スクール特集(芝浦工業大学附属中学校の特色のある教育 #4)
これまでも、これからも 変化を生み出せる人材をつくるSTEAM教育
これからの時代に必須と言われるSTEAM教育にいち早く取り組む同校。理工系大学の附属校ならではのロボット技術室、加工技術室等の各実験室を完備し、世界の科学技術を支える人材を育てる教育とは。
STEAMはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、Mathematics(数学)のそれぞれの単語の頭文字をとったものであり、科学、数学、芸術領域に力を入れる教育方法のことです。元々はアメリカの国家戦略として理数系人材の教育に力を入れる動きが盛んになり、現在日本でも注目されています。
今後、AI(人工知能)の発達で、日本でも労働人口の約半数がAIやロボットにとってかわられることになると言われています。そこで、いま注目されるSTEAM教育に力を入れる大坪隆明校長先生に話を聞きました。
従来から行ってきたSTEAM教育
実は「STEAM教育」という言葉を知ったのは一昨年のことです。しかし目指す目的や内容は、本校が今まで行ってきた教育と一致することにと気づきました。
日本でSTEAM教育が注目されている背景には、ICT、ロボット技術、AIなどテクノロジーの進化による急速な社会の変化があります。ところが現在、そのような開発を行なえるエンジニアや感性に応える芸術的素養を持つデザイナーが圧倒的に不足しているのです。今まで「技術力の日本」と言われてきましたが、急激な時代の変化を前に、今後も世界の技術進歩をリードするために、日本の将来に向けた教育に、期待と注目が今、集まっています。
STEAM教育の推進のために必要となるのは、教員自身が社会と科学技術にアンテナを張っておくことが必要です。本校では、生徒の知識と関心を深め、日々の勉強の動機づけを行うために「ショートテクノロジーアワー」の授業を設けています。理系教科だけでなく、国語や社会、英語、芸術、保健体育にいたる全教科で、全教員がテーマを考え、担当教科と科学技術との関わり合いを生徒に紹介する内容です。生徒のみならず、教員も含めて総合的に学習していける体制を整えることが重要だと考えています。
Science(科学)
科学は、ふとしたことに「どうして」「なぜ」 と疑問を持つことから始まります。教科書や参考書のキーワードを覚えて成績を評価するだけではなく、自然現象への疑問や興味を持ち、その疑問を解き明かしたいという気持ちが大切なのです。
そんな姿勢を育むために、中学では授業に多くの実験を取り入れ、暗記や計算だけではない、実感の持てる授業内容としています。また、教科書レベルを超えて科学に興味・関心が持てるよう、サイエンス・テクノロジーアワーを中学3年次に展開しています。これは、2時間かけてじっくりと実験を行う授業で、物化生地の4分野だけでなく、企業の出張実験やプロジェクト・マネージメントの演習も行います。
また、高校では1年次に全員、化学基礎、物理基礎、生物基礎の3科目を履修します。高校2年次には、理系選択者は化学と物理もしくは生物の2科目、文系選択者には地学基礎を学習するカリキュラムを組んでいます。
Technology(技術)
人間の生活をどのように便利にしていくかを考えるのがテクノロジー。そんな発想力を伸ばすために、今年からロボットを実際に制御するプログラミングの授業を開始しました。
教材には「教育版レゴ マインドストームEV3」を一人一台使用します。このロボットキットは、ボディーは簡単に組み立てることができ、センサーやモーターを接続することができます。プログラミングによりロボットのさまざまな動きを設定することで、コンピューター制御の基本を学ぶことができます。このマインドストームEV3はさまざまなプログラミング言語に対応しており、中学生だけでなく高校生も授業で活用しています。
中学1年の技術科の授業では、Office系ソフトの応用、木材加工・金属加工、手描き図面とパソコン(CAD)を併用した設計製図の基礎などを学び、2年生の2学期からは、スクリプト言語Rubyを用いたプログラミング技術を学びます。日本で開発されたRubyは、初心者でも読み書きしやすく、またさまざまな環境で動作させることができるため、プログラミング教育に適した言語です。さらに進んで高校ではC言語を学びます。プログラミング的思考法を身につけ、ソフトウェアの開発を学びます。
Engineering(工学)
中2生全員が取り組む夏の行事「ロボット入門講座」は、芝浦工業大学豊洲キャンパスで「ビートル」型ロボットを全員が1日で製作します。朝、生徒たちは集合後、ロボット工学の講義を受けたのち、製作に入ります。これは災害救助用ロボットの原型で、リモコンで4本足を操作して走らせるもの。ギアボックスから組み立てる本格派です。複雑な作業ですが、生徒たちは設計図を見ながら熱中して組み立てていきます。
完成後はトーナメント形式の障害物競走を開催して、優勝を競います。生徒たちはものづくりの楽しさと達成感を味わうことができます。ロボットがうまく動かなければ、どこに問題があるのかを自分で探さなくてはなりません。1人で1台を作るので、課題もそれぞれ違い、解決方法を探すには、自力で設計図を読み、組み立ての手順を追って問題となりそうな可能性を1つひとつ検証していく必要があります。
問題が解決したときの達成感や自己肯定感も得やすく、特に中学生には適していると言えるでしょう。ものづくりの経験を積み重ねると、最適な手順や失敗しやすい部分がわかるようになり、これが課題解決力、ひいては生きる力につながっていくと考えています。
Arts(芸術)
STEAM教育の中でも注目されるのがアートではないでしょうか。自己の内面を見つめ、心身と向かい合う作業は大切です。そして、その表現を学びます。私はさらに技術や工学とコラボレーションすることで、より素晴らしいクリエイティビティが生まれると思っています。モノは機能的なだけでは十分ではありません。美しさを含めてどうデザインするかを理解することは、とても大事なことです。
中学3年生では「ものづくり体験講座」と題して、デザイン工学の魅力に触れる機会を用意。「段ボール飛行機」講座では、より遠くまで飛べる飛行機のデザインを考え、「光の箱」講座では紙箱を家に見立てて、外光の入り方を観察します。
このような授業が可能になるのも、豊洲の新校舎に2つの技術室ができたことが大きいと思っています。金属や木材を加工する設備が整った「加工技術室」では、美術とのコラボレーションの授業も行っています。また、音楽でも作曲を取り入れるなど、創作に力を入れています。
Mathematics(数学)
数学は科学者・技術者の共通言語。高校で学ぶ微分・積分などは、工学部に入学すると、その用途の広さに驚きます。中学・高校時代にしっかりとした数学力を身につけます。
これからの社会で必要なチカラ
本校ではこのように理工系の実践的教育に力を入れていますが、高校2年でのコース分けでは文系コースを設置して結果を出しています。仮に将来、理系に進まないにしても、STEAM教育はこれからの世界を切り拓いていく子供たちにとって必要な素養を身につけさせることができるのです。
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