スクール特集(サレジアン国際学園中学校の特色のある教育 #7)

「21世紀に活躍できる世界市民の育成」を目指し、 新校長のもと第2ステージが始動
サレジアン国際学園中学校は、共学化や、「本科」「インターナショナル」の2クラス制を導入するなど、学校改革から4年目を迎える。同校が推進する21世紀型教育の特色や展望を取材した。
同校は、「21世紀に活躍できる世界市民の育成」をビジョンに掲げ、「考え続ける力」「コミュニケーション力」「数学・科学リテラシー」「言語活用力」「心の教育」の5つを重点項目とした教育活動に取り組んでいる。その現状や成果、展望について、今年4月に新校長に就任した宗像諭先生と、募集広報部部長の尾﨑正靖先生に話を聞いた。
総合知や伝え合う力を育てるPBL型授業
この春、同校に211名の1年生が入学した。学校改革後の1期生は約120名、2、3期生は約150名であり、同校への志望度が高まっていることが伺える。尾﨑先生も、「本校の教育を理解したうえで、『ここで学んでみたい』、『わが子を学ばせたい』という声が、アンケートでも多く寄せられました」と手応えを感じている。
「本校の教育の大きな特色は、全教科でPBL型授業(Project Based Learning)を実践していることです。PBLとは、解がひとつではない問いに対して、生徒自ら最適解を導き出す学びのスタイルで、授業は、先生がトリガークエスチョンを投げかける→個人で最適解を構築→グループディスカッション→グループの結論選択→プレゼンテーション→ルーブリック評価という流れで行われます。変化の激しい21世紀社会で活躍するには、自分で考え、周りと協働して問題を解決する力が求められます。PBLを積み重ねることで、生徒たちの論理的思考力や表現力などを養いたいと思っています」
▶︎募集広報部部長 尾﨑正靖先生
宗像校長も、これからの時代に必要なのは、“総合知”を身につけることだと話す。宗像校長はこれまで、広尾学園の共学化や教育改革、開智日本橋学園の共学化や国際バカロレア(IB)認定化などの牽引役を担い、神田女学園中学高等学校、松本秀峰中等教育学校の校長を務めてきた。
「学校の存在意義も、時代とともに変わってきました。昔は、先人たちの知恵を学ぶために学校に集まることが必要でしたが、情報化社会の今日では、学校に通わなくても、知識を得たり、自分の関心事を深掘りすることもできます。しかし、コロナ禍で学校が一斉休校になった時、改めて学校は、社会インフラとして重要であることが認識されました。では、学校は何をすべきなのか。私は、人が集まらなくてはできないことをやることが大事だと考えています。つまり、多様な価値観を知ることや、互いの価値観を認め合いながら総合知を身につけることです。
これからは、課題解決もAIやITがやってくれる時代になります。人間に求められるのは、総合知を持って社会の最適解を求めていくことです。それは決して1人でできることではなく、複数の人が集まって、知恵を出し合わなければ実現できません。だからこそPBL型授業で、自ら考えることや、相手の意見を聞き、自分の考えを伝えることを鍛えていくのです」
▶︎校長 宗像諭先生
研究者として学ぶ「本科」、充実した英語環境の「インターナショナル」
同校は「本科」と「インターナショナル」の2つのコースを設置し、本科は、「研究者として深く学ぶ」ことを重視した教育を実践している。その最たる取り組みが、中学2年~高校2年生合同のゼミナール活動だ。
ゼミナールは、「文藝批評・文化論ゼミナール」「Math-Lab~数楽研究室~」「プログラミングゼミ」「TEC(Technology・Energy・Cosmic)」「化創ゼミ(化学で創造するゼミ)」「NEOバイオ」「クラブヒストリア」「entrepreneur(アントレプレナー)養成講座」の8講座があり、生徒はその中から興味関心のあるゼミナールを1つ選択する。大学のゼミナールのように複数学年が同じ時間帯に集まって学び合い、個人でテーマを設定し研究活動をする。毎年、秋に開催される学園祭では、ゼミナールごとにブースを設け、全員が個人研究の進捗報告にあたるポスターセッションやプレゼンテーションを行っている。そこで、来場者からフィードバックを受け、それを研究に活かし、高校2年生は学びの集大成として最終論文を執筆する。
インターナショナル(以下インター)は、英語習熟度別にアドバンストグループ(AG)とスタンダードグループ(SG)の2つのグループで授業を展開している。AGは、英語、数学、理科、社会の主要教科を、それぞれの専門知識を持つInternational Teacher(IT)がオールイングリッシュで指導し、1週間39時間の授業数のうち21時間は「英語で学ぶ」授業となっている。
▶︎オールイングリッシュの授業(中1地理)
一方、SGは英語の授業数が週10時間あり、ITが主導、日本人教諭がサポートに入るチームティーチングを行っている。「SG生も豊富な英語授業数に加え、日常的にAG生や外国人の教師と触れ合う英語環境で過ごしているので、確実に英語力が伸びていますね」と尾﨑先生は言う。次年度の入学者から、SG生は英語に加えて数学と社会もITによる授業が導入される。
「今現在、本校には24名のITがいます。出身国も、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、ナイジェリア、フィリピンなどと様々で、全員が専門教科の修士号と5年以上の教職の経験を持っています。つまり、英語を話せる先生がAGの数学や理科を教えているのではなく、母国でその教科の先生だった人が英語を使って教えています。よって、必ずしも英語のネイティブ・スピーカーというわけではないため、International Teacherという呼び方をしています」
