スクール特集(東京成徳大学中学校の特色のある教育 #1)
学びの可能性が広がるICTを活用し、グローバル人材の育成を目指す
東京成徳大学中学・高等学校では、21世紀のグローバル社会で活躍できる人材の育成を目指し、さまざまな教育活動に取り組んでいる。その柱の1つ、ICT教育について取材した。
「徳を成す」建学の精神をベースに、先進的な学びを導入
2026年に創立100周年を迎える東京成徳学園では「ビジョン100」という教育目標に「成徳の精神を持つグローバル人材の育成」を掲げている。同学園の理事で社会科教諭の木内雄太先生は「このビジョンには、建学の精神である『徳を成す人間の育成』が根底にあります。誰からも愛される人間性、『徳』を成すことを変わらずに大切にしながら、その精神を21世紀のグローバル社会の中で発揮できる。そういう人材を育てていきたいと考えています」と話す。
「そして、グローバル人材を育てるためには、どのような教育が必要なのか。英語教育はもとより、理科教育、プログラミング、探究学習などの先進的な学びは、現代社会で求められる資質を育て、そこにはICTの導入も必要になります。また本校には『創造性』と『自律』という教育のテーマがあり、ICTを活用した学びは、創造力や発想力を磨きます。流行りの教育だから取り入れたのではなく、本校の理念と合致していることからICT教育を促進することになりました」
なお同校では、グローバル人材の育成に向けて「未来を見据える」「世界を知る」「自分を拓く」の3つの教育コンセプトを設定している。「未来を見据える」は、ICTやプログラミング教育、理科教育など、創造性を育む教育を実践。「世界を知る」では英語教育や海外研修、「自分を拓く」ではゼミ活動や実地踏査型研修旅行などに力を入れている。
▶︎社会科教諭 木内雄太先生
ICT活用の教育効果が評価され、ADS認定校へ
現在、同校の生徒は入学時に1人1台のiPadを手にし、授業や校外学習、行事などさまざまな場面で活用している。また、同校はApple Distinguished School(ADS)の認定校でもある。これは、Appleのテクノロジーを活用して、国際的に高い教育効果を出している学校が認められるもので、世界36か国で689校、日本国内では11校、東京都内の私立中高では同校を含めた3校のみが認定を受けている。
ADSの認定は3年ごとに見直しがあり、その際に、教育効果のエビデンスが求められる。同校は東京学芸大学の研究所と共同し、ICTを活用した学習効果を統計的手法で分析し、その結果をもとに、教員の研修なども行っているという。また、4人の教員が、Apple Distinguished Educator(ADE:Appleのテクノロジーを使い、教育現場の変革に取り組む教育者)の認定を受け、学校全体のICT推進に関わっている。
ICTの良さについて、木内先生は「生徒それぞれの考えを全員で共有したり、新しいものを創り出すことが比較的容易にできること」と話す。
「以前、中3の公民で、『ユニバーサルデザイン』をテーマに、iPadを使って社会に役立つ器具のアイデアを考える授業を行ったことがあります。この学習ではまず、マイノリティの人たちがどんなことに困っているのかを体感するために街へ出て調査をしました。それをもとに『どんなものがあれば、生活しやすい社会になるのか』、撮影した写真や資料を教室でシェアしながら議論をします。次に『自分なら何ができるか』を考え、デザインを創り、それをまたみんなでシェアします。生徒自ら課題について考え、解決策を表現することでユニバーサルデザインの理解がより深まりました」
数学の概念をiPadで表現する授業を展開し、苦手意識を解消
ICTの活用はさまざまな教科で実践されている。たとえば中1の数学では、文字式や方程式の概念をイラストや写真で考えたり、正負(+-)の足し算をどう考えたらよいか、アプリや動画などを駆使したりして表現する学習を行っている。数学科の降矢貴充先生は「中1の時点で既に数学が嫌い、苦手だという生徒がいます。その意識を払しょくしたいと思いました」と語る。「数学も、言葉のようにイメージができたら理解ができるのではないかと考え、例えば方程式の授業では2つのものが=(イコール)になる画像やイラストを探したり、描いたりさせました。そして、=で結ばれる概念は方程式と同じであることをイメージで落とし込みます。正負の足し算四則計算の概念も、自分で問題を考え、イラストや映像などで表現することで、解法のイメージができる。生徒たちも表現することを楽しみながら、理解ができたのではないかと思います」
のちに中1生にアンケートをとったところ、7割以上が「数学が好き」と答え、9割以上の生徒がiPadを使った学びを望んでいたという。降矢先生は他にも、個別最適の学びを目指すために解説動画を作ってYouTubeにアップする取り組みを実施。動画を見て学ぶスタイルが肌に合い、学習意欲が高まった生徒も多くいたそうだ。
その他、英語の授業例では、iPadで「もしも自分がタイムトラベルをしたら…」という英語の短編映画を創作し「過去形」や「未来形」などの「時制」について学びを深め、社会科では、「模擬○○」、金融体験などを実際のシステムに近い状況を再現しながら、生徒同士で議論をすることなどを行っている。
▶︎数学科 降矢貴充先生
今までできなかった学びや、未来を実現するためのICT教育
ICTを授業に導入し、降矢先生は「こちらが想像する以上に、表現を突き詰めていく生徒が増えていること」を実感している。「数学の苦手な生徒が、表現をすることで数学を好きになる場合もありますが、もともと好きだった生徒の成長も大きく、デジタルを前にしてさらに興味をもって学習に取り組んでいます」
また2年前、オンライン文化祭を開催する際、中3生がマインクラフトを利用して校舎の再現に取り組み、普段はおとなしい生徒が、積極的にコミュニケーションをとって活動をしているのを見て降矢先生は驚いたという。「今まで自分では気づかなかった興味や得意なことを見出し、それを伸ばす生徒も多くいますね」。現在、その生徒は、情報系の大学の進学を考えているそうだ。
ICTを使い生徒が主体的に学ぶ一方で、同校は教師主導の授業も重視し、少人数制の習熟度別授業や個別補習なども行い、基礎学力の定着を図っている。いわゆる「教え型」と、自ら学ぶ「学び型」の両輪で、6年間一貫のカリキュラムに取り組み、大学の進学実績も伸ばしている。昨年度は、国公立6人、早慶上理19人、GMARCH48人、海外大学に2人が合格した。
このようにICT教育を促進してきた同校。その学習効果について、木内先生は次のように説明する。「東京学芸大学との共同研究では、ICTを活用すると生徒たちが教え合ったり、協働したりして学びを進め、それが最終的には自分に向かい、もっと学びたいという意欲や理解へとつながる。そういうフィードバック効果があることがわかってきました。同時に問題解決力や探究力なども向上しています」
「ICTは便利なツールというレベルを超え、今日では教育の在り方を変える手段となっています。今までできなかったことをICTが可能にし、今まで育てられなかった資質を育て、生徒たちの可能性を拓いていく。それが本校の目指すICT教育であり、生徒のやりたいこと、未来を実現するために活用を進化させていきたいと考えています」
【取材を終えて】
ここ数年、1人1台のiPadの導入をする学校が増えているが、使い方が手探りのところもあり、運用はさまざまだ。そうしたなか同校は、学習効果までしっかり分析し、それをもとに先生たちが研修をするなど徹底している。一歩進んだICT活用をしていると感じた。