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しばうらこうぎょうだいがく

芝浦工業大学附属中学校

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デジタルパンフレット

スクール特集(芝浦工業大学附属中学校の特色のある教育 #9)

理工系エンジニアに必要な力に特化!カリキュラムと連動した入試改革

芝浦工業大学附属中学校では、2021年度から新カリキュラムをスタート。カリキュラムと連動して行った入試改革と、入試に関連する言語技術の授業を取材した。

芝浦工業大学附属中学校は、2021年度から共学校となり、2つの探究型授業を組み込んだ新カリキュラムをスタートさせた。入試改革では、言語技術を選択できる特色入試や聞く力を評価する問題が含まれる3科入試など、独自のスタイルを確立。カリキュラムと連動して進めてきた入試改革について、教頭の斎藤貢市先生に話を聞いた。

理工系エンジニアを目指す人材を育てるためのカリキュラム

同校では、理工系エンジニアに必要となる力を育むための教育に力を入れている。そのために何が必要かを考える際には、卒業生の姿が大きく影響するという。

「まずは、グローバル教育を強化してきました。海外で働くようになったり、同じチームにインドやカナダ出身の外国人がいる職場で働いたり、英語で行われる会議に参加する卒業生が多くなったので、グローバル教育に力を入れる必要があると考えたからです。そのような中で、英語入試や帰国生向けのシンガポール入試を導入しました。本校の卒業生が父親、母親となり、海外で働くようになったとき、帰国したら自分の子どもを通わせたいという要望が多くなり、シンガポールを拠点とした入試を行うようになったのです。これらの入試では、多様な経験をした子が入学し、新しい風を吹き込んでくれることに期待しています」(斎藤先生)

そして、2021年の共学化を機にもう1段ギアを上げて、探究学習を組み込んだ新しいカリキュラムがスタート。探究に必要な様々な技術を教える時間を作るために、主要5教科をすべて4単位にした。減らしたことで余裕ができた時間に、学んだことを確実に身につけるためにSD(定着・アウトプットする時間)を授業枠として新設。さらに、自ら問題を発見して解決する力を育むために、「総合的な学習の時間」を基準時間より増やし、2つの探究型授業(GC、IT)を組み込んだ。

「グローバルの次には、ゼロベースでものを考えて、イノベーションを起こせるような人材が求められていると考えました。新しいカリキュラムは、社会問題から問いを立てて、解決の方法をたくさん見いだせる力のあるエンジニアを育てることを目指しています。主要科目の授業数を減らしたからといって、学力が落ちるとは思っていません。2つの探究型授業は学ぶ意欲をつくる時間であり、学ぶ意欲を持っている子は伸びるからです。SHIBAURA探究(IT)では、探究力の技術面をバックアップします。アウトプットの方法として、中1からPowerPointを学び、情報収集の方法としてAstrategyの検索エンジンを使わせます。学習で検索するときは、Googleは使いません。Googleのいいところや悪いところを教えて、日常生活の中での検索とビジネスの場面での検索は違うことも理解していきます」(斎藤先生)

一方、SHIBAURA探究(GC)は、豊洲調べから始まって、東京、長野、世界へとエリアを広げ、社会課題の見つけ方や問いの立て方、考え方を学ぶ授業だ。探究サイクルを年間で何度か回して、自分で独立して探究できる生徒を育てる。

「GCでは、地方から日本、世界へとエリア的な広がりを持って社会課題を捉え、グループワークやPBLの技術を多く教えていきます。ITとGCという2つの総合探究によって、理工系の知識で社会課題を解決する力を育み、高校では生徒たちが自走していけるような探究の授業へと発展させます。大学で学んでいる卒業生たちを見たときに、彼ら、彼女らに、中学の段階でこのような教育をしたらかなり変わるのではないかと考えて、2021年に新カリキュラムをスタートさせました。私も探究の授業に携わっていますが、生徒たちからよい表情が見られない授業案はボツになります。探究の授業で子どもたちはスカイダック(水上を走るバス)に乗りますが、とてもよい表情をしています。そんな表情と記憶が未来へつながっていくと考えています」(斎藤先生)

