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じょしびじゅつだいがくふぞく

女子美術大学付属中学校

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デジタルパンフレット

スクール特集(女子美術大学付属中学校の特色のある教育 #8)

小・中学生が美術をもっと好きになる体験授業「美術のひろば」

女子美術大学付属高等学校・中学校では、美術が好きな人の輪を広げるため、「美術のひろば」と題した体験授業を夏休み中に開催。大学教員による講座などを取材した。

女子美術大学付属高等学校・中学校では、美術が好きな人の輪を広げるため、「美術のひろば」と題した体験授業(ワークショップ)を2013年から夏休み中に開催している。同校や女子美術大学の教員が講師を勤め、絵画や様々な素材を使ったモノづくりなど、多彩な講座を用意。毎年、受付開始早々に満席となる人気プログラム「美術のひろば」について、担当の中村幸喜先生に目的や講座の魅力などを聞き、大学教員による2つの講座を取材した。

美術に触れるきっかけとなる創作体験

2023年の「美術のひろば」は、「紙で作るMiniランプシェード」「作って飾ろう ねんどの和菓子!」「親子で楽しむフェルトストーン」など、小学生や中学生が参加できる 19 のプログラム(一部は親子参加)を2日間にわたって開催。2013年から実施している人気プログラムだが、コロナの影響で通常開催は久しぶりだという。

「2013年から実施していますが、2020年と2021年はコロナの影響で開催できませんでした。昨年は規模を縮小したので、今年は久しぶりに通常開催ができて嬉しいです。本校を知ってもらいたいという思いもありますが、一番は美術の裾野を広げることを目的に開催しています。絵を描いたことがなくても、創作に使う素材に触れたことのない小学1年生でも参加できる講座です。親子で受講できる講座もありますし、女子だけでなく男子も受講できます。子どもたちがいろいろな素材や技法と出会うきっかけとなる、多彩なワークショップが用意されていることが大きな魅力です。以前、私はジュエリーの講座を担当していたのですが、その講座を受講した子が本校に入学し、卒業後にジュエリーの世界に進んだというケースもありました。講座で触れた素材や技法をきっかけに、美術が好きになってくれたら嬉しいです」(中村先生)

保護者の中には、美術に興味があっても子どもを美術の世界に入れることに不安を感じている人もいるかもしれない。そのような不安がある人にも、ぜひ講座を体験してほしいと中村先生は語る。

「今の時代、企業でも美術の力でいろいろなことを解決しようという考え方が増えてきています。本校に来て講座を体験してもらうことで、大学や社会に出てからも活躍できる分野であると知っていただきたいです。何かを作ったり、デザインをして開発に携わる仕事だけでなく、多くの企業が総合職として本学(女子美術大学)の学生を採用しています。美術を通して、今までとは違うアプローチで問題解決をする柔軟な思考力が育まれ、総合職で活躍している卒業生が数多くいるのです」(中村先生)

同校は、日本で唯一の美術大学付属校である。中1から大学の教員による授業を受けられ、中学生のうちから「大学」を意識できることが大きなメリットだと、中村先生は語る。

「小さいころから好きなものを認めて伸ばしていける環境なので、自己肯定感も育まれていきます。中学校から高校までの6年間、好きなことを伸ばして、楽しみながら成長でき、自信を持って美大に進むことができるのです。中1から高3まで、大学の先生から各専攻について学べる機会が少なくとも6回あります。先生方と会話をする中で、進みたい専攻についてじっくりと考えることができることも大きな魅力です」(中村先生)

▶︎中村幸喜先生

女子美術大学の教員による講座:「モノタイプ」1枚だけの版画

芸術学部美術学科洋画専攻 准教授
阿部大介先生

▶︎阿部大介先生

今年初めて講座を担当した阿部大介先生は、1枚しか刷ることができない「モノタイプ」と呼ばれる技法で版画制作を行っている。今回は、アクリル板と水彩絵の具を使って、親子で体験できる版画の講座を開講した。

「版画というと同じものを複製できるイメージですが、今回体験してもらったモノタイプは1点しかできない版画です。モノタイプといっても、様々な技法をアレンジしている人が多く、私は授業や先生に教えてもらった技術を掛け合わせて、自分なりに応用して制作しています。油絵などは絵の具の層が作られますが、版画は限りなくフラットに近い状態に仕上がるものです。版の上に絵の具で描いても絵の具の質感が均一に仕上がるので、絵を描くのとは違う不思議な体験になると思います。プレス機を通した後に、紙をめくったときの感じがとても新鮮です」(阿部先生)

今回の講座では、透明なアクリル板を使い、下絵をアクリル板にトレースしたりして水彩絵の具で直接絵を描く。

「彫ったり、型をつくるテクニックではなく、直接絵を描くので素描に近い感じです。絵の具が乾いたら、プレス機に通して転写します。透明なアクリル板の下に絵を置いてなぞることもできるので、反転することに気をつければそれほど難しくないでしょう。油性の絵の具は匂いが苦手な子もいるので、今回は水彩絵の具を使うことにしました」(阿部先生)。

