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聖学院中学校

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デジタルパンフレット

スクール特集(聖学院中学校の特色のある教育 #5)

動画編集・3Dモデル・ドローンに大興奮!多彩なアウトプットが他教科にも好影響

2021年度にスタートした、中1の情報プログラミングと高校のグローバルイノベーションクラス。多彩なアウトプットによる、生徒たちの変化とは?

聖学院中学校では、2021年度から新科目として情報プログラミングをスタートさせ、高校ではSTEAM教育をより強化したGIC(グローバルイノベーションクラス)を新設。昨年度に行った授業やその成果について、児浦良裕先生(広報部部長・数学科)と山本周先生(情報科・STEAM担当)に話を聞いた。

授業のコアとなるICEモデル

同校では、授業設計にカナダのヤング博士が提唱するICEモデルを採用している。ICEモデルとは、I(Ideas=基礎知識)、C(Connections=つながり)、E(Extensions=応用)の頭文字をとった学習・評価方法。問いを立てることで学びのストーリーを作り、生徒が主体的に学びたくなる学習を成立させ、さらに、その学びを質的に評価できるフレームワークである。

「各教科で、課題解決につながる問い(Extensions)を各単元の中に1つ出すようにしています。例えば、中1の数学で統計をやる場合、まずはサッカーのワールドカップに関するデータを渡して『チームが強くなるためにはどうすればいいか?』という問いを投げかけます。統計の単元が終わるときには、統計的に説明できるようになることを目指しますが、当然、最初は全然できません。試行錯誤しながら、グラフを作ったり、平均を取れるようになり、最終的には問いにも答えられるようになるのです」(児浦先生)

このICEモデルが授業のコアであり、どのような問いを投げかけるかが重要である。教員の研修も、問いづくりに重点を置いているという。

「Connectionsの段階では、タブレットを使って、ロイロノートやGoogle Jamboardでみんなの意見を共有。自分が出した答えと他の子が出した答えを比べて、他の子はどこがよかったか、自分の答えをどう改善すればよいのか考えます。本校の思考力入試で行っている協働振り返り*と同じことが、Connectionsでスムーズにできるようになってきたのは、学びの中で非常に大きな成果です。その過程を通して、問いに対しても積極的に答えられるようになってきました」(児浦先生)
*同校の思考力入試では協働振り返りの時間を設け、他の受験生の作品や発表を見て考えたことをワークシートに記入する。

▶︎児浦良裕先生(広報部部長・数学科)

中1の段階で多彩なアウトプットのスキルを獲得

中1で行っている情報プログラミングの授業は「情報にワクワクする」をテーマに、まずは情報リテラシーや使い方をしっかり身につけて、プログラミング、3Dモデルへとつなげていく。情報プログラミングの授業では、誰のために、どんな貢献がしたいから、どのような成果物を作るのかということが重要だと山本先生は説明する。

「昨年度は、まずは自己PRのプレゼンを行いました。Keynoteを使ってプレゼン資料を作っているときに、生徒たちは自然に教え合っています。せっかく学校に来ているのですから、個々に黙々とやるのではなく、教え合うことも重要です。その過程があるからこそ、他者のプレゼンに対する意見も出てきます。続いて、自分のCMを作りました。iMovieで動画編集をして、Googleサイトで共有。CM制作を通して、動画という形のアウトプットもできるようになりました」(山本先生)

2学期には、Scratchのプログラミングを学びながらドローンを飛ばした。決められた区間をプログラミングで飛ばすというミッションを与え、チームごとに対決。生徒たちは大興奮だったと、山本先生は振り返る。

「垂直に飛ばしたい子、斜めに行きたい子、なめらかに行きたい子など様々。飽きるかなと思ってたくさん課題を用意しましたが、生徒たちは1つの課題に対していろいろな飛ばし方を研究していました。『僕はこっちの方がいいと思う』などとみんなで動画を撮ったりして、時間だよと言ってもなかなかやめません(笑)。コースに椅子を置いたのですが、椅子の上だけでなく、下を通したり、背もたれに空いている穴を通したり、粘り強く、いろいろと試行錯誤していました」(山本先生)

プログラミングで飛ばすドローンは、目に見えてわかりやすいアウトプットの方法である。

「ただ飛ばすだけで終わらせずに『なんであのチームはうまくいったのか?』などと考察することが重要です。そこから、プログラミングの重要性やチームで協力する重要性に気づくことができます」(山本先生)

▶︎山本周先生(情報科・STEAM担当)

「作品ができた」喜びから「貢献できる」喜びへ

情報プログラミングの授業では、3Dモデルにも取り組んだ。東京オリンピックでピクトグラムが話題になったこともあり、学校の様々な場所を案内するピクトグラムを3Dで制作。3Dデータを作るときに必要となるモデリングソフト「Tinkercad」を使って、自分たちなりのピクトグラムを設計し、ものづくりの楽しさを体験した。

