スクール特集(獨協中学校の特色のある教育 #5)
独自プログラムで様々な体験!「ドイツ研修旅行」
獨協中学・高等学校では、中3から高2の希望者を対象に、夏休み中に「ドイツ研修旅行」を実施している。その独自プログラムの特色とは?
獨協中学・高等学校では、グローバル教育の一環として様々な異文化体験の機会を用意している。今回は、創立以来ドイツ文化との深い関わりを維持している同校ならではの「ドイツ研修旅行」に注目し、担当の塩瀬治先生、鳥山靖弥先生と研修に参加した生徒4人に話を聞いた。
学年に応じて段階的に異文化を体験
同校では、中1から段階的にグローバル教育や英語教育を行っている。入門期である中1(希望者)は、ゲームなどを交えて楽しく英会話を学べるように、校内でネイティブと過ごす「国内ミニ留学」(4日間)を実施。英語でエッセイを書いて発表する「イングリッシュシャワー」(中2)を経て、中3(希望者)になると福島県にあるブリティッシュヒルズで国内留学を体験。イギリスの田園風景と建物が再現された英語学習施設で、英語圏へのホームステイ同様に英語漬けの3泊4日を過ごす。
異文化体験は学年を追うごとにステップアップし、英語圏での本格的な海外体験として、アメリカ西海岸・シアトルでのホームステイ(高1希望者)、アメリカの国立公園・イエローストーンでのサイエンスツアー(高1・高2の希望者)、ハワイへの修学旅行(高2)を実施。さらに、ドイツの文化と学問を学ぶ目的で明治初期に創立された獨逸学協会学校を前身とする同校ならではのプログラムとして、ドイツ研修旅行(中3~高2の希望者)が夏休み中に組まれている。いずれも、現地の大学や専門機関協力のもとで、充実した体験型プログラムを展開。また、学校生活の中でも、ALT(外国語指導助手)や留学生との交流、第2外国語としてドイツ語を学べるなど、異文化と触れ合う機会が多数用意されている。
▶︎塩瀬治先生
人と人とのつながりに支えられた独自の研修プログラム
独自のプログラムが組まれた「ドイツ研修旅行」は、担当である塩瀬先生と現地の先生方との出会いがきっかけとなっている。塩瀬先生が20代後半に初めてハノーファー市立学校生物教育センター(以下、生物教育センター)を訪れた際、日本とはあまりにも違う「体験」を中心とした教育に衝撃を受け、自分一人のために熱心に説明をしてくれる先生にも感動したという。そこから始まった現地の先生方との交流は、20年以上たった現在も続いている。同校の研修旅行は、このような友情や人とのつながりがあってこそ、実現できるプログラムなのだ。
2018年度のプログラムでは、14日間の日程でハノーファー、シェルナッハ、ミュンヘンなどを訪れた。生物教育センターで様々な体験学習をしたり、移民の方から実際に移民・難民の支援活動に関する話を伺うほか、動物保護施設の見学や酪農家庭での生活体験、ダッハウ強制収容所跡の見学など、一般的な観光旅行では経験できない内容が多数組み込まれている。その中の多くは、通訳を介して現地の人々が学ぶプログラムをそのまま体験するという。
「難民や移民に関する問題は、日本国内にいては身近なこととして考えることは難しいです。しかし、移民や難民を多く受け入れているドイツでは、当事者から話を聞く機会も得られます。様々な人種や宗教を身近に感じることで、自分と他者がどのように協調して生きていくか、生徒自身が考えるきっかけにもなるでしょう。ドイツには戦争や虐殺による負の歴史もありますが、戦争で何をしてきたかも隠さず公開しています。その反省の上に立った先端的な教育には、学ぶべき点が多いです。地球的視野で考えて、自分で問題を解決しようとする地球市民的な素質を育むためには、歴史、環境、人権、生物などを統一カリキュラムとして学べるドイツでの経験が多いに役立つと考えています」(塩瀬先生)
