スクール特集(サレジアン国際学園中学校の特色のある教育 #6)
英語力や思考力、国際感覚を養い、21世紀に活躍する「世界市民」の育成を目指す
言語活用力や論理的思考力をはじめ、21世紀に必要な力を育てる教育を展開しているサレジアン国際学園中学校高等学校。学校改革3年目の現状や教育の成果などをレポートする。
同校は、“21世紀に活躍できる「世界市民」の育成”を目標に掲げ、本科とインターナショナルの2つのクラスを設置し、それぞれ特色のある教育を展開している。各クラスの状況や、世界97カ国に姉妹校を持つ同校の国際教育について、募集広報部の尾﨑正靖先生と宮島健太郎先生に話を聞いた。
全教科でPBL型授業を導入。生徒自ら解なき問いに挑戦!
同校は、21世紀に活躍できる力を育てるために、「言語活用力」「考え続ける力」「数学・科学リテラシー」「コミュニケーション力」「心の教育」の5つを教育重点項目に設定している。
「言語活用力」は、グローバル社会の共通言語である「英語」を習得し、英語で思考したり表現できる活用力を身につける。「考え続ける力」は、何かを選択する際に、多くの検討・検証(Logical、Critical、Creative)を重ね、より精度の高い最適解が導き出せる力を養う。「数学・科学リテラシー」は、テクノロジーの進化に伴う価値観の変容に対応するとともに、新しい価値を創造する力も身につける。「コミュニケーション力」は、多様性を受け入れ、互いを尊重し、協働する力を培う。そして、すべての基盤となる「心の教育」では、カトリックの精神をベースに、自分も他者も大切にできる心を育んでいく。
同校は、これらの教育を推進するために、全教科でPBL(Project Based Learning)型の授業を実施している。PBLとは、正解が1つではない問いに対して、生徒自ら最適な解を導き出す学びのこと。授業の流れとしては、先生が生徒にトリガークエスチョンを投げかける→個人で最適解を構築→グループでディスカッション→グループの結論を選択→各グループの代表者がプレゼンテーションをする→教員からのフィードバック→結論の検証やレポートを提出、ルーブリック評価を行う。「このようなプロセスを積み重ねることで、主体的に学ぶ力や論理的思考力が身につき、知識の定着率も向上します」と尾﨑先生は話す。
▶︎募集広報部部長 尾﨑正靖先生
研究者として学ぶ「本科クラス」。英語力も確実にレベルアップ
本科クラスは、PBL型授業や、中学2年~高校2年合同のゼミナール活動を通じて、研究者として学び、究めることを重視している。
ゼミナールは、「文藝批評・文化論ゼミナール」「Math-Lab~数楽研究室~」「プログラミングゼミ」「理論物理学研究室」「E研(:環境問題やエネルギー開発について考える研究室)」「野生生物研究室」「クラブヒストリア」「entrepreneur(アントレプレナー)養成講座」があり、生徒はその中から興味関心のある講座を1つ選択。大学のゼミナールのように複数学年が同じ時間帯に集まって学び合い、個人でテーマを設定し研究活動をする。
毎年、秋に開催される学園祭では、ゼミナールごとにブースを設け、全員が個人研究の進捗報告にあたるポスターセッションやプレゼンテーションを行っている。そこで、来場者からフィードバックを受け、それを研究に活かし、高校2年生の最後には学びの集大成として最終論文を執筆する。
また、中学1年生は研究者としての素地を作るために、「プレゼミ」としてアカデミックスキルを学んでいる。「具体的には、論文の書き方や先行研究の調べ方などのスキルをつけるとともに、学術分野を学び、『自分はどんな学問に関心があるか』を考えていきます。また、企業の協力のもと、ワークショップも行っています。昨年度は、『茅乃舎』さんから出汁の成分について学び、実際に飲み比べをしたり、お味噌汁を作って味の違いなどを確かめました。今年度は、ミドリムシの研究で有名な「ユーグレナ」さんに来ていただく予定です。プロの方の話を聞いたり一緒に実験をするなど、本物に触れることで、生徒の興味関心が高まり、深い学びができると考えています」と、尾﨑先生は言う。
さらに本科クラスでは、英語の授業を週8時間設け、言語活用力の強化を図っている。「8時間のうち、6時間を日本人教師が担当し、残りの2時間は外国人教師がオールイングリッシュで指導しています。しかし次年度からは、日本人教師が4時間、外国人教師が4時間の配分になり、より会話など、使うことを重視した授業を行っていきます。
また、本科クラスの英語力の目標は、中学3年生でCEFR*のA2、高校3年生はB2を設定しています。6月時点で、中学3年生の8割以上がA2を達成しており、12月にも2回目の試験を実施するのですが、全学年とも良い結果が見込めそうです。本科はゼミナール活動を特色とするクラスですが、英語力も想定以上にレベルアップしています」(尾﨑先生)
*CEFR…Common European Framework of Reference for Languageの略称で、英語の習熟度や運用能力を評価する国際標準。レベルを「A:基礎」「B:自立」「C:熟達」の3つに分類し、さらに各レベルを2つに分け、「A1(英検3級相当)」「A2(英検準2級~2級相当)」
「B1(英検2級~準1級相当)」「B2(英検準1級~1級相当)」「C1(英検1級)」「C2」となる。
海外大学進学も視野に入れた「インターナショナルクラス」
インターナショナルクラスは、英語習熟度別にアドバンストグループ(AG)とスタンダードグループ(SG)のグループ編成をしている。AGは、英語、数学、理科、社会の主要教科を、それぞれの専門知識を持つ外国人教師(ICスタッフ)がオールイングリッシュで指導し、1週間39時間の授業数のうち21時間は「英語で学ぶ」授業となっている。一方、SGは英語の授業が週10時間あり、ICスタッフが主導し、日本人教諭がサポートに入るチームティーチングを行っている。
