スクール特集(白百合学園中学校の特色のある教育 #7)
生徒が英語のミュージカルを制作!ESSの活動を通じて絆を深め共に成長
白百合学園中学高等学校のESSは毎年、1年をかけて英語のミュージカルを制作し、学園祭で発表している。脚本や演出などすべて部員が手がける同クラブの活動を取材した。
白百合学園中学高等学校のESSでは、毎年秋に開催される学園祭に向けて、英語によるオリジナル・ミュージカルを制作している。部員の役割は学年ごとに決まっていて、高2が脚本とキャスト、高1は部長などの幹部の仕事と演技指導、中3は大道具や照明など舞台の裏方、中2と中1は歌やダンスをするアンサンブルを担当し、中2はオーディションでキャストに選ばれるチャンスもある。
また舞台は、ストーリーの構想から脚本、楽曲の制作、演出、舞台の裏方まで、すべて生徒が手がけている。そんなESSの活動について、部員と顧問の先生たちにインタビューを実施。部員の中には掛け持ちでディベートの活動も行っている部員もおり、その内容も伺った。
▶︎写真左から:マンシー先生、Tさん、Iさん、KSさん、KCさん、ハワード先生、山本先生
■お話を聞いたESSの部員
Tさん 高校1年生(現・高校2年生) 元部長
Iさん 高校1年生(現・高校2年生) 元副部長
KSさん 中学3年生(現・高校1年生)
KCさん 中学3年生(現・高校1年生) 副部長
■お話を聞いたESSの顧問の先生
ベサニー・マンシー先生 英語科
ハワード 啓子先生 英語科
山本 智恵子先生 教頭 英語科
ESSの入部した理由と活動のやりがい
ー 最初に、ESSに入った理由を教えてください。
Tさん 私は小学校まで国内のインターナショナルスクールに通っていました。ESSは英語を使う機会がたくさんあり、好きなダンスもできるので入部しました。
Iさん 小5の時、学園祭でESSの公演を見ました。先輩方の演技に感動したのが一番の理由です。
KSさん 小学生の一時期、ミュージカルを習っていたことがありました。PR会(ESSの新入生向けイベント)で先輩方のキラキラしている姿を見て、ここだ!と直感しました。
KCさん 昔から英語のミュージカルに興味がありました。でも、スポーツも好きなので運動部にするか迷っていたのですが、PR会で先輩方が心から楽しんでいることが伝わり、私も楽しめるかなとESSを選びました。
ー 活動をしていて一番楽しかったことは? 反対に大変だったことも教えてください。
Tさん オリジナルの劇なので、自分たちのやりたいことができるのが楽しいですね。作り上げた時は達成感があります。大変だったのは、高2の先輩に演技指導をすること。上下の関係はあるけれど、大切なのはお客様に喜んでいただくことなので、自分の考えをきちんと伝えました。先輩には発声や笑顔の練習、筋トレなどもしてもらい、1時間近くある公演では素晴らしい演技を披露してくれました。
Iさん 自分たちの作ったミュージカルでお客様から大きな拍手をいただいた瞬間に、楽しさというか、「頑張ってきてよかった!」とやりがいを感じます。大変だったのは、中3で裏方のまとめ役をした時です。照明など普段、使わない機械を扱うのも大変だし、ミスをしたら先輩方の演技を壊してしまいます。迷惑をかけないよう、何度も練習を重ねているうちに自分たちの求めるものに近づき、本番もノーミスで終えることができました。
KSさん 中3で初めて通常の舞台ができたので(注:中1の時は無観客で配信、中2は入場者数の制限あり)、印象に残っています。私は衣装を担当し、自分たちの指示した衣装で舞台の上でキャストが輝いているのを見た時は、とても嬉しかったです。中2では、オーディションでキャストに選ばれる経験をしました。一緒に受けた友だちからも「おめでとう」と言われ、同期の優しさに感動するとともに、上手にできなかったら申し訳ないという気持ちもあり、喜びとプレッシャーの両方を味わいました。
KCさん 前回の舞台では大道具係を務めました。力を入れたのは「街」と「星」です。白百合の講堂は広くて豪華なので、舞台も淋しくならないように装飾を工夫しなくてはなりません。先輩にも協力してもらってきれいに仕上がった時は満足感でいっぱいでした。部活動で大変さを感じたのは人間関係です。舞台作りには一人ひとり役目があるので、自分の意見は言わなくてはいけないけれど、言い過ぎるのもよくない。私は割と言ってしまうタイプなので、まずは相手の意見を聞いてから話すように心がけました。
部活を通じて成長したことと今後の目標
ー ESSの活動を通じて成長したこと、変化したことはありますか?
