スクール特集(東京女学館中学校の特色のある教育 #4)
英語圏からアジアまで。人との交流を大切にした海外研修で大きく成長!
東京女学館中学校・高等学校は、20年以上前からアジアや英語圏の人との交流活動に力を入れている。その取り組みや、この夏に海外研修に参加した生徒たちの感想をレポートする。
相互交流を図る文化研修。国際学級は生徒全員がリーダーシップ研修に参加
今年、東京女学館は創立135周年を迎えた。建学の精神「国際性を備えた知性豊かで気品のある女性の育成」は、現在も学校の教育に受け継がれ、その一環として海外交流活動に力を注いでいる。その取り組みについて、国際部ICEC(異文化相互理解センター)室長で英語科教諭の浦辺沙織先生に話を聞いた。
「本校の海外交流活動は、欧米だけでなくアジアなど近隣の国々とも相互交流を図っています。海外研修では、語学の習得にとどまらず、現地の人と触れ合うなかで自分とは異なる価値観を知り、認め、理解することを大切にしています。また、現地の人にも来校してもらい、その時は生徒の家庭がホストファミリーになり、サポートをしてもらっています」と浦辺先生は話す。
同校にはさまざまな研修プログラムがあり、もっとも古いものが1997年にスタートした「東南アジア文化研修(タイ・マレーシア)」だ。「タイに2校、マレーシアに1校、姉妹校があり、毎年10名の生徒が訪問をしています。現地では、姉妹校の生徒の家庭に1人でホームステイをして一緒に通学して、学校生活を送ります。授業やクラブ活動に参加するだけではなく、文化や歴史を学ぶアクティビティなども取り入れています。今年はマレーシアのクアラルンプールにあるクエンチャン校を訪れました」(浦辺先生)
アジアの研修はそのほかに「韓国文化研修」と、「ベトナムグローカルリーダー研修」がある。韓国文化研修では韓国の文化を学び、海成(ヘソン)女子高校を訪問して友好を深める活動を行っている。
ベトナムグローカルリーダーシップ研修は富士見中学校高等学校と合同の研修で、現地の企業家や大学生との対話やフィールドワークを通して、社会問題解決について話し合うプロジェクトワークやホームステイを含む研修である。
英語圏では「アメリカ文化研修」を実施。例年はオレゴン州へ赴くが、この夏はシアトルでの研修となった。こちらもホームステイをしながら語学研修や文化交流などを行い、加えて社会の第一線で活躍しているアメリカの女性や日本人女性から話を聞く機会も設けている。この研修に参加した卒業生の中には「将来を考えるきっかけになった」と言う人も多いという。
アメリカでの研修としてはもう1つ、高1の国際学級の生徒全員が参加する「ボストンリーダーシップ研修」がある。同校は20年前に、一般学級とは別に英語教育、異文化理解に特化した国際学級(6年間クラス替えがなく、高校からは国際コースの名称へ)を開設。カリキュラムを組み立てる際に「国際人として活躍するためのリーダーシップの育成」を目的として作られたのが、この研修だ。現地では学生寮に宿泊し、大学生とのディスカッションやボストン近郊にある姉妹校と交流、ハーバード大学やウェルズリー大学へ訪問するなどアカデミックな活動を行っている。なお国際学級では、中3次に「タスマニア文化研修」を実施している。
▶︎浦辺沙織先生
東南アジア文化研修
期間:12日間(夏期休暇)、対象学年:中学3年生・高校1年生(一般学級)・高校2年生、
参加定員:10名
韓国文化研修
期間:4日間(3月)、対象学年:中学3年生・高校1年生、参加定員:20名
アメリカ文化研修
期間:13日間(夏期休暇)、対象学年:高校1年生(一般学級)・高校2年生、参加定員:24名
ボストンリーダーシップ研修
期間:11日間(夏期休暇)、対象学年:国際コース高校1年全員
タスマニア文化研修
期間:10日間(夏期休暇)、対象学年:国際学級中学3年生、参加定員:6名(選抜あり)
ベトナムグローカルリーダー研修
期間:6日間(春期休暇)、対象学年:中学3年生、高校1年生、高校2年生、参加定員:15名
海外研修に参加した生徒へインタビュー
東南アジア文化研修
ありのままの自分を受け入れてもらえたのがうれしかったです。
Haさん(中学3年生)
私は人と話すのが苦手なタイプで、環境を変えればもっと話せるようになるのではないかと思い、研修に参加しました。マレーシアでは、クエンチャン校の生徒やホストファミリー、シスターがとても優しく接してくれました。そこで感じたのは、人と無理に話そうとしなくても自分のペースでいいんだということ。ありのままの自分を受け入れてもらえたからだと思います。大変だったのは、英語で自分の意思を伝えることです。翻訳機や電子辞書がなければ、もっと大変だったかもしれません。あとは食文化の違いです。朝食はパンが1個、昼食は2回あって、それもスイーツ系が中心で日本とは違う食生活に、少し体調を崩してしまいました。楽しかったのは、休日にショッピングモールへ行ったことと姉妹校の生徒にたくさん話しかけてもらい交流ができたことです。
▶︎Haさん(中学3年生)
自分の考えを持つ大切さがわかり、前よりも意見を言うようになりました。
Yaさん(高校1年生)
一番印象に残っているのは、ホストシスターと過ごした時間です。彼女は日本のことをよく知っていて、アニメや日本の神話なども詳しく、反対に教えてもらうこともありました。私は他の国のことをそこまで詳しく知ることがなかったので、とても感心しました。また、クエンチャン校の多くの生徒がそうであるように、シスターも自分の意見をしっかり持っていて「あなたはどう思うの?」と聞かれ、困ったことが何度かありました。時々、政治の質問もされて、私は政治について考える機会があまりなく、適当な答えになってしまいました。日本語では言えても英語で話すのがとても難しかったです。研修を通して、自分の考えを持つ大切さがわかり、前よりも自分から意見を言うようになりました。少しは成長したかなと思います。
▶︎Yaさん(高校1年生)
アメリカ文化研修
英語でコミュニケーションをとる楽しさを実感。もっと話せるようになりたいです!