英語力の目標は、AGが中学3年でCEFRのB2、高校3年でC2、SGも中学3年でB2、高校3年でC1を設定している。中学3年のAG生の約4割は、既にC1(英検1級相当)レベルだという。中学課程ではSGからAGへの移行が可能で、長期休暇には中学1年のSG生を対象に、主要教科を英語で学ぶプログラムを実施している。そして、3学年とも学年末のアセスメントで承認をされれば、次年度からAGで学習することができる。
尾﨑先生は、「SG生は、豊富な英語授業数に加え、日常的にAG生やICスタッフと触れ合い、英語の環境で過ごしていることで、英語力を伸ばしている」と見ている。
「今現在、本校には16名のICスタッフがいて、中学3年生(中学入学1期生)が高校3年生になる頃は30名程に増える予定です。ICスタッフの出身国も、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、ナイジェリア、フィリピンと多様で、全員が専門教科の修士号と5年以上の教職の経験を持っています。つまり、英語を話せる先生がAGの数学や理科を教えているのではなく、母国でその教科の先生だった人が英語を使って教えています。よって、必ずしも英語のネイティブ・スピーカーというわけではないため、本校ではインターナショナル・ティーチャーという言い方をしています」
また、AGは高校2年次より、西オーストラリア州教育省と提携したデュアル・ディプロマ・プログラム(DDP*)を導入する予定だ。「DDPの資格を活用すれば、世界中の大学を受験することが可能になります。海外大学も、国ごとに推薦や奨学金の取り方、出願に必要な項目などが異なるので、今は各国のICスタッフにアドバイスをもらいながら進学のサポート体制を整えているところです」と尾﨑先生。
なお、AGの中学課程の理科と社会科は、日本の学習指導要領を順守した上で、西オーストラリア州の教育を取り入れ、DDPの下地作りをしている。数学に関しては、シンガポールのカリキュラムを実践しているそうだ。
*DDP…国内の学校に通いながら、海外校のカリキュラムも同時に履修し、2つの国の卒業証書(デュアル・ディプロマ)を取得できるプログラム。同校の場合、サレジアン国際学園高等学校と西オーストラリア州の高校卒業資格(WACE)が得られる。
世界97カ国のサレジアン・ネットワークを活用した国際交流
同校の創立母体である「サレジアン・シスターズ」は、1872年に聖ヨハネ・ボスコ、聖マリア・マザレロによって設立。現在、世界97カ国に支部(学校)があり、教育や社会事業に従事している。
こうしたサレジアン・ネットワークのもと、同校はさまざまな国際交流や海外研修を行っている。この夏は、アジア・太平洋地域にある姉妹校の生徒が約200名集まった「CIAOユースキャンプ」がフィリピンで開催され、同校から7名の高校生が参加した。宮島先生によると、「今回のイベントでは、『教育』と『SDGs』の2つをテーマに話し合いやプレゼンなどを行い、5日間を通して交流をしました。国は違っていても、ドンボスコ、聖マリア・マザレロの精神を共有する同じカトリックミッションスクールなので、生徒同士、打ち解けるのが早かったですね」と話す。
「参加している国も多様で、なかでも開発途上国の生徒は国レベルで選抜されて来ているので、優秀な子が多く、たとえば、ミャンマーの女子生徒は国費でシンガポール大学に進学することが決まっていると話していました。彼女、彼らは国を背負っているという覚悟があり、この機会にたくさんのことを吸収しようと、気概にあふれていました。本校の生徒は、そのパワーに影響を受け、同時に、自分が恵まれた環境にいることを知ったと思います。また、国の政変や社会情勢などを、直接、その国の生徒から聞くことで、自分事として考えるようになりました。実際、ある生徒は、その国に関するニュースを見ると、ユースキャンプにいた子の顔が浮かぶと言っていました。自分ができる援助活動をしたいと、ワークショップを開いた生徒もいます」
その他にも同校は、姉妹校の生徒を招いて文化交流などを行う「インターナショナルウィーク」を実施している。昨年度は3月に、フィリピン、オーストラリア、香港の生徒が来校し、授業に参加したり、調理実習や東京観光を一緒に楽しんだという。次回は、参加国をもっと増やして開催する予定だ。
また、夏期休暇の2週間、オーストラリア・メルボルンでホームステイをしながら語学学校に通い、姉妹校と文化交流をする「スタディーツアー」(中2~高2対象)も行っている。
姉妹校とはオンラインでも交流をしており、「今年の学園祭では、インターナショナルクラスの中学3年生の発案で、オーストラリアの姉妹校とオンラインで繋ぎ、ディスカッションをしたりしていました。時差がないので、公開イベントとしてやっていたようです。世界へ視野を広げ、多様な人とコミュニケーションをとろうという姿勢が身についてきたと感じます」と宮島先生は言う。
このように同校では、PBL型授業やアウトプットを重視した英語教育、国際交流などを通して、21世紀のグローバル社会で活躍できる人材の育成を目指している。
<取材を終えて>
クラスごとに特色のあるカリキュラム、サレジアン・ネットワークを活かした国際交流など、同校が目指す教育を着実に実践し、成果を上げている印象を受けた。来年度は、現在の中学3年生(中学入学1期生)が高校へ進学する。中学で培った力を高校3年間でどのように伸ばしていくのか、どんな進路を歩んでいくのか楽しだ。
▶︎募集広報部主任 宮島健太郎先生