スクール特集(中村中学校の特色のある教育 #2)
外国人に深川を英語で案内! 地元から視野を広げるグローカル行事
中村中学校は、外国人に地元の深川を英語で案内する「国内サマースクール」を7月に実施。3日間のプログラムのうち、英語で発表を行う最終日を取材した。
中村中学校では、2年生の学校行事として、外国人に地元の深川を英語で案内する国際教育プログラム「国内サマースクール」を7月に実施している。身近なところから地球へと意識を広げる「グローカル」(グローバル+ローカル)の精神を体現するプログラムについて、中2の学年主任である野志尚美先生(入学対策部副部長)に話を聞き、3日間の体験を終えた生徒にインタビューした。
3日間の「国内サマースクール」
「国内サマースクール」は、中2の学校行事として2016年に導入。1日目でネイティブ講師やグループのメンバーとの仲を深め、2日目に深川を案内し、3日目にはグループごとに深川の魅力を英語でプレゼンテーションするという流れになっている。3日間にわたって行われるプログラムが果たす役割について、野志先生は次のように説明する。
「中1の社会科で実施している『深川めぐり』では、地元である深川の歴史と文化を学びます。一方、中2・中3の希望者を対象とした『海外サマースクール』は8月に11日間、アメリカでホームステイしながら、現地の学校を訪問して生きた英語を体得します。この2つをつなぐ役割を果たしているのが、『国内サマースクール』です。中1で学んだ深川に関する知識を活かし、英語を使って外国人に深川を案内することで、英語への興味や関心を高め、海外へ目を向けるきっかけになってほしいと考えています」(野志先生)
深川には、俳人・松尾芭蕉ゆかりの芭蕉庵、江戸三大祭りで知られる富岡八幡宮、松平定信の墓がある霊巌寺など、歴史上の人物や伝統文化と関わりが深い名所も多い。それらの場所を、普段授業で接している自校のネイティブ教員ではなく、初めて会う外国人を案内することが大きなポイントだという。
「国内サマースクールでは、各グループに1人のネイティブ講師がつき、グループごとに設定したテーマに沿って案内します。外部の講師なので、生徒たちは初対面です。講師たちは、深川についても知りません。例えば、霊巌寺の説明をしようとして、いきなり松平定信といっても伝わらないでしょう。江戸時代とはどれくらい前なのか、どんな時代だったのか、そこから説明しなければならないのです。そういったことをアドバイスしながら、なぜこの地域にお寺が多いかなども含めて、事前学習として社会科の授業で調べています。事前学習は英語の授業でも行い、案内するときにどんな話をするかなども英語の教員が添削しました。このプログラムは単独で行うものではなく、日々の授業とつながっていて、英語だけでなく社会の授業とも連携しています」(野志先生)
▶︎野志 尚美先生(入学対策部副部長)
「国内サマースクール」最終日 英語で深川の魅力をプレゼン
生徒たちは、10グループに分かれて英語で発表を行った。松尾芭蕉や松平定信といった歴史上の人物と関わる場所だけでなく、相撲部屋、墨田川にかかる橋、昭和初期に建築され三野村ビルなどを、様々な視点で紹介。クイズ形式で特徴を紹介したり、アニメーション機能を使ったり、最後に自分たちの後ろ姿を撮影した動画を入れるなど、スライドもグループごとに工夫されていた。発表の途中でスライドのトラブルなどがあると、すぐにメンバーがフォロー。クラスが異なるメンバーも、3日間のうちにチームワークのよさを発揮できるほど打ち解けていた。
発表を終えた後は、表彰式が行われた。審査を待つ間には、ネイティブ講師が英語でクイズを出していたが、生徒たちは自然に英語を聞き取ってクイズに参加。その後、大きな声で発表できたグループ、文章のまとめ方がよかったグループ、ジェスチャーがよかったグループなどの視点で、各グループが表彰された。最後に、頑張った証として全員に「CERTIFICATE OF COMPLETION(修了証書)」が授与されるというサプライズ。生徒たちは、笑顔で3日間のプログラムを終えた。
「中2の生徒たちは、コロナ禍で入学して、いきなり一斉休校を経験し、行事の中止、縮小を余儀なくされました。中2は今年5月の自然体験も、緊急事態宣言下で行けなかったので、中2だけの学校行事としてはこのプログラムが初めてだったのです。ネイティブ講師がうまく盛り上げてくれて、盛り上げ上手な子たちも活躍して、生徒たちは期待以上にエネルギーを注いでくれました。修了証書を喜ぶ笑顔も見ることができ、楽しんでくれたことが何より嬉しいです」(野志先生)
「国内サマースクール」の成果
同校では、広い視野で世界を知る一方で、自分の周りから行動を起こしていくことが大切だと考えている。そのためには、日本のことを正しく知り、それを伝える力も必要である。このプログラムは、グローカルな視野を育むためにも、大きな役割を果たしている。
「これまでも、相手の立場に立って、思いやりを持って接することなどはできていましたが、このサマースクールで接する相手とは国境を越えなければなりません。生徒たちは、日本人である自分たちが知っていて当然の歴史を、ベースとなる知識も違う外国人に伝えるときに何が必要か、感じ方が違うことなども体感できたと思います。生徒たちは、これから江戸時代を学ぶので、このプログラムとのリンクも楽しみです。外国人に説明するために調べた視点で、これからも歴史を学んでくれたらいいなと思っています。歴史は『覚えなきゃいけない』『つまらない』と思われがちですが、私のモットーはまず好きになってもらうことです。このプログラムをきっかけに、当時の暮らしや思い、世の中の雰囲気、着ているもの、食事、娯楽などに目を向けることができれば、歴史の授業もより楽しくなるでしょう。プログラムの中で、『歴史の授業が恋しくなった』と言ってくれた子もいたのが嬉しかったです」(野志先生)
同校は小規模校であることから、一人ひとりの表情や変化が手に取るようにわかるという。今回のプログラムでも、生徒たちの中で英語に対する興味や関心が高まっていく様子を感じ取れたことが大きな成果だと野志先生は語る。
「生徒たちにとっては、中1から学んできた英語がどれだけ通用するかを試す機会です。教員の助け船がないので、自分でなんとかしなければなりません。英語の成績がそれほどよくない生徒も、このプログラムには熱心に取り組む姿が見られました。今後の英語学習へのモチベーションにもつながっています。それが、このプログラムが目指していることです。この体験を通して、海外に行って自分の英語を試してみたいとか、留学に興味が向けば、将来進む道の可能性も広がるでしょう。そんなきっかけになれば、さらによいと思います」(野志先生)
「国内サマースクール」を終えた中2の生徒にインタビュー
――1日目と2日目は、どのような活動をしましたか?
