スクール特集(女子聖学院中学校の特色のある教育 #4)
新たな学びへの期待! ICT活用の「フューチャールーム」新設
2019年9月に、ICT機器を備えた多目的教室「フューチャールーム」を新設。各教科の活用方法や生徒たちの反応などについて話を聞いた。
女子聖学院中学校では、プロジェクターや電子黒板などを備えた多目的教室「フューチャールーム」を2019年9月に新設。ICTプロジェクト委員としてICT教育を推進している大井藤花先生(英語科)、川村明子先生(数学科)、中井嘉子先生(社会科)に、各教科での取り組みや生徒たちの反応などについて聞いた。
生徒が主体的に学べる新たな環境づくり
2019年9月に新設された「フューチャールーム」には、正面に2台、側面に2台のプロジェクターを設置。正面のスクリーンは電子黒板としても利用でき、ホワイトボードも含めて書き込むことができるスペースが広く用意されている。これまでもパソコン室でiPadを使用してきたが、新たに「フューチャールーム」専用のiPadを36台導入してプロジェクターと接続して使用。「フューチャールーム」を新設したことで、これまで以上にICT機器を活用できる環境が整った。主体性を育む教育の一環として、この部屋を活用した様々な活動を行っていきたいと大井先生は語る。
「本校では、『Be a Messenger(語ることばをもつ人を育てます)』を教育スローガンとして掲げて、授業や生活指導など、学校生活全体を通して生徒たちの主体性を育む教育を行っています。生徒一人ひとりがメッセージをもって社会へ発信できるように、探究活動にも力を入れてきました。そのような中で、主体的な学習やグループ学習をより行いやすい環境を整えることも必要だと考えて、今回フューチャールームを新設。ICT機器が備わっているだけでなく、机や椅子の移動もしやすく、机にマグネットがついているのでグループワークなども行いやすいです」(大井先生)
生徒たちの反応もよく、この部屋で学ぶことをとても楽しみにしているという。中1(歴史)の授業でこの部屋を使っている中井先生に、生徒たちの様子を聞いた。
「この部屋で授業をすると、生徒たちの様子が全然違います。ルンルンしながら入ってきて、座る前に軽く部屋の中を見て回ったりして、とても楽しそうに授業を受けています。目新しさもあるとは思いますが、最初だけでなく数か月たった今でもこの部屋だとテンションが高いです。中3でも同じような反応だと聞いているので、学ぶ環境を整えることも生徒たちのモチベーションを上げることにつながるのだと実感しました。生徒たちがこの部屋で学ぶことが楽しいと感じてくれているので、その気持ちも上手に活かして、新しい学びにつなげていきたいと思っています」(中井先生)
【英語科】生徒たちの自発的な行動に期待
「フューチャールーム」では、主要5教科での活用が進められている。活用していく中で、思ってもいなかった嬉しい変化も見られたという。
「私の場合は、中1から中3が参加する課外講座でこの部屋を使っています。英語が苦手な生徒が集まる講座ですが、この部屋を使うようになって嬉しい出来事がありました。私が正面のスクリーンに説明を書いていたときに、側面のスクリーンを指さしながら『ほら、先生がこう書いているよ』などと、生徒同士で教え合っている場面が見られたのです。通常の授業では控えめに授業を聞いているような生徒たちが、主体的に学ぶ姿を見ることができました。この部屋を活用することで、このような自発的な行動が増えていくことに期待しています」(大井先生)
今後は通常の授業でも、iPadを使った学習やグループワークなどを取り入れていきたい、と大井先生は語る。
「中1は冬休みまでに教科書の内容を終えて、年明けぐらいから今まで習ったことを自分たちでまとめていく予定です。その中で、iPadを使って生徒間で内容を共有していきたいと思っています。本校では、英語のプレゼンテーションにも力を入れてきました。英語力も重要ですが、プレゼンの内容自体ももっと深めていきたいと考えています。これまではグループ学習の際に模造紙に書いていた内容を、iPadに記録して共有していくなどして、内容を深めていくためにもこの部屋を活用していきたいです」(大井先生)
▶︎大井藤花先生(英語科)
【数学科】解答を共有して議論することで理解を深める
数学の授業では、配布したプリントに書き込みをしながら説明することも多い。各自のプリントだけでは、プリントのどこに何を書き込んでいるかわかりにくいこともあるが、プリントの内容を黒板に書いて説明すると時間を余分に使ってしまう。しかし「フューチャールーム」なら、そのような場合も効率よく授業を進められるという。
「正面の2画面は電子黒板の機能もあり、配布したプリントを映し出すことができるだけでなく、電子ペンで画面上に書き込んでいくことができます。画面上でタイムラグなく説明でき、どこに書き込んでいるかは画面を見ればわかるので、スピーディーに進めることが可能です。今後は、iPadで生徒たちの解答を撮影して大画面に投影し、クラス全体で共有してそこに書き込んでいくことなども考えています。グループワークの結果をクラス全体でも共有して、それをいろいろな視点で議論していきたいです。数学は一方向の講義になりがちですが、この部屋は双方向・多方向にしやすい環境になっています。iPadにはグラフを描くアプリなども入れて、ツールを使ってグラフを動かしてみるなど、紙ではできない体験的な学習も取り入れていきたいです」(川村先生)