▶︎教頭 斎藤貢市先生

3科入試は全教科に「聞いて解く問題」を導入

2021年度からスタートした新カリキュラムにフィットした生徒に入学してもらうために、入試改革も行ってきた。その1つが、3科(国・数・理)の全教科で導入された「聞いて解く問題」である。聞く力だけでなく、聞いて考えて、それを表現する力を評価するための試験であると、斎藤先生は説明する。

「本校に入学した生徒は入試に通ったのですから、学力が足りない子はいないはずです。しかし、どこかで躓いて学力差が生まれます。どこに原因があるかを考えたときに、聞く力の重要性に気がつきました。例えば私の授業でも、3つの指示を出したときに、1つ、2つはクリアしますが、3つ目がわからなくなって固まってしまう子がいるのです。そしてそのような子が、学校の勉強でも遅れていくことがわかりました。そのような子も、筆記だけでは3教科の合計で合格点が取れるケースもあるので、3教科すべてで『聞いて解く問題』を実施しています」(斎藤先生)

「聞いて解く問題」は、大人からは「難しい」という声も多いという。しかし、得点源にしている受験生も多く、「簡単だった」という子も少なくないと、斎藤先生は語る。

「導入したときは、メモをうまく取ることができずに、途中で諦めてしまう子もいるのではないかと思いました。しかし実際には、しっかりと数字を拾うなど、メモの精度もよく、途中で投げ出すような子はほとんどいません。塾などで対策を行っているのかもしれませんが、そのような訓練をして高得点を取れるようになったとしても、それはそれでよいと思います。その訓練によって、入学してから落ちこぼれる子が減るのなら、それは本校にとってもよいことなのです」(斎藤先生)

中には、訓練などしなくても、簡単に正答を出せる子もいるという。

「もともとそういった力がある子の場合は、逆に、その力に頼りすぎているかもしれないので、そこを意識して成長を見守るようにしています。本当はしっかりと考えられていないのに、なんとかなってしまうことが学校生活の中にたくさんあるからです。中学生のうちは、なんの支障もないかもしれません。高校生になると、いろいろな教科で壁ができてきます。優れた力があるがゆえに、他の部分をおろそかにしていないか、しっかりと見極めていきたいと思っています」(斎藤先生)

「聞いて解く問題」の対策としては、4年生や5年生向けの簡単な国語の問題を使い、文章を見せずに問題を読み上げて解かせる訓練が役立つと、斎藤先生は説明する。

「聞く力を鍛えるためにも、ぜひ家族で対話をしていただきたいです。思考を伴うことを、家族で話し合ってほしいのです。例えば、食事をしながらテレビのニュース番組を流して、お父さんやお母さんが楽しそうに質問してください。質問に対する答えは単語ではなく、文章で人に伝えられるようになってほしいです」(斎藤先生)

言語技術の授業を取材

同校では、言葉は思考と論理の基礎と考え、2009年度に中1と中2に言語技術の授業を導入した。言語技術の授業は、「結論を言ってから理由を説明する」という論理的な形式をゲームの形を通して身につける「問答ゲーム」や、教員が読み上げた物語を、聞きながらとったメモを頼りに書き起こす「再話」など、「つくば言語技術教育研究所」の指導に基づいて行われる。今回は、描かれた内容を根拠に絵を分析し、観察力や分析力を磨く「絵の分析」の授業を取材した。

言語技術の授業は、1クラスを2つに分けて行われている。この授業で大切にしているのは、「見る・考える・伝える」という3つの動詞。「絵の分析」では、「見る」ことから分析の基本的な手順を学ぶ。この日の分析は、5人の女子が机の前に集まっている1枚の絵を見て、5W1Hに基づく問いを立てることから始まった。生徒たちは積極的に手を挙げて、「ここはどこ?」「なぜ同じ服なの?」「Bさんだけなぜ座っているの?」など、自分が考えた問いを発表。次に、問いに対する答えの根拠を探す。例えば、「ここはどこ?」という問いに対する結論として出された答えは「学校の教室」。その根拠として、「服がみんな同じ」「学校以外ではあまり見かけない机がある」「窓が大きい」などが挙げられた。