Oさん 1日目はネイティブの先生との仲を深めるために、英語でゲームをしました。英語に慣れる意味もあり、2日目の最初も英語のゲームをして、10時ぐらいからフィールドワークに行きました。私たちが行ったのは、松尾芭蕉に関連する場所です。ゲームをするときは5グループでしたが、フィールドワークはそれを2つにわけて10グループで活動しました。
Yさん ゲームは、テキストにある文章を読んでから、テキストを見ないでそれについて出された質問に答えるという感じです。質問する人と答える人をチェンジしながら進めていきます。フィールドワークでは、深川周辺の歴史ある建築物を中心に周りました。
▶︎Oさん
――グループ活動はどうでしたか?
Oさん クラスがバラバラだったので、話したことがない子もいて、最初は黙ってしまうこともありました。ネイティブの先生がフレンドリーだったので、先生を中心にみんなとも仲よくなることができました。
――深川を案内するために、どんなことを準備しましたか?
Yさん 外国人に説明するだけでなく、質問が出たら答なければならないので、たくさん調べました。歴史上の人物と関係がある場所だということだけでなく、その人が何をしたのかまで調べて準備しました。
――英語でのコミュニケーションはどうでしたか?
Oさん 今までは、何を言っているのかわからなかったので、英語の中でもリスニングが嫌いでした。ネイティブの先生はジェスチャーもたくさん使っていたので、単語がわからなくてもジェスチャーを見ればわかります。わかる単語を並べたら、言いたいことも伝わったので、英語に少し自信が持てるようになり、楽しくなりました。
Yさん わからないことがあると、ネイティブの先生や友達が助けてくれたので、自分もわかるようになりたいという気持ちになりました。
▶︎Yさん
――案内をするときに、予想外の質問などはありましたか?
Oさん 清澄庭園は15分ぐらいの予定だったのですが、亀とスッポンを見ていたら30分もたっていました(笑)。ネイティブの先生に「急いで!」と言ったのですが急いでくれなくて、急ぐどころか「トイレに行ってくるから待ってて」と言われて、結局45分も使ってしまったのです。行けない場所ができてしまったので、歩きながら写真を見せて説明したりして、なんとか調整しましたが、日本人との国民性の違いなどもわかりました。
Yさん 場所についての質問は準備していましたが、歩いているときなどに話すことまでは準備していませんでした。日本の好きな食べ物などについて聞かれて、友達に助けてもらいました。案内したのがエジプトの方だったので、「エジプトについて知っていることはある?」という質問もありましたが、全然準備していなかったのです。他の国の文化にも興味が出てきたので、将来は、他の国の人と一緒にお仕事できたら楽しそうだなと思っています。
――3日間のプログラムを終えた感想は?
Oさん 楽しかったです。私は英語があまり好きではなく、できるという自覚もありませんでした。それがだんだん、ネイティブの先生が言っていることがわかるようになってきたのです。1年間勉強してきて、自分で気づいてないだけで成長していたということに気づけました。1日目から気づけたので、残りの2日も楽しかったです。
Yさん 最初の日は日本語が出てしまうことがありましたが、2日目からはみんな「英語を話そう」という気持ちが強くなって、ネイティブの先生にも頑張って話しかけるようにしました。話していくうちに、ちょっとずつ伝わるようになっていくのが楽しかったです。
――この学校のいいなと思うところを教えてください。
Oさん 生徒数が多くないので、わからないところを先生に質問すると丁寧に一人ひとりに教えてくれます。勉強でわからないことがあれば、先生や友達に聞けばいいのだと、入学当初から感じられる雰囲気です。どんどん成績も伸びてきたので、入学してよかったと思っています。
Yさん 少人数制なので友達とも仲よくなりやすいですし、部活でも先輩との距離が近いです。私はダンス部に入っていますが、先輩から話しかけてくれたので仲良くなれました。
<取材を終えて>
入学してからなかなか学年行事を楽しむ機会がなかった中2の生徒たちが、この行事を心から楽しんでいることが伝わった。OさんとYさんへのインタビューでは、案内した講師から出た予想外の質問や行動に関する話が印象的だった。準備していたこととは全く違う質問が出たり、予定通りに周れなかった経験があったからこそ、視野が広がり、異文化への関心も高まったのだろう。ローカルの活動からグローバルな視野を育む、とても魅力的なグローカル行事だと感じた。