数学の授業では、通常の黒板では収まりきらないほど書くことがたくさんあるため、教える側としても、書くスペースがたくさんあるのは嬉しいと川村先生は語る。頭の中で考えていることをアウトプットする場としても、「フューチャールーム」での授業には期待が高まる。
「解答は人に見せるものなので、どう書けば相手に伝わるか考えることも重要です。この部屋なら広いスペースにいくつかの解答を書き出して、それについて議論しながら黒板を埋めていくこともできます。書き出して議論していけば、『これを先に書いた方がいい』『ここにこれを入れた方がいい』などと、順序や組み立てを整理して整えていくこともできます。頭の中にあるものを書き出し、共有して議論していくことで、生徒同士でも理解を深めることができるのです。数式だけでなく言葉も使い、壁や空間全体をダイナミックに使っていくことで、思考力も高まります。様々な発見があり、わくわくできる場になるように、教員側もしかけていきたいです。まだ始動したばかりなので、生徒たちから気づかされることもあります。生徒たちの様子を見ながら一緒に学んでいる部分もあり、どんな使い方ができるのか今後が楽しみです」(川村先生)
▶︎川村明子先生(数学科)
【社会科】知的に成長するきっかけづくり
中井先生は、要点をコンパクトにまとめて何枚かのA4サイズの紙に書き出し、貼り出しながら伝えるKP法(紙芝居プレゼンテーション法)を授業に取り入れている。中1の歴史では、肖像画や建造物などの画像を紹介するPowerPointと併用しているので、「フューチャールーム」はより効果的な授業が行えるという。
「通常の教室でPowerPointを使ってきましたが、1つの画面しか見ることができないので、全体の流れがつかみにくいというデメリットがありました。この部屋では、KP法で要点を説明した後、側面にKP法で全体の流れを書いたものを貼っておいたまま、正面のスクリーンで画像を紹介しながら詳細を説明することができるのです。側面を見れば全体の流れがわかるので、歴史的な出来事を流れの中で追っていくことができます。KP法と1問1答のプリントを使った、授業内反転学習なども可能です。後期の中間試験前には、試験範囲の内容について生徒自身によるKPを行いました。生徒たちがKPを作って発表することで、発表した生徒だけでなく、それを聞いたほかの生徒たちも復習になります。人に説明することは一番勉強になりますし、今回、予想以上の生徒が発表者として立候補してくれたので、今後も取り入れていきたいです」(中井先生)
「フューチャールーム」には、可動式の小さいホワイトボードも6台用意されている。それらも活用して、ポスターセッションなども行っていきたいと中井先生は語る。
「通常の教室で行う発表では、『発表する生徒』とそれを『聞いている生徒たち』というように、発信者と受信者が固定されることがほとんどです。しかし、日常的なコミュニケーションは、発信者と受信者が固定されていません。発信者の言葉を受信して、それに対して受信者からも発信し、また別の受信者が発信していくというように、蜘蛛の巣のようになっていきます。いずれは、そのようなコミュニケーションの中での学び合いをしたいと考えています。みんなが1つの方向を向いている教室と違い、可動式の机やホワイトボードが用意されたこの部屋ならそれが可能です。ポスターセッションなども取り入れて、多方向的なコミュニケーションをしていく中で、知的に成長していくきっかけを作っていきたいと思っています」(中井先生)
▶︎中井嘉子先生(社会科)
手作り新聞を発行して教員全体で情報共有
同校では、2019年10月末から主要5教科の教員5人でICTプロジェクトチームを組んで、ICT教育の推進に向けた活動を行っている。教員に向けた働きかけとして、外部研修への参加やiPad設定などの活動を報告する新聞「iCT for JSG」を発行。印刷室など、教員たちの目に付きやすいところに掲示しているという。
「私たちはICT機器を活用することに魅力を感じ、様々な形で授業に取り入れていきたいと考えていますが、中にはICT機器に苦手意識のある先生もいます。活用の機会を増やしていくためには、私たちだけで進めていくのではなく、ほかの先生方とも情報を共有していくことが大切です。ICT機器に触れる機会がない先生方にも関心を持っていただけるように、あえて紙の新聞にして、何気なく目に入るところに貼っています。苦手意識のある先生方にもわかりやすく伝えられるように心がけて、教員全体で1つ1つ知識を増やしていけたらいいなと思っています」(大井先生)
今回話を聞いた英語、数学、社会のほか、国語や理科でも「フューチャールーム」を活用したICT教育が進められている。
「今はまだ、教科全体や学年全体ではなく、フューチャールームやICT機器を活用した授業を取り入れたい先生が、試行錯誤しながら授業を行っているという段階です。フューチャールームやICT機器の活用を広げていくために、教員同士の話し合いなどにもこの部屋を使っていきたいと思っています」(中井先生)
<取材を終えて>
9月に新設された「フューチャールーム」は、様々な活用方法が期待できる部屋である。今回話を聞いた先生方は、自身が積極的に活用するだけでなく、ほかの先生方への周知や情報共有にも力を入れている。読んでもらいたい人にどうしたら読んでもらえるかを考えて、あえて紙の新聞を発行していることからも、「知ってほしい」という熱意が伝わってきた。このような地道な活動が、やがて学校全体での活用につながり、生徒たちの新たな学びへとつながっていくのだろう。生徒たちの主体性を育む中で、どのような学びが生まれるか楽しみである。