▶︎写真手前:鳥山靖弥先生
ホームステイ先ではリアルな日常を体験
ハノーファーではホームステイをして、現地の家族と英語でコミュニケーションを取りながら交流を深める。さらに、ステイ先の生徒が通うギムナジウム(大学進学を目指す8~9年制の学校)へ一緒に登校し、授業にも参加。授業はドイツ語で行われるので内容を理解することは難しいが、授業の進め方や先生と生徒の関係などを知ることができる。
「私たちが特に大切にしていることは、人と人とのつきあいです。現地の方たちとは、損得や上下のないフラットな関係で交流して、お互いの考えを伝えあいます。観光で行くのとは違い、深い関わりも生まれ、その中での学びや気づきがあるでしょう。予めプランは立てておきますが、すべてが予定通りにいくとは限りません。ハプニングも含めて、現地での生活や飾り気のないつきあいが体験できるのが、この研修旅行の大きな特徴です」(鳥山先生)
実際に、小さなハプニングはいろいろと起きている。例えばある生徒は、ステイ先の父親と息子と3人で外出する予定になっていたが、当日になって息子が「行かない」と言い出して父親とケンカをしてしまった。結局その生徒は、父親と2人で出かけることになってしまったという。しかしこれも彼らのリアルな日常であり、それを隠すことなく見せてもらえることも貴重な体験なのである。
「ホームステイ先は、現地の校長先生が全面的に協力してくれて、業者を通さずに直接家庭にお願いしています。ハノーファーは、ベルリンなどの観光都市と比べると日本人がそれほど多くなく、学校に日本人が訪問することもほとんどありません。日本の若者と交流する貴重な機会として、学校全体が歓迎ムードで準備してくれています。現地の方たちが温かく見守ってくれている、人とのつながりで成り立っている研修旅行なのです。幸い、生徒たちの『ドイツから学びたい』という真面目な気持ちが伝わっているようで、『獨協の生徒ならまた来て欲しい』と毎年言っていただけています」(塩瀬先生)
2018年度の「ドイツ研修旅行」に参加した4人の生徒にインタビュー
――「ドイツ研修旅行」に参加した理由は?
▶︎写真左からK君(高1)、U君(高1)、T君(高1)、S君(高2)
S君 小さい頃から外国の文化や言語、ライフスタイルなどに興味があり、参加しました。「ドイツ研修旅行」に参加したのは今年で3回目です。
T君 ドイツに対しては、小学生ぐらいからなんとなく「格好いい」というイメージを持っていました。それが、この学校を志望した理由の1つでもあります。美術部に所属しているのですが、ドイツの建築なども格好いいなと思っていて、建築などが見られたらいいなという軽い気持ちで参加しました。実際に参加してみたら、想像以上に内容が濃かったです。
U君 獨協に通っているからには、ドイツに一度は行ってみたいと思って参加しました。家では、ドイツ原産のジャイアント・シュナウザーという種類の犬を飼っています。まだ日本で同じ犬種に会ったことがなかったので、ドイツで会えるかなという期待もありました。
K君 外国の方とコミュニケーションを取ってみたい気持ちがありました。どのようにコミュニケーションを取れば笑いが取れるか、試してみたかったのです。他校はアメリカやオーストラリアへの旅行が多い中、ドイツというのは珍しいので貴重な体験になると思いました。歴史ドキュメンタリー番組を見るのが好きで、広島の原爆ドームなどには行ったことがありましたが、他国ではまだなかったので、ダッハウ強制収容所跡もぜひ見学したかったです。
――現地で日本との違いを感じたことは?
