スクール特集(聖学院中学校の特色のある教育 #6)
知識をつなげて答えを導く!「ICEモデル」による主体的な学び
聖学院中学校では、「ICEモデル」を採用して授業を展開。学びをつなげるストーリーを作り、生徒が主体的に学びたくなる授業とは?
キリスト教教育の考え方に基づき、「Only One for Others」をスクールモットーとして掲げている聖学院中学校。すべてを「Only One for Others」につながる形で学習活動を展開している同校で、授業のフレームワークとして採用している「ICEモデル」について、広報部長の早川太脩先生と理科主任の玉木聖一先生(中2の担当)に話を聞いた。
授業展開の工夫などを言語化した「ICEモデル」
同校は、一人ひとりが神様からかけがえのない賜物(才能)を与えられているという確信に基づき、それぞれが固有な賜物を発見することを助け、人格の完成へと導く教育を実践。授業や宿泊行事など、学習活動のすべてが、スクールモットーである「Only One for Others」につながる形で展開されていると、早川先生は語る。
「新型コロナウイルスの影響で、2020年度はオンライン学習や動画配信、オンデマンド授業、リアルタイムでZoomを繋いで行う学習など様々な挑戦をしました。それらの挑戦は、教職員が『学びとは何だろう?』と考えるきっかけにもなったと思います。動画配信で済むこと、生徒たちに登校してもらわないとできないことは何かなど、教員たちで議論を重ねました。そのような中で、これまで肌感覚で行ってきた授業展開の工夫などを言語化し、フレームにするために始まったのがICEモデルだったのです」(早川先生)
「ICEモデル」は、カナダのヤング博士らが中心となって開発・発展させてきた、I(Ideas=基礎知識)、C(Connections=つながり)、E(Extensions=応用)の頭文字をとった学習・評価方法。問いを立てることで学びのストーリーを作り、生徒が主体的に学びたくなる学習を成立させ、さらに、その学びを質的に評価できるフレームワークだという。
「ICEモデルは、エクステンションズ(応用)にあたる問いを投げかけて、そこに向かってストーリー仕立てでアイデアズ(基礎知識)とコネクションズ(つながり)をちりばめていきます。教科書に書いてある知識を伝えるだけでなく、ゴール地点が見える状態を示すことで、道筋は様々であっても歩きやすくなるのです。例えば社会科では、聖徳太子が行った政策の冠位十二階と十七条憲法について『なぜ聖徳太子はこれを行ったか?』という問いは、それまで習ってきたことを総動員すれば答えられるのでコネクションズにあたります。『あなたが聖徳太子だったら、あと1つどんな政策を行いますか?』という問いがエクステンションズです。時代背景を知り、今の政府にあたる人たちが国民に対して何を求めていたのかを考えることで、行う政策は変わってくるでしょう。Only Oneを活かして、自分だったら何ができるか考えることは、スクールモットーのfor Othersにもつながります」(早川先生)
▶︎広報部長 早川太脩先生
「ICEモデル」で展開した「力」について学ぶ授業
中1・理科で力の単元を学ぶ際には、摩擦力や垂直抗力などのアイデアズにあたる部分で得た知識をリアルな世界に落とし込むために、キューブ型のスポンジを使って授業を行ったと、玉木先生は振り返る。
「そのまま3つ並べてつくった橋と比べて、キューブを台形にカットしてアーチを描いて支えた橋は丈夫になり、上から押しても崩れません。石橋のアーチと同じ理論です。真ん中のスポンジに力の矢印を書き、なぜ崩れないのか矢印で説明しようというのがコネクションズにあたる授業です」(玉木先生)
未知なるものに対して、得た知識を活用して、自分が持っているものでどうアプローチするかの訓練は、エクステンションズの部分が重要だという。
