スクール特集(聖学院中学校の特色のある教育 #1)
国際教育×PBL グローバル社会で活躍できる若者へ
国際力や思考力の育成に力を入れている聖学院中学校。その核となる国際教育、Project Based Learning(PBL)の取り組みについて取材をしました。
「人間力」「思考力」「国際力」を教育活動の柱に据え、21世紀のグローバル社会で活躍できる男子の育成を目指している聖学院中学校。今回は、同校の特徴的な国際教育プログラム、タイ研修旅行をピックアップ。その内容及び、研修の事前学習として実践しているProject Based Learning(PBL)について、副校長の清水広幸先生と、タイ研修旅行の責任者である伊藤豊先生に話を伺いました。
英語圏からアジア圏まで幅広い国際教育プログラムを導入
同校は、生徒たちの国際力を高めるために、様々な海外体験プログラムを導入し、国際教育を推進しています。入学後、最初に参加できるのが、英国オックスフォード研修旅行(中2~高2/15日間)です。「この研修旅行で生徒たちは、大きく2つの思いを抱きます。1つは、自分の英語が通じたという喜び。もう1つは、もっと語学力があれば、自分の言いたいことをもっと伝えられたのに…という無念さ。自信と悔しさを噛みしめて帰国した後は、英語に向き合う姿勢も変わってきます。そして、イギリスを知ったら、アメリカってどうなんだろう? 他の国は? と、世界に関心を広げていきます」と清水広幸先生。中3からは、アメリカのサンディエゴのホームステイ(9日間)や、オーストラリア体験学習(15日間)などのプログラムも用意されています。
同校は、英語圏の他に、タイや中国、台湾などアジア圏での研修も行っています。その中のタイ研修旅行(中3~高2/13日間)は、山岳少数民族との交流が主な目的。現地には家庭に恵まれない子どもの保護活動を行っている財団があり、生徒たちはその施設を訪れ、彼らと寝食を共にして交流を図ります。「出発前に2ヶ月の準備期間を持ち、チームビルディングと現地の情報収集のワークをくり返し行います。また、いくつかのグループに分かれて、タイでどんな活動をするべきか、目的を共有して意見をまとめ、プロジェクトを実行。本校が推進しているPBL*を研修の準備にも取り入れています」と清水先生。昨年度は、現地で料理を作る、フリーマーケットを開催する、交流パーティを企画するといったプロジェクトを立ち上げ、完全に生徒主体の運営を行いました。
*Project Based Learning(PBL)…生徒が自分の力で課題の解決に取り組み、議論と探究を重ねる学習方法。
対等な目線で異文化を理解、自分の課題を見つける生徒も
このように、生徒たちが主体的に事前準備を行っているタイ研修旅行ですが、責任者の伊藤豊先生は、いくつかの注意を促していると言います。「事前学習として、山岳少数民族の置かれている状況や、彼らを取り巻く社会問題を調べるのですが、その際、生徒たちには、生活の厳しさだけを見てほしくない。彼らが大切に育んできた文化やその価値についても思いを馳せてほしいと伝えています。偏った先入観をもって現地に行くと、誤解をしてしまうことがあるからです。例えば、彼らのことを可哀想で助けなければいけない存在だと認識すれば、何を見ても不幸に捉えてしまいます。そこで、事実を正確に認識することをねらい、情報整理のスキルアップトレーニングを念入りに行いました」。
こうした準備を経て、生徒たちは現地に赴き、実際に自分の目で見て、耳で聞いて、様々な体験をします。「事前に調べたこととの相違に驚いたり、知識として知っていたことを実際に目の当たりにしたりして衝撃を受けることもあります。研修を通じて改めて課題を考える生徒や、自分は何をすべきか、将来の目標を見つける生徒もいますね」と清水先生。これまでの参加者の中には、国境なき医師団に入ろうと医学部を目指したり、大学で国際政治を学んだりしている生徒もいます。
▶伊藤豊先生
タイ研修旅行に参加した生徒インタビュー
ここで、昨年の12月にタイ研修旅行に参加した2人の生徒に体験などを聞いてみました。
Sくん 高校3年生 (中学3年~高校2年まで、3回連続で参加)
▶Sくん
Q中3でタイ研修に参加した理由は?
A 両親が聖学院に自分を入れたいと考えた理由の1つが、このタイ研修旅行でした。中3の時は、実はあまり行きたくなくて、親から半ば強制されて参加しました(笑)。
Q実際に参加してどうでしたか?
