スクール特集(昭和女子大学附属昭和中学校の特色のある教育 #3)
先生が語る“昭和女子の今” Vol.1(学年主任編)
2016年度より、新しくコース制を導入するなど、学校改革に取り組んでいる昭和女子大学附属昭和中学校。日々、生徒たちをどのように指導しているのか、どのような生徒を育てていきたいのか、1~3年の学年主任の先生が語る。
2016年度、昭和中学校・高等学校は、本科コース、グローバル留学コース、スーパーサイエンスコース(3年~)の3つのコースを設定。新しいカリキュラム「SHOWA NEXT」の実践をはじめ、学校行事や体験学習などを通して、生徒たちの学力と人間力の育成を図っている。実際、現場の先生たちは、どのような思いをもって、生徒たちを指導しているのだろうか。
<お話を聞いた先生>
1年 学年主任 増田博亮先生 美術科
2年 学年主任 藤田有之先生 体育科
3年 学年主任 村瀬弘孝先生 体育科
▶︎写真左より:3年 学年主任 村瀬弘孝先生/1年 学年主任 増田博亮先生 美術科/2年 学年主任 藤田有之先生 体育科
学年目標と、目標に込めた狙い
同校は、成長段階に応じた生徒の育成を目指し、学校全体の目標とは別に、学年ごとの目標を設定している。
―― 今年度の学年目標と、そこに込めた狙いについて、教えてください。
増田先生 1年の学年目標は「Have Guts」です。4月に入学したばかりの1年生は、「学校で○○をやってみよう」「△△をがんばってみたい!」と、やる気に満ちています。その気持ちをいかに持続させていくか、持続するには何が必要かと考え、“ガッツ”が良いという意見にまとまりました。生徒たちには、何をする時もやる気をもって様々な分野にチャレンジしてほしいと思っています。
藤田先生 2年の目標は「Be Positive」です。今年度の学校目標は「Challenge&Change」なのですが、何かに挑戦する時も、前向きな気持ちが必要です。この学年は、完全にできるものではないと踏み込んでいかない、力がある生徒に限って、慎重になり過ぎる傾向があります。そうではなくて「できるかできないかわからないけれど、チャレンジしてみよう」と一歩を踏み出してほしいのです。たとえ失敗してもそこから学ぶことも多く、その経験が生徒を成長させます。そういう思いから「積極的に行動する」ことを目標にしました。
村瀬先生 3年の目標は、Kind(人に優しく)、Effort(努力)、Think(よく考えて行動する)、Challenge(挑戦)、Hard(一生懸命)、Unique(個性を大切にする)、Positive(積極的に)と盛りだくさんです。そして、それぞれの頭文字を使って、「全力KETCHUP(ケチャップ)」と名付けました。実はKETCHUPという言葉は、ボストン研修※の時に、生徒たちが考え、表明したものです。3年になってさらにレベルアップしていこうと、“全力”を付け加えました。通常、学年目標は教員が話し合って決めるのですが、今回は生徒たちの思いを採用することにしました。
※ボストン研修…アメリカ合衆国・ボストンにある学園所有の研修施設「昭和ボストン」を拠点にして行われる12日間の研修。毎年、中学2年生全員が参加する。
学年目標の取り組み、生活面の指導について
――目標の達成に向けて、どのような取り組みをしていますか。また、日ごろの生活指導や、学年の特徴などを教えてください。
増田先生 今現在、1年生は元気よく前向きに学校生活を送っているので、Guts=やる気に関しては、見守っているところです。生活面で気にかけているのは、マナーやルールの遵守ですね。たとえばゴミの分別が、1年生はできていないことがあり、朋友班(校内美化やレクリエーションなどを行う縦割り班)から注意を受けたりしています。まずは、基本的な生活習慣を定着させることが大切です。その上で、学習習慣も身についていくのです。
一方で、今年の1年生は、自立した生徒が多いと感じています。入学後に行われた学寮(合宿)でも、教員が指示をする前に自分たちでやるべきことをやっている場面が多々ありました。日々の生活でも、自ら元気よく挨拶をしています。私は美術科の教師なのですが、1年生は最初から美術室の出入りの時にきちんと挨拶をしていましたね。そういう心がけは、この先も継続してほしいと思います。
藤田先生 「Be Positive」は、授業、行事、課外活動など、あらゆる場面で活用できる目標です。中学2年は、自分から発言するのが恥ずかしい年齢でもあるので、そういう意識を取り払うよう教員全員で連呼するようにしています。また、3月にはボストン研修が控えています。毎年、多くの生徒が「ボストンに行って、前向きになれた」と言っていますが、それは、ある意味当然のこと。今年は、前向きな自分に仕上げた状態でボストン研修に臨んでほしい。外国人にも初めから躊躇なく話しかけほしいと思っています。
この学年の特徴は、行事や課外活動に熱心な生徒が多いことですね。既に行われた学寮やコーラスコンクールにも、一生懸命、取り組んでいました。これからの体育祭や昭和祭(文化祭)で、2年生が活躍するのが楽しみです。
村瀬先生 私は3年間、担任を持ち上がってきたので、1年の時から比べると、3年生が大きく成長したことを実感しています。最初の頃は挨拶もできない子が多かったのに、今はみな気持ちの良い挨拶をしています。時間も守れるようになりましたし、相手を尊重する心の成長も見られ、生徒同士のいざこざが少なくなりました。行事や学寮など集団生活を通して、生徒たちはたくさんのことを学んできたと感じます。
半面、この学年の課題は、上を目指す前に、満足をしてしまうことです。今年は学年目標を生徒自身が決めたので、1人ひとりが意識をもって、高みを目指すように指導し、目標の達成を自分で評価できる機会もつくりたいと考えています。
