が多く、1人当たりの校数も多いと、長野先生は説明する。

「基準を満たしている推薦枠を利用すれば進学先に困ることはありませんが、本校では、生徒が本当に進みたい進路に向けたサポートをしています。例えば、早・慶を狙える力のある子が、『この教授の元で〇〇学を学びたい』という思いをもって進学を希望するのであれば、偏差値帯に関係なく、そこに向けたサポートをするのが私たちの役目です。偏差値にとらわれずに、やりたいこと、挑戦したいことが実現できるようにサポートすることを心がけています」(長野先生)

2021年度の進学実績では、東大に合格した卒業生(高入生・国際科)もいる。彼女は偏差値が高い大学だから東大を目指したのではなく、学びたいことが学べる学部が東大にあったから、東大を受験したのだという。

「彼女はヤングケアラーに関心を持ち、高1の頃から教育について幅広く学べる大学を探していました。吟味した結果、自分が学ぶ場として一番ぴったりなのが東大だったのです。自分の現在の偏差値から大学を選ぶのではなく、やりたいことを明確にした上で、勉学に励んだところが、彼女の素晴らしいところだと思います。国際科に入学したのも、英語の成績を上げたいとか、留学したら共通テストの点が上がるなどの理由ではなく、留学して現地で体験できることや学べることを吸収したいという意欲からでした。本校では、そのような思いや意欲を引き出すようなをしっかりとサポートをして行きたいと考えています」(長野先生)

▶︎進路指導副部長の長野裕樹先生

卒業後の進路につながる探究活動

キャリア教育では、「なりたい自分」に近づくために、中・高の6年間で、何に力を注ぐべきかを考え、それらを行動に移すことができるように育てる。中1は「自己と自己の周辺を知る」、中2は「職業と社会の仕組みを知る」、中3は「高校卒業後の進路を知る」という目標を立てて、自分自身や周りの人への理解を深めて土台を作る。

「本校のキャリア教育は、自分がどうありたいか、どう生きていきたいかを考えながら、そこに向かって進めるように指導しています。『理科が得意だから○○大学』と決めるのではなく、『将来こうありたいから○○を目指す』というイメージを描けるようになるのが最終的な目標です。そこを目指して、自分自身にベクトルを向けて内省する時間や、SDGs、企業、職業などについて研究する機会を作っています。それらの活動を通していろいろな意見や考え方を知ってほしいと思います。様々な生徒の様々な価値観を大切にして、それぞれの目標に向けてサポートしていきます」(長野先生)

高校の探究活動では、企業からミッションを出してもらい、自分たちなりの答えを出すという、正解のない問いに取り組む。 

「4年次には企業からのミッションに取り組む企業探究のほか、正解のない問いに対する自分なりの答えを導き出すワークに取り組みます。5年次には自分が興味のあるテーマを1年かけて探究する個人探究を行います。個人探究は、単純に好きなテーマを調べて知識を深めるだけでなく、なぜこうなんだろう、なぜ人気なんだろうというように、いろいろな視点から探究のサイクルを回していくことになります。自分のテーマについて探究活動を行うと、それがいつしか学問に結びつき、高校卒業後の進路にもつながっていくのです。進学先でさらに深めていけば、社会に出るときに必ず役立ちますし、『どういう社会人になりたいのか』『どういう生活を送りたいのか』、そして、自分自身がどうありたいのかを考える自己探究にもつながるのです」(長野先生)

2021年度からスタートした「NQフェスタ(Nakamura Quest)」

これまで、中学生の発表の場として行われていたキャリア報告会を、高1・高2も含めた発表会にリニューアル。今年2月に、「NQフェスタ」として第1回が開催された。

「4年生(高1)までは、代表の3チームを選抜して、壇上でKeynoteを用いたプレゼン形式で発表しました。5年生(高2)はさらにレベルアップをして、個人探究の成果を全員が発表しました。新館と体育間に個人ブースを作り、5〜10名前後の後輩の前でポスターセッション形式で行いました。聞く側の生徒は、興味のあるテーマ2つと、ランダムに選ばれた研究テーマ1つを聞くために各ブースを訪れ、先輩の1年間の研究成果を聞きました。興味がないものや、知らなかったことを学ぶ場でもあります。発表者との距離も近いので、質問もしやすかったようです。発表を聞いて知識が増えるだけでなく、先輩の発表テクニックなども見ることができ、発表する側も聞く側もお互いに良い勉強になりました。このNQフェスタを通してお互いに刺激を受けて結果、全体の質がどのようになっていくのかも楽しみです」(長野先生)

