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デジタルパンフレット

スクール特集(聖学院中学校の特色のある教育 #3)

休校中のオンライン学習がもたらした、聖学院の新たな未来を築く教育

1906年の開校以来、「Only one for others」の理念を掲げて、授業、体験学習、グローバル教育を3つの柱としている聖学院中学校。新型コロナ感染症拡大により休校となった4月~6月の授業について話を聞いた。

3月に入ると、新型コロナ感染症拡大により休校となり、自宅学習がスタート。聖学院中学校では4月13日から各教科の動画配信を始めた。「コロナへの対症療法ではなく、聖学院の目指すべき教育の方向性の実現として取り組んだ」という休校中の学習指導について、日野田昌士教頭先生、物理の玉木聖一先生、公民の伊藤航大先生、国語の土屋遙一朗先生に取材をした。

4月13日から100本の授業動画を配信スタート

聖学院中学校は、一週間で100本の授業動画をつくり、4月13日からオンライン授業として配信を始めた。
「休校が決まってから、私たちは自宅学習の指導について、休校中のための授業ではなく、聖学院の目指すべき教育の方向性を考えながら取り組もうと決めました。まず考えたのは、オンライン授業の良さと対面授業の良さとはそれぞれどこにあるのだろうということです。オンライン授業の良さは知識をコンパクトにまとめて伝えられることなので、まずはそこから始めました。英語・数学・国語・理科・社会、それぞれの教師が1週間で授業動画を撮影し、計100本を4月13日に配信しました。必ずしもすべての教師が動画の撮影に慣れているわけではありませんし、撮影担当、配信担当、尺をどうするかなど、動画配信に至るまでさまざまな苦労はありましたが、物理の玉木先生ら若手の先生方が技術チームを組んで進めてくれました」と日野田教頭先生。

ただ、動画を見る授業だけでは一方通行であることを懸念し、スタディサプリを導入し、先生方の注力ポイントを「動画撮影」ではなく、「授業デザイン」「授業設計」にシフトできるようにした。
「授業コンテンツの内容を充実させるために教師のオリジナル授業動画とスタディサプリの二段構えにしました。5月中旬以降は、Googleのビデオ会議システムMeetを活用し、オンラインで生徒と直接つながれる授業を行いました。授業とは、知識を詰め込むことだけでなく、知的好奇心を呼び起こすものなので、各授業で生徒に問いを投げかけ、その答えを考えさせようとICEモデルを取り入れました」

▶︎日野田昌士 教頭先生

生徒と対話と議論を繰り返し理解を深めるICEモデル

ICEモデルとは、主体的な学びを実践する学習法。ICEのIはIdeas(基礎的知識)、CはConnections(つながり)、EはExtensions(応用、拡大する)の頭文字をとっている。基礎知識を問いかけ、答えを導きだすことで理解を深め、生徒自身が応用できるように発展させていく学習法だ。「Google Meetによるオンライン授業では、ICEモデルの学習法の通り、教師から問いを投げかけ、生徒に考えさせます。1対1ではないので、教師の問いを生徒たちがみんなで考え、議論が始まり、答えを導き出す、作り出すという授業を行うことができました」と日野田教頭先生。ICEモデルの考え方により、対話を重視する聖学院の教育に沿った形でオンライン授業を行うことができたようだ。

物理:自宅で実験に挑戦。実生活と物理をつなげる授業を行う

授業動画は各教師が工夫を凝らして取り組んだ。同校のオンライン授業の技術チームの一員である物理の玉木先生は、授業動画を作る際、家で実験ができるテーマを意識したと語る。
「僕は、高校2年を中心に教えているのですが、オンライン授業が始まった頃は、圧力を扱う単元の授業を行っていました。生徒たちが家で挑戦できる実験として実施したのはお椀を使った実験です。お椀に熱いものを入れるとスーっと動く現象を生徒各自に家で実験してもらい、なぜ動くのかを考えるという課題を与えました。もちろん僕も実際にやって動画をあげましたが、なかなか動かないので、摩擦を減らすために水を少し垂らすとうまくいくと説明を加えたら“水を垂らすことで密閉度が高まって空気の膨張で動くのではないか”という説を出してきた生徒もいました。

また、速さの学習では、加速は説明だけだと理解しにくいので、リレーのバトンパスで速さの理論を深めてもらおうと思いました。僕ともうひとりの教師でグラウンドを走ってバトンパスをする動画を撮影し、それを配信。生徒たちは動画を見て、どのタイミングで走り出せばバトンパスが成功するかを推測してもらいました。速度を計算したり、グラフ化したりする生徒もいましたね。そうして生徒たちが導きだした理論をもとに、もう1回、僕らが走って、その理論でバトンパスが成功するかどうかを検証しました。いままでの授業では、問題文を公式にあてはめて答えを導き出すことがベースで、どうしてもリアルなものと結びつかないことが物理のネックだったんです。でも動画で実験や検証をすることで、実生活で物理学を捉えることができるようになり、これはオンライン授業を行ったからこそ生まれたものだと思います」