また、AGは高1の3学期から、西オーストラリア州教育省と提携したデュアル・ディプロマ・プログラム(DDP*:Dual Diploma Program)を実施。DDPの資格を活用すれば、世界中の大学を受験することが可能となる。また、同校はアメリカの「College Board」が運営する高大連携プログラムAP(Advanced Placement)の受験資格も保持することになる。APの試験で良い成績を修めれば、海外大学進学やその後の学びにも有利に働くという。
*DDP…国内の学校に通いながら、海外校のカリキュラムも同時に履修し、2つの国の卒業証書(Dual Diploma)を取得できるプログラム。同校の場合、サレジアン国際学園高等学校と西オーストラリア州の高校卒業資格(WACE :Western Australian Certificate of Education)が得られる。
多様性を持って高め合う学級編成。来年度はMEDICOも導入
同校では、「ハイブリッド学級」という学級編成をしており、本科とインター(AG、SG)の生徒が一緒にホームルーム活動をしている。尾﨑先生は、「4科目をしっかり学んできた本科生と、高い英語力と多様な文化背景を持つAG生、英語学習に積極的なSG生が同じクラスで過ごすことで、互いに刺激し合い、サポートをしながら成長していきます」と言う。さらに来年度からは、理科や数学、情報などの学びを特化した「MEDICOというプログラム(Mastery Education for Dedication with Innovation, Curiosity, Originality)」も本科クラスの中に設置する予定だ。
宗像校長も、「サレジアンは、本科とインターの生徒が混在し学校自体が多様で、自分のやりたい学び、自分らしい生活を送ることができる学校です」と言い添える。
「そのうえで、私たち教員は生徒に対して、『君は中学受験の勉強を頑張ってきたね』、『海外でいろんな経験をしてすごいね』と、その生徒の学習歴や属性をほめたり、生徒一人ひとりの志を応援する形態を作って、伸ばしてあげることが大切だと思っています。そして来年度からは、医学やデータサイエンスなどに関心のある生徒を対象とした『MEDICO』を作ります。4つのタイプの生徒が、同じ学級で過ごして高め合えるとよいですね。もちろん、学習においては、各専門の先生をそろえて、本物の教育を行っていきます。
20年くらい前は、中学受験の学校選びは、大学進学の実績が重んじられていました。難関大学に入りさえすれば、その後の人生のゴールデンチケットが手に入ったからです。しかし、以前ほど学歴社会ではなくなり、今は自分に合う教育環境で可能性を伸ばしていく時代です。本校で思い切り学んで、自分の人生を見つけてほしいですね」
実際、同校の生徒の多くは、学校での学びと、卒業後の進路をリンクさせているという。尾﨑先生によると、「『ゼミで研究したことを大学受験や、進学した後も活かしていきたい』と、総合型選抜の入試にのぞんで合格を手にした生徒もいました。また、彼らはPBL型授業も受験に役立ったと言っています。一般選抜で合格した生徒も、『ゼミの活動が大学進学のモチベーションにつながった』『英語は学校の授業で十分力をつけられるので、他の教科の勉強に注力できた』などと話していました。
この3月、学校改革後の高校入学1期生74名が卒業し、上智大学9名をはじめ、早稲田、慶應、東京理科大などにも合格者が出ました。また、多くの生徒が第一志望校に進学し、自分で進路を見出す力もついていると感じます。3年間の学びでもこのような結果が出ているので、中高6年間を過ごす生徒は、どんな進路を実現していくのか楽しみです」
▶︎オールイングリッシュの授業(中1数学)
カトリックの教えが生き方の指針に。2027年には最新設備の新校舎が完成
同校は現在、地上5階、地下1階の新校舎を建設し、2027年度に完成する予定だ。教室にはプロジェクターを複数設置し、議論やプレゼンなどができる吹き抜けの多目的スペースや、物理、化学、生物の理科室にはそれぞれラボを併設するなど、現校舎の1.4倍の規模となる。また、1人で考えを深めるスペース、自由に協働できるスペースと、余白をたくさん作っているのが特徴で、尾﨑先生は、「まさに21世紀に必要な力を育てるための校舎になっています」と話す。
最後に、宗像校長は学校の展望について、次のように述べる。
「まず、本校の強みは何と言っても、80年間続くミッションスクールということです。カトリックの教えや考え方は、生徒にとって心の拠り所になります。確固たる生き方の指針が基盤となり、そのうえで21世紀型教育を実践していきます。
私は、教育の目的は大きく2つあって、1つは『社会の最適解を見つける力をつける』こと、もう1つは『社会貢献のできる人材を育てる』ことだと考えています。生徒たちには、どの場に出ても多様な価値観を理解し、自分の考えをしっかり伝え、社会の最適解を見出していける人に育ってほしいと思っています。本校は新しい船出から3年が過ぎ、教育活動も周知されてきました。第2ステージとなる次の3年間は、期待以上の成果になるよう、さらなる取り組みをしていきます」
<取材を終えて>
今年度は例年よりも入学者が多く(歩留まりが高く)、PBLや英語など特色ある教育に対する期待感が高まっていると感じる。2027年度には新校舎も完成し、尾﨑先生によると、赤羽駅の両サイドにタワーマンションが建設されるなど、赤羽の再開発が進むそうで、環境面からも同校への関心が集まりそうだ。このように教育や校舎などが新しく整備されるなか、「ミッションスクールとしての揺るぎない軸があることが、同校の強みであり、他校との差別化になる」という宗像校長の言葉が印象に残った。