「エクステンションズにあたる部分としては、ストローブリッジ(ストローを使った橋のモデル)を作りました。力がどのようにかかっているかレクチャーしながら、丈夫な橋を作ることを目指します。四角より三角に配置した方が、斜めがあるので丈夫になることぐらいしか教えず、あとは自分たちで作ってみようという感じです。ものづくりに3時間から4時間費やしましたが、試行錯誤しながらいろいろと考えて作っていました。エクステンションズによって自分で発見したことは、与えられた知識ではなく、獲得した知識になります。こちらから与えるのとは違い、生徒たちには感動があったので、この授業をやってよかったと思っています」(玉木先生)
中間テストでは、授業では扱わなかったレインボーブリッジに関する問題を出した。
「レインボーブリッジは、主塔と橋台を設置し、橋の両側に2本のメインケーブルを張り、道路となる桁をハンガーロープで吊ってつくられた吊り橋です。中間テストでは、このハンガーロープは力的にどのような役割を果たすかという問題を出しました。授業で扱わなかった問題を出したのですが、自分が持っている知識をなんとかつなぎあわせて、1/3の生徒は理にかなった答えを書くことが出来ていたのです。自分たちで試行錯誤しながらストローブリッジを作ったからこそ、たどり着いた答えだと思います」(玉木先生)
▶︎理科主任 玉木聖一先生(中2の担当)
完成したストローブリッジ
ペットボトルを使って強度を確認
エクステンションズの問いに答えるための試行錯誤
学校に通うことには「誰かとともに学ぶ」「拡散的好奇心」「習慣をつくる」という3つの価値があると考え、習慣をつくるためには授業が要になると玉木先生は語る。
「変化の激しい社会で、未知なるものとも戦っていけるようになってほしいという思いがあります。未知なるものと戦うときには、自分の持っている知識をベースに試行錯誤していくことで新しい回答が出せるのです。問題が難しくても、知識が足りなくても、考えるプロセスは訓練できると思います。そういった練習を、授業でやっていきたいのです。授業は毎日のことなので、積み重ねていけば習慣になっていきます。自分で考え続ける習慣がついてきたら、どんな変化にも対応できるようになるでしょう」(玉木先生)
社会科だと調査などをしなければ確認できないことも多いが、理科の場合はその場で実験して確認できるケースが多いことが強みだという。
自分の仮説を実証する条件で実験
「理科の実験は、エクステンションズの問いに、自分で『こうなのかな?』と思ったことを手元でやってみて確認までできます。例えば、長いロウソクと短いロウソクにビーカーをかぶせると、どちらが先に消えるかという実験です。二酸化炭素は重いという知識があれば、短いロウソクが先に消えると考えますが、実際は長い方が先に消えます。それはなぜかを証明する実験を行いました。『長い方が先に消えるということは、二酸化炭素が上にあるのではないか?』という仮説を立てた生徒は、二酸化炭素を見える化するために石灰水を使いました。すると、上から白く濁り、二酸化炭素が上にあることがわかります。二酸化炭素はロウソクの火で温まると軽くなって上昇するのですが、その情報をこちらが与えて実験するのではなく、彼らは自分たちで発見したのです。学んできた知識と自分が立てた仮説がつながった瞬間は、目の輝きが違っていました」(玉木先生)
感動による学習意欲の高まりと学習習慣への期待
エクステンションズの問いには、持っている知識をつなぎ合わせないと答えることができない。一問一答とは違うので「どう勉強したらいいですか?」と聞かれることも多いという。
「エクステンションズの問いには、アイデアズ(基礎知識)の部分はしっかり持っていても、つなげる訓練ができていないと答えることができません。問題集を何度もやったからといって、答えられるようにはならないでしょう。知識はあるのにつなげられないことに気づけば、問題集をこなすだけではダメだとわかってきます。逆に、問題集をそれほどやっていなくても手が付けられるので、テストでは少し点がもらえることもあります。思考の仕方はわかるけど、知識が足りないから完答までいけないと気づいて、知識を得る努力だと気づくこともあるでしょう。少しずつですが、学び方も試行錯誤しながら学んでいってくれているように感じています」(玉木先生)
各単元を学ぶ際、エクステンションズの部分にはプラスアルファの時間が必要になる。しかし、感動によって学習意欲が高まれば、それが学習習慣へとつながるのだと、玉木先生は考えている。