同校からは、約8割の生徒が女子美術大学へ進学している。付属校から進学した学生たちには、どのような特徴があるのだろうか。

「中・高6年間ずっと美術に携わっているので、リアクションがすぐ返ってくる学生が多いと感じます。学年を引っ張っていってくれる感じで、今回の講座を手伝ってくれている学生たちも付属校出身です。美大受験のために行うデッサンのトレーニングなどは、それが合う生徒と会わない生徒がいます。限られた時間の中でデッサンをしたり、油絵を描いたりすることで自分の力を発揮できる子もいれば、できない子もいるのです。どちらが優れているかではありませんが、受験のための絵画を描かなくても美大に入れれば、好きな分野を極めることに時間を費やせるので、メリットは大きいと思います」(阿部先生)

講座の終盤、子どもたちができた版をプレス機に通していた。プレス機を通す様子をじっと見守り、紙を剥がしてできあがった作品を手にした瞬間に、子どもたちの表情はパッと明るくなる。小学生に感想を聞くと、「版を作るときに色が混ざってしまうところが難しかったけれど、思っていたように仕上がったので楽しかったです」と嬉しそうに語ってくれた。

女子美術大学の教員による講座:インド刺繍で作る小さな敷物

芸術学部デザイン・工芸学科工芸専攻 教授 
大崎綾子先生

▶︎大崎綾子先生

現在、国内で刺繍を学べる大学は女子美術大学だけで、女子美術大学美術館が所蔵する染織コレクションは12,000点にも及ぶ。工芸専攻の学生たちは、貴重な本物を見ながら学ぶことができるという。日本刺繍や刺繍史などの研究をしている大崎綾子先生が講座を担当するのは、今年で3回目。過去2回は日本刺繍の講座だったが、今年はインド刺繍の講座を開講した。

「日本刺繍は刺繍台などが必要になりますが、インド刺繍は台などを使わずにできるので、日常の中で気軽にできます。ほぼマンツーマンで教えられるようにスタッフを増員しましたが、参加した子どもたちは集中して取り組んでいました。家でも気軽にできるので、受験勉強の合間に心を静めるためにやってみるのもいいと思います。講座では皆さん真剣に取り組んでいて、刺繍をやったことがなかった子も覚えが早かったです。難しいことに挑戦すると、その分達成感も大きいでしょう」(大崎先生)

同校から大学に進んだ学生は、工芸専攻で刺繍が学べることを中・高のうちから知って、そこを目指して来ているので、他の学生と比べて興味の度合いが深いという。

「付属校からの学生は、描画のスキルも高いと感じます。今日アシスタントに来てくれている学生も、皆さん付属校出身です。皆さんから女子美愛を感じますし、私も学生たちのことは、後輩として見ています。卒業式が終わった時点で仲間だと思っているので、たくさん吸収して、いろいろなことを覚えてほしいです。仕事でお会いする人や子どもの保護者会などで女子美出身の人と関わることがありますが、年齢を問わず仲間になれる感じがします。なんとなく、『この人、女子美出身かも』とわかるんです。協調性があるというか、前向きな参加の仕方が似ているなと感じます」(大崎先生)

近年、工芸専攻で刺繍を学んだ学生たちは、文化財の修復に携わる職場で活躍している。今年5月に上皇ご夫妻が鑑賞したことで話題となった、昭憲皇太后(明治天皇の皇后)の「大礼服」(ロングドレス)の修復にも、卒業生が新人ながらプロジェクトに参加した。

「大学でも保存・修復を研究する工房がありますし、卒業生は刺繍の技術を使って即戦力として活躍しています。着物を着る人が減ってしまいましたが、その一方で明治時代などの古いものを修復するニーズが高まっています。もちろん、美大で学んだ学生がみんな作家になったり、専門を活かした仕事に就くわけではありません。専門分野で技術を活かすだけでなく、一般企業に就職しても、美術は役に立ちます。例えば企画書を作るときに、美大を卒業した人は少し違うものが作れるでしょう。そのようなスキルが身につくだけでなく、人間力が育まれて心が豊かになっていきます。例えば、絵画を鑑賞するときも、背景を知っているのと知らないのでは、長い人生が大きく違ってくるでしょう」(大崎先生)

<取材を終えて>
以前の取材で、大学の教員がふらりと中・高の校舎を訪れることがあると聞いたことがあったが、今回の取材中には大学の学長がふらりと見学に来たところに遭遇した。そのようなところからも、中・高と大学のよい連携が感じられる。また、卒業生が親子で参加していたり、退職された先生が「毎年楽しいから」と見学に来ていたり、あちこちで女子美愛を感じる光景を目にした。毎年、講座の受付開始からすぐに満席になってしまうので、参加したいと思った方はぜひ早めに同校のホームページで情報を確認していただきたい。

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