▶︎物理:玉木聖一先生

社会:ICEモデルを駆使してオンラインならではの授業を

高2の現代社会を担当する伊藤先生は、すべての授業でディベート・ディスカッションを取り入れている。オンラインの授業でもそのやり方を貫き、基礎知識とディベートのテーマを動画で発信し、一週間後、オンラインでのディベートで生徒たちに問いを投げかけながら授業を進めた。思考を促進するこれまでの問いかけに加え、校内のICEモデルの研修を受け、問いの形に工夫を凝らすようになったそうだ。「ICEモデルには、『〇〇にもかかわらず△△なのはなぜか?』といった問いかけがあります。ただ、ディベート開始直後に、深い問いをしても生徒はとまどうと思ったので、例えば『死刑制度の是非』がテーマの場合、裁判官だったら……など、いくつかの立場を与えて考えてもらい、賛成派と反対派に分かれてディベートの場を設けました。そこで『にもかかわらず』の問いを投げかけ、生徒の思考を促しました。このように『知識を伝えるオンライン』と『教師と生徒が交わるオンライン』の良さを両立できたのは良かったです。

また、本校の社会科にはには独自の科目として現代の社会という授業があります。これは社会で必要な力を養う科目なのですが、例年であれば授業でチームビルディングを行います。しかし、オンラインでは学校という空間と時間を生徒が共有できずチームが組めないため、生徒が将来、社会で必要な力だと思うものを聞き出し、これを考える授業を組み立てていこうと考えました。これまでは各クラスで同じ授業を何度も繰り返してきましたが、オンライン授業は1回で終わります。だから生徒の希望を聞いて授業をより高い質に練り上げる時間が持てるようになりました」と伊藤先生。またオンライン授業でのディスカッションでは、先生が言葉をつながなくても生徒同士で意見の交換が積極的に進んでいたのがうれしい驚きだったそうだ。

▶︎公民:伊藤航大先生

国語:オンライン動画と対話の授業で、自分の言葉を使って伝える力を養う

中学3年生の現代文を担当する土屋先生は、作文の力、聞き取り能力、読解力に生徒間で差があることから、オンライン授業で言葉の力をつけさせることを目標にした。「まずはオンライン授業の動画では、わからなかったら何度も何度も見てほしいと伝えました。繰り返し動画を確認できることがオンライン授業の良さですから。ただ動画は一方通行なので、Google Meetで対話の授業も週1,2回は設定しました。その授業では、狂言師がボレロを踊る動画を見せて、生徒たちに“何を表現しようとしていたのか”という問いを与えました。考えていることをまず言葉にして発することをさせたかったのです」

国語は、動画による授業が難しい科目だが、土屋先生は教科書ではなく、動画から作品を理解する力を養う授業を行ったのだ。「Google Meetによる対話の授業では、本の紹介をしたのですが、生徒たちは好きな本を勧めたり、チャットでやり取りしたりするなど積極的に授業に参加する姿勢が見えました。その様子を見て、自粛期間が長く続き、考えていることを言葉にする機会を欲していたのではないかと思いました」と土屋先生。それに加えて、中止になった中間テストの代わりに生徒たちに提出させた中間レポートでも新たな驚きがあったと言う。「“あなたが自粛期間中に考えたことやできるようになったことを自由に表現してください”という課題を出しました。Googleにアップできる形式なら、図でも絵でも何でもいいと伝えたら、狂言ボレロの課題の続きを書いてきてくれたり、ギターを弾いてる動画をあげてくれたり、驚くほどさまざまなバリエーションで出してくれました」。登校が始まってからも、オンラインと対面の両方で授業を継続し、論理的に考え、文章を書く力を育成。国語のレベルがバラバラだった生徒たちだが、全員が論理的な文章を書く力がついてきたと感じているそうだ。

▶︎国語:土屋遙一朗先生

オンライン授業の良さと対面授業のそれぞれの良さ活かして、「深い学び」の得られる授業を展開していく

同校は、6月から分散登校を行い、登校時間もラッシュ時間をずらすなど配慮。徐々に登校する日を増やしていった。休校期間中、各教科の先生方はさまざまな気づきを得たそうだ。
「提出物はGoogle フォームを活用するようになりました。学校で先生に渡すという従来の形をなくすことで、いつでも提出できるようになりますし、生徒の意見をいつでもログで見ることができて、効率が良くなりました」(伊藤先生)。
「学校で授業を受けていると、わからないところはそのままという生徒がけっこういるのですが、オンライン動画はわからないところを何度も確認できるので、実験でも何でも挑戦しやすいのではないかと。自分のペースで他人の目を気にせずにできる利点があると思います」(玉木先生)。
日野田教頭先生は、この3ケ月、生徒の自宅学習をいかに進めていくか、ICTをどう活用していくかについて、多くを学んだと言う。「今回の自粛期間中、教師は学び続ける職業であると痛感しました。生徒たちも初めてのことで戸惑ったとは思いますが、チャレンジしてみよう! というこちらからの働きかけを受け止めてくれました。2学期もオンラインと対面授業のハイブリットで進めていきます」

(取材を終えて)
約3ケ月に及ぶ休校で学習の形態が変わり、最初は手探りだったようだが、各教科の先生がピンチをチャンスに変えるがごとく、生徒のために知識を総動員して個性的なオンライン授業を展開。その姿はまさに聖学院の理念「「Only one for others:自分を生かし、他者を生かす共生の関係を求める教育精神」そのもの。コロナ感染症による休校をきっかけに新たな学習スタイルを手に入れた聖学院中学校。2学期からはどんな授業を展開していくのか。新たな取り組みに注目したい。

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