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トキワ松学園中学校

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デジタルパンフレット

スクール特集(トキワ松学園中学校の特色のある教育 #1)

考え、伝え、分かち合う授業「思考と表現」。 論理的な思考力と表現力を育む

すべての学習の土台となる論理的な思考力や表現のスキルなどの育成を目指し、2017年度にスタートした「思考と表現」の授業。どのような学習を行っているのか、取材した。

思考力教育に力を注ぐトキワ松学園は、中学と高校それぞれ1年次に「思考と表現」というオリジナルの授業を行っている。2名の専任の司書教諭がティームティーチングの形で指導し、生徒たちの論理的に考える力や表現力、また協働する力などの育成を目指しているという。授業導入の経緯や学習内容について、中学校教頭の松本理子先生と司書教諭の勝見浩代先生、小澤慶子先生に話を聞いた。

調べ方や論理的な文章を書く基礎を学ぶ

同校は、「思考と表現」の授業を、中1は総合の時間、高1は教科として、週1時間実施している。教頭の松本先生は、独自の授業を導入した経緯を次のように語る。
「本校は以前から、作文や読書感想文、教科の課題としてレポート作成などに取り組んできました。また、各教科とも図書室を活用して調べたことをまとめ、発表するという学びを伝統的に行っています。しかし、いずれも教科学習の中で実施してきたので、文章の構成や書き方などを体系的に教えることがなく、回を重ねても注意する点が同じということも多々ありました。そこで、教科との連動を図りながら、体系的に指導する時間を設けることにしたのです」

授業及びシラバスの作成は、2人の専任の司書教諭が担当している。今回は主に中1の学習内容について説明をしてもらった。

▶︎写真左より:司書教諭 小澤慶子先生・勝見浩代先生、中学校教頭 松本理子先生

<思考と表現 中学1年の学習内容>

【1学期】
「調べ学習の基礎を学ぼう①」
  ●図書室オリエンテーリング
「調べ学習の基礎を学ぼう②」
  ●「わたしの好きなもの新聞」の作成
「友だちに本を紹介しよう」
  ●本の紹介ポスターの作成
「読書感想文を書こう①」

【2学期】
「ビブリオバトル」(知的書評合戦)※1
「読書感想文を書こう②」
「アニマシオン」※2
「起承転結・4枚の絵」
  ●4枚の絵を並べて1つの物語を作成する

【3学期】
「絵を読もう」(対話型鑑賞)
  ●複数の人の目で絵を丁寧に見る(絵を読み解く)活動

「最初の授業は、『図書室オリエンテーリング』を行います。指定の本を探し、ブックポケットに入っている問題を解き、次から次へと本を探して問題に答えるというゲーム形式で実施。生徒たちは楽しみながら、調べ学習の基本である目次や索引、請求記号、奥付を学んでいきます」と勝見先生は話す。
「わたしの好きなもの新聞」の作成では、百科事典の使い方も教えるとともに、事実と意見を区別して書く練習をしている。

「友だちに本を紹介しよう」は、自分の好きな本を1冊選び、ワークシートに従って、あらすじやこの本を勧めるポイント、気に入った表現を書き、最後は思い思いの見せ方でポスターを完成させる。

そして、多くの生徒が苦手意識をもっているのが、読書感想文だという。「授業では、まず生徒たちは50種類程度の課題図書から本を選び、主題を考えながら、作品を読んでいきます。それからワークシートに指定された順番に内容を記入し、自分が主題と読み取ったのは、何を根拠にしているのか、具体的な理由も書いていきます」と小澤先生は学習の流れを説明する。
「ワークシートを見て、生徒に『これについてどう思ったの?』と投げかけると、生徒は改めて考え、『私は○○だと思いました』と返してくる。そんなやり取りをしながら、自ら気づきを得ながら、思考を深めていきます」

同校は、年に3回、読書感想文を生徒たちに課している。勝見先生は「書く内容と順序を押さえれば、どんな文章でも書けるようになり、読書感想文はそのための手段であることを最初に伝えています」と話す。「書く経験を積んでいくことで、論理的に文章を書く力が備わっていくのです」

※1ビブリオバトル…各自好きな本を持ち寄ってその本の魅力を語り、質疑応答を行う。すべてのスピーチを終えた後は、参加者全員が投票して「チャンプ本」を決める。

※2アニマシオン…スペインで考え出された教育法。遊びの要素を取り入れ、楽しく読書体験を積むことができるプログラム。

対話型鑑賞を通して、観察力や思考力を伸ばす

自分の好きな本を紹介する「ビブリオバトル」は、生徒たちの好きな学習の一つだ。最初は、4~5人のグループに分かれてスピーチを行い、その回の「チャンプ本」に選ばれた紹介者は、決勝戦でクラス全員の前で発表する。
「話すことが苦手な生徒も、ビブリオバトルを終えた後は、とてもいい顔をしています。もともとスピーチ後の質疑応答では、否定的なコメントをしないというルールが設けられているので、安心して発表ができますし、みんなに受け入れられたという実感も得られます。また、本を通じて、自分のことを知ってもらい、同時に友だちのことも知ることができますね」
勝見先生は「ビブリオバトルの良さは、様々な分野の読書に視野が広がると共に、友だちへの理解が深まることにあります」と話す。