A それまでもオーストラリアや北京に家族で旅行をしたことはありましたが、タイへ行った時は、日本とのあまりの違いに驚きました。バンコクやプーケットなどの観光地だったら、また感じ方も変わったのだろうけれど、自分たちが訪れたのは山岳地。飲み水にも苦労するような場所でした。でも、そこで子どもたちと触れ合ったり、チェンマイの高校、プリンス・ロイヤルズ・カレッジの生徒と活動を共にしているうちに、自分は国際交流をするのが好きなことに気づきました。言葉の壁があっても、相手を理解しようと思えば気持ちが通じることも実感できました。
Q高1の時もタイ研修に応募した理由は?
A 2週間だけの旅行ではわからないことが多かったからです。最初の1週間は、言葉など慣れないことばかりで身動きがとれませんでした。もっとタイのことを知りたい、人々と触れ合いたいと思い、今度は自分から親に「行かせてください」と直談判しました。2年目以降は、後輩を引っ張ったり積極的に行動できるようになりました。
Qタイ研修に参加して良かったと感じたことは?
A 日本とは違う世界を知ることができたことです。そして、将来は海外で日本語を教える教師になりたいと考えるようになりました。
Kくん 高校2年生(高1で初めて参加し、この12月も参加する予定)
▶Kくん
Q昨年、タイ研修に参加した理由は?
A もともとタイ料理が好きで、タイに行ってみたいなと…。国際交流も関心がありましたが、どんなものかよくわからず、まずは体験してみようと応募しました。
Q実際に参加して、どんな感想をもちましたか?
A 自分が普通に暮らしている日本は、交通の便とか、衛生面とか、いろいろと恵まれていることに気づきました。また、行く前は知らない土地に馴染めるのか不安でしたが、子どもたちと一緒に生活をしているうちに、タイという国に親近感が湧き、好きになりました。
(伊藤先生によると、Kくんは現地の子どもたちに大人気だったそうです)
Qタイ研修を通じて、自分の中で変わったことは?
A 日本という国を客観視できるようになりました。日本では当然のことも、他の国では特別だったり、生活習慣も大きく違うことがわかりました。それに、初対面の人と関わることに苦手意識がなくなりました。先日、タイで交流のあったプリンス・ロイヤルズ・カレッジの生徒が日本に来たので、自分から希望して上野や浅草観光のガイドもしました。
将来の夢はまだはっきり決まっていませんが、人と関わったり人のためになるような仕事に就きたいです。
<伊藤先生のコメント>
タイ研修を終えると、生徒たちはルーブリックで自己評価をします。その結果、自己肯定感やリーダーシップ力が高まったと考える生徒が多いことがわかりました。私がいつも感じるのは、上質な体験をした生徒たちは、自分自身や社会を肯定的にとらえるようになることです。彼らが現地の子どもたちと対等に遊んでいる姿はとても感動的です。生徒には、タイの人々と友情を育んでほしいと願っています。友だちになれば、その国の人を差別することはないですし、普段から彼らの生活を気にかけたり、文化など様々な違いも受け入れることができます。共に同じ時間をすごした特定の人たちを思い浮かべながら多様性を受容することが、グローバル社会で生きる上で一番重要なことだと考えています。
思考力や判断力を育むPBL、行事や課外活動にも導入
タイ研修の事前学習で実践しているProject Based Learning(PBL)は、教科の授業はもちろん、行事や課外活動でも活用しています。「例えば文化祭というプロジェクトを実施するにあたり、どんな催しをして、どう運営をするか、グループに分かれて話し合い、各グループの考えを持ち寄って協議をします。全員が楽しめる文化祭をつくろうというのが、最終的な目標です」と清水先生は話します。
「PBLは教員の想定と全く異なるものが返ってくることもあります。プロジェクトの目標設定から、こちらの思惑と違うこともありますが、すべて生徒に任せています。自分たちでやるからこそ、思考力や判断力が育っていくのです。たとえ良い結果が出なかったとしても、それも大切な学びです。若い時は、たくさん失敗をして、失敗から学んでほしい。本校は男子校ですので、女子の視線を気にすることなく(笑)、思う存分、本音で仲間と言い合ったり、表現できるのが利点ですね」。
このように聖学院中学校・高等学校では、国際力や思考力を備え、21世紀のグローバル社会で活躍できる若者を育てています。