「1年間授業を実施してみて、生徒たちの変化は情報プログラミングだけでなく、他教科に連携していくことが実感できました。例えば、中1の数学で空間図形を学ぶ際には、正多面体の性質や切断面などを使って、オリジナルの文房具やインテリアグッズを制作。紙に描いたものをTinkercadでモデリングして、3Dプリンターで出力するというアウトプットを発展的にできるようになりました」(山本先生)

同校はキリスト教学校のため聖書の授業があるが、そこでも情報プログラミングで学んだことが活かされたという。

「クリスマスとは何か、という問いを生徒に出しました。そこから『クリスマスツリーって何?』『オーナメントって何?』と考えていき、3Dプリンターでオーナメントを作ろうということになったのです。そして、オーナメントを作って終わるのではなく、作ったものを附属幼稚園や小学校、女子聖学院に持って行き、皆さんに喜んでいただきました。いろいろな形でアウトプットできるようになったことで、いろいろな人に貢献できるようになったのです。本校のスクールモットーである『Only One for Others』が具現化されたことが、この授業の大きな成果だと考えています」(山本先生)

文字中心のアウトプットから非言語のアウトプットへ

入学前にプログラミングをやったことのない子も、心配する必要はないと山本先生は説明する。

「情報プログラミングの授業では、プログラミングのプロのように使えることを目指しているわけではありません。プログラミングに使われる技術が、世の中で何に使われているか、どんなことに役立っているのか、社会のつながりを知るツールの1つとして考えています。動画や3Dモデルを作ったりしますが、作成物が目的ではなく、何をしたいか、誰に貢献できるかを考えることが大切です」(山本先生)

学校の勉強は、テストでよい点を取ることがゴールになりがちだが、学んだことを自分なりのアウトプットにつなげることが重要だと、児浦先生は語る。

「以前はアウトプットの形としては、プレゼンやレポートなど、文字情報が中心でした。そこに情報プログラミングが入ることで、3Dやグラフ、動画といったアウトプットのパターンが増えたのです。文字だとうまく表現できない子でも、非言語なら表現できる場合もあります。本校の思考力入試で、レゴブロックを使っている理由もそこなのです。文字が出てこない、言葉が出てこない子でも、イメージならアウトプットしやすいでしょう。成果物として目に見えるものが出てくると、そこに言葉を補おうとするので、必然的に言葉も増えていきます。ですから、本校の生徒は、どこでそんな表現を覚えたのか驚くほど、どんどんみんな口が達者になります(笑)」(児浦先生)

高校でのGIC(グローバルイノベーションクラス)の成長 

GICでは、英語で学ぶ「Immersion」授業を週3時間、「STEAM」*授業を週6時間、「PROJECT」授業を週2~4時間、「リベラルアーツ(国語)」を週2時間実施。内進生は高校進学時に試験を経てGICに進むことができる。
*STEAMとは、情報の抽出・分類・比較するスキルや、課題発見・解決に向けた創造・表現のスキルを育てる教育プログラムのこと。

「GICのコンセプトは『ものづくり』『ことづくり』を通して世界に貢献できる人の育成です。STEAMの授業は、ICEモデルのうちのE(Extensions)をメインに扱います。ICEのIとCは自分たちで獲得してもらうという授業を、GICで実現することができました」(児浦先生)

児浦先生は今年度、高2のGICを週8時間担当している。STEAMの授業を行った際、生徒たちの成長ぶりに驚いたという。

「経済産業省と内閣官房が提供しているRESAS(地域経済分析システム)のデータを活用したコンテストの優秀作品を見せながら、どこがよかったか意見を出してもらいました。これまでだったら『プレゼン資料が綺麗でわかりやすかった』など、表面的なことに目が行っていたと思います。ところが今の高2は『この2つのデータを比較しているから、このような結論が出せたのがよかった』『いろいろな角度からデータを取ることは重要だが、その一方で、生の声を集めることも必要なので、その2つをエビデンスとして提出しないとダメだと思う』などの意見が出たのです。高1の1年間で、いろいろなアウトプットをした成果なのだと実感しています」(児浦先生)

「Makey Makey」を使ったGICの授業を取材

フューチャーセンターを使い、山本先生が担当したSTEAMの授業(高1)を取材した。この日の授業は、「Makey Makey」というプログラミング教材を使って、身近なものをパソコンに接続して楽器にするという授業。「Makey Makey」の説明をした後、おもちゃクリエーター・高橋晋平氏が「新しいアイデアのつくり方」についてTEDxTokyoで行ったスピーチ動画を見せた。その後、生徒たちはペアワークで、アイデアを出し合って作業を進めていく。これまでにない世界観が体験できる、ユニークな授業である。