3学期は、VTS(Visual Thinking Strategies)という「絵を読み解く」活動を行っている。これはニューヨーク近代美術館で開発された教育法で、具体的には、1つの作品をグループで鑑賞して絵を読み取り、自分の考えたことや感じたことを述べ合う。
「生徒たちは、『絵のどこから、そのように考えたのか』、根拠を提示して発言します。ファシリテーターである教員は価値判断をせず、必要に応じて生徒の発信の『言いかえ』や『関連づけ』を行います。これによって生徒の語彙が広がり思考が整理され鑑賞が深まります。また、自分とは違う様々な考えを聞くことで、生徒の視野が広がります」と勝見先生は言う。
「生徒の絵の読み取り方は、本当に多様で面白いですよ。毎年、同じ絵を見せても、昨年は出てこなかった新しい発言が必ずあります。『対話型鑑賞』を通して、観察力やコミュニケーション力を高めていってほしいですね」

「思考と表現」の授業について生徒にインタビュー

生徒たちは、「思考と表現」の学びについて、どのような感想をもっているのだろうか。
昨年、授業を受けた2人の中学2年生に話を聞いた。

▶︎写真左より:Dさん・Aさん

Q 印象に残っている授業を教えてください。

Dさん ビブリオバトルです。私はあまり本を読むタイプではなく、同じように読書が苦手に思っている人にも「いかに興味を持ってもらえるか」ということを一番に考えて、原稿を作りました。スピーチは、とにかく「伝えたい!」という気持ちでのぞみました。クラスの決勝戦で「チャンプ本」に選ばれ、クラスメートから「本を貸して」と言われたのが、うれしかったです。

Aさん 読書感想文は大変だったという点で印象に残っています。私は作文を書くのは得意なほうでしたが、読書感想文はあらすじを書いて、感想も理由を付けて書かなくてはいけません。難しかったけれど、ワークシートに沿って書くことができ、また、書き方の見本もあったので、まとまった文章が書けるようになりました。

Q VTSの学習はどうでしたか?

Dさん 美術は1人で感じるものだと思っていたので、友だちの意見を聞くことができたのが面白かったです。また、「背景が暗闇だから、作者は悲しんでいるのではないか」など、根拠をもって絵に描かれていることを表現するのも初めての経験で新鮮でした。

Aさん 名画や現代アートなど、いろいろな絵をみんなで鑑賞できたのが楽しかったです。作品によっては意見が出づらいものもあり、自分の思ったことを言葉にする難しさも感じました。また、授業を受けるまでは、美術館に行くこともなかったのですが、最近は家族と美術館で絵を見て、感想を言い合っています。

Q 「思考と表現」の授業を通じて、身についたと思うことは?

Dさん 文章を書くことです。前は質より量で、たくさん書くのがよいと思っていましたが、授業では原稿用紙の枚数が決まっているので、要点をしっかり書くようになりました。また、自分の意見を発表する時は、相手に伝わるような言葉を選ぶようになりました。

Aさん 書くことと、みんなの前で話をすることです。前は、発表は緊張するし「苦手だな」と感じていたのですが、何回か経験するうちにリラックスして話せるようになりました。あとは、絵を鑑賞する時に、細かく観察して、考えながら見るようになったことです。

「思考と表現」と「探究」の学びを、将来の進路へつなげる

「思考と表現」の授業を通して、松本先生が重視しているのが「考え方の芯」を作ることだという。
「たとえばVTSの学習は、絵の中に根拠を求めて、自分の考えを表現します。言葉は思考力の土台を作るので、言葉にすることはとても大切ですね。また、ビブリオバトルもそうですが、みんなが自分の意見を興味をもって聞いてくれたと、互いを尊重する関係性を築くこともできます。『多様性を受け入れる』『分かち合う』ということを理屈ではなく、実体験をもって自然な形で実現できるのが、この授業の良さだと思います」

高1の授業では、課題学習やプレゼンテーション、探究レポートなどの指導も加わり、より一層、自己表現の技術の向上を目指す。
「近年は大学入試において、総合型選抜(旧AO入試)を取り入れる割合が増え、事前に課題のレポートを提出させたり、当日もグループで討論したり、小論文を書かせるなど、内容も高度になっています。本校は以前から、それらの入試に対応できる学習を行い、結果を出してきました。今後はさらに『思考と表現』の授業で力を養い、生徒たちの選択肢を広げていきたいと考えています」と松本先生は言う。

「思考と表現」の学びは、同校が力を入れている「探究」活動とも連動させている。
「中学では、文化祭でクラスごとに研究発表会をしたり、博物館や美術館に行って調べ学習をしたりしています。グループで協働し、学ぶ楽しさを体験してほしいですね。また同時に、ポートフォリオを自分で作成する指導も行っています。高校になると、自ら課題を発見して、仮説を立て、検証する学びを個人とグループの両方で行っています。自分だけが分かって終わり、では本当の探究活動にはなりません。周囲や社会とつながり、学術研究の入口のところまで足掛かりをつけ、将来の進路に結び付けられるように取り組んでいきます」

<取材の補足と感想>
「思考と表現」の授業は、自分の考えを述べることを大切にしているが、生徒を指名して意見を求めることはしないという。しかし「発言をしない生徒も、授業終わりのリマインドシートには、自分の考えをしっかり書いています。黙っていても、積極的に授業に参加し、良い学びをしていますね」と勝見先生はいう。また、発表をする時に、言葉に詰まってしまった生徒がいると、自然と周りの生徒が助け船を出すそうだ。
「思考と表現」は、名称のごとく思考力と表現力を養う授業だが、学習を通して、分かち合いの精神を育んでいることも印象に残った。

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