Hoさん(高校1年生)
ホストファザーはドライブが好きな人で、いろいろな場所へ連れて行ってもらいました。印象的だったのは、海へ行った時、ホストマザーとホストファザーが初対面の人にもたくさん話しかけていたことです。そういうフレンドリーなところは見習いたいなと思いました。私は英語のリスニングが苦手で、それを克服するのが目標でした。最初は現地の人の話すスピードに付いていけず「もう一度、ゆっくり話してくれませんか」とお願いして聞き続けているうちに、聞き取れるようになっていきました。また、些細なことでも自分の意思を伝えるように努力しました。最後のほうは、ドライブで流れている曲に対して「いい曲だよね」と話しかけたり…。そこから話が広がるのもうれしかったです。コミュニケーションの楽しさを実感し、もっと英語が話せるようになりたいと思いました。
Hoさん(高校1年生)
英語を使う必要に迫られた生活で、自分から話す習慣が身につきました。
Kさん(高校2年生)
アメリカは国土面積も住宅もスーパーもすべて大きく、そのスケールの違いに驚きました。食生活も異なり、ランチもパンとハム、チーズを渡されて「適当にサンドウィッチを作ってね」という感じで、あとはコーラやポテトチップスを持たされたり…。その時は、栄養を考えてお弁当を作ってくれていた母に感謝しました(笑)。英語の聞き取りも最初は難しかったです。日本で聞く英語の教材は私たちにもわかりやすい話し方ですが、当然、現地では違います。でも生活をするには、何が何でも聞き取らなければいけないし、洗濯機の使い方なども自分から英語で聞かなくてはなりません。必要に迫られた毎日を過ごすうちに、自分からコミュニケーションをとる習慣が身につきました。外交的な性格になった気がします。
▶︎Kさん(高校2年生)
ボストンリーダーシップ研修
視野が広がり、海外大学進学という選択肢も見つかりました。
Yoさん(国際コース・高校1年生)
私は、英語は不得意なほうではないですが、最初は自分の英語が通じるか不安でした。でも、いざ話してみると、多少文法がおかしくても伝わることがわかりました。アメリカでは3つの班に分かれて、それぞれに先生が付いて行動しました。お別れの時は私たちも先生も一緒に泣くほど、濃い時間を過ごすことができました。また寮では、自分たちで生活を管理していて、海外で集団生活をするのは初めてだったので、大変なこともありましたが、みんなで乗り越えました。研修を経て感じたのは、視野が広がったことです。それまでは卒業後の進路を日本の大学で探していたのですが、海外大学という選択肢もあること、何なら大学に行くことだけが進路ではないことがわかってきました。自分のやりたいことをもう一段階、引き上げられたように思います。
▶︎Yoさん(国際コース・高校1年生)
意見を肯定してもらい、自分の英語にも発言にも自信が付きました。
Iさん(国際コース・高校1年生)
小学校に入る前に海外で生活をしていたことがあるものの、やはり最初は話が通じるか心配でした。ボストンではショッピングをする時間があり、人に頼まれてどうしても買いたいものがあったのですが、スーパーが広すぎて自分では探しきれませんでした。店員さんに尋ねようとした時、緊張しておどおどしてしまって…。それでも何とか伝わって買うことができました。買い物も回数を重ねるごとに、店員さんに話しかけることに慣れ、英語で会話することも上達していったと思います。また現地の学校でも自分の意見を先生に肯定してもらったことがあり、英語力に自信がつき、同時に自分から意見を言う大切さを実感しました。日本では、自分の考えを持っていても言わないことが多かったので、これからは積極的に発言していこうと思いました。
▶︎Iさん(国際コース・高校1年生)
今後は研修に生徒の意見も取り入れていきたい
6人の生徒の話を聞き、浦辺先生は「海外に行く前からプログラムに参加をしようと積極性のある生徒たちでしたが、研修を経てさらに一回り大きく成長したと感じます」と顔をほころばせる。「英語のスキルアップもそうですが、精神面が強くなり、現地の人と友好な関係を築いたり、たくさんのことを身につけて帰ってきますね。また、過去の研修に参加した生徒の中には、帰国後もホストファミリーとやり取りをしていたり、ステイ先の高校生が大学生になって日本に訪れたり、今も関係が続いている人が多くいます」
最後に浦辺先生は、今後の海外研修について次のように抱負を語った。「海外研修は生徒たちが安全に過ごして帰国することが一番重要なので、プログラムは安心して参加できるように学校側が決めています。しかし可能であれば『渡航先でどんな学びをしたいか』『何をやってみたいか』生徒が出した意見を取り入れたプログラムも作っていけたらいいですね」
<取材を終えて>
同校の海外研修は異文化理解や、人と人との相互交流が目的であり(名称も文化研修となっている)、生徒たちも現地で生活をすることで文化や習慣などの違いに驚き、理解するプロセスを歩み、コミュニケーションの楽しさを実感している。また、生徒からは「自分の意思を伝える大切さを知った」「これからはもっと自分から意見を言っていきたい」という声が多く聞かれ、それこそが国際人として必要な資質なのではないかと感じた。