進みたい道へ全力でサポート

情報プログラミングやSTEAMの授業は一見、大学受験とは離れた内容に見えるので、「将来、何の役に立つのか?」という疑問を持つ保護者もいるだろう。中高一貫教育の6年間で、一番大事なのは自分の興味や得意なことの裾野を広げることだと児浦先生は説明する。 

「テストの点数を取るためだけの勉強をさせようと思えば、一定のところまでは伸びると思います。しかし、興味や関心の土台が小さいと、高2ぐらいで一気に伸びなくなるケースが多いのです。どの方向に向かいたいかが明確でなく、単純に○○大学へ行くという目標しかないと、模試で点が取れない、D判定だったというだけで学校へ行きたくなくなってしまう子もいます。本校が目指しているのは、模試でA判定、B判定を取ることではなく、○○大学でこんな研究をしてみたい、社会で誰かのためにこんな貢献をしてみたいなど、生徒自身が内なる賜物(たまもの)を発見して、自分なりのアウトプットをすることです。それが、本校が目指す『Only One for Others』なのです」(児浦先生)

そのためには、土台を厚くする必要があり、土台の形成には中1、中2の時期に経験したことが大きく影響するという。

「アウトプットの機会が多いことが大事ですし、機会が多いほど自分のものになりやすいです。例えば今の高2に、どうしても東工大に行きたいから、中3で高校3年間の数学を全部終わらせたという子もいます。子どもたちが自分で選ぶことが大切ですし、自分で『東工大じゃないとできない研究がしたい』と思えたからこそ、そこまで頑張ろうという気持ちになれるのです」(児浦先生)

生徒自身が選んだ進路については、実現できるように全力でサポートしている。

「数年前、東大に合格できる学力がある子が、東大ではなく海外大学へ行きたいと言いました。海外大学に通うための学費は、家計にかなりの負担をかけます。そこで、何が何でも上位で合格して奨学金を取る作戦をあれこれ考え、最終的にはペンシルバニア大学に合格して、奨学金も取れました。進学実績については、数字の多さがよい結果の指標とは限りません。一般入試で複数受験すれば数字をかせぐことはできますが、生徒が希望する進路に関係ない数字を出す必要はないと考えています」(児浦先生)

土曜日の特設授業「GIL」や外部プロジェクトへの発展

希望者が参加するGIL(Global Innovation Lab)では、様々なワークショップを通して汎用性の高い思考力を養成。2020年度から、東京理科大学の宇宙教育プログラム(代表:宇宙飛行士・向井千秋氏)にも参加している。

「情報プログラミングで身につけたことを行事やGILにつなげて、外部プロジェクトや学内での発表などでもどんどんアウトプットしていってほしいと考えています。昨年度は、最新の3D技術を活用して海洋生物を研究する『海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト*』に応募して、研究メンバーに選ばれた子もいました」(山本先生)
*日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として行われているプロジェクト。

生徒たちは放課後に山本先生がいるファブラボ*へ来て、作りたいものを作ったり、プロジェクトの提案などをしてくる。生徒たちのそのような行動は、先生自身が楽しんでいることが伝わっているからではないかと、山本先生は語る。

「私はだいたいファブラボにいるので、放課後にふらっと来て『作っていいですか?』と言う子には『自由にどうぞ』と言います(笑)。私がファブラボで3Dモデルを制作しているのを見て、鉄道好きの生徒は、鉄道模型の標識をさらっと3Dプリンターとレーザーカッターで作りました。そういったものを作って文化祭で販売して、3Dプリンター用のフィラメントを買いましょうという提案もあります。本校の教員は、新しい学びに対して前向きで楽しみながら挑戦しているので、それを見て生徒たちの活動も広がっているのでしょう。ものづくりに興味がある子と一緒に、いろいろなことをやってみたいです。受け身ではなく積極的な姿勢で、授業やいろいろなプロジェクトに参加していく子に、ぜひ本校に来てほしいです」(山本先生)

*ファブラボには、3Dプリンターやレーザーカッターなど、ものづくりで活用する機材を揃っていて、全生徒が使用できる。

<取材を終えて>
パソコンと接続して、バナナやリンゴも楽器として楽しむことができるという「Makey Makey」は、世界中の子どもを発明家にしたいという思いから開発された教材である。生徒たちは、ダウンロードしたソフトでピアノやギターなどの「音」を耳で確かめながら選んでいた。自分が使いたい音、好きな音を選べることで、ものづくりや表現することがより楽しくなる。残念ながら完成品を見ることはできなかったが、どの生徒も受け身ではなく、どんな音を使おうか、ワクワクしながら取り組んでいる様子が伝わってきた。

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