また、個人探究では、学年の教員やファシリテーターとなった教員が、生徒をサポートしながらテーマを絞っていったという。

「テーマ決めが一番難しかったようです。本校では、個人探究においても生徒一人ひとりがやりたいことをやってほしいと思い、テーマはフリーにしています。私は4人の生徒のファシリテーターになりましたが、ジブリやゲーテ、日本と韓国の関係、『なぜ女子は群れるのか』など、テーマは様々でした。ゲーテをテーマにした子は、絶版になった古い本を探して買って読みあさり、自分で解釈をしながら探究を深めていきました。ゲーテに関する発表を聞いて、はじめはぽかんとしている子もいたようですが、発表を聞いて多くを学べたようです。発表側のスキル向上も心掛けていきますが、今後は、聞く側の質問力を高め、活発な質疑応答が行われるようなさらに質の高い探究活動を目指していきたいです」(長野先生)

進路指導の一環として行われている授業を取材

●2年生(中2)・探究 (株)明治による出前授業「カカオチョコレート教室」

企業の食育担当者が講師となり、チョコレートという身近な食品を通じて、「自然の恵み」や「歴史」「国際協力」について学ぶプログラム。生徒たちは、カカオ農家について、カカオを生育・収穫・発酵・乾燥する作業、そしてそれらの労力などを学び、チョコレートを通じて国際協力について考えた。

●3年生(中3) 道徳・特別活動「地域探究locus」

3年生の道徳・特別活動では、企業の繋がり(サプライチェーン)やイノベーションの事例をヒントに、地域や社会の課題解決を考える学習プログラム、「locus」に取り組んでいる。

●5年生(高2) LHR「進学ガイダンス」

この日行われていたのは、ロングホームルームの時間を使って行われる「進学ガイダンス」の3回目。高3になるまでに、自分がどのレベルにいたいかを考え、そこから逆算して高2の今、自分の立ち位置を把握して次の模試までの計画を立てる。

●6年生(高3) LHR「進学ガイダンス」

高3のロングホームルームでは、私大の多様な入試方式や志望理由書の書き方など、進学に関するより具体的な解説が行われていた。

高2の生徒にインタビュー

高2の生徒2人に、探究学習や進学ガイダンスなどについて話を聞いた。

Nさん(高2 高入生)写真右
Tさん(高2 中入生)写真左

2人は、今年2月に開催されたクエストエデュケーション主催の「クエストカップ全国大会 2022」に出場したメンバーでもある。「クエストカップ全国大会 2022」は、企業からのミッションや社会課題、商品開発など、社会とつながるテーマで探求するプログラムに取り組んだ生徒たちが、その成果を発表する場として開催された。154校4098チームが応募した中で、審査によって130校261チームが出場し、オンラインでプレゼンを実施。同校からは「コーポレートアクセス部門」に2チームが参加し、両チームともに優秀賞を受賞した。

――「クエストカップ全国大会 2022」では、どのようなミッションに取り組みましたか?

Nさん 私のチームが取り組んだのは、吉野家から課された「あなたの街の『ずっと大切』を生み出す吉野家の未来ビジネスを提案せよ!」というミッションです。牛丼の新しいメニューはありがちなので、私たちは牛肉を活用した化粧水「Beauty Beef Lotion」を提案しました。最近はマスクで肌荒れをする人も増えているので、女子校ならではの女子っぽい案を出したいと思ったのです。吉野家の利用客は男性が多いので、化粧水を作ったら「牛丼屋で化粧水!?」と女性が興味を持つきっかけとなり、若い女性の利用を増やせると考えました。牛肉に含まれている肌にいい成分を調べて、化粧水のボトルもデザインしてプレゼンしました。

Tさん 私たちのチームが取り組んだのは、フォレストアドベンチャーから課された「『人間の本能』を刺激する山丸ごと活用プランを提案せよ!」というミッションです。他校のチームは1つの山を使う提案をしていましたが、私たちのチームは、「山丸ごと」を「全国の山」をつなげることだと解釈しました(笑)。ロープウェイで全国の山をつなぎ、カラオケ付きのゴンドラで山の旅行を楽しむという提案です。新しい移動手段としての提案ですが、移動時間が長いので、退屈しないようにカラオケもプラスしました。

――他校のプレゼンで印象に残っているチームはありますか?