「言語技術の授業は、言葉の引き出しをたくさん作っていくイメージです。おとなしい男の子たちが、何も考えていないわけではありません。話すのが面倒くさいと思っていた子も、方法を教えると話し出します。言語技術の授業を導入してから、おとなしかった男子が突然、面談で話し始めるということが何度もあったのです。共学校となり、話すのが得意な女子も加わり、グループの中で発言しない子は見当たらなくなりました。積極的に話しすぎてしまうので、収拾がつかないぐらいです。グループワークでコミュニケーションが円滑にできるように、どう聞いてどう話すかの技術を早めに教えるようになりました。これで伸びなかったら私たち教員の責任だと思うくらい、議論好きの子が集まっています」(斎藤先生)

教育改革と連動した入試改革

2021年度に導入された特色入試は、算数と言語技術または算数と英語という2科の選択式となっている。言語技術という名称ではあるが、実はいろいろな要素が入った試験であると、斎藤先生は説明する。

「この入試で入学した生徒には、言語技術の授業で活躍してほしいという思いもあります。しかしそれだけでなく、探究など、主体的で深い学びの中でリーダになってくれる子を入れたいという思いもあって始めた入試です。実際に、言語技術を選択して合格した生徒は、探究のグループワークなどで質の高い活躍をしている子が多いと感じています」(斎藤先生)

言語技術の試験は、読み取る力、発想力、論理力、表現力を評価する問題となっている。2022年度は、水族館の飼育員と生徒との対話文を読んでから、魚の形の特徴を利用した工業用の潜水艦をデザインし、その紹介文を書くという問題が出された。絵のうまさは採点基準にはなっておらず、デザインと紹介文が6つの条件を満たし、対話文から読み取った魚の特徴などが伝わるように表現されているかが採点基準となる。

「試験の対策としては、言語技術で受験して合格した子の家庭で行われていたことが参考になると思います。その家庭では、テレビでニュース番組などを見ながら子どもにいろいろな質問をしたそうです。街を歩いているときには、『信号機はなんで道路側に赤、歩道側に青があるの?』などと問いかけて、考えたことを説明させたりもしました。子どもが嫌にならないように、楽しく問いかけることが大切です。塾の先生に丸投げするのではなく、楽しみながら親子でコミュニケーションを取ってください。それが一番伸びます。私たちが目指しているのは、そういった教育です。学校で教えることには限界があります。お父さんやお母さんが過去問を解いてみて、社会人だったらどんなプレゼンができるか、ぜひ見せてあげましょう」(斎藤先生)

2023年度の入試は、これまでどおり2月1日、2日、4日に行われるが、2024年度からは2月4日の入試を廃止。また、特色入試が「言語・探究入試」(言語技術と探究+算数)と「英語入試」(英語+算数)に変更される。

「本校が目指しているのは、理工系の知識で社会課題を解決する力を育むことです。そのためのカリキュラムであることを、十分に理解して受験していただきたいと思っています。理系に力を入れているといっても、偏差値の高い大学や医学部への進学を目指すカリキュラムではありません。そういった進路を目指すことは、本校の役割ではないと考えています。本校は、ものづくりが好きで、そのための技術を学びたいという子どもたちが伸びていく学校なのです。入試改革は、本校が目指す教育の意思表明でもあります。このような入試にチャレンジしてみたいと思う子どもたちに、ぜひ受験していただきたいです」(斎藤先生)

<取材を終えて>
言語技術の授業では、生徒たちが手を挙げるのが早いことが印象的だった。クラス内では、躊躇することなく、思ったことを発表できる関係が築かれているのだろう。1枚の絵を見て、それぞれの視点から様々な問いが生まれるからこそ、主観を離れて客観的に読み取る力が育まれる。言語技術という授業自体が非常に興味深いものだが、それが効果的に展開できる環境が整っていることにも注目していただきたい。

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