3年生の特徴を一言で表すと、素直であること。人の話を聞く姿勢もとても良い。しかしこれからは、素直に頑張るだけでなく中学の最上級生として1、2年生の手本になることも頭に入れながら、行動してほしいと思っています。
学習面の指導とサポートについて
――学習面の指導やサポートは、どのように行っていますか。
増田先生 1年でも、すでに定期テストの点数の開きが見られます。上位層はさらに上を目指すように意識をもたせ、下は底上げをしなくてはいけません。そのためにまず、課題や宿題の提出を徹底させていきます。それが成績の向上につながり、本人も「やればできる!」という自信になります。また、中間層をもっと上に引き上げるために、上位の生徒たちの勉強法を提供するなど対策を考えています。
そして、今年度から新しい試みとして、秋に3泊4日の勉強合宿を行います。習熟度別にグループを分け、大学からチューターも呼んでサポートをしてもらいます。1日中、自分と向き合い、勉強することの意味を捉え学習習慣の確立を目指します。
藤田先生 2年生の成績は、中間層が厚めなので、そこを上にもって行きたいと考えています。「この箇所を徹底すれば、さらに理解が深まる」といった仕掛けを各教科でつくり、放課後のチューター制度ももっと利用するように働きかけます。また、3年からは理数に特化したスーパーサイエンス(SS)コースがスタートします。そのコースに進むための条件の確認や、実際、どのような学びをしているのか、SSコースの4年生に話をしてもらう機会を設けます。
そして、高校卒業後の進路についても中2のうちから自覚してほしいこと、保護者にも知ってもらいたいことを教員全員が進路部長にレクチャーを受け、面談や保護者会で伝えています。このように進路指導の前倒しを図っていきます。
村瀬先生 SSコースの生徒は、高校卒業後も理数系に進むという目標をもっているので、自らしっかり学習をしています。グローバル留学コースの生徒も、カナダ留学に向けて、着々と準備を始めていますね。本科コースは、まだ目標が定まらない生徒もいるため、職業を知る機会を設けるほか、保護者会で進路部長に話をしてもらうなどして、将来に対する意識を高め、学習へのモチベーションを上げていきます。
生徒の成長に向けた指導と思い
――キャリアデザインを含め、この1年間でどのように生徒を成長させていきたいと考えていますか?
増田先生 本校の高校生は、企業や大学と連携して研究(LABO活動)をしたり、SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)に取り組む企業や団体の活動に協力したり、ボランティアや海外研修に参加するなど様々な活動をしています。そして、それらを他の生徒にも発信しています。たとえば、ユニクロの“届けよう服のチカラ”プロジェクト※に参加している高校生が、中学生のところに来てプレゼンをし、協力を呼びかけています。そうした先輩の活動に、中1の時から関心をもち、話を聞いたり考えたりしながら、自分の中に取り入れてほしいと思っています。
私は、近年まで高校3年生を長く受け持ち、そこから中学1年をみた時、キャリアデザインはすでに始まっていることを伝えたいのです。学校には実にたくさんの仕掛けが落ちています。その仕掛けを早い時期から逃さずに拾い集め、高校生になった時に自分の進路に活かせるよう生徒たちを導きたいと考えています。
藤田先生 私も増田先生と同じ意見ですね。加えて中2では、(総合成績の)平均点を3点以上あげようと言っています。3点上げるのは、かなりの努力が必要ですね。なぜ、今それを言っているかというと、高校には大きな仕掛けがたくさんあり、しかし、先立つものがなければ、参加できないこと場合があるからです。「高校に上がって、必死に勉強するのもいいけれども、中高一貫校で先が見えているのだから早めに準備をしよう」「高校に上がる前に力をつけておくと、その先に見えるものも変わってくるよ」と言っていますが、実感としてなかなか伝わらないので、具体的に点数を上げることを提起しました。
村瀬先生 5月の学寮で、3年生に必要なこととして『自律』を掲げました。この学年の特徴である素直さ、人の好さがあるけれども、もう少し強さがほしい。自分を律することができなければ、勉強も生活も高めていくことはできません。また、中3は中だるみをしてしまう時期でもあるので、それを制御するためにも自律が大切なのです。
また、近年は、生徒が主体的に学んだり、活動したり、積極的にチャレンジすることを学校が奨励しています。生徒がアグレッシブに行動することは、とても良いことですが、マナーやルールなどは、きちんと守らなくてはいけない。そのバランスを崩さないよう指導していきます。
※“届けよう服のチカラ“プロジェクト…着なくなった子ども服を世界の難民や飢餓に苦しむ子どもたちに送る、ユニクロ主催のプロジェクト。ユネスコスクールである同校は、5年前からプロジェクトに協力している。
3人の先生から受験生へメッセージ
この学校には、良い仕掛けがたくさんあるので、6年間でいっぱい吸収し、成長していくことができます。まずは、説明会や昭和祭など、学校に足を運んでもらって、雰囲気を感じてほしい。そして、生徒や教員の様子などを見ながら、自分に合う学校であるか、確かめてほしいと思います。
<取材を終えて>
同校がどのような教育を行っているか、先生たちの生の声を聞くことで、当然だが、パンフレットではわからない情報をたくさん得ることができた。同校は、新しいコース制とそれに伴うカリキュラムやプログラムを導入したり、文化祭を生徒主体の行事にしたりするなど、アクティブな学校へと変わってきている。しかし、生活面、学習面とも生徒への丁寧な指導は変わらず、伝統校の“昭和女子らしさ”も大切にしていることが、インタビューを通して感じられた。
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