Tさん インターナショナルスクールに通っていた時は、自分の意見を言うことが一番大事というマインドで生活をしていました。ESSでは先輩、後輩という立場を経験できたのが良かったです。もちろん先輩であっても必要だと思うことは伝えますが、互いに考えを聞いて受け入れ合うことや、相手の意見を尊重する大切さも身を持って学びました。
Iさん 誰かに言われてから行動するのではなく、自分で何をやるべきか考えて行動できるようになりました。副部長という役目を任されたからこそ責任感も生まれ、部員が71人と大人数なのでまとめるのは大変ですが、周りの意見を聞きつつも、自分が率先して行動するようになりました。リーダーシップが身についたと思います。
KSさん 中1の時は、もっと舞台に関わりたいと思っていました。でも2年、3年と活動を続けるうちに、その学年での経験や役割の大切さがわかり、今置かれているところで最大限の力を出そうと思うようになりました。
KCさん 私も最初の頃は、どうして学年ごとに係が決まっているのか、わかりませんでした。でも今は、これだけ大きな舞台の完成度を上げるためには学年ごとの役割分担が必要だと理解できます。また、先輩方の言っていたことが、自分がその学年になって初めてわかることも多くありました。
ー 今後の目標を教えてください。
Tさん 今、次の舞台の脚本を書いています。人種差別というテーマを扱い、LGBTQなどセンシティブなキャラクターも入れる予定なので、後輩の意見も聞きながら、どうしたらみんなが納得できる舞台を作っていけるか…。部員全員が台本を理解して同じゴールに向かい、成功させることが目標です。
Iさん ESSの活動も残り1年です。5年間は長いと思っていたのに、あっという間でした。終わりを考えると淋しいですが、悔いのないように活動していきたいです。
KSさん 高1になると自分たちで動くことが求められ、中学生の指導もしなくてはなりません。一方で、舞台を作る上で影響力も大きくなるのも楽しみです。責任も重大だけれど、ワクワクした気持ちを忘れずにがんばります。
KCさん 副部長になったので、まとめ役をしっかり努めたいです。中3で大道具係をした時は、うまくできなくても先輩がフォローしてくれましたが、今度は私たちがしてあげる番。後輩とコミュニケーションを取りながら、いい舞台を作っていきたいです。
顧問の先生から見た生徒の成長
ESSの顧問の先生は、日頃どのように生徒たちを接し、また活動を通じて成長や変化を感じているのか、話を伺った。
マンシー先生
筋立ても脚本も生徒に任せていますが、作成したものをチェックし、必要に応じてアドバイスやサポートをしています。例えば、セリフ回しなど登場人物たちの性格が統一されていない場合は、「ここは変えたら?」と助言をしたり、生徒が作った英語の歌詞も歌いやすいように調整しています。
5年間で生徒は大きく成長しますね。中学1年生は何かと私にくっ付いてくる感じですが、中2、中3では同期同士で助け合ったり、自分から行動したりと、一人の人間として強くなっていきます。日々の苦労や人間関係を乗り越え、最後はESSが人生の宝物だと思うようになる。そういうプロセスを見ているのも楽しいです。
ハワード先生
私はこの学校に着任して2年目ですが、まず生徒たちがこんなにクオリティの高い舞台を作り上げていることに驚きました。ESSは部員同士が切磋琢磨しながら活動をしているので、私は後方支援に徹しています。
生徒の成長を感じたのは、高2の送別会で元部長が後輩たちに、「必ず一人ひとりが活躍できる場がある」と激励していた時です。いろいろな経験をしたからこそ、出てきた言葉なのでしょう。また、4月から舞台の準備が始まるのですが、最初は「大丈夫かな?」と思う場面があっても、9月の公演に向けてどんどん完成度を高めていく。半年間の成長ぶりも素晴らしいものがあります。
山本先生
裏方の生徒はものすごい責任感を持って活動をしています。キャストもオーディションで思うような結果が出なくても、そこから気持ちを立て直したり、先輩への話し方、同期との関わりなど、社会人になって学ぶようなことを部活で学んでいます。顧問という立場ですが、そうした生徒に対してリスペクトの気持ちを持って接しています。
生徒の成長過程は一人ひとり異なりますが、みな素敵に輝いていきます。大所帯のクラブなので、自分の存在意義を見つけるのに苦労している時期もありますが、同じ目的を持って活動し、最後は充実した気持ちで引退していく。部活でしか築けない絆もあり、5年間の成長を見届けられるのは顧問として幸せですね。
有志による英語ディベート活動で世界大会に進出
KSさん、KCさんはESSと掛け持ちで、有志による英語でのディベート活動も行っている。昨年は、中高生の総合的な教養を競う「World Scholar's Cup (略称:WSC)」に出場。世界50以上の国で国内大会が行われ、そこで勝ち残ったチームが世界大会、決勝大会と進み、KSさん、KCさんのチームは、アメリカのイエール大学で開催される決勝大会まで勝ち進んだ。
ディベート活動を始めた理由を聞くと、KCさんは、「英語で話すことに興味があったことと、ディベートは大会がたくさんあって、『出場すると世界が広がるよ』と先輩に誘われたのがきっかけです。実際、オンラインを含めいろいろな大会があり、国内外の多くの人と交流できるのが楽しいです」と話す。
KSさんも「大会ではみんな自分の意見をしっかり持っているので、いつも刺激を受けています。大会の多くは、与えられた論題について、肯定側か否定側か自分で選ぶことはできません。指示をされてから自分たちのチームの主張を構築していきます。世の中にはさまざまな問題があって、賛成する人もいれば反対する人もいる。いろんな視点で物事を考えたり、視野が広がるのが面白いです」と言う。
今年度、2人は有志団体の中で最高学年となり、他のメンバーを率いながら活動していくという。次の大会での活躍も楽しみである。
【取材を終えて】
同校は生徒の主体性や発想力、豊かな人間関係を築くために部活動を重視しており、ESSはまさにそれを実証している。また、顧問の先生が生徒のことをリスペクトして接しているのも素晴らしいと感じた。