S君 生物教育センターでの教育は、自分で様々な体験をしながら、自然について学んで行く体験型のプログラムなので、日本の授業とは全然違うと感じました。センターでは、小さい子どもや教師を目指している人など、幅広い年齢層が学べます。日本では、遠足ぐらいしか外で学ぶ機会がないので、このような教育を日本でも取り入れたらもっとよくなると思いました。教室で教科書や黒板を使った授業だと、自分から積極的に参加しようとする人ばかりではなく、受け身になりがちです。同じ情報が得られたとしても、ドイツのような体験型の方が記憶としての定着も違うと思います。
T君 ホームステイ先では、文法が間違っていてもどんどん話すことや、相手の言っていることを理解しようとする気持ちが大切だと感じました。日本人は、何度も聞き返すと悪いと思って、わかっていなくても「OK」とか「Yes」と言ってしまうことがありますが、ステイ先の人たちはわかるまで聞いてきます。こちらがわかっていないのに適当に相づちを打ってしまうと、「君、わかってないでしょ?」と機嫌が悪くなることもありました。ドイツでは様々な人種の人たちが生活しているので、共生していくためにはコミュニケーションがとても大切です。そういったことも、教科書で学ぶより、自分で発見した方がワクワク感や喜びを感じることができました。
U君 日本では、外国出身の人たちのことは日本に住んでいても「外国人」として考えることが多く、「同じ国に住む人」とは思わない傾向があります。しかし、ドイツではそうではなく、いろいろな人種の人が「同じ国に住む人」として普通に生活しています。ホームステイ先から現地の学校へ行って授業を体験したときも、教室ではいろいろな人種の人がドイツ語で話しているのが日常なのだと感じました。日本ではこれから、オリンピックや万博もあるので、どんどんいろんな国の人と関わっていった方がよいと思います。
K君 ホームステイ先でのコミュニケーションが難しかったですが、なんとか笑わせることができました(笑)。日本と比べて外国は、治安が悪くて怖いというイメージがありましたが、今回行った所はそれほど悪くなかったです。日本人は、仕事が忙しかったり、宿題に追われたりしていますが、現地の人たちは、サイクリングをしたり、公園でのんびりしたり、自然とふれ合うなど、とてものびのびしています。ダッハウ強制収容所跡は、映像で見るより悲惨で、人数が増えてくるとベッドが段々狭くなってきたり、拷問の様子などもわかり、戦争の怖さも実感しました。
――将来の夢があれば教えてください。
S君 まだ具体的なことは決めていませんが、外国や言語に興味があり、何らかの形で外国と接していきたいので、英語だけでなく、いろんな言語を話せるようになれたらいいなと思っています。ドイツ語の授業も受けているので、ホストファミリーとドイツ語の単語を言い合えるぐらいにはなりましたが、もっと話せるようになりたいです。
T君 芸術が好きなので、駅のポスターを制作するなど、何か絵に携わる仕事をしてみたいと思っています。「ドイツ研修旅行」後には、古い絵の修復にも興味を持つようになりました。ドイツでは収容所跡なども公開されているように、負の歴史であっても公開することで、いろいろな人が歴史を知り、文化の破壊もなくなると思います。帰国後は、歴史への関心も高まり、歴史書も読むようになりました。外国の文化も日本の文化も尊重して、何かの形で、文化を継承していく役に立ちたいです。
U君 将来は、好きなことを仕事にしたいです。今は鉄道が好きなので、鉄道関係の会社に勤めたいと思っています。ドイツでは、大人も子どももみんな休日をちゃんと楽しんでいました。長期休暇中に宿題はなく、朝ものんびりしていて、平日と休日のメリハリがはっきりしているので、自分もそのような生活を送れるようになりたいです。
K君 2020年に東京でオリンピックが開催されることもあり、国際関係の仕事は今後ますます増えていくと思うので、国際関係の仕事に就きたいという漠然とした思いがあります。そのためには、もっと英語も勉強しなければなりません。外国の方たちを自然に笑わすことができるぐらい、滑らかにコミュニケーションが取れるようになりたいです。ドイツの生物教育センターで説明してくれた先生の話がとても面白かったので、その先生のように場を和ませる雰囲気が作れる人になりたいと思っています。
<取材を終えて>
研修旅行に参加した生徒たちの話から、現地で見たり聞いたりしたことは、教科書で学ぶより何倍も心に響いたことが伝わってきた。旅行後に提出された参加者全員の感想文には、多くの気づきや学びが記されている。現地の先生方と長年に渡る交流があるからこそ実現できるプログラムであり、それらを通して生徒たちも「人と人とのつながりの大切さ」を実感しており、旅行に関わった人への感謝の気持ちなども記されていたことが印象的だった。
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