「今の時代、学習アプリやYouTubeの家庭教師など、知識を得る環境はいくらでもあります。考えることへのアプローチがしっかりしていれば、知識で問題を解く部分は、自分で後からでも解決できます。一方で、何かと何かをつなげたり、つなげて違うものを出したり、誰かと一緒に何かをするということは、教員のサポートが必要な部分です。ですから、エクステンションズに時間を費やすことでその部分の力がついていけば、大学受験のときには飛躍的に伸びていくのではないかと期待しています」(玉木先生)
すべては「Only One for Others」へ
「ICEモデル」は同校の生徒と親和性が高いが、「ICEモデル」だけで教育したいと思っているわけではないと早川先生は語る。
「本校は『Only One for Others』を体現できる人材を育てていきたいと考えており、そのツールが授業であり、教員たちが共通して用いることが出来る考え方がICEモデルなのです。本校では、STEAM教育やグローバル教育にも力を入れていますが、ICEモデルはそれらともリンクしています」(早川先生)
中1の男子は、頭で考えていることを語ったり、文章にしたりすることが女子ほどうまくできない傾向があるという。だからといって、何も考えていないわけではない。それを表現するための手助けとなるのがSTEAM教育だと早川先生は説明する。
「考えていることやアイデアをiPadで表現したり、3Dプリンターで形にしたり、動画を編集するなど、STEAM教育によって表現力の幅が広がっていきます。彼らには必ず賜物があると確信を持っているので、表現の仕方を全部認めて彼らのチャレンジを応援して一緒に楽しんでいる教員が多いです。表現力が広がれば、他の教科でのエクステンションズの成果物にもつながっていきます」(早川先生)
同校のグローバル教育は、他者や他文化を理解できることを目指し、海外研修でも他文化を経験し、そこで何ができるか考えることが大切なのだという。
「コミュニケーションのツールとして英語は必要ですが、正確な文法でなくても伝わるものです。ですから、文法の正しさよりもリスニングやスピーキングなど、片言であっても自分の思いを伝え、相手の言っていることを理解することに力を入れています。彼らが持っている賜物は、どのタイミングで開花するかわかりません。授業の最中かもしれませんし、海外研修中かもしれません。あるいは、入試の問題を解いているときかもしれません。最初から文章などでうまく表現できなくても、頭の中には素晴らしいものがあると確信しているからこそ、LEGO®を使った思考力入試を行っているのです」(早川先生)
生徒たちの表現力が様々な場面で発揮できるように、表現の幅を広げていく。そしてすべては、「Only One for Others」へとつながっていくのだ。
「中1から高3までの成長段階を考えると、自分にとっての賜物を見つけ、見つけたものを磨くOnly Oneの段階、自分の見つけた賜物を他者や社会に活かして貢献していくfor Othersの段階にわけられます。ICEモデルのコネクションズにあたる問いを投げかけていくことで賜物を磨くところまではできるでしょう。しかし、for Othersの段階へ進むためにはエクステンションズが必要になるのです。『なぜだろう?』と思ったことを実際にやってみてから知識を入れていくと、一歩先まで考えられるようになります。ICEモデルやSTEAM教育、グローバル教育など、全てが絡み合い始めたら、本校の教育はもっと面白くなるでしょう。今、少しずつですが構築されつつあると感じているので、深い部分で絡み合っていくことに期待しています」(早川先生)
<取材を終えて>
「ICEモデル」を採用して授業を展開していく中で、生徒たちにも様々な変化が見えてきている。そして授業を行う教員側も、ワクワクしていることが伝わってきた。「ICEモデル」というフレームワークにより、教員と生徒が化学反応を起こし始めたら、同校の授業はさらに面白くなっていくだろう。「ICEモデル」だけが注目されがちであるが、すべての学習活動が「Only One for Others」へとつながっていくことに注目していただきたい。