Nさん eスポーツプレーヤーをターゲットに、小麦粉と米粉をベースにした生地で牛丼を包む商品を開発する案が印象に残っています。学校で試作品まで作っていたので、私たちももう少し現実を見ればよかったと反省しました。未来ビジネスすぎて、時代が私たちについてこなかった感じです(笑)。他校の生徒と交流してみて、みんなそんなに深く考えずにアイデアがひらめいていたので、アイデアはその辺に転がっているものだと思いました。

Tさん 山を丸ごとヌーディストマウンテンにして、物理的・精神的に解き放たれ、全裸で山遊びをする案を出したチームが印象に残っています。上位2チームはどちらも関西の学校だったので、プレゼンの仕方が明るくて、誰かがボケて突っ込むという、自分の地域を活かしたプレゼンが素敵だなと思いました。

――「クエストカップ全国大会 2022」への取り組みを通して、どんなことを学びましたか?

Nさん 私はもともと人前で話すのが苦手でしたが、クエストカップで自分が発表したり、他校の発表を見て、プレゼンの楽しさを知ることができました。この学校は、探究活動以外でも、人前で話す機会が多いです。高1のときは、学校説明会に参加した来校者を案内する中村アンバサダーをしたこともあります。学校に関する質問に答えたりするうちに、人と話すのが楽しいと思えるようになりました。この経験を社会に出てからも活かせるように、これからも中村での経験を通して、コミュニケーションを楽しむ機会を増やしていきたいです。

Tさん 私は、NQフェスタでのプレゼンを経験して、失敗を恐れるようになった自分に気がつきました。私は、みんなが笑顔になるようなプレゼンをしたいと思っています。中学生の頃は、面白いことをプレゼンに組み込んで、自分がやりたいようにできました。学年が上がると常識も身につき、「すべったらどうしよう」などと考えて、本当にやりたいプレゼンができなくなってしまったのです。これから、個人探究を進めていく中で、失敗を恐れずにプレゼンができるように乗り越えたいと思っています。

――今日の「進学ガイダンス」を受けた感想を教えてください。

Nさん GTZ(学習到達ゾーン)についての説明があり、行きたい大学の位置と自分の立ち位置を知ることができたのでよかったです。受験までのスケジュールを表にして説明してもらえたので、受験までに受けられる模試は多くないことがわかりました。今までは、模試はあまり受ける気がなかったのですが、貴重な機会になるので積極的に受けようと思うようになりました。

Tさん 受験まで逆算して考えると、あまり時間がないと改めて実感しました。私は理系で国立大志望なので、理系の科目だけでなく、国語のことも考える必要があります。今、国語の成績が心配なので、数学や英語を上げることだけでなく、バランスよく成績を上げられるようにしなければならないと思いました。

――将来について、どのように考えているか教えてください。

Nさん まだはっきりとは決めていませんが、今は看護系に進みたいと思っています。以前入院したことがあり、院内学級の先生がとても優しかったので、院内学級の先生になりたいと思ったこともありました。憧れはあったのですが、人に教えるのが苦手なので向いてないようです。両親が医療従事者ということもあり、看護師についても話を聞くことがあります。仕事ぶりが格好いいなと思ったので、医療関係の中でも看護師に興味を持ちました。

Tさん 私は、理科の先生になりたいと思っています。はじめは理科が嫌いだったのですが、長野先生の授業を受けて、楽しいなと思うようになりました。理科は掘れば掘るほど面白くなるので、探究的な学びだと思います。中学のキャリア教育で、船橋の小学校へ2日間、職業体験に行きました。学校には元気な子もいれば、おとなしい子もいますが、個人作業をしているときに、先生は一人ひとりに声をかけてアドバイスしていて、教師って素晴らしい仕事だと思いました。その経験も、理科の先生になりたいという思いにつながっています。

――この学校のいいなと思うところを教えてください。

Nさん 先生と生徒の距離が近いので、勉強の質問もしやすいです。授業で教えてもらったことのない先生と、世間話をすることもあります(笑)。

Tさん コロナ禍でも、感染対策をしながらできるかぎり行事を中止にしなかったことです。中3の修学旅行は、他校は行けなかったところが多かったのですが、私たちは京都・奈良・広島へ行くことができて、とても楽しい思い出ができました。学校に足湯があるのも珍しいと思います。文化祭のときにはお湯が入るので利用してみましたが、とても気持ちよかったです。

<取材を終えて>
いろいろな授業を取材したが、生徒たちが思ったことを自由に発言している場面が多く見られた。先生方はそれを受け止めつつも過度に反応することなく、授業を進行。そういった様子からも、生徒たちとよい関係が築けていることが伝わった。そのような関係が築けているからこそ、進学ガイダンスなどでも、質問や相談がしやすい雰囲気が作られていると感じられた。

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